Masuk時は少しさかのぼり、現在ミーナとハンジはグレンの部屋に向かおうとしていた。
「グレンの部屋は確か…こっちです!」 ミーナはハンジをグレンの部屋へと誘導していく。 そして、グレンの部屋の前まで着いた。 「グレン、大変だよ!カイル君が盗賊に…って、あれ?」 部屋を開けるがどこにもグレンの姿が見当たらなかった。 「…いないみたいね。」 「本当に、グレンは…」 こんな時でも勝手な事をするグレンに呆れるミーナ。 「どこ行ったのでしょうか?」 「分からないです…でも、あまり自分から動かないグレンが自分から動くって事は何かあるって事だと思いますよ。…何か、嫌な事が起こらなければ良いんですけど…」 ミーナは不安な顔をしながら最後にそう言った。 ここは先頭の操縦席。 先ほどライクが言っていたもう1人の仲間はシルフとは別のある場所に向かって馬車を誘導していた。 その背後に突然現れた空間の穴から黒いローブを着た男性、グレンが体を乗り出してきた。 「…貴様、この馬車どこに向かってる?」 グレンがそう言うと、座ったまま盗賊は答えた。 「どこに向かってるかなんて、そんな事知ったところで今更無意味だ。」 「…女?」 「あんた達乗客全員、ここで死ぬんだから。」 それを聞いた瞬間、グレンの頭の中で部屋全体が氷で覆われると同時に自分まで凍らされると察知し、咄嗟に黒炎を纏った。 グレンが黒炎を纏った直後、グレン以外の部屋全体が氷に覆われた。 「…なんだ、あいつの魔力…」 戦う素振りを見せない盗賊の思わぬ魔力にグレンは思わず冷や汗をかいた。 部屋の天井を見ると至る所に長さ10cm程度のの氷柱がグレンの真上に並んでいた。 「ー雨ノ神、その水の槍で大地の渇きを癒せ。」 操縦しながら盗賊がそう唱えるとさっきまで氷で覆われていた部屋が今度は部屋全体水で覆われた。 水は壁に張り付いているかの様に床へは落ちず、まるで壁に水の膜が張った様な状態だった。 そしてその膜から水の槍が複数発生し、全ての槍がグレン目掛けて襲い掛かった。 グレンもその水の槍が来ると想定してたのか襲ってくる槍全てを空間魔法を使って全て避け切った。 しかし、避けた水の槍は再び一つに纏まると今度は巨大な水球へと変化した。 終始操縦席から離れなかった盗賊はそのまま後ろを振り返る事なくそっと口を開いた。 「とりあえず目障りだから死んで。」 そう言った直後水球はそのままグレンを飲み込み瞬間凍りつき、巨大な氷の球へと変化した。 そしてその巨大な氷の球はグレンを閉じ込めたまま一気に弾けるように割れた。 一方ミーナとハンジはグレンのいない部屋に入り、グレンが何故居なくなったのかが分かる手掛かりを探していた。 しかし、 「やっぱりないかぁ…そりゃそーだよね。グレンが自分の居場所を簡単に教えてくれるわけないか。」 「その前にこの人、自分の所有物少なすぎるでしょ?」 部屋にあったグレンのリュックの中には生活に必要最低限の調理器具と非常食とお金、後は自分の武器を手入れする為の道具だった。 あまりに貧相な持ち物に呆れた2人は溜息をついた。 「よくこんなので旅してきましたね、ミーナちゃんは。」 「いえ、グレンの荷物はこれだけじゃ無くて本当に必要な物は空間魔法で別次元の場所に収納してるんですよ。」 「なるほど、そうゆう事が出来るのねあの子。いるんだよね…本物の天才は。」 ハンジは一瞬だけ微妙な顔をしたがミーナはそれに気づいてはいなかった。 「…あっ、もしかしてグレンはもしかすると他の盗賊の所に居るのかもしれません!」 「えっ?」 「考えてみてください。さっき盗賊の人は操縦席をジャックしたって言ってました。けれどもし2人だけだとどちらか1人は操縦席に残らないと行けません。」 「それは普通に分かるわよ私でも。…てことは、もう1人盗賊はいるって事?」 当たり前の事だが、ハンジはその事を認識すると血の気が引いていった。 「そういう事になります。しかも、あの盗賊が操縦席を奪っておきながらわざわざ警備システムのある大国のシルフへ馬車を誘導する事はまず無いでしょう。…もしかしたら、今私たちは別の場所に誘導されてるのかもしれません。」 「別の場所に…」 「はい、それしか考えられません。それともう一つ、確信しました。グレンがなぜわざわざ自分から居なくなったのか。それは…操縦席にいる人が人間以上の魔力を持っているからです!」 ミーナの発言により言葉を失うハンジ。 じゃあ、今私達が向かってるのは…人間以上の魔力っていうのは… 頭の中でごちゃごちゃと嫌な事を考えてしまうハンジ。 自分がどこへ連れて行かれるのか分からない恐怖は想像を絶するものだった。 しかし、ミーナは恐怖するどころかまだ疑問に思う事があった。 「…グレンが自分で動くって事はその人はカイル君と同じくらい強い人…もしくはそれ以上…それか悪魔祓いに関係するもの…」 そしてミーナが頭に一つの単語が浮かび、それを声に出した。 「…悪魔。…そうか、悪魔です!グレンは…悪魔の魔力を感じたんですよ!」 「悪魔ですって…?」 「こうしては要られません!ハンジさん!私はこうしては要られません!早くグレンの元へ向かわないと…」 部屋から飛び出そうとするミーナをハンジは慌てて制止した。 「落ち着いてミーナちゃん!今外に出たりしたらもしかすると盗賊2人に殺られるかもしれません。それに、私達がグレンの所に行ったとしてもかえって足手まといです。あいつだけならまだしも、あなたまで死んでしまったら…」 「グレンが死んだら意味ないんです!」 ミーナが大声で言うとハンジは驚き、思わず制止してた手を離してしまう。 けれどミーナは部屋から出ずにハンジに向かって言った。 「…私、辛いんです。強さの為だけに心と人格を悪魔に奪われて、悪魔に復讐する為だけに戦う人形みたいなグレンが…正直見てて辛いです。私は未だにグズで泣き虫で何もできない役立たずだけど、 それでも私は彼を見守ります!それが旅をするきっかけとなった私なりの戦う意思なんです!」 ミーナの揺るぎない視線と底知れない信念に思わずたじろいでしまうハンジ。 この子は一体どこからそんな覚悟が出て来るのか? (ありがとう、ミーナ。そう思ってくれてとても嬉しいよ。) すると何も無いどこからか優しそうな声が聞こえてきた。 ミーナはその優しそうな声に聞き覚えがあった。 「もしかして、あなたは夢の中にいたグレン?」 ミーナは聞こえてきた声に対して聞くが、ハンジには何も聞こえてないのか訳が分からずキョトンとしていた。 するとミーナに対して答えるかの様に再び優しそうな声が聞こえてきた。 (そうだ、あの時夢で会った方のグレンだ。…ミーナ凄いね。君の予想通り今現実世界にいる僕は君が言った通り先頭の操縦室にいるよ。) 「そうだった!…なら、早くグレンの所に行かないと…」 (慌てないで。流石にここから先頭に行くのはかなり時間がかかる。それに、今そっちの僕は大変なんだ。…もしかすると死ぬかもしれない。) 「何ですって…相手は誰なの!?悪魔?それとも人間?」 (分からない…でも、今回僕が君に夢以外で干渉できたのは現実世界の僕に何か不吉な事が起こる可能性があったからかもしれない。) もう1人のグレンの声は顔が見えなくてもかなり焦っているのがミーナには分かった。 (…いいかい、ミーナ。君達は今すぐに先頭の操縦席に移動してもらうけど覚悟の方は大丈夫かい?) 「大丈夫!…でも、どうやって操縦席に移動するの?」 (まず、君に渡したグレンの契約書を地面に広げるんだ。) そう言われるとミーナはポケットから折り畳まれた紙切れを出し、その紙切れを広げて床に置いた。 (広げた?そしたら自分の手を契約書に書いてある魔法陣の中心に当てるだけでいい。後は自動的にグレンの所に行けるよ。) 「えっ?でも、私魔法は使えないよ!どうやって…」 (大丈夫だ!君は何もしなくても大丈夫だ。君の魔力なら…きっ……と…だめ……だ……声が…) どうやら干渉できる時間が終わったみたいでグレンの声が途切れ途切れになり、次第に聞こえなくなった。 ミーナは半ばやけくそになり言われた通りに契約しに書かれた魔法陣の中心に手を当てた。 しかし、当ててからしばらく経っても何も起こらなかった。 「…ねぇ、ミーナちゃん…とりあえず疲れてるみたいだから一旦休んだ方が…きゃあ!」 その時、部屋全体が輝き始め前が見えないくらい眩しくて2人は目を閉じてしまった。 そして、光が消える頃にはミーナとハンジの姿は既に見当たらなかった。 そして、それと同時刻。 「とりあえず、目障りだから死んで。」 盗賊がそう言った直後巨大な水球がグレンを飲み込み、そしてその水球は一瞬で凍りつき一気に弾けた。 その弾けたとほぼ同時にグレンの部屋で起こった光の現象が起き、そこからミーナとハンジが現れた。 「……ここは?」 ミーナは周りを見渡すとさっきまでグレンの部屋に居たはずなのにいつの間にか別の場所へと移動していた。 どこに移動したかは部屋を見れば一目瞭然だったが一つ疑問に思った。 「ここは操縦室のようね、どうやら本当に私達移動してきたみたいね…」 「それよりもハンジさん。ここって、操縦席よね?グレンが…グレンがいません。…もしかして…」 すると操縦席に座っている盗賊がこちらを向かずに冷静に言った。 「あぁ、さっきの人?死んだよ。」 それだけ言うと盗賊は喋らなくなり、再び操縦だけに集中した。 「あ…あなたが…グレンを…殺したの?」 「……」 ミーナが質問しても返事を返さない盗賊。 周りをよく見てみると氷の欠片が部屋中にあった。 「…答えなさい……あなたが殺したのでしょ?」 「……」 ミーナは怒りを露わにした顔で盗賊に言うがそれでも返事を返さない盗賊。 そんな盗賊にミーナの中で何かが変化した。 「答え…な……さい!!」 その瞬間、ミーナの周りからさっきの光が部屋全体を再び覆った。 部屋全体を覆った光は全て盗賊に集まるとその瞬間盗賊の周りで爆発が起きた。 そしてその爆発によって2人は壁際に吹き飛ばされる。 「うわっ!何、今の!?…ミーナちゃん大丈夫!?」 「大丈夫です!それよりも、あの盗賊は…」 爆発した場所をもう一度見ると、煙の中から被服が破れ顔が露わになった盗賊が操縦席から立ち上がっていた。 その顔を見た瞬間、ハンジは言葉を失った。 盗賊が着ていた被服は焼けてしまった為その場で脱ぎ捨てこちらを向いてきた。 ショートパンツに黒いタンクトップを着たボーイッシュな感じで髪は水色のショートカット。腰には一本の長刀がさしてある女性だった。 それは以前学生の時に転校してしまった親友。昔の姿からそのまま成長したみたいだった。 「あ、…あなたは…エミル。」 ハンジは恐る恐る口を開き、目の前の女性の名前を口にした。 「えっ!この人がカイルくんの言っていたエミルさん!?」 ミーナはハンジに聞くが、ハンジはまるでミーナの言葉が届いてないかのように再び口を開く。 「どうして…どうしてあなたが…こんな所に?」 ハンジの問いにようやく口を開いた盗賊、エミルは一言だけポツリと放った。 「…ハンジ。それに…カイ…ル…」 「どうして!?どうしてあなたが盗賊なんかになってるのよ!こんなの、エリオン君が知ったら…」 「関係ない。…私はもう、昔の私じゃないから。」 そう言ってエミルの周りから氷で出来た剣を数十本創り出し自分の周りに浮かせた。 「そこのあなた。さっきカイルがここに居るって言ったわよね?…カイルとはどうゆう関係なの?」 エミルは急に目を細めミーナを睨みつけた。 元々やや細めのエミルの目が更に鋭くなったせいでミーナはすっかり怯えてしまい、体をブルブル震わせた。 「は、ハンジ…さん……こ、この人…こわい。」 エミルに聞こえない声でハンジの耳にボソッと言うミーナ。 するとハンジは一歩前に出てエミルに強めに聞いた。 「エミル…あなたがどうしてこんな所にいるの?あなたは、シルフの学校に転校したって聞いたけどどうして盗賊になってるのよ!?…あなたは、エリオン君と約束した、いつか一緒に騎士団をやっていこうっと。約束したんじゃなかったの?ねぇ?」 ハンジは涙をボロボロ流しながらエミルに問いかけ続ける。 するとエミルは少し暗い顔をしてうつむきながら口を開く。 「…私は……分からないの…もう、自分でもどーしたら良いか分からなかった!」 エミルはまるで自分の過去を吐き捨てるかの様に言葉が出てきた。 2人はそれをただ黙って聞いている。 「逃げたかっただけなのかもしれない…私のせいで友人が傷ついて、それで親に友人と故郷を奪われて…もう、私はただただ辛くて…うっ…うぅっ…」 エミルの目からは大粒の涙が溢れていて、それが地面にポタポタと落ちていった。 「エミル…あなたもエリオン君の様に苦しんでたのね…」 「ハンジ…ごめんね。私、やっぱり間違ってたわ。もう、立ってるのもなん…だか…疲れ……」 「エミル!」 バランスを失ったエミルはそのまま倒れそうになる。 それを察知したハンジはすぐさまエミルに近づき、倒れそうな体を支えた。 「よかった…エミルさん。…でも、1つだけおかしい事が…」 ミーナがおかしいと感じた事。 それは、グレンの部屋で感じた悪魔と同等の魔力。 元々ミーナに魔力を感知する能力はないが、あの光の魔力が出てきてからそれを直感的に感じる事が可能になった。 その時、目の前からとてつもない殺気を感じた。 それは、あの時、私の目の前で友人を殺された時のあの悪魔の様な魔力。 それが、今目の前のエミルから放たれていた。 「ハンジさん、逃げて!!その人はエミルさんじゃない!!」 しかし、言った時には遅かった。 その瞬間、エミルが地面に落とした涙の水滴から鋭い氷の槍の形に変わり、ハンジの胸を貫いた。 「……えっ?」 何が起きたか分からないハンジ。 何これ…胸が、胸が熱くて痛い。 まさかと思いながら、恐る恐る胸に手を置いてみるハンジ。 生温かい液体が手に付き、その手をゆっくりと自分の見えるところまで持っていく。 「私…えっ、なんで…なん…で…な…の…ゴフゥ!」 「ハンジさん!…なんで、なんでいきなり…」 「決まってんでしょ…私が殺したんだからさ!」 するとさっきまで気を失ったかのように見えたエミルが何も無かったかのようにスッと立ち上がった。 そして、ハンジを見下ろした形で口を開いた。 「ハンジ、ごめんね。私ね、あなたが…あなたが憎くて仕方がなかったのよ!あなたは、私がイフリークを後にしてからカイルに近づいていたのが悪いの!」 「エミ…ル…何言って…ゴボッ!…ゲホッ!…ゲッ!」 「昔からあんたはそう!時期を見計らいながら計算して男を盗む女!その証拠に、私が居なくなった途端カイルと仲良くしだした!私からカイルを奪って…憎い…憎い憎い憎い憎い憎い憎い!!私のこの運命も、この女も、そしてこの女と仲良くなっていくカイルも、全てが憎い!!」 エミルは気が狂ったかのように叫びながら言うと、手から氷の槍が創られ、それをハンジの喉元に向けた。 「あなたはもう死ぬわ。最後に私の手で殺してあげる。」 「ダメです!やめて下さい!!!」 ミーナの声が聞こえてないのかエミルはそのまま槍を勢いよく突こうとした。 すると、倒れたハンジの頭上に空間の裂け目が発生し、その間から刀が現れエミルの槍を受け止めた。 エミルは受け止められると一旦後ろにバックステップし、距離を取った。 そしてその空間の裂け目から見覚えのある人物が現れた。 「グレン!よかった、生きてて…」 「勝手に俺を殺すな。とはいえ、良くここまで来たなミーナ。…さて、そろそろお前の正体が分かった所でケリを付けないとな。」 「正体って…」 ミーナが首を傾げるとグレンがエミルを指差しながら言った。 「こいつは、あの騎士団長が言ってたエミルとか言う女じゃないって事だ。」 「はぁ?何言ってんのあんた…ていうか、あんたさっき私の氷で砕け散ったんじゃ…」 「ふん、そんなの簡単だ。あれは俺の幻創魔法でお前の脳内に俺が氷で砕け散ったかの様に見せただけのカモフラージュ戦法だ。そして本体である俺はその間別空間に潜んでただけだ。」 「くっ!…やっぱメンドくせーな、こいつは。」 エミルは普段自分の口から出ない様な言葉を小さい声で言った。 「それよりも、あの人がエミルさんじゃないってどういう事?じゃあ、あの人はいったい…」 (それは俺が説明するぜ!) するとグレンの中からリフェルの声が聞こえてきた。 「この声は、リフェル!」 (よぉ!…って言ってる場合じゃねーな。簡単に言うとだなミーナ、あいつは悪魔に取り憑かれてるぜ。) 「取り憑かれる?」 (そうだ。基本俺らは人間の体を奪って化け物になったり、俺みたいに奪わずに契約してただ滞在してたりなど様々な奴がいる。だが、あいつに取り憑いてる悪魔はその2つをしていない。) (しかも、エミルはキュアリーハート出身じゃないから元々悪魔だという根拠はない。それにこいつは悪魔に体を奪われてないのに悪魔に憑依されてる。こんな事が出来る悪魔は俺が知る限り1人しか居ない。) 「…ベラベラと余計な事、喋るなー!!」 エミルは一瞬で氷で出来た剣を手に持ち、グレンを斬り付けようとした。 グレンもそれに対抗してエミルの剣を受け止めた。 受け止めながら、再びリフェルがグレンの中から話を続けた。 (出て来やがれ!7つに分断されし悪魔、獄魔7将・嫉妬の悪魔、レヴィアタン!) リフェルがそう言うと、エミルは剣を押す力を止めていった。 すると急にエミルは再び気が狂ったように笑い始めた。 「あははははははっ!!…流石リフェルだ。僕の正体なんて、すぐ見やぶっちまうんだね。) エミルはさっきまでの女性らしい声から、不気味で男性の様な低い声に変わっていく。 声が変わると同時に、エミルの体から黒々しいガスが発生し、そのガスは人の体を形作っていった。 人型になっていくと今度は服装や髪型など細かいところまで形づいてきた。 目は大きめのツリ目で両肩にかかりそうな黒髪に、黒い長袖のシャツの上に袖なしの白い上着を着た男性になっていく。 レヴィアタンと呼ばれた男はガスから形づくと体が固まってしまってるのか首をコキコキと鳴らし、肩や腕などを伸ばして体に柔軟性を与えている。 「ふぅー、久しぶりに外出たなー。…あー、リフェル以外は初めまして…かな?僕は嫉妬の悪魔、レヴィアタン。」 言葉に裏がありそうな不気味な喋り方で挨拶をするレヴィアタン。 その横にはレヴィアタンが出てきた事により、気を失って倒れているエミル。 「あぁ、この女ならもういらないや。最後に面白いもん見れたしさ。返すよ。」 レヴィアタンは満面の笑顔で言いながらエミルの胸ぐらを掴んでグレン達に差し出した。 「何、この人…笑顔で怖い事言ってる…」 ミーナはエミルの胸ぐらを掴みながら笑顔でいるレヴィアタンを見てあの時の恐怖を感じた。 (そんな事よりレヴィア!テメーが何でここに居るんだ!) いきなり割り切って心の中から喋るリフェル。まるで以前会ったかのように、お互い知ってる様な口ぶりで。 すると、レヴィアタンは大きなツリ目からいきなり細く睨みつけながらグレン(リフェル)の方を向いた。 「はぁー?あんたに言ってもしゃーねーだろ。どーせあんたらここで死ぬんだからさ。俺はただこの女のドロドロしたクソ重たい展開を見るためにこの女に憑依してただけだっつーの。」 (ドロドロした展開だと?) 「そうだ。この女はおもしれーな!親の勝手な都合で好きな男と引き離され、やっとの思いで帰ってきたらもうその好きな男は他の女に取られて…この時点で笑っちまいそーだよ!」 レヴィアタンは顔を抑えながら笑いを堪えるポーズを取った。 「…どう…いう…こと?…エミルが…帰って…きた…ゴホッ!…ゴホ!」 「ハンジさん!それ以上喋ると血が…」 喋ると口から血がポタポタと出てくるため、それを止めようとするミーナ。 すると、ハンジの問いかけにレヴィアタンは真顔でハンジを見ながら言った。 「あれ、知らないの?この女はシルフに転向した2週間後にはイフリークに帰ってきてるよ?」 レヴィアタンの言葉が一瞬理解出来ないミーナとハンジ。 エミルが帰ってきてた?どういう事なのかさっぱり分からなかった。 「そんな…の、うそ…よ…。」 「嘘じゃないんだよねー、これが。僕も詳しい理由は興味ないから知らないけどぉ、簡単に言ったらなんか馬車が事故して仕方なくイフリークに戻ったんだよ。イフリーク戻ってきたらさ、プフッ!これ以上言ったら笑いが…」 「ふざけないで!真面目に話してよ!」 まるで面白い話をしてるかの様に笑うレヴィアタンの説明に我慢できなくなって怒るミーナ。 「あははっ!ごめんね。…で、イフリーク帰ったらまずあの好きな人に会いに行こう!もしかしたら喜んでくれるかな?なぁーんて、考えてあいつの所へ行ったんだよ。そしたらどうだったと思う?」 「元クラスで一番仲の良かった親友に奪われちゃってたんだよね~!」 最後にそう言うとレヴィアタンはさっきよりも大きな声で笑った。 「ちが…う…私と、エリオン君は…そん…な…」 ハンジは今にも弱々しい声でレヴィアタンに言うがもう死んでもおかしくない感じだった。 「はぁー?死に損ないが何言ってんだよ。実際、この女にそう思われる様な事してたんだから仕方ねーだろ?」 「私は…ただ、エミルの…エミルの代わりに、自分が…なれたらなって…ゲホッ!ゴホッ!ゴホッ…」 「ハンジさん!もうこれ以上喋ると本当に…!」 さっきよりも多量の血を吐きながら倒れ、意識がなくなり始めてるハンジ。 ミーナは泣きながらハンジに声を掛けた。 「そもそもさ?あんたがこの女の代わりになるとでも思ってたのぉ?馬鹿だなぁー、そんなの返って逆効果だよ!なんで分からないのかなぁ、人間って本当に馬鹿だよ。」 「あっ、そっか!死なないと分からない馬鹿だから今死ぬんだ!だから、エミルも君を殺しちゃったんだね?」 「わ、私…が、エミル…を…エミルが…私を…」 ハンジは意識が薄くなった事と、レヴィアタンの言葉によってもはや言葉にならないような事を口にした。 ー自分がやっていた事は、返ってエミルを苦しめていたんだ…ごめんね、エミル。 最後に声にはならなかったが、口でそう言うとハンジはそのまま目を閉じて息をしなくなった。 「ハンジさん?…嘘でしょ…返事して!…ハンジさん、ハンジさぁぁあん!!!」 どんだけ揺さぶっても、いくら声を掛けても息を吹き返さず、起きる気配のないハンジ。ミーナはその場で顔がクシャクシャになるほど涙を流し泣いた。 ミーナの目の前にいるグレンはそれを只々見つめていたが、レヴィアタンだけは笑いのツボにハマったかの様に腹を抑えながら笑った。 「ウヒヒヒヒッ!サイッコーだね!絶望しながら死んでいくの見るのはさ!親友の為に自分が正しいと思ってやった事が実は間違いで逆に最後は恨みを持たれて殺されるなんて…もう~、サイッコー!!」 「何が最高なのよ、人が死んでるのがそんなに面白い?…ふざけないでよ!!」 レヴィアタンのあまりの非情な言葉にミーナはハンジを見つめながら怒りをぶつけた。 ハンジの顔にはミーナから流れ落ちた涙で濡れている。 しかし、その怒りが伝わるどころかレヴィアタンはミーナの怒りを更に煽るかの様にニヤニヤしながら口を開いた。 「うん、面白いねー!僕はこういう人間のドロドロした展開が一番大好きなんだよ。あー、でも残念な事が一つあったかな?」 「このエミルって女はまだこの事を知らないんだよ。実質俺がこの女を操ってたからさ。」 「なん…ですって?それはどう言うことなの!?」 するといつの間に移動したのかレヴィアタンはミーナの顔の前に自分の顔を近づけた。 そして目を最大限まで開けると声のトーンを低くして言った。 「こういう事だ。僕は憑依した人間の魔力ともう一つ、嫉妬の感情を増大させその感情が一定を超えた時憑依した人間をほとんど操ることが出来るんだよ。」 「この女は嫉妬の感情に流されるままに流され、そして最終この俺が体を乗っ取ったって訳だよ!いやー、でも殺したいって感情はこいつの感情だから俺はそれに従って殺しただけなのさ~!だから僕は、無実なんだよね~。」 レヴィアタンは満面の笑みで自分は無実だと訴えるような両手を上げたポーズをふざけた様に取った。 「ふざ…けんな。」 人の感情を只々弄ぶこの存在を見てミーナはどう思ったか。 それは、怒りだった。 ミーナは自分の手で握りこぶしを作ると周りから白く輝く光が全身を纏った。 さっきまでふざけた態度を取っていたレヴィアタンはミーナの纏った光を見ると急に焦った表情に変え、手の平から黒く小さい魔法陣を展開させた。 「おっと、思わず魔法陣出し掛けた。なんだ、この光は?」 薄暗い操縦席を真昼の様な明るさに変える程のミーナの光は邪悪な悪魔にとって危険なものであるのかレヴィアタンは魔法陣を展開しても魔法を発動しようとはしなかった。 それはグレンも同じでグレンもその光を浴びると力が抜けたかの様にその場に膝をついた。 「これは、マズイな。」 (そんな呑気なこと言ってる場合か!くそ、ミーナのこの力は一体なんなんだ!) しかし、ミーナの光は弱めるどころか更に強くなりレヴィアタンもその場に立ってられなくなり、倒れると手の平に展開してた魔法陣が消えてしまった。 「うっ…なんなんだ、この光は…」 「あなたみたいな人の気持ちを弄ぶ人は一度同じ目に合うべき。醜く消えなさい。」 ドクンッ! ミーナが言った瞬間、レヴィアタンの中の何かが突然目を覚ました気がした。 「醜く、消える?…クソ人間が!醜く消えるのは、人間の方だろーが!!」 刹那、レヴィアタンの周りから黒いガスの魔力が光を全て覆い消し去った。 「あ、あれ?私、さっきまで何を…何、この黒いガス…苦…しい。」 光が消えるとミーナはいつも通りのミーナに戻ったが、ガスの魔力の効果によって胸を押さえながら苦しんでいた。 「ケッ!ゴミ同然の人間が!いったん僕のガスでくたばれ!…さて、これで邪魔は無くなったな。ね、紅の悪魔祓いさん?」 レヴィアタンがグレンの方を見ると、グレンはミーナと違ってガスがあっても全然苦しそうではなく寧ろさっきよりもピンピンしてた。 「レヴィアタンと言ったな?お前はこのエミルとかいう女を操ってたと言うが、お前らは何が目的なんだ?」 「俺らの目的は教えられねーけど、この女を操った理由は教えるよ。ただ、面白かったからぁ!俺は嫉妬で苦しんで潰れていく女が大好きだからさ!」 嫉妬の話をする度に顔を緩ませながら笑うレヴィアタン。 (ったく、相変わらず趣味わりーな!) 「それはお互い様だろ、リフェル…いや、本当の名前は…(それ以上言ったらぶっ殺すぞ!!) レヴィアタンが最後の部分を言おうとするとグレンの手から黒く変色した腕が伸びてレヴィアタンの胸ぐらを掴んだ。 「なんだ、この腕は…」 「うそっ、グレンの手から手が…」 ミーナもグレンを見て驚いていたが自分の手から伸びた異質な腕を見て驚いたのはグレンも同じだった。 しかし、伸びた黒い腕に掴まれたレヴィアタンは苦しい顔をする事なく、更に攻撃的な言葉をリフェルに言った。 「いいじゃん、別に減るもんじゃないんだしさ。ていうか、いつまでリフェルなんてダセー名前気取ってんだよ。本名の方がずっと…」 (黙れ!それ以上喋るなら本当に殺すぞ!) 「殺す?こんな腕しか出ない状態でか?」 そう言ってレヴィアタンはグレンの手から伸びた黒い腕を手刀で千切った。 引きちぎって離れた黒い腕は空気中で拡散し、黒い腕は元のグレンの手に戻った。 しかし、その間にレヴィアタンは体を空気中の黒いガスと同化するかのように体が拡散した。 「消えた…いや、このガスみたいなのと同化したのか。」 「その通り!」 消えたレヴィアタンを探すグレンの背後からレヴィアタンの腕が突然ガスの中から現れ、拳を作った手でグレンの背中を殴った。 殴られたグレンは突然の攻撃に対応できないままその拳を受けてしまい、口から血を吐いた。 「!…かっ!…」 殴ったレヴィアタンの拳はすぐにガスと同化するように拡散して消えた。 (おい、グレン!まずこのガスを何とかしろ!奴はこの黒いガスを自分の体の一部みたいに色んなとこから手が出てくるぞ!) 「その通り!僕は憑依以外にも気体、液体、固体、水分に関わってるもの全てを操ることが出来る。こんな風にな。」 レヴィアタンは周りのガスを無数の拳に変化させ、その拳は全てグレンの方に向けられた。 「ー[嫉妬の魔力(エンヴィー)]。愚かな人間に鉄槌の雨を降らせ。」 レヴィアタンがそう呪文を唱えると、無数の拳は黒いガスを纏いながら物凄い速さでグレンに向かって飛んだ。 グレンはその拳を防ごうと自分の周りに黒炎を纏うが、拳に纏われている黒いガスの効果で黒炎から守られている為か拳は燃えずにそのままグレンに向かっていった。 拳を防いでも別の所から拳が飛んでくる為、殆どの攻撃を全身で諸に受けていて、拳はそのまま勢いが止まることなく次々と襲いかかった。 「あははっ、手も足も出ないや。もうそろそろやめておくかな。これ以上感情の無い悪魔祓いを痛めつけても何のメリットも無いし。」 ガスの中から現れたレヴィアタンは無数の拳を消した。 そこには身体中殴られた事によって血だらけになったグレンが倒れていた。 「グレン!!…ぐっ…あがっ…!」 ミーナは倒れたグレンを呼びかけた直後、ガスからレヴィアタンが現れミーナの首元を手で掴んだ。 「とりあえず君の力は僕ら悪魔にとって危険だから今ここで殺しておくか。あーあ、結構可愛くてスタイル良いから勿体無い感じするけどしゃーないよね?…じゃあ、バイバーイ♪」 「やめ…で……」 レヴィアタンは笑顔で首元を掴んだままミーナを持ち上げ、そのまま指に軽く力を入れると確実に死ねる状態まできていた。 そして指に力を入れ始めー スパァンと鋭い斬れる音が部屋に鳴り響く。レヴィアタンの腕がグレンに斬り落とされたのだ。 斬り落とされた事により、解放されたミーナは首の締め付けが無くなり咳き込んだ。 レヴィアタンの腕を斬ったグレンはさっきよりも黒々しく燃えている黒炎を纏いながら刀を持っていた。 「…おい、何やってる 。」 「ったく、しつこい人間だな!人間はさっさとくたばって…」 その瞬間、グレンは拳に魔力を纏わずにレヴィアタンの腹目掛けて殴った。 「ー反(リバース)魔法!」 グレンの拳から衝撃が発生するとレヴィアタンは吐血しその衝撃で身体が破裂した。 「いっ、イデェー!!あれ、なんでガスになら…」 「喋る余裕があるのか?」 グレンは更にレヴィアタンの目の前に詰め寄り、手の平に黒炎を作り出し、そのまま手の平をレヴィアタンの顔に向けた。 手の平の炎はレヴィアタンの顔から黒く燃え始めるとそのまま周り影響を与えずに一気にレヴィアタンの全身は燃えていく。 「あぢぃー!!…なんだ!この男…女を殺そうとした瞬間、魔力が上がってやがる…」 「もう終わりだな、その黒炎は相手をチリにするまで水をかけても消える事はない。これで終わりにしてやる。」 グレンは剣を持ち、刃に黒炎を纏い構えたがレヴィアタンの様子がおかしかった。 レヴィアタンはどういうわけか体が液体に近いスライムに変わり、全身を燃やしている黒炎は徐々に消えていった。 「馬鹿な、俺の黒炎が消えた?」 「ふぅー、危なかったなー。あんまし本気出すなってあいつらに言われたけど仕方ないよな。」 するとレヴィアタンの右腕はグニョグニョの黒いスライムに変化し、上半身を使って反動をつけて右腕を振ると右腕は高速の域を超えたスピードでグレンの腹にぶち込まれた。 あまりのスピードに反応できずモロに受けてしまったグレンは立ったまま気を失い、数秒後その場に倒れてしまった。 「そんな、グレンが…グレンが…」 ミーナは目の前の光景を見て体を小刻みに震わせていた。 今まで悪魔相手に負ける事無かったあのグレンが、たったの一撃で倒されてしまうなんて。 この人…いや、この悪魔は…とんでもなく強い!今までの悪魔とは訳が違う。このままじゃ殺されて… ガンッ!! 「ひっ!」 いつ移動したのかレヴィアタンはいきなりミーナの目の前に飛んできた為、ミーナは驚いて尻もちを着いた。 「さぁーって。次は君の番だよ?悪魔祓いのおまけちゃん!」 「や、やめ…て…」 ミーナはこの感情を思い出した。 今までグレンが守ってくれてたから感じなかったがこの感情…それは悪魔への圧倒的な強さと恐怖、殺されてしまうという絶望。 その感情が再び蘇ってくると足が震え、口は思い通りに開かず声が出ない。 「可愛いなぁ!こーんなに震えちゃってさ。でもね…僕は人間のそーゆー所大好きなんだよね~。恐怖で震えた人間の心臓は旨味を増すから食うともう、最高なんだ!悪いけど…」 「頂きます、しちゃうね?」 レヴィアタンはスライムの様な腕を他の悪魔の様な鋭い爪を持った人間離れした黒い筋肉質な腕に変えた。 「助け…て…」 レヴィアタンは爪でミーナの胸を刺そうとしたその時。 「ー水神よ、土地を愚かなる者の血で潤せ。」 どこからか魔法を唱える声がするとレヴィアタンの体から血が吹き出していき、その血はまるで刃物の様に切り刻んだ。 「ぐあぁ!!なんだ…体が、血で斬られて…」 「…この魔法は、あなたの体内に含まれている水分全てが拒否反応を起こし体内から破壊していく殺戮系の神級魔法。間に合って良かったわ。」 レヴィアタンの体内では生きていくのに必要な臓器や血管をも破壊していき、既に腕と体は原型を留めていない所までズタズタに切り刻まれていた。 この強力で圧倒的な水魔法を使う水色の髪をした女性は先程まで敵であったエミルだ。 「あ、あなたは…エミルさん?」 エミルはなぜ私の名前を?とまるで今までの事を覚えていない顔をするが直ぐさま真剣な表情に変わり、レヴィアタンの方を向いた。 「気をつけなさい。あの魔法は人間なら確実に殺傷できるけどあの悪魔には効かない。一旦こっちへ来なさい。」 ミーナとエミルは一旦レヴィアタンから距離を取ると、エミルは後ろにあるものに気づいた。 「えっ、嘘…なんでハンジが…」 目をつぶって動かなくなったハンジを見てエミルは固まってしまう。 「エミルさん…まさか何も覚えて…」 「あははははっ!!そいつは何も覚えて無いって言っただろ!!」 さっきまで血だらけになっていたレヴィアタンの体には傷1つ残っておらず、綺麗に再生していた。 「教えてやろうか?この女はなぁ…」 「お前がやったのか?」 レヴィアタンの言葉の途中でエミルはレヴィアタンの真下に魔法陣を展開させ、その魔法陣から氷の刃が飛び出し、レヴィアタンの腕を一瞬で切り落とした。 「なっ!おまっ、それは無しだって…」 「お前が…お前がやったのか!!」 エミルは氷の剣を造形させるとそれを持ち、レヴィアタンに斬りかかろうとした。 しかし、レヴィアタンは斬られる寸前で再びガスに拡散して氷の剣をかわし、別に充満したガスから元の形に戻る。 「ちょ…調子に乗るんじゃねーよ、この殺人女が!話は最後まで聞きやがれ!」 「殺人はお前達だ!よくもハンジを…」 「はぁ?何言ってんの?この女殺したのって、お前だろ?覚えてないとは言わさないよ。あの時だって、お前言ってたじゃん。」 えっ?あの時?私が、ハンジを…殺した? エミルは何も覚えていない。そう、あの時から私の記憶は曖昧で思い出そうとしてもちゃんと思い出せない。 けど、もしかしたらあの時から私はずっと…そう、あの時、私がイフリークを離れた時だ。 エミルは記憶の中からあの時、かけがえのない親友と別れたあの日の事を思い出していった。 8年前ー 私には大切な親友…いや、多分それは親友なんかでは収まりきらない存在だったのかもしれない。そんな人が昔いた。 もうずっと前の話だから、あまり鮮明に思い出せないかもしれない。 ただ、これだけは言える。 私はその親友が好きだったんだ!魔導砲・アステリアにより、火の海と化したノームの街。大都会の象徴であった何十階もある建物はその威力によって高い部分は消失した。燃えた瓦礫が辺りに散らばった地面は、平和な国から地獄の戦場へと一気に変えられる。上空の魔導戦艦はその変わり果てたノームを見下す様に宙に浮いていた。そして魔導戦艦から放たれた無数の戦闘機は地上に向かって急下降し、機関銃の様な物を地上に撃ち放つ。ズドドドドドドド!!!!機関銃の様な物から放たれるのは1発1発が魔力の籠ったエネルギー弾であり、地上に撃ち込まれた部分からは爆発が連鎖的に起きる。徹底的にこのノームを潰そうとしているのが分かる。小国など武力の低い国はこの攻撃で大半が機能不全に陥るだろう。しかし、この東の大国ノームは違う。魔力で動かす機械や医療など、他国よりも繊細な技術面が発展している先進国である。当然、軍事に関する機械も最先端の技術が搭載されているのだ。東の大国には風狼機巧工房(ふうろうきこうこうぼう)と呼ばれる、飛行艇や四輪駆動車を製造する機巧工房が存在する。(第31話参照)性能重視で機械が造られている東の大国が誇る技術の叡智(えいち)がこの場所に保管されている。その機巧工房から東の大国が造り出した戦闘機が上空へ飛び立ち、北の大国の戦闘機へ向かって行く。北の大国の戦闘機が100機を超える戦闘機に対し、東の大国側の戦闘機は40機程度。圧倒的に戦力の差は北の大国が上である。しかし、それはあくまで戦力差の話。最新の技術を搭載された戦闘機はその戦力差すらものともしなかった。東の大国の戦闘機はステルス機能が搭載されており、その機能によって戦闘機は透明化する事が可能。それにより、視覚的に見えなくなったところで東の大国側の戦闘機が反撃を開始する。エネルギー弾も北の大国の戦闘機とは違い自動(オート)で狙いを定める為、どれだけ戦闘機を速く操縦してても狙いがブレる事は無い。透明化した状態のまま自動で相手の狙いを確実に定め、一方的に攻撃を仕掛ける事で数の戦力差を埋める。これが、技術力の高い東の大国の戦闘機の力。数の量産は難しくも、その機能性は北の大国の戦闘機を遥かに上回っていた。視覚的に確認出来ず、例え戦闘機に乗った操縦士の魔力を感知したところで、気付いた時には既に撃ち落とされてしまうのだ。そして全ての北
一方、魔導戦艦を撃破した東の大国側は更なる北の大国の攻撃に備えて避難誘導が行われていた。次も都市部を襲撃してくるであろう北の大国の動向を予想し、国民達は総面積20㎢あるノーム王の城の城壁内へと誘導される。勿論全員を城壁内に誘導は出来ない。そこでグロードやネルが持つ空間移動の力で、子供を優先して他国へ転移させる事にした。行き先は西の大国イフリークと南の大国シルフ。両国は復興作業が順調に進んでおり、既に避難の受け入れが整っている状態であった。カイルはイフリークの騎士団に。そしてシルフの王の証を継承したフィナは大国に連絡した事によりスムーズに避難誘導が行えている。そしてカイルの両親と妹のレイアはグロードに空間転移でイフリークに転移させられる予定であった。「父上、母上。レイア。戦争が終わったら必ず迎えに行くから。」「うむ。カイル、無事を祈る…。」「カイル…絶対に生きて帰って来てね。」小さく返事するカイルの父親であるが、やはり心配なのか表情は暗かった。母親のカルラはやはり心配であり、涙を流しながら言った。そしてレイアはカイルに抱きついた。「…お兄ちゃん」強く抱きしめるレイアはカイルの胸に顔を埋める。「…大丈夫。大丈夫だから。」そんなレイアに優しく頭を撫でながらそう言うと、レイアはゆっくりとカイルから離れた。そして視線を後ろに居るミーナ、エミル、ライク、ニケルに向ける。「ミーナちゃん。エミルお姉ちゃん。」まずはミーナとエミルに向かって言う。「レイアちゃん。…また戻ったら一緒にお話ししよ!」両手を膝に付き、少ししゃがんだ姿勢のまま笑顔で言うミーナ。「そうね。レイアちゃんも、気をつけるのよ。」レイアの頭をポンポンと撫でてあげるエミル。「うん!またいっぱいお話ししよ!」そして今度はライクに向けて言った。「ライクお兄ちゃん!無茶な事は絶対にしないでね!」「…無茶な事しねーと勝てねえんだよ。」相変わらず、レイアに対してもぶっきらぼうに返事するライクであるがその返事に泣きそうになりながら。「だって、ライクお兄ちゃん1人で突撃して行きそうで怖いんだもん!」「わ、悪かった!ちゃんと気を付けるって!」泣きそうになるレイアを慌てて宥めるライク。そして最後にニケルに向いた。「ニケル様…。」「レイアちゃん…。」レイアとニケルはし
他国への軍事侵攻と併合を繰り返すことで領土を拡大している巨大な大国。ここは北の大国ウンディーネ。魔力資源と軍事拡張を国家存続の核とする極端な軍事国家であり、その統治思想は「戦果こそが存在価値」という歪んだ成果主義で統一されている。戦争で功績を挙げた者は地位・富・名誉を得る権利が与えられ、失敗者や非戦闘員には価値がほぼ与えられない。戦争で功績を挙げられなくとも、国家の軍事力拡大に繋がる軍資金を納めれば国から認められる。この仕組みを国民達に徹底させる為、この国では目に見える形で国民を上級、中級、下級という風に位置付け差別化した。どういう事か?その位置付けは国民の居住地域で分けられた。上級は名前の通り、貴族や戦争功労者など富裕層を指す。中級の国民は主に庶民の人達であるが、この者達は努力次第では軍に入隊し功績を上げる事で上級へと位を上げる事が出来る。そして下級は名前の通り、国の中でも最下層の人間の事を指す。大抵の下級国民が暮らす場所は政府の目に届かない場所に位置している為、治安が悪く劣悪な環境。ここには国に対する反逆行為を行った者、犯罪を行った者、北の大国の軍事侵攻により領土を奪われたその土地の人達が住んでいた。以前ライクとニケル、グロードが北の大国に訪れた際に出会った孤児の兄弟も下級国民であった。(第24話参照)下級国民は全てにおいて最底辺であり、人権というものは殆ど存在しない。これは領土を奪った他国の人間が自国に対して反撃しない為の抑止力にもなるが、それだけでは無い。先程説明した様に中級国民も犯罪や反逆行為を行う事で下級国民に成り下がる可能性があり、国民はそれを恐れていた。ーーこんな底辺の人間にはなりたく無い。こうして劣悪な環境の中で過ごす最底辺に自分もなる可能性がある事を知らしめる。それにより、国民全員に危機感を持たせながら国の為に必死で働かせられるのだ。また、人間とは自分より下を見て優越感に浸る生き物。自分達よりも底辺の人間が居る事により優越感に浸らせれば、国民のストレスの捌け口は自然と下級国民へと移る。この「働き蟻の法則」にも似た様な差別化の仕組みが、北の大国という巨大な軍事国家を成り立たせていた。「軍事の為に働かざる者、人としての権利を得るべからず。」北の大国にはその様な言葉が昔からあった。この国民の差別化。一見
魔導戦艦。それは北の大国が保有する、空中を駆ける全長200m、全幅80m、全高75mを誇る巨大飛行戦艦である。戦艦の全方位には大量の巨大な大砲が敷き詰められてある。それら全て、[魔導砲・アステリア]と呼ばれる以前グレンが魔導兵器であるレイクと戦った時に使用されていた大砲が搭載されている。(第36話参照)軍事大国である北の大国ウンディーネ軍の技術開発局が開発したこの戦艦。実は東の大国ノームにとって因縁のある存在であった。「魔導戦艦。我ら東の大国の技術を盗んでそれを軍事転用した巨大飛行戦艦か。」バンジョウの言う通り、この魔導戦艦は約100年前に東の大国が開発した魔力式四輪駆動車の技術を改良されて作られた。100年前、東の大国ノームにやってきた北の大国ウンディーネ出身の亡命者が居た。ウンディーネは諸国周辺の国に戦争を仕掛けては勝利して自国の領土を拡大していく軍事国家であり、戦争は絶対正義であるかの様に指導される。戦争、又は軍事に反対的な意見を持つ人間は処罰の対象となる為、それが嫌で亡命する北の大国の人間は当時珍しく無かった。ノームはそのウンディーネからやってきた亡命者に仕事を与え、彼は元々軍の整備士の仕事をしていた為、機械的な物を作る仕事を与えた。しかし、これは大きな間違いに繋がるのであった。数年後、その亡命者は突如ノームから居なくなり、その数年後にウンディーネ軍がノームに対して戦争を仕掛けてきた。当時ウンディーネの魔導戦艦が、ノームで作られていた魔力式四輪駆動車と全く同じ技術を使用して作られていた為、それに気付いたノームの国民は怒った。ーー亡命してきたあの男は、我々の技術を盗む為のウンディーネ軍が遣わせたスパイだったのだと。そして100年前、この事がきっかけで北と東の大国は規模は小さいが戦争に発展しており、戦争が終結してからその後4大国間同士で不可侵条約は結ばれているが未だ北と東の関係性は悪いままである。(第16話参照)今までは嫌がらせの様な北の大国のミサイルを東の大国近辺に放っていたが、今回の様な魔導戦艦で領空に入ってきた事は一度も無かった。明らかな領空侵犯(りょうくうしんぱん)であり、東の大国ノームに対する威圧行為だ。到底許される事では無い。「このままでは国民が危険だ!一刻も早く迎え撃つ準備を!」ギンジは八握剣(やつかのつるぎ)
カイルの影の斬撃によって舞い上がった黒い魔力が引いていく。「…ミーナちゃん!大丈夫か?」幾ら本気の勝負だとしても、あれだけの攻撃をまともに喰らえばただでは済まない。心配になったカイルはすぐに影の円展開を解除し、ミーナの方に駆け付けた。しかし、ミーナは何事も無く立っていた。「…あれ?私、確かにカイル君の攻撃を喰らった筈だけど?」傷一つ付いていないミーナは自分自身でも何が起きたのか分かっていない表情をしていた。するとバンジョウが終了の合図と一緒にその理由を説明した。「勝負あり!カイル殿の勝ち!…2人とも、中々凄い戦いだった。」「この道場は今日だけ特別な"結界"を張ってるんだ。安全にテストが出来るように、[この中では如何なる理由があっても他者を殺す事が出来ない]という条件を付け加えて。」「結界?」初めて聞く用語に首を傾げるミーナ。するとグロードがバンジョウに聞いた。「結界術を扱えるのですか?」結界術。それは魔法とは違い、魔力では無く条件を成立させる事により一定範囲の空間に結界を張る術である。「ええ。まあ我は簡単な結界術しか扱えないですけど。条件が厳しくなるとそれだけ術者に掛かるリスクも高くなるから。」リスク。それを聞いてグロードは少し疑問に思った。もしかすると、ベリエルが使った呪いというのはこの結界術がベースなのかと。しかし確証がない為、思っていても皆んなには言わなかった。「では、気を取り直して。今度は…」バンジョウは他の人のテストを行う為に仕切り直そうとするが、その時であった。バンジョウの腕に付けていた腕時計から大きな音が鳴り始める。ピリリリリリリリ!!!あまりにもうるさい音にびっくりするカイル達であるが、八握剣(やつかのつるぎ)のメンバーだけは全員緊張感のある顔になっていた。何故ならこの音は彼らにとっての緊急事態を意味するからだ。バンジョウは腕時計に付いてるボタンを押してその音を止めると、腕時計のレンズから人の姿が現れる。「こちらスイゲツ!た、大変です!バンジョウさん!」ホログラムで映し出された人物は今日はこの場に来ていなかったスイゲツであった。声の感じからして物凄く慌てているのが分かる。「どうしたんだ、スイゲツ?何故緊急連絡用の通信に繋いだ?」バンジョウとその他の八握剣(やつかのつるぎ)のメンバーは、慌て
エミルとフィナが道場に到着した午前8時頃。実はグロードも既に道場に到着していたのだ。それは丁度ネルが作った修行空間からカイル達が戻ってきた後、ボロボロの姿になったカイルを見てエミルがネルにキレていた時だった。「お前ぇ!!…カイルに、何をした!!」怒鳴り声は外までよく聞こえてきた為、到着したグロードは止めようと思ったのだが、カイルがエミルを制止した。カイルは事の顛末を後から来たエミルとフィナに説明した。「(成程。ネルはカイル君達に修行を付けてただけなのか。)」外で聞いていたグロードはカイルの説明を聞いて状況を理解した。「(……さて。どのタイミングで入ろうか。)」カイルの説明を聞いていたせいで、道場に入るタイミングを完全に逃してしまう。グロードは取り敢えず気にせずに入ろうと思ったのだが。「何であいつの事そんな簡単に信用するの!?あいつがフィナさんの国でどんな事したのか、カイルは知ってるんでしょ?」再びエミルの声が聞こえてきた為、またまたタイミングを逃してしまう。カイルとエミルはしょっちゅう喧嘩はしてるものの、それは痴話喧嘩に近い感じだ。しかし、今回は違う。エミルは泣きながらカイルに訴えかけていた。そして口論はヒートアップし、捲し立てるエミルに対してカイルが言った。「エミルだってネルの事何も知らないだろ!!」カイルの声にエミルは喋るのをピタリと止めた。そしてカイルは続けて言った。「確かにネルはシルフを壊滅寸前まで追い込んだ。殺した人も星の数だろう。到底世間にも、フィナさんやライクとニケルにも許されないと思う。」「でも、それはエミルも一緒だっただろ?現に元盗賊だったせいでイフリークの騎士団には最初認めてもらえなかった。盗賊なんて、世間から見れば悪人なんだからな。」「な!…違う!私は…」カイルの発言に動揺するエミルだが、ヒートアップしたカイルは喋るのを止めない。「違わない!エミルは自分がされた事と同じ事をネルに言ってるんだ!エミルだけじゃ無い!この場に居る全員、立場が変われば被害者と加害者なんだよ!」「だから皆んな。どっちかがずっと被害者面ばかりするなよ。俺達が偉そうにネルだけを非難する資格なんて、無いんだよ。」カイルの言葉によって道場の中の空気が一気に変わったのがグロードにも分かった。「(カイル君…それは正しい事だが、今
時は少し遡り、場面はミーナとイフリークの国民達に変わる。現在、彼女らはティラーデザートとは別の場所で窮地に立たされていた。大量の悪魔達が周囲を取り囲み、エミルと騎士団の人達が応戦している。それを何もできないまま只々見ているだけのミーナとイフリークの国民達。国民の中には、騎士達が守らず心臓を取られてしまう者もいた。何故、この様な事になったのか。どうしてティラーデザートから離れた場所にいるのか。現在に至るまで更に30分程、時間を遡る。シルフを目指し、猛暑の中を歩き続けるイフリークの国民達は途中で大きなクレーターを発見した。「何だ、この大きなクレーターは。隕石でも落ちたのか?」「
この時の俺はどんな人だったのか、今でも鮮明に覚えている。しかし、どうしても思い出せない事が1つある。自分の本当の名前だ。名前は悪魔祓いになったと同時に捨てたからだ。今も過去の記憶は覚えてても、自分の名前に関する記憶だけはどうしても思い出せない。覚えているのは、楽しかった日常が一夜にして地獄に変わってしまった事。そして…あの時俺を逃してくれた俺の兄の最後を、俺は今でも覚えている。11年前ーキュアリーハート。それは(癒しの心)という意味を込められた平和の国。この国は東西南北にある四大国の中心に位置している。四大国に比べて経済力があるとか、規模が特別大きいなどそういった事はなく
「月の民殲滅は確かにシルフの国王が提案し、様々な国の魔道士達を招集させて殲滅していく、というのが一般的に知られている事です。」 「はい、俺もそういう風に聞きました。」 「でも本当は違うの。シルフの国王は元々平和主義を心掛けていた心の優しい人で当時も月の民殲滅には反対していたのです。けど、あの男が来てからシルフの国王は変わりました。」 「それは、さっき言っていた思考を操る魔法か?」 フィナの口ぶりで何を言いたいのか察したグレンが口を挟んだ。 「はい。12年前に突然やって来たハイド・スペクターが原因だと思います。彼は何故なのか分かりませんが会った当初から国王に気に入られ、その日
その頃、ミーナ達はグレンとカイルが乗った馬車と離れてしまい、現在は残った人達を騎士団達は馬車の外に集めさせた。しかし、集められた一般の人達は数日前の事件から現在まで散々な目に遭っている為不満が高まっているのか騎士団の人達に文句を言っていた。「どういう事なんだよ!馬車が無くてどうやって移動するんだ!」「お前ら騎士団だろ!俺たち今物凄く困ってるの見てわかんねーのかよ!」「そうよ!私達はこれからどーなるのよ!」「何とかしろ!騎士団だろ!」口々に罵声を飛ばす一般の人達。無理もない。つい数日前までは平和に過ごしていたのだ。急にこんな事が続けば誰だって普通じゃいられなくなる。しかし、一般







