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2.黙っていれば、愛されると思っていた②

Author: 鷹槻れん
last update Last Updated: 2025-06-10 06:03:20

うなぎのことも快く思っていないみたいに保健所へ連れて行けってことあるごとに睨み付けてくるし、これ以上可愛いうなちゃんに矛先が向いては大変。だから私、色んなものをグッと飲み込んで、黙って彼の暴言をただただ従順に浴び続けるの。

結婚して二年。うなちゃんがちっとも孝夫さんに懐かないのも原因だろうな?

孝夫さんの〝嫌い〟がうなちゃんにも伝わって、うなちゃんも[あたちも嫌い]の悪循環に陥っているんだと思う。

うなちゃんは私が大学卒業間近な時期に、アパート近くの公園に捨て子されているのを拾った子。

先日強面(こわもて)極道さんの手袋を拾ったあの公園だ。

(そういえばアレから結局彼とは会えず終いで、手袋、返せてないや……)

そんなことを思い出しながら、私は昔のことに心を飛ばす。

うなちゃんと出会う少し前――。大学卒業を目前に両親を交通事故で一気に亡くしたばかりだった私は、公園でひとり寂しそうに身体を震わせる子犬に、自分を重ねた。

父方、母方ともにみんな鬼籍の人。一応お付き合いしている人はいたけれど、エリート商社マンの彼は、仕事で忙しくて滅多に会えない。

一人っ子で兄弟姉妹もいない、天涯孤独だった私に、うなちゃんは到底手放すことが出来ない大切な温もりに感じられた。

当時住んでいたアパートはペット不可で、子犬を拾った手前、どこへ引っ越そう? お金なんてないのに……。

そう途方に暮れていた私に手を差し伸べてくれたのが、当時お付き合いしていた商社マンの彼氏――孝夫さんだった。

『穂乃(ほの)は身内にもみんな死なれて、一人ぼっちだ。行くところがないならその犬と一緒に俺ん家に来ればいい。うちはペットOKだし、いっそそのまま結婚しちまえば、一石二鳥だろ?』

私より二歳年上。

超難関大学『東方大学』経済学部を首席で卒業した彼は、その当時、すでに今住んでいるこのマンションに居を構えて、大企業の外資系総合商社『Nexion Holdings(ネクシオン・ホールディングス)』でバリバリ働いていた。

そんな彼が、たまたま合コンで知り合った、さしてレベルの高くない女子大の、日本文学科在籍の私を恋人として選んでくれた理由は、今でもよく分からない。ましてや結婚しようと言ってくれたのも不思議でたまらないと今でも思っている。

ただ、お付き合いしている当初から、私が男性を立てるのが上手で従順なこと、家事能力が高いことをすごく評価されていたように思う。

仕事柄海外出張が多い彼は、『ちょうど俺も家のことをしてくれる人が欲しいと思っていたところだし、穂乃が大学を卒業したら籍を入れよう』と、うなちゃん込みでの同居を申し出てくれた。

そんな孝夫さんは今現在、二十六歳という若さで、海外営業部のアカウントマネージャーを任されるまでになっている。

きっと、私なんかと違ってすごくすごく優秀な人なんだと思う。

私には詳しいことは分からないけれど、孝夫さんは大手クライアントとの契約交渉やフォローアップを任されるポジションにいて、成約率や評価次第で昇進ルートが左右される、いわば〝実力主義の中堅エース〟らしい。

いかにも経験年数や年齢度外視の、超・実力主義の会社『Nexion Holdings(ネクシオン・ホールディングス)』といった感じだ。

孝夫さんの部署の顧客には様々な国の、色んな人がいらっしゃるだろうから、私には想像もつかないくらい毎日ストレスを抱えて仕事をしているんだと思う。

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