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第6話

Author: ちょうどよかった
退院の日、南が荷物をまとめ終えたところで、病室のドアが開いた。

入り口に立っていたのは剛で、彼女は少し驚いた。

彼は制服のままで、急いで駆けつけた様子だった。

恵美のためなら自分に酷い仕打ちも厭わない男が、仕事を放り出して迎えに来るとは思わなかった。

「手続きは済んだ。行くぞ」

剛の声は相変わらず冷淡だった。

彼は荷物を持ち上げ、彼女に手を貸そうとした。

南は唇を引き結んで避けたが、足に力が入らずよろめいた。

それを見た剛は眉をひそめ、有無を言わさず彼女を抱き上げ、車椅子に乗せた。

結婚して七年、一度も受けたことのない気遣いを、離婚間際になって受けるとは、なんと皮肉だろう。

車中で、剛は珍しく彼女を気遣う言葉をかけた。

以前なら、この稀有な優しさに狂喜乱舞していただろう。

しかし今、その言葉は深い沼に投げ込んだ小石のように、何の波紋も広げなかった。

南は彼を無視して窓の外に顔を向けたが、ふと、そこが官舎への道ではないことに気づいた。

周囲の景色は荒涼としていき、車は最終的に高い塀と鉄条網に囲まれた建物の前で停まった――

「市立精神衛生センター」の看板が、陽光の下で冷たい光を放っていた。

南の全身の血が凍りついた。

彼女は信じられない思いで振り返り、剛の静かな瞳と目が合った。

「私をこんなところに連れてきて、何をするつもり?」

剛は彼女の視線に一瞬動揺したが、躊躇なく書類を彼女の前に差し出し、拒絶を許さない命令口調で言った。

「これにサインしろ」

書類の表題にある「ダンスカンパニー職務譲渡申請書」という文字が、南の目を刺した。

さらに彼女を傷つけたのは、譲渡先に「水島恵美」の名前がはっきりと記されていたことだった。

南の心に残っていた最後の一縷の淡い幻想は、粉々に砕け散った。

さっきの優しさは、自分を懐柔して恵美に仕事を譲らせるための演技だったのだ。

とっくに麻痺していたと思っていた心が、激しく痛み出した。

「どういうつもり?私に仕事を辞めさせようなんて絶対に嫌よ!」

剛は身を乗り出し、声を低くして言った。その目には冷たい苛立ちしかなかった。

「どうせお前の足はもう使い物にならない。恵美の方がお前より必要としているし、あの仕事にふさわしい。サインしろ、それが皆のためだ」

彼は一呼吸置き、脅しを含んだ声で続けた。

「でなければ、医師の診断通り、精神病院に入院させて治療を受けさせるしかない」

目の前の、見知ったはずなのに他人のような顔を見て、南は氷の洞窟に落ちたような気分になった。

七年の夫婦生活、愛はなくとも情はあるはずだと思っていた。

まさか彼の中で、自分という人間がこれほど無価値だったとは。

南は書類を掴んで粉々に引き裂き、剛の顔に投げつけた。

「北村剛、サインなんてしないわ。私が病気じゃないことくらい、あなたが一番よく知ってるでしょう!」

紙吹雪が舞い散る。

剛の表情は完全に陰り、恐ろしいほど険悪になった。

「分からず屋め」

彼は車のドアを開け、乱暴に彼女を引きずり下ろした。

南は必死に抵抗し、爪で彼の手の甲に赤い傷をつけた。

「離して!北村剛、この人でなし!地獄に落ちろ!」

しかし彼女の抵抗など、剛の圧倒的な力の前では無力で、簡単に取り押さえられた。

すぐに無表情な二人の医師に両脇を抱えられ、治療室へと引きずり込まれた。

冷たい医療機器を見た瞬間、南の血液は凍りつき、底知れぬ恐怖に囚われた!

彼女は無理やりベッドに縛り付けられ、手首、足首、胴体が太いベルトできつく締め上げられた。

身動きが取れず、陸に上がった魚のように絶望的にもがくしかない彼女の目の前で、冷たい電極パッドがこめかみに貼られた。

剛は入り口に立ち、冷ややかにそれを見ていた。まるでショーでも観戦するかのような淡泊な表情だった。

「あああっ!」

電流が体を駆け抜けた瞬間、言葉にできない激痛と麻痺が全神経を襲った。

脳味噌が爆発しそうで、全身の細胞が悲鳴を上げているようだった。

「やめて、北村剛!私が悪かった、お願い離して、サインするから!」

彼女は涙と鼻水を流し、支離滅裂に命乞いをした。

どれくらいの時間が経っただろうか。一分だったかもしれないし、永遠のような一時間だったかもしれない。電流はようやく止まった。

南は泥のようにベッドに横たわり、目はうつろで、体はまだ無意識に痙攣していた。

新しい申請書が目の前に差し出された。

剛の声が頭上から降ってきた。地獄からの悪魔の囁きのように。

「サインしろ。でなければ、頭が冷えるまでここにいてもらう」

南は書類にある恵美の名前を見て、唇を噛み破るほど悔しがった。

しかし、自分には海外で足を治すという希望がある。まだ踊りたい。こんな地獄のような場所に永遠に閉じ込められるわけにはいかない。

巨大な恐怖と生存本能が、ついに彼女の全てのプライドと抵抗を押し潰した。

ペン先が震えながら走り、「桜木南」の三文字が歪んで申請者欄に記された。

書いた筆跡が、彼女の心に血の滴るような傷を刻み込んでいった。

サインを確認すると、剛は満足げに拘束を解き、彼女を抱き上げた。

帰りの車内は死のような沈黙に包まれていた。

剛は前を見据えて運転し、冷たい声で言った。

「これからは大人しくしろ。もう騒ぐな、それもお前のためだ」

南は黙って窓にもたれかかり、顔面蒼白だった。

彼女の中のすべての苦痛と怒りは、この瞬間、冷徹な決意へと変わっていった。
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