Masuk時は少しさかのぼり、現在ミーナとハンジはグレンの部屋に向かおうとしていた。
「グレンの部屋は確か…こっちです!」 ミーナはハンジをグレンの部屋へと誘導していく。 そして、グレンの部屋の前まで着いた。 「グレン、大変だよ!カイル君が盗賊に…って、あれ?」 部屋を開けるがどこにもグレンの姿が見当たらなかった。 「…いないみたいね。」 「本当に、グレンは…」 こんな時でも勝手な事をするグレンに呆れるミーナ。 「どこ行ったのでしょうか?」 「分からないです…でも、あまり自分から動かないグレンが自分から動くって事は何かあるって事だと思いますよ。…何か、嫌な事が起こらなければ良いんですけど…」 ミーナは不安な顔をしながら最後にそう言った。 ここは先頭の操縦席。 先ほどライクが言っていたもう1人の仲間はシルフとは別のある場所に向かって馬車を誘導していた。 その背後に突然現れた空間の穴から黒いローブを着た男性、グレンが体を乗り出してきた。 「…貴様、この馬車どこに向かってる?」 グレンがそう言うと、座ったまま盗賊は答えた。 「どこに向かってるかなんて、そんな事知ったところで今更無意味だ。」 「…女?」 「あんた達乗客全員、ここで死ぬんだから。」 それを聞いた瞬間、グレンの頭の中で部屋全体が氷で覆われると同時に自分まで凍らされると察知し、咄嗟に黒炎を纏った。 グレンが黒炎を纏った直後、グレン以外の部屋全体が氷に覆われた。 「…なんだ、あいつの魔力…」 戦う素振りを見せない盗賊の思わぬ魔力にグレンは思わず冷や汗をかいた。 部屋の天井を見ると至る所に長さ10cm程度のの氷柱がグレンの真上に並んでいた。 「ー雨ノ神、その水の槍で大地の渇きを癒せ。」 操縦しながら盗賊がそう唱えるとさっきまで氷で覆われていた部屋が今度は部屋全体水で覆われた。 水は壁に張り付いているかの様に床へは落ちず、まるで壁に水の膜が張った様な状態だった。 そしてその膜から水の槍が複数発生し、全ての槍がグレン目掛けて襲い掛かった。 グレンもその水の槍が来ると想定してたのか襲ってくる槍全てを空間魔法を使って全て避け切った。 しかし、避けた水の槍は再び一つに纏まると今度は巨大な水球へと変化した。 終始操縦席から離れなかった盗賊はそのまま後ろを振り返る事なくそっと口を開いた。 「とりあえず目障りだから死んで。」 そう言った直後水球はそのままグレンを飲み込み瞬間凍りつき、巨大な氷の球へと変化した。 そしてその巨大な氷の球はグレンを閉じ込めたまま一気に弾けるように割れた。 一方ミーナとハンジはグレンのいない部屋に入り、グレンが何故居なくなったのかが分かる手掛かりを探していた。 しかし、 「やっぱりないかぁ…そりゃそーだよね。グレンが自分の居場所を簡単に教えてくれるわけないか。」 「その前にこの人、自分の所有物少なすぎるでしょ?」 部屋にあったグレンのリュックの中には生活に必要最低限の調理器具と非常食とお金、後は自分の武器を手入れする為の道具だった。 あまりに貧相な持ち物に呆れた2人は溜息をついた。 「よくこんなので旅してきましたね、ミーナちゃんは。」 「いえ、グレンの荷物はこれだけじゃ無くて本当に必要な物は空間魔法で別次元の場所に収納してるんですよ。」 「なるほど、そうゆう事が出来るのねあの子。いるんだよね…本物の天才は。」 ハンジは一瞬だけ微妙な顔をしたがミーナはそれに気づいてはいなかった。 「…あっ、もしかしてグレンはもしかすると他の盗賊の所に居るのかもしれません!」 「えっ?」 「考えてみてください。さっき盗賊の人は操縦席をジャックしたって言ってました。けれどもし2人だけだとどちらか1人は操縦席に残らないと行けません。」 「それは普通に分かるわよ私でも。…てことは、もう1人盗賊はいるって事?」 当たり前の事だが、ハンジはその事を認識すると血の気が引いていった。 「そういう事になります。しかも、あの盗賊が操縦席を奪っておきながらわざわざ警備システムのある大国のシルフへ馬車を誘導する事はまず無いでしょう。…もしかしたら、今私たちは別の場所に誘導されてるのかもしれません。」 「別の場所に…」 「はい、それしか考えられません。それともう一つ、確信しました。グレンがなぜわざわざ自分から居なくなったのか。それは…操縦席にいる人が人間以上の魔力を持っているからです!」 ミーナの発言により言葉を失うハンジ。 じゃあ、今私達が向かってるのは…人間以上の魔力っていうのは… 頭の中でごちゃごちゃと嫌な事を考えてしまうハンジ。 自分がどこへ連れて行かれるのか分からない恐怖は想像を絶するものだった。 しかし、ミーナは恐怖するどころかまだ疑問に思う事があった。 「…グレンが自分で動くって事はその人はカイル君と同じくらい強い人…もしくはそれ以上…それか悪魔祓いに関係するもの…」 そしてミーナが頭に一つの単語が浮かび、それを声に出した。 「…悪魔。…そうか、悪魔です!グレンは…悪魔の魔力を感じたんですよ!」 「悪魔ですって…?」 「こうしては要られません!ハンジさん!私はこうしては要られません!早くグレンの元へ向かわないと…」 部屋から飛び出そうとするミーナをハンジは慌てて制止した。 「落ち着いてミーナちゃん!今外に出たりしたらもしかすると盗賊2人に殺られるかもしれません。それに、私達がグレンの所に行ったとしてもかえって足手まといです。あいつだけならまだしも、あなたまで死んでしまったら…」 「グレンが死んだら意味ないんです!」 ミーナが大声で言うとハンジは驚き、思わず制止してた手を離してしまう。 けれどミーナは部屋から出ずにハンジに向かって言った。 「…私、辛いんです。強さの為だけに心と人格を悪魔に奪われて、悪魔に復讐する為だけに戦う人形みたいなグレンが…正直見てて辛いです。私は未だにグズで泣き虫で何もできない役立たずだけど、 それでも私は彼を見守ります!それが旅をするきっかけとなった私なりの戦う意思なんです!」 ミーナの揺るぎない視線と底知れない信念に思わずたじろいでしまうハンジ。 この子は一体どこからそんな覚悟が出て来るのか? (ありがとう、ミーナ。そう思ってくれてとても嬉しいよ。) すると何も無いどこからか優しそうな声が聞こえてきた。 ミーナはその優しそうな声に聞き覚えがあった。 「もしかして、あなたは夢の中にいたグレン?」 ミーナは聞こえてきた声に対して聞くが、ハンジには何も聞こえてないのか訳が分からずキョトンとしていた。 するとミーナに対して答えるかの様に再び優しそうな声が聞こえてきた。 (そうだ、あの時夢で会った方のグレンだ。…ミーナ凄いね。君の予想通り今現実世界にいる僕は君が言った通り先頭の操縦室にいるよ。) 「そうだった!…なら、早くグレンの所に行かないと…」 (慌てないで。流石にここから先頭に行くのはかなり時間がかかる。それに、今そっちの僕は大変なんだ。…もしかすると死ぬかもしれない。) 「何ですって…相手は誰なの!?悪魔?それとも人間?」 (分からない…でも、今回僕が君に夢以外で干渉できたのは現実世界の僕に何か不吉な事が起こる可能性があったからかもしれない。) もう1人のグレンの声は顔が見えなくてもかなり焦っているのがミーナには分かった。 (…いいかい、ミーナ。君達は今すぐに先頭の操縦席に移動してもらうけど覚悟の方は大丈夫かい?) 「大丈夫!…でも、どうやって操縦席に移動するの?」 (まず、君に渡したグレンの契約書を地面に広げるんだ。) そう言われるとミーナはポケットから折り畳まれた紙切れを出し、その紙切れを広げて床に置いた。 (広げた?そしたら自分の手を契約書に書いてある魔法陣の中心に当てるだけでいい。後は自動的にグレンの所に行けるよ。) 「えっ?でも、私魔法は使えないよ!どうやって…」 (大丈夫だ!君は何もしなくても大丈夫だ。君の魔力なら…きっ……と…だめ……だ……声が…) どうやら干渉できる時間が終わったみたいでグレンの声が途切れ途切れになり、次第に聞こえなくなった。 ミーナは半ばやけくそになり言われた通りに契約しに書かれた魔法陣の中心に手を当てた。 しかし、当ててからしばらく経っても何も起こらなかった。 「…ねぇ、ミーナちゃん…とりあえず疲れてるみたいだから一旦休んだ方が…きゃあ!」 その時、部屋全体が輝き始め前が見えないくらい眩しくて2人は目を閉じてしまった。 そして、光が消える頃にはミーナとハンジの姿は既に見当たらなかった。 そして、それと同時刻。 「とりあえず、目障りだから死んで。」 盗賊がそう言った直後巨大な水球がグレンを飲み込み、そしてその水球は一瞬で凍りつき一気に弾けた。 その弾けたとほぼ同時にグレンの部屋で起こった光の現象が起き、そこからミーナとハンジが現れた。 「……ここは?」 ミーナは周りを見渡すとさっきまでグレンの部屋に居たはずなのにいつの間にか別の場所へと移動していた。 どこに移動したかは部屋を見れば一目瞭然だったが一つ疑問に思った。 「ここは操縦室のようね、どうやら本当に私達移動してきたみたいね…」 「それよりもハンジさん。ここって、操縦席よね?グレンが…グレンがいません。…もしかして…」 すると操縦席に座っている盗賊がこちらを向かずに冷静に言った。 「あぁ、さっきの人?死んだよ。」 それだけ言うと盗賊は喋らなくなり、再び操縦だけに集中した。 「あ…あなたが…グレンを…殺したの?」 「……」 ミーナが質問しても返事を返さない盗賊。 周りをよく見てみると氷の欠片が部屋中にあった。 「…答えなさい……あなたが殺したのでしょ?」 「……」 ミーナは怒りを露わにした顔で盗賊に言うがそれでも返事を返さない盗賊。 そんな盗賊にミーナの中で何かが変化した。 「答え…な……さい!!」 その瞬間、ミーナの周りからさっきの光が部屋全体を再び覆った。 部屋全体を覆った光は全て盗賊に集まるとその瞬間盗賊の周りで爆発が起きた。 そしてその爆発によって2人は壁際に吹き飛ばされる。 「うわっ!何、今の!?…ミーナちゃん大丈夫!?」 「大丈夫です!それよりも、あの盗賊は…」 爆発した場所をもう一度見ると、煙の中から被服が破れ顔が露わになった盗賊が操縦席から立ち上がっていた。 その顔を見た瞬間、ハンジは言葉を失った。 盗賊が着ていた被服は焼けてしまった為その場で脱ぎ捨てこちらを向いてきた。 ショートパンツに黒いタンクトップを着たボーイッシュな感じで髪は水色のショートカット。腰には一本の長刀がさしてある女性だった。 それは以前学生の時に転校してしまった親友。昔の姿からそのまま成長したみたいだった。 「あ、…あなたは…エミル。」 ハンジは恐る恐る口を開き、目の前の女性の名前を口にした。 「えっ!この人がカイルくんの言っていたエミルさん!?」 ミーナはハンジに聞くが、ハンジはまるでミーナの言葉が届いてないかのように再び口を開く。 「どうして…どうしてあなたが…こんな所に?」 ハンジの問いにようやく口を開いた盗賊、エミルは一言だけポツリと放った。 「…ハンジ。それに…カイ…ル…」 「どうして!?どうしてあなたが盗賊なんかになってるのよ!こんなの、エリオン君が知ったら…」 「関係ない。…私はもう、昔の私じゃないから。」 そう言ってエミルの周りから氷で出来た剣を数十本創り出し自分の周りに浮かせた。 「そこのあなた。さっきカイルがここに居るって言ったわよね?…カイルとはどうゆう関係なの?」 エミルは急に目を細めミーナを睨みつけた。 元々やや細めのエミルの目が更に鋭くなったせいでミーナはすっかり怯えてしまい、体をブルブル震わせた。 「は、ハンジ…さん……こ、この人…こわい。」 エミルに聞こえない声でハンジの耳にボソッと言うミーナ。 するとハンジは一歩前に出てエミルに強めに聞いた。 「エミル…あなたがどうしてこんな所にいるの?あなたは、シルフの学校に転校したって聞いたけどどうして盗賊になってるのよ!?…あなたは、エリオン君と約束した、いつか一緒に騎士団をやっていこうっと。約束したんじゃなかったの?ねぇ?」 ハンジは涙をボロボロ流しながらエミルに問いかけ続ける。 するとエミルは少し暗い顔をしてうつむきながら口を開く。 「…私は……分からないの…もう、自分でもどーしたら良いか分からなかった!」 エミルはまるで自分の過去を吐き捨てるかの様に言葉が出てきた。 2人はそれをただ黙って聞いている。 「逃げたかっただけなのかもしれない…私のせいで友人が傷ついて、それで親に友人と故郷を奪われて…もう、私はただただ辛くて…うっ…うぅっ…」 エミルの目からは大粒の涙が溢れていて、それが地面にポタポタと落ちていった。 「エミル…あなたもエリオン君の様に苦しんでたのね…」 「ハンジ…ごめんね。私、やっぱり間違ってたわ。もう、立ってるのもなん…だか…疲れ……」 「エミル!」 バランスを失ったエミルはそのまま倒れそうになる。 それを察知したハンジはすぐさまエミルに近づき、倒れそうな体を支えた。 「よかった…エミルさん。…でも、1つだけおかしい事が…」 ミーナがおかしいと感じた事。 それは、グレンの部屋で感じた悪魔と同等の魔力。 元々ミーナに魔力を感知する能力はないが、あの光の魔力が出てきてからそれを直感的に感じる事が可能になった。 その時、目の前からとてつもない殺気を感じた。 それは、あの時、私の目の前で友人を殺された時のあの悪魔の様な魔力。 それが、今目の前のエミルから放たれていた。 「ハンジさん、逃げて!!その人はエミルさんじゃない!!」 しかし、言った時には遅かった。 その瞬間、エミルが地面に落とした涙の水滴から鋭い氷の槍の形に変わり、ハンジの胸を貫いた。 「……えっ?」 何が起きたか分からないハンジ。 何これ…胸が、胸が熱くて痛い。 まさかと思いながら、恐る恐る胸に手を置いてみるハンジ。 生温かい液体が手に付き、その手をゆっくりと自分の見えるところまで持っていく。 「私…えっ、なんで…なん…で…な…の…ゴフゥ!」 「ハンジさん!…なんで、なんでいきなり…」 「決まってんでしょ…私が殺したんだからさ!」 するとさっきまで気を失ったかのように見えたエミルが何も無かったかのようにスッと立ち上がった。 そして、ハンジを見下ろした形で口を開いた。 「ハンジ、ごめんね。私ね、あなたが…あなたが憎くて仕方がなかったのよ!あなたは、私がイフリークを後にしてからカイルに近づいていたのが悪いの!」 「エミ…ル…何言って…ゴボッ!…ゲホッ!…ゲッ!」 「昔からあんたはそう!時期を見計らいながら計算して男を盗む女!その証拠に、私が居なくなった途端カイルと仲良くしだした!私からカイルを奪って…憎い…憎い憎い憎い憎い憎い憎い!!私のこの運命も、この女も、そしてこの女と仲良くなっていくカイルも、全てが憎い!!」 エミルは気が狂ったかのように叫びながら言うと、手から氷の槍が創られ、それをハンジの喉元に向けた。 「あなたはもう死ぬわ。最後に私の手で殺してあげる。」 「ダメです!やめて下さい!!!」 ミーナの声が聞こえてないのかエミルはそのまま槍を勢いよく突こうとした。 すると、倒れたハンジの頭上に空間の裂け目が発生し、その間から刀が現れエミルの槍を受け止めた。 エミルは受け止められると一旦後ろにバックステップし、距離を取った。 そしてその空間の裂け目から見覚えのある人物が現れた。 「グレン!よかった、生きてて…」 「勝手に俺を殺すな。とはいえ、良くここまで来たなミーナ。…さて、そろそろお前の正体が分かった所でケリを付けないとな。」 「正体って…」 ミーナが首を傾げるとグレンがエミルを指差しながら言った。 「こいつは、あの騎士団長が言ってたエミルとか言う女じゃないって事だ。」 「はぁ?何言ってんのあんた…ていうか、あんたさっき私の氷で砕け散ったんじゃ…」 「ふん、そんなの簡単だ。あれは俺の幻創魔法でお前の脳内に俺が氷で砕け散ったかの様に見せただけのカモフラージュ戦法だ。そして本体である俺はその間別空間に潜んでただけだ。」 「くっ!…やっぱメンドくせーな、こいつは。」 エミルは普段自分の口から出ない様な言葉を小さい声で言った。 「それよりも、あの人がエミルさんじゃないってどういう事?じゃあ、あの人はいったい…」 (それは俺が説明するぜ!) するとグレンの中からリフェルの声が聞こえてきた。 「この声は、リフェル!」 (よぉ!…って言ってる場合じゃねーな。簡単に言うとだなミーナ、あいつは悪魔に取り憑かれてるぜ。) 「取り憑かれる?」 (そうだ。基本俺らは人間の体を奪って化け物になったり、俺みたいに奪わずに契約してただ滞在してたりなど様々な奴がいる。だが、あいつに取り憑いてる悪魔はその2つをしていない。) (しかも、エミルはキュアリーハート出身じゃないから元々悪魔だという根拠はない。それにこいつは悪魔に体を奪われてないのに悪魔に憑依されてる。こんな事が出来る悪魔は俺が知る限り1人しか居ない。) 「…ベラベラと余計な事、喋るなー!!」 エミルは一瞬で氷で出来た剣を手に持ち、グレンを斬り付けようとした。 グレンもそれに対抗してエミルの剣を受け止めた。 受け止めながら、再びリフェルがグレンの中から話を続けた。 (出て来やがれ!7つに分断されし悪魔、獄魔7将・嫉妬の悪魔、レヴィアタン!) リフェルがそう言うと、エミルは剣を押す力を止めていった。 すると急にエミルは再び気が狂ったように笑い始めた。 「あははははははっ!!…流石リフェルだ。僕の正体なんて、すぐ見やぶっちまうんだね。) エミルはさっきまでの女性らしい声から、不気味で男性の様な低い声に変わっていく。 声が変わると同時に、エミルの体から黒々しいガスが発生し、そのガスは人の体を形作っていった。 人型になっていくと今度は服装や髪型など細かいところまで形づいてきた。 目は大きめのツリ目で両肩にかかりそうな黒髪に、黒い長袖のシャツの上に袖なしの白い上着を着た男性になっていく。 レヴィアタンと呼ばれた男はガスから形づくと体が固まってしまってるのか首をコキコキと鳴らし、肩や腕などを伸ばして体に柔軟性を与えている。 「ふぅー、久しぶりに外出たなー。…あー、リフェル以外は初めまして…かな?僕は嫉妬の悪魔、レヴィアタン。」 言葉に裏がありそうな不気味な喋り方で挨拶をするレヴィアタン。 その横にはレヴィアタンが出てきた事により、気を失って倒れているエミル。 「あぁ、この女ならもういらないや。最後に面白いもん見れたしさ。返すよ。」 レヴィアタンは満面の笑顔で言いながらエミルの胸ぐらを掴んでグレン達に差し出した。 「何、この人…笑顔で怖い事言ってる…」 ミーナはエミルの胸ぐらを掴みながら笑顔でいるレヴィアタンを見てあの時の恐怖を感じた。 (そんな事よりレヴィア!テメーが何でここに居るんだ!) いきなり割り切って心の中から喋るリフェル。まるで以前会ったかのように、お互い知ってる様な口ぶりで。 すると、レヴィアタンは大きなツリ目からいきなり細く睨みつけながらグレン(リフェル)の方を向いた。 「はぁー?あんたに言ってもしゃーねーだろ。どーせあんたらここで死ぬんだからさ。俺はただこの女のドロドロしたクソ重たい展開を見るためにこの女に憑依してただけだっつーの。」 (ドロドロした展開だと?) 「そうだ。この女はおもしれーな!親の勝手な都合で好きな男と引き離され、やっとの思いで帰ってきたらもうその好きな男は他の女に取られて…この時点で笑っちまいそーだよ!」 レヴィアタンは顔を抑えながら笑いを堪えるポーズを取った。 「…どう…いう…こと?…エミルが…帰って…きた…ゴホッ!…ゴホ!」 「ハンジさん!それ以上喋ると血が…」 喋ると口から血がポタポタと出てくるため、それを止めようとするミーナ。 すると、ハンジの問いかけにレヴィアタンは真顔でハンジを見ながら言った。 「あれ、知らないの?この女はシルフに転向した2週間後にはイフリークに帰ってきてるよ?」 レヴィアタンの言葉が一瞬理解出来ないミーナとハンジ。 エミルが帰ってきてた?どういう事なのかさっぱり分からなかった。 「そんな…の、うそ…よ…。」 「嘘じゃないんだよねー、これが。僕も詳しい理由は興味ないから知らないけどぉ、簡単に言ったらなんか馬車が事故して仕方なくイフリークに戻ったんだよ。イフリーク戻ってきたらさ、プフッ!これ以上言ったら笑いが…」 「ふざけないで!真面目に話してよ!」 まるで面白い話をしてるかの様に笑うレヴィアタンの説明に我慢できなくなって怒るミーナ。 「あははっ!ごめんね。…で、イフリーク帰ったらまずあの好きな人に会いに行こう!もしかしたら喜んでくれるかな?なぁーんて、考えてあいつの所へ行ったんだよ。そしたらどうだったと思う?」 「元クラスで一番仲の良かった親友に奪われちゃってたんだよね~!」 最後にそう言うとレヴィアタンはさっきよりも大きな声で笑った。 「ちが…う…私と、エリオン君は…そん…な…」 ハンジは今にも弱々しい声でレヴィアタンに言うがもう死んでもおかしくない感じだった。 「はぁー?死に損ないが何言ってんだよ。実際、この女にそう思われる様な事してたんだから仕方ねーだろ?」 「私は…ただ、エミルの…エミルの代わりに、自分が…なれたらなって…ゲホッ!ゴホッ!ゴホッ…」 「ハンジさん!もうこれ以上喋ると本当に…!」 さっきよりも多量の血を吐きながら倒れ、意識がなくなり始めてるハンジ。 ミーナは泣きながらハンジに声を掛けた。 「そもそもさ?あんたがこの女の代わりになるとでも思ってたのぉ?馬鹿だなぁー、そんなの返って逆効果だよ!なんで分からないのかなぁ、人間って本当に馬鹿だよ。」 「あっ、そっか!死なないと分からない馬鹿だから今死ぬんだ!だから、エミルも君を殺しちゃったんだね?」 「わ、私…が、エミル…を…エミルが…私を…」 ハンジは意識が薄くなった事と、レヴィアタンの言葉によってもはや言葉にならないような事を口にした。 ー自分がやっていた事は、返ってエミルを苦しめていたんだ…ごめんね、エミル。 最後に声にはならなかったが、口でそう言うとハンジはそのまま目を閉じて息をしなくなった。 「ハンジさん?…嘘でしょ…返事して!…ハンジさん、ハンジさぁぁあん!!!」 どんだけ揺さぶっても、いくら声を掛けても息を吹き返さず、起きる気配のないハンジ。ミーナはその場で顔がクシャクシャになるほど涙を流し泣いた。 ミーナの目の前にいるグレンはそれを只々見つめていたが、レヴィアタンだけは笑いのツボにハマったかの様に腹を抑えながら笑った。 「ウヒヒヒヒッ!サイッコーだね!絶望しながら死んでいくの見るのはさ!親友の為に自分が正しいと思ってやった事が実は間違いで逆に最後は恨みを持たれて殺されるなんて…もう~、サイッコー!!」 「何が最高なのよ、人が死んでるのがそんなに面白い?…ふざけないでよ!!」 レヴィアタンのあまりの非情な言葉にミーナはハンジを見つめながら怒りをぶつけた。 ハンジの顔にはミーナから流れ落ちた涙で濡れている。 しかし、その怒りが伝わるどころかレヴィアタンはミーナの怒りを更に煽るかの様にニヤニヤしながら口を開いた。 「うん、面白いねー!僕はこういう人間のドロドロした展開が一番大好きなんだよ。あー、でも残念な事が一つあったかな?」 「このエミルって女はまだこの事を知らないんだよ。実質俺がこの女を操ってたからさ。」 「なん…ですって?それはどう言うことなの!?」 するといつの間に移動したのかレヴィアタンはミーナの顔の前に自分の顔を近づけた。 そして目を最大限まで開けると声のトーンを低くして言った。 「こういう事だ。僕は憑依した人間の魔力ともう一つ、嫉妬の感情を増大させその感情が一定を超えた時憑依した人間をほとんど操ることが出来るんだよ。」 「この女は嫉妬の感情に流されるままに流され、そして最終この俺が体を乗っ取ったって訳だよ!いやー、でも殺したいって感情はこいつの感情だから俺はそれに従って殺しただけなのさ~!だから僕は、無実なんだよね~。」 レヴィアタンは満面の笑みで自分は無実だと訴えるような両手を上げたポーズをふざけた様に取った。 「ふざ…けんな。」 人の感情を只々弄ぶこの存在を見てミーナはどう思ったか。 それは、怒りだった。 ミーナは自分の手で握りこぶしを作ると周りから白く輝く光が全身を纏った。 さっきまでふざけた態度を取っていたレヴィアタンはミーナの纏った光を見ると急に焦った表情に変え、手の平から黒く小さい魔法陣を展開させた。 「おっと、思わず魔法陣出し掛けた。なんだ、この光は?」 薄暗い操縦席を真昼の様な明るさに変える程のミーナの光は邪悪な悪魔にとって危険なものであるのかレヴィアタンは魔法陣を展開しても魔法を発動しようとはしなかった。 それはグレンも同じでグレンもその光を浴びると力が抜けたかの様にその場に膝をついた。 「これは、マズイな。」 (そんな呑気なこと言ってる場合か!くそ、ミーナのこの力は一体なんなんだ!) しかし、ミーナの光は弱めるどころか更に強くなりレヴィアタンもその場に立ってられなくなり、倒れると手の平に展開してた魔法陣が消えてしまった。 「うっ…なんなんだ、この光は…」 「あなたみたいな人の気持ちを弄ぶ人は一度同じ目に合うべき。醜く消えなさい。」 ドクンッ! ミーナが言った瞬間、レヴィアタンの中の何かが突然目を覚ました気がした。 「醜く、消える?…クソ人間が!醜く消えるのは、人間の方だろーが!!」 刹那、レヴィアタンの周りから黒いガスの魔力が光を全て覆い消し去った。 「あ、あれ?私、さっきまで何を…何、この黒いガス…苦…しい。」 光が消えるとミーナはいつも通りのミーナに戻ったが、ガスの魔力の効果によって胸を押さえながら苦しんでいた。 「ケッ!ゴミ同然の人間が!いったん僕のガスでくたばれ!…さて、これで邪魔は無くなったな。ね、紅の悪魔祓いさん?」 レヴィアタンがグレンの方を見ると、グレンはミーナと違ってガスがあっても全然苦しそうではなく寧ろさっきよりもピンピンしてた。 「レヴィアタンと言ったな?お前はこのエミルとかいう女を操ってたと言うが、お前らは何が目的なんだ?」 「俺らの目的は教えられねーけど、この女を操った理由は教えるよ。ただ、面白かったからぁ!俺は嫉妬で苦しんで潰れていく女が大好きだからさ!」 嫉妬の話をする度に顔を緩ませながら笑うレヴィアタン。 (ったく、相変わらず趣味わりーな!) 「それはお互い様だろ、リフェル…いや、本当の名前は…(それ以上言ったらぶっ殺すぞ!!) レヴィアタンが最後の部分を言おうとするとグレンの手から黒く変色した腕が伸びてレヴィアタンの胸ぐらを掴んだ。 「なんだ、この腕は…」 「うそっ、グレンの手から手が…」 ミーナもグレンを見て驚いていたが自分の手から伸びた異質な腕を見て驚いたのはグレンも同じだった。 しかし、伸びた黒い腕に掴まれたレヴィアタンは苦しい顔をする事なく、更に攻撃的な言葉をリフェルに言った。 「いいじゃん、別に減るもんじゃないんだしさ。ていうか、いつまでリフェルなんてダセー名前気取ってんだよ。本名の方がずっと…」 (黙れ!それ以上喋るなら本当に殺すぞ!) 「殺す?こんな腕しか出ない状態でか?」 そう言ってレヴィアタンはグレンの手から伸びた黒い腕を手刀で千切った。 引きちぎって離れた黒い腕は空気中で拡散し、黒い腕は元のグレンの手に戻った。 しかし、その間にレヴィアタンは体を空気中の黒いガスと同化するかのように体が拡散した。 「消えた…いや、このガスみたいなのと同化したのか。」 「その通り!」 消えたレヴィアタンを探すグレンの背後からレヴィアタンの腕が突然ガスの中から現れ、拳を作った手でグレンの背中を殴った。 殴られたグレンは突然の攻撃に対応できないままその拳を受けてしまい、口から血を吐いた。 「!…かっ!…」 殴ったレヴィアタンの拳はすぐにガスと同化するように拡散して消えた。 (おい、グレン!まずこのガスを何とかしろ!奴はこの黒いガスを自分の体の一部みたいに色んなとこから手が出てくるぞ!) 「その通り!僕は憑依以外にも気体、液体、固体、水分に関わってるもの全てを操ることが出来る。こんな風にな。」 レヴィアタンは周りのガスを無数の拳に変化させ、その拳は全てグレンの方に向けられた。 「ー[嫉妬の魔力(エンヴィー)]。愚かな人間に鉄槌の雨を降らせ。」 レヴィアタンがそう呪文を唱えると、無数の拳は黒いガスを纏いながら物凄い速さでグレンに向かって飛んだ。 グレンはその拳を防ごうと自分の周りに黒炎を纏うが、拳に纏われている黒いガスの効果で黒炎から守られている為か拳は燃えずにそのままグレンに向かっていった。 拳を防いでも別の所から拳が飛んでくる為、殆どの攻撃を全身で諸に受けていて、拳はそのまま勢いが止まることなく次々と襲いかかった。 「あははっ、手も足も出ないや。もうそろそろやめておくかな。これ以上感情の無い悪魔祓いを痛めつけても何のメリットも無いし。」 ガスの中から現れたレヴィアタンは無数の拳を消した。 そこには身体中殴られた事によって血だらけになったグレンが倒れていた。 「グレン!!…ぐっ…あがっ…!」 ミーナは倒れたグレンを呼びかけた直後、ガスからレヴィアタンが現れミーナの首元を手で掴んだ。 「とりあえず君の力は僕ら悪魔にとって危険だから今ここで殺しておくか。あーあ、結構可愛くてスタイル良いから勿体無い感じするけどしゃーないよね?…じゃあ、バイバーイ♪」 「やめ…で……」 レヴィアタンは笑顔で首元を掴んだままミーナを持ち上げ、そのまま指に軽く力を入れると確実に死ねる状態まできていた。 そして指に力を入れ始めー スパァンと鋭い斬れる音が部屋に鳴り響く。レヴィアタンの腕がグレンに斬り落とされたのだ。 斬り落とされた事により、解放されたミーナは首の締め付けが無くなり咳き込んだ。 レヴィアタンの腕を斬ったグレンはさっきよりも黒々しく燃えている黒炎を纏いながら刀を持っていた。 「…おい、何やってる 。」 「ったく、しつこい人間だな!人間はさっさとくたばって…」 その瞬間、グレンは拳に魔力を纏わずにレヴィアタンの腹目掛けて殴った。 「ー反(リバース)魔法!」 グレンの拳から衝撃が発生するとレヴィアタンは吐血しその衝撃で身体が破裂した。 「いっ、イデェー!!あれ、なんでガスになら…」 「喋る余裕があるのか?」 グレンは更にレヴィアタンの目の前に詰め寄り、手の平に黒炎を作り出し、そのまま手の平をレヴィアタンの顔に向けた。 手の平の炎はレヴィアタンの顔から黒く燃え始めるとそのまま周り影響を与えずに一気にレヴィアタンの全身は燃えていく。 「あぢぃー!!…なんだ!この男…女を殺そうとした瞬間、魔力が上がってやがる…」 「もう終わりだな、その黒炎は相手をチリにするまで水をかけても消える事はない。これで終わりにしてやる。」 グレンは剣を持ち、刃に黒炎を纏い構えたがレヴィアタンの様子がおかしかった。 レヴィアタンはどういうわけか体が液体に近いスライムに変わり、全身を燃やしている黒炎は徐々に消えていった。 「馬鹿な、俺の黒炎が消えた?」 「ふぅー、危なかったなー。あんまし本気出すなってあいつらに言われたけど仕方ないよな。」 するとレヴィアタンの右腕はグニョグニョの黒いスライムに変化し、上半身を使って反動をつけて右腕を振ると右腕は高速の域を超えたスピードでグレンの腹にぶち込まれた。 あまりのスピードに反応できずモロに受けてしまったグレンは立ったまま気を失い、数秒後その場に倒れてしまった。 「そんな、グレンが…グレンが…」 ミーナは目の前の光景を見て体を小刻みに震わせていた。 今まで悪魔相手に負ける事無かったあのグレンが、たったの一撃で倒されてしまうなんて。 この人…いや、この悪魔は…とんでもなく強い!今までの悪魔とは訳が違う。このままじゃ殺されて… ガンッ!! 「ひっ!」 いつ移動したのかレヴィアタンはいきなりミーナの目の前に飛んできた為、ミーナは驚いて尻もちを着いた。 「さぁーって。次は君の番だよ?悪魔祓いのおまけちゃん!」 「や、やめ…て…」 ミーナはこの感情を思い出した。 今までグレンが守ってくれてたから感じなかったがこの感情…それは悪魔への圧倒的な強さと恐怖、殺されてしまうという絶望。 その感情が再び蘇ってくると足が震え、口は思い通りに開かず声が出ない。 「可愛いなぁ!こーんなに震えちゃってさ。でもね…僕は人間のそーゆー所大好きなんだよね~。恐怖で震えた人間の心臓は旨味を増すから食うともう、最高なんだ!悪いけど…」 「頂きます、しちゃうね?」 レヴィアタンはスライムの様な腕を他の悪魔の様な鋭い爪を持った人間離れした黒い筋肉質な腕に変えた。 「助け…て…」 レヴィアタンは爪でミーナの胸を刺そうとしたその時。 「ー水神よ、土地を愚かなる者の血で潤せ。」 どこからか魔法を唱える声がするとレヴィアタンの体から血が吹き出していき、その血はまるで刃物の様に切り刻んだ。 「ぐあぁ!!なんだ…体が、血で斬られて…」 「…この魔法は、あなたの体内に含まれている水分全てが拒否反応を起こし体内から破壊していく殺戮系の神級魔法。間に合って良かったわ。」 レヴィアタンの体内では生きていくのに必要な臓器や血管をも破壊していき、既に腕と体は原型を留めていない所までズタズタに切り刻まれていた。 この強力で圧倒的な水魔法を使う水色の髪をした女性は先程まで敵であったエミルだ。 「あ、あなたは…エミルさん?」 エミルはなぜ私の名前を?とまるで今までの事を覚えていない顔をするが直ぐさま真剣な表情に変わり、レヴィアタンの方を向いた。 「気をつけなさい。あの魔法は人間なら確実に殺傷できるけどあの悪魔には効かない。一旦こっちへ来なさい。」 ミーナとエミルは一旦レヴィアタンから距離を取ると、エミルは後ろにあるものに気づいた。 「えっ、嘘…なんでハンジが…」 目をつぶって動かなくなったハンジを見てエミルは固まってしまう。 「エミルさん…まさか何も覚えて…」 「あははははっ!!そいつは何も覚えて無いって言っただろ!!」 さっきまで血だらけになっていたレヴィアタンの体には傷1つ残っておらず、綺麗に再生していた。 「教えてやろうか?この女はなぁ…」 「お前がやったのか?」 レヴィアタンの言葉の途中でエミルはレヴィアタンの真下に魔法陣を展開させ、その魔法陣から氷の刃が飛び出し、レヴィアタンの腕を一瞬で切り落とした。 「なっ!おまっ、それは無しだって…」 「お前が…お前がやったのか!!」 エミルは氷の剣を造形させるとそれを持ち、レヴィアタンに斬りかかろうとした。 しかし、レヴィアタンは斬られる寸前で再びガスに拡散して氷の剣をかわし、別に充満したガスから元の形に戻る。 「ちょ…調子に乗るんじゃねーよ、この殺人女が!話は最後まで聞きやがれ!」 「殺人はお前達だ!よくもハンジを…」 「はぁ?何言ってんの?この女殺したのって、お前だろ?覚えてないとは言わさないよ。あの時だって、お前言ってたじゃん。」 えっ?あの時?私が、ハンジを…殺した? エミルは何も覚えていない。そう、あの時から私の記憶は曖昧で思い出そうとしてもちゃんと思い出せない。 けど、もしかしたらあの時から私はずっと…そう、あの時、私がイフリークを離れた時だ。 エミルは記憶の中からあの時、かけがえのない親友と別れたあの日の事を思い出していった。 8年前ー 私には大切な親友…いや、多分それは親友なんかでは収まりきらない存在だったのかもしれない。そんな人が昔いた。 もうずっと前の話だから、あまり鮮明に思い出せないかもしれない。 ただ、これだけは言える。 私はその親友が好きだったんだ!ウィリディスが使用する魔法属性は空間。空間属性の神級魔法、[デリート・コネクト]。指定した部分に「シフト」と唱えると四角い透明の立方体が現れ囲う事が出来る上に、必要に応じてその立方体を広げる事が出来る。立方体の範囲を自在に広げて囲み、「デリート」と唱えればその指定された範囲を跡形も無く消す事が出来る。例えるならパソコン画面上の矢印カーソルを目的の場所に合わせて範囲指定し、一気にdeleteキーを押すイメージだ。この「シフト」による範囲指定と「デリート」による削除能力を、ウィリディスは現実世界の空間に存在する物質、生物、そしてあらゆる環境を対象に使用する事が出来る。ウィリディスが最初に竜爪の錯林(りゅうそうのさくりん)の木々を一瞬で消し去ったのもこの力のお陰であった。そして。「シフト」「コネクト」ウィリディスは両手を上空に挙げると巨大な立方体を展開し、「コネクト」と唱えた。その範囲は竜の遺跡を全て覆える程。しかもその上空に展開された立方体の中には最初に消し去った森の木がギッシリと敷き詰められている。そう。この木は「デリート」によって消された森の木の残骸であった。「コネクト」とは接続という意味。ウィリディスは「デリート」で消した範囲の木を「コネクト」する事で上空の立方体内に配置したのだ。そう。[デリート・コネクト]は空間を透過的に選んで削除し接続できる魔法。「シフト」で範囲指定した空間を支配する事が可能。そして上空の立方体の底がパカッと扉の様に開かれる。開き始めた隙間から木がどんどん竜の遺跡がある地上に向かって落ちていく。1本1本が大きく質量のある木。落ちる度に地面の砂埃が舞った。まるで雨の様…いや、そんな生優しいものでは無い。逃げ場を与えない広範囲を覆い尽くした木々による酷(むご)い圧殺方法。そして一度に落ちてきた大量の森の木によって竜の遺跡は飲み込まれてしまった。一方、ウィリディスは空間移動で上空に転移しており、木に押し潰され跡形も無く消え去った竜の遺跡の惨状を見下ろして見ていた。「…やっぱり、こんな程度でグレンは死ぬ訳ないか。」見下ろしながらそう言うウィリディス。どうやらグレンが攻撃を回避してる事に気付いている様だ。「出てきなよ。…決着を付けよう。」「紅の悪魔祓い、グレン。」ウィリディスの言葉と共にグレ
「うわぁぁぁぁぁ!!!ガルムが!…ガルムがあぁ!!!」ティアは胴体が分かれ絶命したガルムの上半身を抱きしめながら叫んだ。靴に血が滲むほど急いで走りドグマ達を呼びに行ったティアは決して遅くなかった。しかし、間に合わなかった。「誰が…こんな事を。俺達竜の民をこんな…こんな…。」ドグマは目の前の惨状を受け入れられずにいた。つい竜の試練洞に行く半日前までは普通の平和な生活を送っていた。昨日は龍神の祭日で民の皆んなが共に飲み食いしながら楽しんだ。ティアとガルムはもうすぐしたら祝言を挙げる予定だった。ーー皆んな今日を生き、明日を楽しみに過ごしていた筈なのに。修行が長引かずここに俺達が居ればこんな事には…。「チクショウ……チクショウ!」ドグマの目からはこの場に居なかった自分に対する悔しさの涙を流していた。「……」グレンは2人と違い、この現状をただ茫然と見ていた。それは彼が他人を想う気持ちが無いからでは無い。ここでの生活を思い出していたからだ。不便な生活であったが、他所者のグレンに優しくしてくれた民達。ドグマが言っていた。ここに住む民達は生活の為にそれぞれ役割を全うしながら助け合って生きていた。それぞれが良い人生、良い流れを築く為に。そんな人達が居るここの生活をグレンは好きになりかけていた。一瞬思っただけであるが、故郷の様な平和なこの竜の遺跡にこれからも住みたい。そう少しだけ思えた。それを、こんな…こんな酷い形で終わらされた。まるであの時のキュアリーハートと同じだ。何の脈絡も無く平和な日々を終わらされた。「…許せねえ。」ポツリと小さく、そして力強い声でグレンは呟いた。ーー竜の民達をこんな風にした奴を、絶対に許さねえ!激しく怒るグレンは心の中でそう叫んだ。「あれ?まだ生き残りが居たんだ。」グレン達が向いてる方向とは反対方面から声が聞こえた。グレンとドグマはその声に反応し、振り返った。漆黒のローブを身に纏った緑髪の男と後方には黒い皮膚をした悪魔が20数体、そして他と比べて身長が低い奴が1人居た。すると漆黒のローブを纏った男がグレンの方を不思議そうに見ていた。「赤い髪…その魔力。…もしかして、グレン?」「何で俺の名前を知ってるんだ?」初対面と思っているグレンは突然面識の無い相手に名前を呼ばれた事に驚いていた。グレ
次の日の明朝4時半。この日もグレンとドグマはいつも通り川で魚を獲りに行った。「(もう慣れてしまったな。)」昨日と同じ様に手掴みで流れる様に魚を獲っていく。そして獲った魚を竜の遺跡へと運び、家に戻ってから朝食を食べた。「今日は龍脈樹には行かん。」グレンは朝食を食べた後、ドグマにそう言われ家を出た。この日、グレンはドグマに連れて来られたのは竜の遺跡から更に奥にある祠(ほこら)だった。その祠の入り口前には巨大な竜の像が建てられており、ドクマはその入り口の前に立ち止まった。「何だ、ここは?」グレンは立ち止まったドグマに質問する。「ここは[竜の試練洞(しれんどう)]。竜の民が龍技を極める為に用意された修行の場だ。竜の試練洞。この祠は竜の遺跡で祀られている龍神が、かつて龍技を極めたいと願う者の為に用意した神聖な修行場。数世代にわたり、伝承されてきた場所である。入り口は森の中にひっそりと隠されてあり、入り口から流れる空気が重い。龍脈樹(りゅうみゃくじゅ)の様に祠の中からまるで生き物の様に魔力が渦巻いているのを感じられた。「ここは龍技を極める為に用意された修行場。グレン、昨日説明した竜挐(りゅうだ)を覚えているな?」「ああ。3つの龍技を同時に使う事で起こる龍技の真髄の最終奥義。昨日、あんたが言ってたよな。」「そうだ。[心眼点睛]、[技之乖離]、[戮力体竜変]。この3つを極めた竜の民が使える奥義だ。この竜の試練洞では竜挐を極める為の修行を行う。」そしてドグマは竜の試練洞へと近づいていき、中へと入っていく。入った瞬間、空気が身体に張り付き乗し掛かる感覚がした。心眼点睛を習得してるグレンには周囲に充満している魔力の流れを目で見る事が出来る。試練洞の中に充満している魔力は、上からグレンに圧を掛ける様な流れ方をしている。まるでこの祠がグレンを試しているかの様だった。「生きてるみたいだろ?だが、試されるのはここからだ。」「ふん、だろうな。これくらいは試練の内には入らねえだろ。」「当たり前だ。こんな事で怖気つく様な奴をここに連れては来ない。」ドグマの発言から、この祠は修行場所であると同時に危険な場所なのだと感じた。その理由をグレンはまだ知らないが、すぐ分かる事になる。昨日までの修行が天国の様だったと。「…よし、もう着くぞ。」前を歩く
「いいか、ヒスイ。お前は竜の民の先導者である俺の後継者だ。これから民達を導いていかなければならない。」「………はい。」これは過去のドグマとヒスイのやり取りだ。ドグマは今の様な髭は無く、30代前半くらいの若々しい姿をしていた。そしてもう1人。娘であるヒスイ。彼女はドグマの言われた事を俯きながら元気のない声で返事をした。「竜の民は大昔の北と東の戦争に巻き込まれ、沢山の民達が命を落とした。このままでは竜の民は滅びてしまう。」「何としてでも、それだけは阻止しなければならない。」そう。竜の民が何故この様な少数民族なのか。それは戦争の被害に遭ったからである。丁度北と東の中間地点にある竜の遺跡は戦場に近く、軍事開発された魔法兵器の巻き添えによって多くの民が命を失った。元々少数であったが、それでも300人は居た竜の民も、年々子供の出生率も減少し今では50人にも満たない程だ。このままでは竜の民は絶えてしまう。ドグマはその焦りを感じていた。ヒスイを立派な先導者に育てあげ、竜の民達をこれからも繁栄させなければ。ドグマはその為、娘をより厳しく育てた。「何度言えば分かる!女だからと言って容赦はしない!」ドグマはまだ10歳前後のヒスイと龍技を使った組み手を行い、ボロボロになってうつ伏せに倒れている彼女を叱責する。またある日は同年代の人と遊ぼうとした時に。「……そうか。お前は先導者の道よりも友達と遊ぶ方が大事だと言うのだな。分かった。もういい…お前には失望した。」勿論本当に失望なんてしていない。ヒスイには先導者としての意志を早くから継いで欲しい。その想いから、時には厳しく突き放す様な言い方をした。自分の思い描く道をヒスイも歩めば、きっと竜の民達はこれからも耐える事なく安泰だ。ーー俺の代で絶えさせたくない!ドグマはこの様にヒスイのやる事1つ1つに口を出していた。しかし、ヒスイが19歳の時だった。突如書き置きだけ残し、娘は家を出てしまった。お父さんへ。私は彼と一緒に外の世界へ行きます。お父さんの理想の娘になれなくてごめんなさい。私は、今まで先導者になりたいと思った事は一度もありませんでした。ずっと黙っててごめんなさい。 ヒスイよりそれを見たドグマはようやく気が付いた。竜の民のこれからの未来を見ていたが、1番
ドグマに言われた通り朝の4時半に起きたグレンは、龍技の真髄の修行をする為にドグマの後ろに付いて歩いていた。早朝に起こされたにも関わらずグレンは眠そうな素振り1つ見せなかった。「初日で眠くはないのか?」「ああ。普段からあまり睡眠を取らない方だ。昨日はゆっくり出来た。」グレンは旅をしてる時もそうであるが、いつ自分の身に危険が起きても対処出来る様に熟睡は基本的にしない。その為、グレンにとっては明朝4時半と早い時間に起こされても睡眠時間的には十分であった。「…そうか。この程度なら生意気な口も普通に叩けるのか。よかろう、遠慮はいらんという事だな。」ドグマは余裕そうなグレンに対し、そう脅しをかける。「(そういえば、昔アガレフに修行を付けてもらう時も同じ様な事を言われたな。)」……思い出すだけでゾッとし、血の気が引いていくのが分かる。あの時は毎日失神するまでボコボコにされていたなぁ。アガレフの修行は本当にキツかった。「よし、着いたぞ。」真っ暗だった為、到着するまでどこを歩いているのか分からなかったが数十分後、ドグマが連れてきた場所は竜の遺跡にある川の上流の方だった。「川で修行するのか?」「そうだな。修行と言えば修行かな。足の裾を捲(まく)れ。今から川で魚を捕まえる。」そしてドグマはズボンの裾を膝上まで捲り上げると片足ずつ川に入っていく。そして川の真ん中辺りまで行くと水面の上で手掴みする様な構えをした。…バシャッ!素早く水面に手を突っ込み一瞬で掬(すく)い上げる。手のひらからはみ出そうな大きさの魚がドグマの手に捉えられ、捉えた魚を竹と藁で編んだ肩掛けの魚籠に入れる。そして再び魚を捕まえる構えに戻った。「…何してる?お前もやらんか。」「あ、ああ。」グレンもドグマと同じ様にズボンを膝上まで捲り上げて川に入ろうと右足を水につける。「うっ!……」あまりの冷たさに声が出てしまうグレン。朝方の気温の低い山奥の川の水。冷たくない訳が無い。「冷たいだろ?因みに魔法は一切使うなよ。修行にならんからな。」「…いや、魔法使わないと見えねえよ。」只でさえ冷た過ぎる水に慣れない中、真っ暗な時間帯で水中の魚が見えない。しかも道具は一切使わず難易度の高い手掴み漁。目を凝らして水面を見るが当然見える訳が無い。グレンは困惑してる中、隣でドグマは流れ
時は遡る事3日前。この日はカイル、エミル、ミーナが東の大国に到着したばかりの日であった。しかし、ここは北の大国と東の大国よりも更に北東部の奥にある場所。そこは一般の人が立ち入ると必ず道に迷うとされる竜爪の錯林(りゅうそうのさくりん)]と呼ばれる森林があった。その森林の中にある地面は深い裂け目や溝が幾筋も走り、獣道や細い道がそれに沿って複雑に分岐している。道はまるで生き物のように折れ曲がり、進んだはずの者を同じ場所へ戻し、方角の感覚を狂わせる。異常な磁場がコンパスの指針も狂わせる為、人の五感や魔力の流れを読めない人が立ち入れば一瞬で迷路へと変わる場所。この森林の中に1人の男が歩いていた。彼の名前は紅の悪魔祓い(デビルブレイカー)グレン。彼はレミールでミーナ達と合流したのだが、そこの国民に国を守る様に提案される。しかし、それを拒否したグレンは国民に危害を加えられた挙句、抵抗すると悪魔と言われて非難された。そしてグレンは自分のせいでミーナに危害が加わると考え、自ら1人になる道を選んだのだ。では何故彼が今この森林に居るのか?(おい、いい加減にしろ!いつまで歩き続けるつもりだ?もうかれこれ3日は歩いてるぞ?)グレンの中に居る悪魔、リフェル。本名強欲のマモンが話し掛ける。グレンはこの竜爪の錯林(りゅうそうのさくりん)に立ち入ってからかれこれ3日は経っていたのだ。「……この森、まるで生きてるみたいに場所が変化してる。ずっと同じところをグルグル回らされているみたいだ。」木々に囲まれて複雑に分岐した細い道を辿っていくも、いつの間にか元来た道に戻っている。更に元来た道をよく確認すると木々の形や生え方、地面の裂け目の形が少し違っていた。(何回この道来るんだよ!もう100回くらいこの光景見てるぞ!)「……いや、違う。よく見てみろ。この地面と木の並び方。少し違って見えないか?」(は?そんなもん覚えてる訳ないだろ!)「最初来た時はこの地面の裂け目は3本だった。だが今は2本。木も1本1本捻れてたのが真っ直ぐになってる。」(…長い事同じ光景を見て疲れてんのか?…いや、待てよ…グレン、何が言いたい?)何かに気付いたリフェルはグレンの考えを聞く事にした。「多分だが俺達が前に進めば進む程、木や道の形が変化して最初来た時と同じ光景を見せられる。けど、地面







