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44. 変化と異変

last update publish date: 2026-09-05 14:52:00

sideステラ

ユリウス行方不明事件は、アリスが正式に帝国騎士団に捕まり、帝国管理下の地下牢に拘束されたことによって幕を閉じた。

ジャンたちの後を追うようにあの現場に現れ、全てを見てしまった父であるハリーもアリスを庇うことはできず、心苦しそうだったが、その手でアリスを帝国騎士団へと渡していた。

ーーーあれから数ヶ月。

私が公爵邸へ来て、もう半年が経った。

隣で私と同じ布団で眠るユリウスを見て、私は思う。

もうすっかりこれが日常になってしまった、と。

窓からわずかに射し込む月明かり。

その光を吸い込むまっすぐな黒髪の隙間から、閉じられた瞼が覗いている。

長いまつ毛がユリウスの端正な顔に影を落としており、その姿は、息を呑むほど美しかった。

相変わらず黙っていれば作りもののように完璧な見た目だ。

「…眠れないのか?」

私の
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    いろいろな人が行き交う異文化溢れる街を、暖かな陽射しが照らす。賑わう人々に紛れ、私は本来の姿とは違う幼い姿で、歩みを進めていた。公爵邸から逃げ出したあの夜から、1週間が経った。ユランの銀行で無事300万を下ろした後、私は予定通りただひたすら国境を目指していた。今のところ、特に何か大きなハプニングも起こることなく、順調に移動を続けられている。そしてこの1週間で、私は自分の体について、少しずつ把握し始めていた。今の私の体には、日中と夜で分けられたサイクルがあるのだ。日中は子どもに、夜には大人になる。その変化の過程で、毎回あの苦しみを味わい、それに耐えると、必ず姿が変わっていた。1週間、この変化に例外は存在しなかった。ただ、それが起きる詳しい時間までは把握できていないのが現状だった。太陽が沈みきって、夜になっても、全然元の姿に戻らない時もあれば、太陽が沈んだ数分後に、急に戻っていた時もあったからだ。何故このようなことが、私の体で起きているのか。正直、原因まではわかっていない。あの日から続く長距離移動に、さらに毎日毎日繰り返されるあの苦痛に耐える時間。私はもういろいろと限界寸前だった。私の体によくないことが起きていることは明白だ。このまま放置していい訳がない。そう考えた結果、私はこの変化の原因を突き止め、解決する為に、あの〝時間を戻す〟魔法薬を作った張本人に会いにいくことにした。帝国外に逃走する前に。魔法使い、キースに。キースにさえ会えば、今、私の体に起きていることも把握でき、解決できるはずだからだ。キースは人があまり好きではない。だが、魔法は大好きな魔法オタクなので、私の現状を知れば、きっと喜んで実験対象として迎え入れてくれることだろう。キースが住んでいるのは、私の記憶が正しければ、国境付近の森、ルーワの森だ。いつかキースの元を訪れる可能性もあると考え、本人に直接

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    「んん…、す、てら…?」ベッドから眠たそうなユリウスの声が聞こえる。慌ててユリウスの方へと視線を向けると、まだ起きてはいないものの、ベッドの上でほんのわずかに身じろいでいた。ど、どうしよう…。もし、今の姿を見られてしまったら、何とユリウスに説明すればいいの?ステラだと言えば、信じてもらえる?ぐるぐる、ぐるぐると、いろいろな考えが浮かんでは消えていく。どうすることが最善なのか、わからない。「ユ…」とりあえず、ユリウスの名前を呼ぼうとする。…が、私から出た声があまりにも幼い12歳のステラのものとは違い、言葉を飲み込んだ。ーーーダメだ。今の私では、ユリウスの名前を呼ぶことさえもできない。私があのユリウスが知るステラだと、どうやって証明すればいいのだ。何も思い浮かばない。もう、無理だ。ここまで悩み抜いて、私は諦めた。 ユリウスから視線を逸らし、いつか使おうと用意していた脱走用の大きな鞄を手に取る。これさえあればどこへでも…いや、せめて隣町のユランまでなら行けるはずだ。ここから最短でユランまで行けるルートも、何となく頭にある。「…ステラ?」ついに異変に気がついたユリウスが、不思議そうに体を起こす。「…っ」このままでは、バレてしまう。ステラでも何者でもない私は、彼に捕らえられてしまうだろう。声を押し殺して、消えるべきなのだ。しかし、私はそれがどうしてもできなかった。「…ありがとう、ユリウス」せめてそれだけは伝えたくて。私は消え入りそうな声でそう告げた。そしてそのまま

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    sideステラユリウス行方不明事件は、アリスが正式に帝国騎士団に捕まり、帝国管理下の地下牢に拘束されたことによって幕を閉じた。ジャンたちの後を追うようにあの現場に現れ、全てを見てしまった父であるハリーもアリスを庇うことはできず、心苦しそうだったが、その手でアリスを帝国騎士団へと渡していた。ーーーあれから数ヶ月。 私が公爵邸へ来て、もう半年が経った。隣で私と同じ布団で眠るユリウスを見て、私は思う。もうすっかりこれが日常になってしまった、と。窓からわずかに射し込む月明かり。その光を吸い込むまっすぐな黒髪の隙間から、閉じられた瞼が覗いている。長いまつ毛がユリウスの端正な顔に影を落としており、その姿は、息を呑むほど美しかった。相変わらず黙っていれば作りもののように完璧な見た目だ。「…眠れないのか?」私の視線に気がついたユリウスが、瞼をゆっくりと開け、切れ長の金色の瞳で私を捉える。冷たい印象はいつものことだが、その瞳には私への優しさや愛情があり、少し気恥ずかしくなってしまう。「…んーん。ちょっと見てただけ」私はユリウスに軽く首を振った。もちろんこのくすぐったい感情を悟られないように、いつもの調子で。するとユリウスはそんな私に「そうか」と優しく呟き、私の頭に手を伸ばすと、優しく撫でた。ユリウス行方不明事件から、私たちはこうして毎日一緒に寝ている。てっきりあの日だけだと思っていたのだが、どうやら違ったらしい。ユリウスは次の日も、その次の日も、当然のように寝る時間になると私の部屋に現れ、私と一緒に寝ていた。事件前の私なら一緒に寝ることなど絶対に問答無用でお断りしていただろう。しかし、あの事件以降、ユリウスの存在が私にとってどれだけ大切で、どれだけ大きなものなのか思い知ってしまった。その為、どうしてもユリウ

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    sideユリウス同じ布団の中で眠る少女の栗色の髪が、さらりと落ちる。「…すぅ…すぅ」耳に届く少女の規則正しい寝息に、俺は心地の良さを感じ、瞳を細めた。疲れていたのか、ステラはベッドに入ると、すぐに深い眠りについた。無理もないだろう。今日はいろいろなことがあったのだから。まだ詳しい顛末は知らない。だが、ステラが俺を助ける為に奮闘していたことを、俺は何となくわかっていた。 「…ん、んん」規則正しかった寝息が乱れ、ステラの眉間にシワが寄る。どこか寝苦しそうなその姿に、少しでもそれが和らぐようにと、眉間に優しく指を置き、ほんの少し伸ばしてみる。するとそこからシワはなくなり、また気持ちよさそうにステラは寝始めた。ふと、脳裏にまたあの時のステラの姿が浮かぶ。クラーク隊長の娘から、俺を庇うように剣を構えたステラ。そして、難なくあの娘を制圧したステラ。あの時のステラは、まるでもうしばらく姿を見せない聡明なリタ嬢のようだった。 今までも何度も、ステラにリタ嬢の幻覚を見てしまうことはあった。だが、今日は今までのどのものよりも、鮮明なものだった。あれは幻覚ではなかった。本物だった。ステラと聡明なリタ嬢は、何もかも違う。年齢も、身長も、見た目も。しかし、それでも同じなのだ。俺の横ですやすやと眠る少女…ステラの丸い頬に、俺はそっと触れてみる。指に伝わる柔らかさに、俺は改めて、この少女がまだ幼いのだと思い知らされた。今日見た勇敢な少女は、まだまだ守られるべき子どもなのだ。それなのに、この幼い少女は、いつもどこかへ消えようとしている。行く当てなどないというのに。さらには、一度自力で勝手に出て行こうとし

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    「…はぁ!」 走り続けること数分。 やっと辿り着いた地下室へと続く扉の前で、私は渾身の力で剣を振るっていた。 狙うは、鍵穴のすぐ下の木目の部分だ。 同じ箇所に何度も何度も剣を下ろし、傷を作っていく。 それを繰り返し続けると、小さな傷はどんどん大きくなり、ボロボロになっていった。 ここまで来れば、あと一息だ。 「…よし。はぁっ!」 脆くなったそこを、ひと思いに踏み抜く。 するとバーン!っと派手な音と共に、大きな穴が空いた。 そこから腕を入れ、内側から鍵を回す。 ーーーカチャン。 鍵が開いた。 やっとの思いで、この大きな扉を開けると、薄暗い地下室へと続く階段が現れた。 この先にユリウスがいるはずだ。 額に滲む汗を拭い、息を整える間もなく、一気に階段を駆け降りる。 そして辿り着いた先には、まるで地下牢のような場所が広がっていた。 しかし、地下牢といっても部屋の一角が鉄格子で仕切られているだけで、劣悪な環境だというわけではない。 アリスがコレクションを保管していると言われている場所だけあって、ここはとても清潔で洗練された美しさのある場所だった。 鉄格子の向こうに、ユリウスはいた。 「ユリウス!」 立派な1人掛けのソファに、力なく座るユリウスを見て、思わず声を上げる。 「…ス、テラ?」 私の声に、ユリウスはぼんやりとした表情で、顔を上げた。

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