登入時は少しさかのぼり、現在ミーナとハンジはグレンの部屋に向かおうとしていた。
「グレンの部屋は確か…こっちです!」 ミーナはハンジをグレンの部屋へと誘導していく。 そして、グレンの部屋の前まで着いた。 「グレン、大変だよ!カイル君が盗賊に…って、あれ?」 部屋を開けるがどこにもグレンの姿が見当たらなかった。 「…いないみたいね。」 「本当に、グレンは…」 こんな時でも勝手な事をするグレンに呆れるミーナ。 「どこ行ったのでしょうか?」 「分からないです…でも、あまり自分から動かないグレンが自分から動くって事は何かあるって事だと思いますよ。…何か、嫌な事が起こらなければ良いんですけど…」 ミーナは不安な顔をしながら最後にそう言った。 ここは先頭の操縦席。 先ほどライクが言っていたもう1人の仲間はシルフとは別のある場所に向かって馬車を誘導していた。 その背後に突然現れた空間の穴から黒いローブを着た男性、グレンが体を乗り出してきた。 「…貴様、この馬車どこに向かってる?」 グレンがそう言うと、座ったまま盗賊は答えた。 「どこに向かってるかなんて、そんな事知ったところで今更無意味だ。」 「…女?」 「あんた達乗客全員、ここで死ぬんだから。」 それを聞いた瞬間、グレンの頭の中で部屋全体が氷で覆われると同時に自分まで凍らされると察知し、咄嗟に黒炎を纏った。 グレンが黒炎を纏った直後、グレン以外の部屋全体が氷に覆われた。 「…なんだ、あいつの魔力…」 戦う素振りを見せない盗賊の思わぬ魔力にグレンは思わず冷や汗をかいた。 部屋の天井を見ると至る所に長さ10cm程度のの氷柱がグレンの真上に並んでいた。 「ー雨ノ神、その水の槍で大地の渇きを癒せ。」 操縦しながら盗賊がそう唱えるとさっきまで氷で覆われていた部屋が今度は部屋全体水で覆われた。 水は壁に張り付いているかの様に床へは落ちず、まるで壁に水の膜が張った様な状態だった。 そしてその膜から水の槍が複数発生し、全ての槍がグレン目掛けて襲い掛かった。 グレンもその水の槍が来ると想定してたのか襲ってくる槍全てを空間魔法を使って全て避け切った。 しかし、避けた水の槍は再び一つに纏まると今度は巨大な水球へと変化した。 終始操縦席から離れなかった盗賊はそのまま後ろを振り返る事なくそっと口を開いた。 「とりあえず目障りだから死んで。」 そう言った直後水球はそのままグレンを飲み込み瞬間凍りつき、巨大な氷の球へと変化した。 そしてその巨大な氷の球はグレンを閉じ込めたまま一気に弾けるように割れた。 一方ミーナとハンジはグレンのいない部屋に入り、グレンが何故居なくなったのかが分かる手掛かりを探していた。 しかし、 「やっぱりないかぁ…そりゃそーだよね。グレンが自分の居場所を簡単に教えてくれるわけないか。」 「その前にこの人、自分の所有物少なすぎるでしょ?」 部屋にあったグレンのリュックの中には生活に必要最低限の調理器具と非常食とお金、後は自分の武器を手入れする為の道具だった。 あまりに貧相な持ち物に呆れた2人は溜息をついた。 「よくこんなので旅してきましたね、ミーナちゃんは。」 「いえ、グレンの荷物はこれだけじゃ無くて本当に必要な物は空間魔法で別次元の場所に収納してるんですよ。」 「なるほど、そうゆう事が出来るのねあの子。いるんだよね…本物の天才は。」 ハンジは一瞬だけ微妙な顔をしたがミーナはそれに気づいてはいなかった。 「…あっ、もしかしてグレンはもしかすると他の盗賊の所に居るのかもしれません!」 「えっ?」 「考えてみてください。さっき盗賊の人は操縦席をジャックしたって言ってました。けれどもし2人だけだとどちらか1人は操縦席に残らないと行けません。」 「それは普通に分かるわよ私でも。…てことは、もう1人盗賊はいるって事?」 当たり前の事だが、ハンジはその事を認識すると血の気が引いていった。 「そういう事になります。しかも、あの盗賊が操縦席を奪っておきながらわざわざ警備システムのある大国のシルフへ馬車を誘導する事はまず無いでしょう。…もしかしたら、今私たちは別の場所に誘導されてるのかもしれません。」 「別の場所に…」 「はい、それしか考えられません。それともう一つ、確信しました。グレンがなぜわざわざ自分から居なくなったのか。それは…操縦席にいる人が人間以上の魔力を持っているからです!」 ミーナの発言により言葉を失うハンジ。 じゃあ、今私達が向かってるのは…人間以上の魔力っていうのは… 頭の中でごちゃごちゃと嫌な事を考えてしまうハンジ。 自分がどこへ連れて行かれるのか分からない恐怖は想像を絶するものだった。 しかし、ミーナは恐怖するどころかまだ疑問に思う事があった。 「…グレンが自分で動くって事はその人はカイル君と同じくらい強い人…もしくはそれ以上…それか悪魔祓いに関係するもの…」 そしてミーナが頭に一つの単語が浮かび、それを声に出した。 「…悪魔。…そうか、悪魔です!グレンは…悪魔の魔力を感じたんですよ!」 「悪魔ですって…?」 「こうしては要られません!ハンジさん!私はこうしては要られません!早くグレンの元へ向かわないと…」 部屋から飛び出そうとするミーナをハンジは慌てて制止した。 「落ち着いてミーナちゃん!今外に出たりしたらもしかすると盗賊2人に殺られるかもしれません。それに、私達がグレンの所に行ったとしてもかえって足手まといです。あいつだけならまだしも、あなたまで死んでしまったら…」 「グレンが死んだら意味ないんです!」 ミーナが大声で言うとハンジは驚き、思わず制止してた手を離してしまう。 けれどミーナは部屋から出ずにハンジに向かって言った。 「…私、辛いんです。強さの為だけに心と人格を悪魔に奪われて、悪魔に復讐する為だけに戦う人形みたいなグレンが…正直見てて辛いです。私は未だにグズで泣き虫で何もできない役立たずだけど、 それでも私は彼を見守ります!それが旅をするきっかけとなった私なりの戦う意思なんです!」 ミーナの揺るぎない視線と底知れない信念に思わずたじろいでしまうハンジ。 この子は一体どこからそんな覚悟が出て来るのか? (ありがとう、ミーナ。そう思ってくれてとても嬉しいよ。) すると何も無いどこからか優しそうな声が聞こえてきた。 ミーナはその優しそうな声に聞き覚えがあった。 「もしかして、あなたは夢の中にいたグレン?」 ミーナは聞こえてきた声に対して聞くが、ハンジには何も聞こえてないのか訳が分からずキョトンとしていた。 するとミーナに対して答えるかの様に再び優しそうな声が聞こえてきた。 (そうだ、あの時夢で会った方のグレンだ。…ミーナ凄いね。君の予想通り今現実世界にいる僕は君が言った通り先頭の操縦室にいるよ。) 「そうだった!…なら、早くグレンの所に行かないと…」 (慌てないで。流石にここから先頭に行くのはかなり時間がかかる。それに、今そっちの僕は大変なんだ。…もしかすると死ぬかもしれない。) 「何ですって…相手は誰なの!?悪魔?それとも人間?」 (分からない…でも、今回僕が君に夢以外で干渉できたのは現実世界の僕に何か不吉な事が起こる可能性があったからかもしれない。) もう1人のグレンの声は顔が見えなくてもかなり焦っているのがミーナには分かった。 (…いいかい、ミーナ。君達は今すぐに先頭の操縦席に移動してもらうけど覚悟の方は大丈夫かい?) 「大丈夫!…でも、どうやって操縦席に移動するの?」 (まず、君に渡したグレンの契約書を地面に広げるんだ。) そう言われるとミーナはポケットから折り畳まれた紙切れを出し、その紙切れを広げて床に置いた。 (広げた?そしたら自分の手を契約書に書いてある魔法陣の中心に当てるだけでいい。後は自動的にグレンの所に行けるよ。) 「えっ?でも、私魔法は使えないよ!どうやって…」 (大丈夫だ!君は何もしなくても大丈夫だ。君の魔力なら…きっ……と…だめ……だ……声が…) どうやら干渉できる時間が終わったみたいでグレンの声が途切れ途切れになり、次第に聞こえなくなった。 ミーナは半ばやけくそになり言われた通りに契約しに書かれた魔法陣の中心に手を当てた。 しかし、当ててからしばらく経っても何も起こらなかった。 「…ねぇ、ミーナちゃん…とりあえず疲れてるみたいだから一旦休んだ方が…きゃあ!」 その時、部屋全体が輝き始め前が見えないくらい眩しくて2人は目を閉じてしまった。 そして、光が消える頃にはミーナとハンジの姿は既に見当たらなかった。 そして、それと同時刻。 「とりあえず、目障りだから死んで。」 盗賊がそう言った直後巨大な水球がグレンを飲み込み、そしてその水球は一瞬で凍りつき一気に弾けた。 その弾けたとほぼ同時にグレンの部屋で起こった光の現象が起き、そこからミーナとハンジが現れた。 「……ここは?」 ミーナは周りを見渡すとさっきまでグレンの部屋に居たはずなのにいつの間にか別の場所へと移動していた。 どこに移動したかは部屋を見れば一目瞭然だったが一つ疑問に思った。 「ここは操縦室のようね、どうやら本当に私達移動してきたみたいね…」 「それよりもハンジさん。ここって、操縦席よね?グレンが…グレンがいません。…もしかして…」 すると操縦席に座っている盗賊がこちらを向かずに冷静に言った。 「あぁ、さっきの人?死んだよ。」 それだけ言うと盗賊は喋らなくなり、再び操縦だけに集中した。 「あ…あなたが…グレンを…殺したの?」 「……」 ミーナが質問しても返事を返さない盗賊。 周りをよく見てみると氷の欠片が部屋中にあった。 「…答えなさい……あなたが殺したのでしょ?」 「……」 ミーナは怒りを露わにした顔で盗賊に言うがそれでも返事を返さない盗賊。 そんな盗賊にミーナの中で何かが変化した。 「答え…な……さい!!」 その瞬間、ミーナの周りからさっきの光が部屋全体を再び覆った。 部屋全体を覆った光は全て盗賊に集まるとその瞬間盗賊の周りで爆発が起きた。 そしてその爆発によって2人は壁際に吹き飛ばされる。 「うわっ!何、今の!?…ミーナちゃん大丈夫!?」 「大丈夫です!それよりも、あの盗賊は…」 爆発した場所をもう一度見ると、煙の中から被服が破れ顔が露わになった盗賊が操縦席から立ち上がっていた。 その顔を見た瞬間、ハンジは言葉を失った。 盗賊が着ていた被服は焼けてしまった為その場で脱ぎ捨てこちらを向いてきた。 ショートパンツに黒いタンクトップを着たボーイッシュな感じで髪は水色のショートカット。腰には一本の長刀がさしてある女性だった。 それは以前学生の時に転校してしまった親友。昔の姿からそのまま成長したみたいだった。 「あ、…あなたは…エミル。」 ハンジは恐る恐る口を開き、目の前の女性の名前を口にした。 「えっ!この人がカイルくんの言っていたエミルさん!?」 ミーナはハンジに聞くが、ハンジはまるでミーナの言葉が届いてないかのように再び口を開く。 「どうして…どうしてあなたが…こんな所に?」 ハンジの問いにようやく口を開いた盗賊、エミルは一言だけポツリと放った。 「…ハンジ。それに…カイ…ル…」 「どうして!?どうしてあなたが盗賊なんかになってるのよ!こんなの、エリオン君が知ったら…」 「関係ない。…私はもう、昔の私じゃないから。」 そう言ってエミルの周りから氷で出来た剣を数十本創り出し自分の周りに浮かせた。 「そこのあなた。さっきカイルがここに居るって言ったわよね?…カイルとはどうゆう関係なの?」 エミルは急に目を細めミーナを睨みつけた。 元々やや細めのエミルの目が更に鋭くなったせいでミーナはすっかり怯えてしまい、体をブルブル震わせた。 「は、ハンジ…さん……こ、この人…こわい。」 エミルに聞こえない声でハンジの耳にボソッと言うミーナ。 するとハンジは一歩前に出てエミルに強めに聞いた。 「エミル…あなたがどうしてこんな所にいるの?あなたは、シルフの学校に転校したって聞いたけどどうして盗賊になってるのよ!?…あなたは、エリオン君と約束した、いつか一緒に騎士団をやっていこうっと。約束したんじゃなかったの?ねぇ?」 ハンジは涙をボロボロ流しながらエミルに問いかけ続ける。 するとエミルは少し暗い顔をしてうつむきながら口を開く。 「…私は……分からないの…もう、自分でもどーしたら良いか分からなかった!」 エミルはまるで自分の過去を吐き捨てるかの様に言葉が出てきた。 2人はそれをただ黙って聞いている。 「逃げたかっただけなのかもしれない…私のせいで友人が傷ついて、それで親に友人と故郷を奪われて…もう、私はただただ辛くて…うっ…うぅっ…」 エミルの目からは大粒の涙が溢れていて、それが地面にポタポタと落ちていった。 「エミル…あなたもエリオン君の様に苦しんでたのね…」 「ハンジ…ごめんね。私、やっぱり間違ってたわ。もう、立ってるのもなん…だか…疲れ……」 「エミル!」 バランスを失ったエミルはそのまま倒れそうになる。 それを察知したハンジはすぐさまエミルに近づき、倒れそうな体を支えた。 「よかった…エミルさん。…でも、1つだけおかしい事が…」 ミーナがおかしいと感じた事。 それは、グレンの部屋で感じた悪魔と同等の魔力。 元々ミーナに魔力を感知する能力はないが、あの光の魔力が出てきてからそれを直感的に感じる事が可能になった。 その時、目の前からとてつもない殺気を感じた。 それは、あの時、私の目の前で友人を殺された時のあの悪魔の様な魔力。 それが、今目の前のエミルから放たれていた。 「ハンジさん、逃げて!!その人はエミルさんじゃない!!」 しかし、言った時には遅かった。 その瞬間、エミルが地面に落とした涙の水滴から鋭い氷の槍の形に変わり、ハンジの胸を貫いた。 「……えっ?」 何が起きたか分からないハンジ。 何これ…胸が、胸が熱くて痛い。 まさかと思いながら、恐る恐る胸に手を置いてみるハンジ。 生温かい液体が手に付き、その手をゆっくりと自分の見えるところまで持っていく。 「私…えっ、なんで…なん…で…な…の…ゴフゥ!」 「ハンジさん!…なんで、なんでいきなり…」 「決まってんでしょ…私が殺したんだからさ!」 するとさっきまで気を失ったかのように見えたエミルが何も無かったかのようにスッと立ち上がった。 そして、ハンジを見下ろした形で口を開いた。 「ハンジ、ごめんね。私ね、あなたが…あなたが憎くて仕方がなかったのよ!あなたは、私がイフリークを後にしてからカイルに近づいていたのが悪いの!」 「エミ…ル…何言って…ゴボッ!…ゲホッ!…ゲッ!」 「昔からあんたはそう!時期を見計らいながら計算して男を盗む女!その証拠に、私が居なくなった途端カイルと仲良くしだした!私からカイルを奪って…憎い…憎い憎い憎い憎い憎い憎い!!私のこの運命も、この女も、そしてこの女と仲良くなっていくカイルも、全てが憎い!!」 エミルは気が狂ったかのように叫びながら言うと、手から氷の槍が創られ、それをハンジの喉元に向けた。 「あなたはもう死ぬわ。最後に私の手で殺してあげる。」 「ダメです!やめて下さい!!!」 ミーナの声が聞こえてないのかエミルはそのまま槍を勢いよく突こうとした。 すると、倒れたハンジの頭上に空間の裂け目が発生し、その間から刀が現れエミルの槍を受け止めた。 エミルは受け止められると一旦後ろにバックステップし、距離を取った。 そしてその空間の裂け目から見覚えのある人物が現れた。 「グレン!よかった、生きてて…」 「勝手に俺を殺すな。とはいえ、良くここまで来たなミーナ。…さて、そろそろお前の正体が分かった所でケリを付けないとな。」 「正体って…」 ミーナが首を傾げるとグレンがエミルを指差しながら言った。 「こいつは、あの騎士団長が言ってたエミルとか言う女じゃないって事だ。」 「はぁ?何言ってんのあんた…ていうか、あんたさっき私の氷で砕け散ったんじゃ…」 「ふん、そんなの簡単だ。あれは俺の幻創魔法でお前の脳内に俺が氷で砕け散ったかの様に見せただけのカモフラージュ戦法だ。そして本体である俺はその間別空間に潜んでただけだ。」 「くっ!…やっぱメンドくせーな、こいつは。」 エミルは普段自分の口から出ない様な言葉を小さい声で言った。 「それよりも、あの人がエミルさんじゃないってどういう事?じゃあ、あの人はいったい…」 (それは俺が説明するぜ!) するとグレンの中からリフェルの声が聞こえてきた。 「この声は、リフェル!」 (よぉ!…って言ってる場合じゃねーな。簡単に言うとだなミーナ、あいつは悪魔に取り憑かれてるぜ。) 「取り憑かれる?」 (そうだ。基本俺らは人間の体を奪って化け物になったり、俺みたいに奪わずに契約してただ滞在してたりなど様々な奴がいる。だが、あいつに取り憑いてる悪魔はその2つをしていない。) (しかも、エミルはキュアリーハート出身じゃないから元々悪魔だという根拠はない。それにこいつは悪魔に体を奪われてないのに悪魔に憑依されてる。こんな事が出来る悪魔は俺が知る限り1人しか居ない。) 「…ベラベラと余計な事、喋るなー!!」 エミルは一瞬で氷で出来た剣を手に持ち、グレンを斬り付けようとした。 グレンもそれに対抗してエミルの剣を受け止めた。 受け止めながら、再びリフェルがグレンの中から話を続けた。 (出て来やがれ!7つに分断されし悪魔、獄魔7将・嫉妬の悪魔、レヴィアタン!) リフェルがそう言うと、エミルは剣を押す力を止めていった。 すると急にエミルは再び気が狂ったように笑い始めた。 「あははははははっ!!…流石リフェルだ。僕の正体なんて、すぐ見やぶっちまうんだね。) エミルはさっきまでの女性らしい声から、不気味で男性の様な低い声に変わっていく。 声が変わると同時に、エミルの体から黒々しいガスが発生し、そのガスは人の体を形作っていった。 人型になっていくと今度は服装や髪型など細かいところまで形づいてきた。 目は大きめのツリ目で両肩にかかりそうな黒髪に、黒い長袖のシャツの上に袖なしの白い上着を着た男性になっていく。 レヴィアタンと呼ばれた男はガスから形づくと体が固まってしまってるのか首をコキコキと鳴らし、肩や腕などを伸ばして体に柔軟性を与えている。 「ふぅー、久しぶりに外出たなー。…あー、リフェル以外は初めまして…かな?僕は嫉妬の悪魔、レヴィアタン。」 言葉に裏がありそうな不気味な喋り方で挨拶をするレヴィアタン。 その横にはレヴィアタンが出てきた事により、気を失って倒れているエミル。 「あぁ、この女ならもういらないや。最後に面白いもん見れたしさ。返すよ。」 レヴィアタンは満面の笑顔で言いながらエミルの胸ぐらを掴んでグレン達に差し出した。 「何、この人…笑顔で怖い事言ってる…」 ミーナはエミルの胸ぐらを掴みながら笑顔でいるレヴィアタンを見てあの時の恐怖を感じた。 (そんな事よりレヴィア!テメーが何でここに居るんだ!) いきなり割り切って心の中から喋るリフェル。まるで以前会ったかのように、お互い知ってる様な口ぶりで。 すると、レヴィアタンは大きなツリ目からいきなり細く睨みつけながらグレン(リフェル)の方を向いた。 「はぁー?あんたに言ってもしゃーねーだろ。どーせあんたらここで死ぬんだからさ。俺はただこの女のドロドロしたクソ重たい展開を見るためにこの女に憑依してただけだっつーの。」 (ドロドロした展開だと?) 「そうだ。この女はおもしれーな!親の勝手な都合で好きな男と引き離され、やっとの思いで帰ってきたらもうその好きな男は他の女に取られて…この時点で笑っちまいそーだよ!」 レヴィアタンは顔を抑えながら笑いを堪えるポーズを取った。 「…どう…いう…こと?…エミルが…帰って…きた…ゴホッ!…ゴホ!」 「ハンジさん!それ以上喋ると血が…」 喋ると口から血がポタポタと出てくるため、それを止めようとするミーナ。 すると、ハンジの問いかけにレヴィアタンは真顔でハンジを見ながら言った。 「あれ、知らないの?この女はシルフに転向した2週間後にはイフリークに帰ってきてるよ?」 レヴィアタンの言葉が一瞬理解出来ないミーナとハンジ。 エミルが帰ってきてた?どういう事なのかさっぱり分からなかった。 「そんな…の、うそ…よ…。」 「嘘じゃないんだよねー、これが。僕も詳しい理由は興味ないから知らないけどぉ、簡単に言ったらなんか馬車が事故して仕方なくイフリークに戻ったんだよ。イフリーク戻ってきたらさ、プフッ!これ以上言ったら笑いが…」 「ふざけないで!真面目に話してよ!」 まるで面白い話をしてるかの様に笑うレヴィアタンの説明に我慢できなくなって怒るミーナ。 「あははっ!ごめんね。…で、イフリーク帰ったらまずあの好きな人に会いに行こう!もしかしたら喜んでくれるかな?なぁーんて、考えてあいつの所へ行ったんだよ。そしたらどうだったと思う?」 「元クラスで一番仲の良かった親友に奪われちゃってたんだよね~!」 最後にそう言うとレヴィアタンはさっきよりも大きな声で笑った。 「ちが…う…私と、エリオン君は…そん…な…」 ハンジは今にも弱々しい声でレヴィアタンに言うがもう死んでもおかしくない感じだった。 「はぁー?死に損ないが何言ってんだよ。実際、この女にそう思われる様な事してたんだから仕方ねーだろ?」 「私は…ただ、エミルの…エミルの代わりに、自分が…なれたらなって…ゲホッ!ゴホッ!ゴホッ…」 「ハンジさん!もうこれ以上喋ると本当に…!」 さっきよりも多量の血を吐きながら倒れ、意識がなくなり始めてるハンジ。 ミーナは泣きながらハンジに声を掛けた。 「そもそもさ?あんたがこの女の代わりになるとでも思ってたのぉ?馬鹿だなぁー、そんなの返って逆効果だよ!なんで分からないのかなぁ、人間って本当に馬鹿だよ。」 「あっ、そっか!死なないと分からない馬鹿だから今死ぬんだ!だから、エミルも君を殺しちゃったんだね?」 「わ、私…が、エミル…を…エミルが…私を…」 ハンジは意識が薄くなった事と、レヴィアタンの言葉によってもはや言葉にならないような事を口にした。 ー自分がやっていた事は、返ってエミルを苦しめていたんだ…ごめんね、エミル。 最後に声にはならなかったが、口でそう言うとハンジはそのまま目を閉じて息をしなくなった。 「ハンジさん?…嘘でしょ…返事して!…ハンジさん、ハンジさぁぁあん!!!」 どんだけ揺さぶっても、いくら声を掛けても息を吹き返さず、起きる気配のないハンジ。ミーナはその場で顔がクシャクシャになるほど涙を流し泣いた。 ミーナの目の前にいるグレンはそれを只々見つめていたが、レヴィアタンだけは笑いのツボにハマったかの様に腹を抑えながら笑った。 「ウヒヒヒヒッ!サイッコーだね!絶望しながら死んでいくの見るのはさ!親友の為に自分が正しいと思ってやった事が実は間違いで逆に最後は恨みを持たれて殺されるなんて…もう~、サイッコー!!」 「何が最高なのよ、人が死んでるのがそんなに面白い?…ふざけないでよ!!」 レヴィアタンのあまりの非情な言葉にミーナはハンジを見つめながら怒りをぶつけた。 ハンジの顔にはミーナから流れ落ちた涙で濡れている。 しかし、その怒りが伝わるどころかレヴィアタンはミーナの怒りを更に煽るかの様にニヤニヤしながら口を開いた。 「うん、面白いねー!僕はこういう人間のドロドロした展開が一番大好きなんだよ。あー、でも残念な事が一つあったかな?」 「このエミルって女はまだこの事を知らないんだよ。実質俺がこの女を操ってたからさ。」 「なん…ですって?それはどう言うことなの!?」 するといつの間に移動したのかレヴィアタンはミーナの顔の前に自分の顔を近づけた。 そして目を最大限まで開けると声のトーンを低くして言った。 「こういう事だ。僕は憑依した人間の魔力ともう一つ、嫉妬の感情を増大させその感情が一定を超えた時憑依した人間をほとんど操ることが出来るんだよ。」 「この女は嫉妬の感情に流されるままに流され、そして最終この俺が体を乗っ取ったって訳だよ!いやー、でも殺したいって感情はこいつの感情だから俺はそれに従って殺しただけなのさ~!だから僕は、無実なんだよね~。」 レヴィアタンは満面の笑みで自分は無実だと訴えるような両手を上げたポーズをふざけた様に取った。 「ふざ…けんな。」 人の感情を只々弄ぶこの存在を見てミーナはどう思ったか。 それは、怒りだった。 ミーナは自分の手で握りこぶしを作ると周りから白く輝く光が全身を纏った。 さっきまでふざけた態度を取っていたレヴィアタンはミーナの纏った光を見ると急に焦った表情に変え、手の平から黒く小さい魔法陣を展開させた。 「おっと、思わず魔法陣出し掛けた。なんだ、この光は?」 薄暗い操縦席を真昼の様な明るさに変える程のミーナの光は邪悪な悪魔にとって危険なものであるのかレヴィアタンは魔法陣を展開しても魔法を発動しようとはしなかった。 それはグレンも同じでグレンもその光を浴びると力が抜けたかの様にその場に膝をついた。 「これは、マズイな。」 (そんな呑気なこと言ってる場合か!くそ、ミーナのこの力は一体なんなんだ!) しかし、ミーナの光は弱めるどころか更に強くなりレヴィアタンもその場に立ってられなくなり、倒れると手の平に展開してた魔法陣が消えてしまった。 「うっ…なんなんだ、この光は…」 「あなたみたいな人の気持ちを弄ぶ人は一度同じ目に合うべき。醜く消えなさい。」 ドクンッ! ミーナが言った瞬間、レヴィアタンの中の何かが突然目を覚ました気がした。 「醜く、消える?…クソ人間が!醜く消えるのは、人間の方だろーが!!」 刹那、レヴィアタンの周りから黒いガスの魔力が光を全て覆い消し去った。 「あ、あれ?私、さっきまで何を…何、この黒いガス…苦…しい。」 光が消えるとミーナはいつも通りのミーナに戻ったが、ガスの魔力の効果によって胸を押さえながら苦しんでいた。 「ケッ!ゴミ同然の人間が!いったん僕のガスでくたばれ!…さて、これで邪魔は無くなったな。ね、紅の悪魔祓いさん?」 レヴィアタンがグレンの方を見ると、グレンはミーナと違ってガスがあっても全然苦しそうではなく寧ろさっきよりもピンピンしてた。 「レヴィアタンと言ったな?お前はこのエミルとかいう女を操ってたと言うが、お前らは何が目的なんだ?」 「俺らの目的は教えられねーけど、この女を操った理由は教えるよ。ただ、面白かったからぁ!俺は嫉妬で苦しんで潰れていく女が大好きだからさ!」 嫉妬の話をする度に顔を緩ませながら笑うレヴィアタン。 (ったく、相変わらず趣味わりーな!) 「それはお互い様だろ、リフェル…いや、本当の名前は…(それ以上言ったらぶっ殺すぞ!!) レヴィアタンが最後の部分を言おうとするとグレンの手から黒く変色した腕が伸びてレヴィアタンの胸ぐらを掴んだ。 「なんだ、この腕は…」 「うそっ、グレンの手から手が…」 ミーナもグレンを見て驚いていたが自分の手から伸びた異質な腕を見て驚いたのはグレンも同じだった。 しかし、伸びた黒い腕に掴まれたレヴィアタンは苦しい顔をする事なく、更に攻撃的な言葉をリフェルに言った。 「いいじゃん、別に減るもんじゃないんだしさ。ていうか、いつまでリフェルなんてダセー名前気取ってんだよ。本名の方がずっと…」 (黙れ!それ以上喋るなら本当に殺すぞ!) 「殺す?こんな腕しか出ない状態でか?」 そう言ってレヴィアタンはグレンの手から伸びた黒い腕を手刀で千切った。 引きちぎって離れた黒い腕は空気中で拡散し、黒い腕は元のグレンの手に戻った。 しかし、その間にレヴィアタンは体を空気中の黒いガスと同化するかのように体が拡散した。 「消えた…いや、このガスみたいなのと同化したのか。」 「その通り!」 消えたレヴィアタンを探すグレンの背後からレヴィアタンの腕が突然ガスの中から現れ、拳を作った手でグレンの背中を殴った。 殴られたグレンは突然の攻撃に対応できないままその拳を受けてしまい、口から血を吐いた。 「!…かっ!…」 殴ったレヴィアタンの拳はすぐにガスと同化するように拡散して消えた。 (おい、グレン!まずこのガスを何とかしろ!奴はこの黒いガスを自分の体の一部みたいに色んなとこから手が出てくるぞ!) 「その通り!僕は憑依以外にも気体、液体、固体、水分に関わってるもの全てを操ることが出来る。こんな風にな。」 レヴィアタンは周りのガスを無数の拳に変化させ、その拳は全てグレンの方に向けられた。 「ー[嫉妬の魔力(エンヴィー)]。愚かな人間に鉄槌の雨を降らせ。」 レヴィアタンがそう呪文を唱えると、無数の拳は黒いガスを纏いながら物凄い速さでグレンに向かって飛んだ。 グレンはその拳を防ごうと自分の周りに黒炎を纏うが、拳に纏われている黒いガスの効果で黒炎から守られている為か拳は燃えずにそのままグレンに向かっていった。 拳を防いでも別の所から拳が飛んでくる為、殆どの攻撃を全身で諸に受けていて、拳はそのまま勢いが止まることなく次々と襲いかかった。 「あははっ、手も足も出ないや。もうそろそろやめておくかな。これ以上感情の無い悪魔祓いを痛めつけても何のメリットも無いし。」 ガスの中から現れたレヴィアタンは無数の拳を消した。 そこには身体中殴られた事によって血だらけになったグレンが倒れていた。 「グレン!!…ぐっ…あがっ…!」 ミーナは倒れたグレンを呼びかけた直後、ガスからレヴィアタンが現れミーナの首元を手で掴んだ。 「とりあえず君の力は僕ら悪魔にとって危険だから今ここで殺しておくか。あーあ、結構可愛くてスタイル良いから勿体無い感じするけどしゃーないよね?…じゃあ、バイバーイ♪」 「やめ…で……」 レヴィアタンは笑顔で首元を掴んだままミーナを持ち上げ、そのまま指に軽く力を入れると確実に死ねる状態まできていた。 そして指に力を入れ始めー スパァンと鋭い斬れる音が部屋に鳴り響く。レヴィアタンの腕がグレンに斬り落とされたのだ。 斬り落とされた事により、解放されたミーナは首の締め付けが無くなり咳き込んだ。 レヴィアタンの腕を斬ったグレンはさっきよりも黒々しく燃えている黒炎を纏いながら刀を持っていた。 「…おい、何やってる 。」 「ったく、しつこい人間だな!人間はさっさとくたばって…」 その瞬間、グレンは拳に魔力を纏わずにレヴィアタンの腹目掛けて殴った。 「ー反(リバース)魔法!」 グレンの拳から衝撃が発生するとレヴィアタンは吐血しその衝撃で身体が破裂した。 「いっ、イデェー!!あれ、なんでガスになら…」 「喋る余裕があるのか?」 グレンは更にレヴィアタンの目の前に詰め寄り、手の平に黒炎を作り出し、そのまま手の平をレヴィアタンの顔に向けた。 手の平の炎はレヴィアタンの顔から黒く燃え始めるとそのまま周り影響を与えずに一気にレヴィアタンの全身は燃えていく。 「あぢぃー!!…なんだ!この男…女を殺そうとした瞬間、魔力が上がってやがる…」 「もう終わりだな、その黒炎は相手をチリにするまで水をかけても消える事はない。これで終わりにしてやる。」 グレンは剣を持ち、刃に黒炎を纏い構えたがレヴィアタンの様子がおかしかった。 レヴィアタンはどういうわけか体が液体に近いスライムに変わり、全身を燃やしている黒炎は徐々に消えていった。 「馬鹿な、俺の黒炎が消えた?」 「ふぅー、危なかったなー。あんまし本気出すなってあいつらに言われたけど仕方ないよな。」 するとレヴィアタンの右腕はグニョグニョの黒いスライムに変化し、上半身を使って反動をつけて右腕を振ると右腕は高速の域を超えたスピードでグレンの腹にぶち込まれた。 あまりのスピードに反応できずモロに受けてしまったグレンは立ったまま気を失い、数秒後その場に倒れてしまった。 「そんな、グレンが…グレンが…」 ミーナは目の前の光景を見て体を小刻みに震わせていた。 今まで悪魔相手に負ける事無かったあのグレンが、たったの一撃で倒されてしまうなんて。 この人…いや、この悪魔は…とんでもなく強い!今までの悪魔とは訳が違う。このままじゃ殺されて… ガンッ!! 「ひっ!」 いつ移動したのかレヴィアタンはいきなりミーナの目の前に飛んできた為、ミーナは驚いて尻もちを着いた。 「さぁーって。次は君の番だよ?悪魔祓いのおまけちゃん!」 「や、やめ…て…」 ミーナはこの感情を思い出した。 今までグレンが守ってくれてたから感じなかったがこの感情…それは悪魔への圧倒的な強さと恐怖、殺されてしまうという絶望。 その感情が再び蘇ってくると足が震え、口は思い通りに開かず声が出ない。 「可愛いなぁ!こーんなに震えちゃってさ。でもね…僕は人間のそーゆー所大好きなんだよね~。恐怖で震えた人間の心臓は旨味を増すから食うともう、最高なんだ!悪いけど…」 「頂きます、しちゃうね?」 レヴィアタンはスライムの様な腕を他の悪魔の様な鋭い爪を持った人間離れした黒い筋肉質な腕に変えた。 「助け…て…」 レヴィアタンは爪でミーナの胸を刺そうとしたその時。 「ー水神よ、土地を愚かなる者の血で潤せ。」 どこからか魔法を唱える声がするとレヴィアタンの体から血が吹き出していき、その血はまるで刃物の様に切り刻んだ。 「ぐあぁ!!なんだ…体が、血で斬られて…」 「…この魔法は、あなたの体内に含まれている水分全てが拒否反応を起こし体内から破壊していく殺戮系の神級魔法。間に合って良かったわ。」 レヴィアタンの体内では生きていくのに必要な臓器や血管をも破壊していき、既に腕と体は原型を留めていない所までズタズタに切り刻まれていた。 この強力で圧倒的な水魔法を使う水色の髪をした女性は先程まで敵であったエミルだ。 「あ、あなたは…エミルさん?」 エミルはなぜ私の名前を?とまるで今までの事を覚えていない顔をするが直ぐさま真剣な表情に変わり、レヴィアタンの方を向いた。 「気をつけなさい。あの魔法は人間なら確実に殺傷できるけどあの悪魔には効かない。一旦こっちへ来なさい。」 ミーナとエミルは一旦レヴィアタンから距離を取ると、エミルは後ろにあるものに気づいた。 「えっ、嘘…なんでハンジが…」 目をつぶって動かなくなったハンジを見てエミルは固まってしまう。 「エミルさん…まさか何も覚えて…」 「あははははっ!!そいつは何も覚えて無いって言っただろ!!」 さっきまで血だらけになっていたレヴィアタンの体には傷1つ残っておらず、綺麗に再生していた。 「教えてやろうか?この女はなぁ…」 「お前がやったのか?」 レヴィアタンの言葉の途中でエミルはレヴィアタンの真下に魔法陣を展開させ、その魔法陣から氷の刃が飛び出し、レヴィアタンの腕を一瞬で切り落とした。 「なっ!おまっ、それは無しだって…」 「お前が…お前がやったのか!!」 エミルは氷の剣を造形させるとそれを持ち、レヴィアタンに斬りかかろうとした。 しかし、レヴィアタンは斬られる寸前で再びガスに拡散して氷の剣をかわし、別に充満したガスから元の形に戻る。 「ちょ…調子に乗るんじゃねーよ、この殺人女が!話は最後まで聞きやがれ!」 「殺人はお前達だ!よくもハンジを…」 「はぁ?何言ってんの?この女殺したのって、お前だろ?覚えてないとは言わさないよ。あの時だって、お前言ってたじゃん。」 えっ?あの時?私が、ハンジを…殺した? エミルは何も覚えていない。そう、あの時から私の記憶は曖昧で思い出そうとしてもちゃんと思い出せない。 けど、もしかしたらあの時から私はずっと…そう、あの時、私がイフリークを離れた時だ。 エミルは記憶の中からあの時、かけがえのない親友と別れたあの日の事を思い出していった。 8年前ー 私には大切な親友…いや、多分それは親友なんかでは収まりきらない存在だったのかもしれない。そんな人が昔いた。 もうずっと前の話だから、あまり鮮明に思い出せないかもしれない。 ただ、これだけは言える。 私はその親友が好きだったんだ!ライクとニケルは城の裏側にある人気の無い場所へと移動した。 後ろから尾行していたロゼアは壁に隠れながら、ライクとニケルが話をしているのを覗き込んでいた。 …側から見れば只のストーカーにしか見えない。 壁の向こうではライクから先に声を掛けていた。 「で?どうしたんだよ。さっきも、お前一言も喋らなかったし。」 先程の会話でも、ニケルは浮かない顔をしながらグレンやグロードの話を聞いていた。 その理由は。 「…僕達とグロードさんの関係って、これからどうなるのかなと思って。」 「グロードとの関係?」 何を言ってるのか分からないライクだが、ニケルはそのまま説明を続けた。 「大恩あるグロードさんの事を、僕はずっと亡くした父親の様に思ってた。本当の父親じゃ無い事は分かってる。だけど、まるで親子みたいな今の関係性が僕は好きだったんだ。」 「けど、生き別れた本当の息子であるグレンが戻って来たら、もうそんな関係には戻れないのかなって…。」 ニケルの悩み。それは本当の息子であるグレンが戻ってきた以上、自分達はグロードの息子の代わりにはなれないという事である。 また今までの関係性も変わってしまい、もうグロードに相手にされないのでは無いかという不安もあった。 「勿論、グレンと再会出来た事は僕も嬉しいけど。…やっぱり良いな。本当の親が生きてるのって。」 月の民殲滅戦で両親を亡くしてるライクとニケル。特にニケルは子供の頃は甘えん坊であった為、親への未練はライクよりも強い。 親の居ない2人にとってグロードは父親同然。しかし、本当の父親になる事は出来ない。 そう思うとニケルは、少し寂しく感じていた。 それに対してライクは。 「ニケル…お前の言う様に、あいつは俺達の父親じゃねえし、俺達があいつの息子代わりになる事も出来ねえ。」 「……」 「でもよぉ、俺達とグロードとの関係性は何も変わらないと思うぜ。」 「…え?」 落ち込み俯いてたニケルはライクの顔を見た。 「俺もあいつの事は父親みたいに思ってたけど、どっちかと言えば師匠に近い感じだな。それに、あいつは面倒見が良くて、いつも丁寧に俺達の修行に付き合ってくれた。」 「優しい奴だからさ、例え息子が居ようと俺達との師弟関係まで変わる事はねえよ。」 「ライク…
魔導兵器ラウスを倒した事と、北の軍事兵器もグロードが破壊した事により、北の大国が今後攻撃してくる事は無いだろう。北の大国は多くの軍人と軍事兵器を失った事により、いずれ国の財政が崩れ破綻に追い込まれる事となる。戦う力を失った北の大国ウンディーネは結果的に敗戦国となり、これにより東北魔導大戦は事実上終結する事になる。しかし東の大国も無傷という訳にはいかず、今回の魔導兵器ラウスとの戦闘によって沢山の死傷者が出ていた。それだけではない。東の大国の主戦力が戦っている間、手薄になった城内にて更なる事件が起こってしまう。ノーム王の暗殺。戦いが終わった後、城内へ行くとそこは戦場と同じくらい凄惨な状況となっていた。医療班の人も殆どが殺されており、警備の者達に関しては、肉体が残っていれば運が良かったと思えるくらいバラバラに殺されていた。一体誰が実行したのかは不明。しかし、こんな事をするのは1人しか居ないとグロードは気付いていた。「…ベリエル!」見たところ胸部を刺殺(しさつ)されて殺されている様に見えるが、医療知識が豊富なグロードはノーム王の身体を少し触れただけで他の殺害方法で殺されたのだと判断する。「…内臓が全て潰されている。まるで身体の中をかき混ぜられたかの様に……許せない。」あまりにも残酷な殺し方をされている為、グロードは沸々と怒りを覚えた。この場には他にグレン、ミーナ、エミル、ライク、ニケル、フィナ、ネル、そして八握剣(やつかのつるぎ)のギンジが居た。カイルとロゼアとアルバスは意識を取り戻したが、戦いで受けたダメージが大きく、今は休んでいる。他の八握剣(やつかのつるぎ)も同様に、命に別状は無いが大掛かりな治療が必要な状態である為、カイル達同様にこの場には居なかった。ノーム王が殺されている姿を見て先に悲しんだのは、当然八握剣(やつかのつるぎ)のリーダーであるギンジであった。「ノーム王…くっ…何で、こんな事に!」ギンジは両手を握りしめ、悔しさと悲しみで顔を横に向きながら涙を流していた。王の懐刀である八握剣。そのリーダーともあろう者が他のメンバーを救えず、更には王の命さえも守る事が出来ず、ノコノコと生き残ってしまった。ーー俺のせいで…役立たずにも程がある!しかし、それに対してミーナが。「ギンジさん。自分のせいだなんて思わないで下さい。皆んな
そして更に4年後。ラウスは18歳になり、ルーファスは9歳となる。ラウスは高校3年の学年となり、全ての成績において優秀な成績を収めていた。幼い頃から教えられた事は殆ど完璧にこなすその姿を見て、いつしかラウスは神童と呼ばれ将来を期待される様になる。しかし、ラウスは魔法を仕事にする道は選ばずそのまま農作業を営み続ける道を選んだ。当然教師はラウスを説得するもキッパリと断った。自分の将来の夢よりも、ルーファスの側にずっと居る事の方が大事だったからである。こうして学生の頃はそれなりに有名だったラウスは、突如として公の場から姿を消したのだ。一方、ルーファスもラウス同様に成績が良かった。ラウスが合間を縫って勉強を教えているのもあるが、どうやらルーファスも少し教えればすぐ覚える事が出来るのだろう。「(流石は俺の弟だな。)」勉強を見ていたラウスは心の中でルーファスを誉めていた。ある日、ルーファスはこの家に元々住んでいた老夫婦の写真が飾ってある仏壇を見て質問してきた。「兄さん。この人達って、僕達とはどういう関係なの?」あの頃、まだ赤ん坊だったルーファスはこの家に元々住んでいた老夫婦の存在を知らない。「この人達はね、俺達の親みたいな人だよ。本当の親じゃ無いけど、親のいない俺達の面倒を見てくれた人だ。」亡くなった老夫婦の事をラウスは自分の親だと思っており、ラウスにとっては生きていく術を教えてくれた恩師でもあった。「そーなんだ。…じゃあ、僕達の本当のお父さんとお母さんは?」1番聞かれたく無い質問をルーファスは悪気なく聞いてくる。当然である。ルーファスは親の事を何も知らない為、本当の親が気になるのは当然の事。…そっか、あの時お婆ちゃんはこんな気持ちだったんだ。そりゃ、言いたく無いよね。ラウスはルーファスに聞かれた事により、あの時のお婆ちゃんの気持ちが少し分かった。あの時から親の事はあまり思い出さない様に生きてきたラウス。正直、あまり親の事を聞かれても何て言ったら良いのか分からなかった。只、ラウス自身が抱いてる気持ちとして言った。「…ロクでも無い人達だよ。父親は俺と母親を置いて出て行き、残された母親も親の責任を放棄して出て行った。」まだ子供に言うべき事では無いのだろうが、ついつい自分の感情任せに言ってしまったラウス。「そうなんだ。…でも僕、少し会
お母さん…何で帰って来ないんだよぉ…。俺1人でどうしたら良いの?どれだけ待っても帰って来ない母親のヒスイ。既に半日以上待っていたのだが帰って来る気配が無い。ラウス自身、半日以上何も食べていない為、空腹が限界を通り越していた。「おぎゃー!!」泣き叫ぶ弟のルーファス。生後3ヶ月の赤ん坊。お腹も空くし、オムツもしてるから替えてあげないといけない。その他にも、身体を清潔にしないといけない。…どうすれば…。ラウスは寝室で泣いているルーファスの所へ行き、様子を見た。「おぎゃー!おぎゃー!」「凄く泣いてる…こんな時、お母さんどうしてたっけ?」ラウスは普段、母親がどうやってルーファスの世話をしていたのか思い出していた。そしてヒスイが何をしていたのか思い出したラウス。「…まずは、オムツかご飯か。どっちかだけど…嫌だなぁ、オムツの匂いを嗅ぐのは…」それでも我慢してオムツの匂いを嗅ぐラウス。「…多分こっちじゃ無いか。じゃあミルク作らないと。」ラウスは台所にルーファス用のミルクが保管されている所を覚えていた為、そこに行ってミルク粉と哺乳瓶を取り出す。「えっと…先にお湯を温めるんだっけ?」初めての事でどうすれば良いか分からないラウス。しかし、取り扱い説明書があったので、それを見ながら何とか作って哺乳瓶に入れる事が出来た。「よし!後は水で冷まして…よし!」人肌まで冷まし、ラウスはそれをルーファスに飲ませる為、ベッドから起こした。「おーよしよし!ミルクだよ〜。」ヒスイが言ってた様に真似しながら、ルーファスにミルクを飲ませてあげるラウス。ルーファスは勢いよくミルクを飲んでおり、よっぽどお腹が空いていたのが見て分かる。半日、何も食べなければ大人でもお腹が空くに決まってる。「俺も何か食べないと…。」そう言ってラウスは戸棚にある非常食を取り出し、空腹を埋める為にそれらをお腹に詰め込んだ。見たところ、非常食やミルクの量から数日は持つだろうと判断した。しかし、この食料が無くなったらどうしようかと。ラウスはそれが恐怖で堪らなかった。「どうすれば…後、お金だけど。お母さんの貯金でどれだけ過ごせるのか…。」勝手にお金を使う事に抵抗感があるも、生きる為には仕方ないとヒスイが管理してる通帳を確認する。子供では見た事の無い数字に驚くラウスであったが、実際の
真っ暗な暗闇の中。1人の女性が下を向きながら何かを覗き込んで泣いていた。「…ラウス……ルーファス……どうして、こんな事に…。」その女性はヒスイであった。ここは死後の世界であり、この暗闇の空間は死後の世界へ行く前の道。死後の狭間である。ヒスイは死後の世界へは行かず、死後の狭間にある暗闇の空間で家族を見守りながら待ち続けていたのだ。そして現世を見ながら自身の息子達が戦う姿を見て涙を流していた。すると後ろから。「…2人が戦っているのか?」その声の主はヒスイの父親であり、グレンに龍技の真髄を教えた竜の民のドグマであった。後ろからドグマに言われたヒスイは、涙を流しながら振り返る。「…お父さん。」「ヒスイ。…お前も辛いのは分かるが、今の俺達には見守る事しか出来ない。」そしてヒスイの隣に座り、現世で戦うグレン(ルーファス)とラウス。2人の戦いを覗き込む。「信じるしか無い。グレン…いや、ルーファスの事を。そして、あいつの強さを。…きっとあいつが兄を救ってくれる筈だ。」ヒスイはグレン(ルーファス)が生後3ヶ月の時にこの世を去った。ドグマもヒスイが家を出てから、自分に孫が居る事も知らずに30年間虚しく過ごしてきた。しかし、その孫であるグレン(ルーファス)は偶然にもヒスイの父であるドグマと出会い、龍技の真髄を教えてくれた。運命が知らない内に引き合わせてくれたのだ。そして今、ドグマに教えられた龍技の真髄によりグレンは、魔導兵器となり殺戮の呪縛に囚われた兄ラウスを救う為に戦っている。自分の弟子であり、孫でもあるグレンをドグマは信じていた。「(グレン。お前の生き様を、今こそ見せてくれ。)」ドグマの墓前で言ったグレンの誓いに対し、心の中で返答した。信じる事しか出来ないヒスイとドグマは、ラウスとルーファスの行く末が少しでも救われる様に、両手を合わせて祈る。あの世でヒスイとドグマが見守る中、現世ではグレンとラウスの死闘が繰り広げられている。戮力体竜変(りくりょくたいりゅうへん)によって竜人化したグレンは先程とは違い、身体機能が大幅に強化される。自然魔力を体内に取り込む戮力体竜変。それにより身体に現れた竜の鱗は鋼をも上回る強度を誇る。その拳でラウスの胸部を殴る。バコォォォン!!!グレンの拳により、ラウスの硬い胸部は拳大の大きさに凹んだ。グレ
ミーナ達はネルの空間移動でカイルやエミルの救出に向かっていた。エミルはアルバスとロゼアを氷で作った台車に乗せて運んでいたが、その途中で見つけられる。意識を失っていたアルバスとロゼアはミーナの光の回復魔法によって意識を取り戻した。「あれ、ここは…。」目を覚ましたロゼアはゆっくりと目を開ける。「お、気が付いたか!大丈夫か!?」視界に入ってきたライクは心配そうに声を掛け、その声で徐々に意識がハッキリしてきたロゼア。「え…何で…?ライク?」「ああ。俺達は丁度さっき戻ってきた所だ。大丈夫か?」「…心配、してくれてるの?」今まで北の大国では心配される事の無かったロゼア。半分信じられないといった感じでライクに聞いた。「ああ。お前も俺達の代わりに戦ってくれてたんだろ?俺達が不在の中、良くやってくれたぜ。本当に感謝してる!」ライクは笑顔でロゼアに言うと、ロゼアは嬉しさで左目からジワッと涙が溢れてきた。ライクの笑顔を見れて良かったと、安心していたのだ。ネルも同様に、目を覚ましたアルバスに一言声を掛ける。「…僕との約束、ちゃんと守ってくれたね。」「…ごめん。倒す事は出来なかった。」「仕方ない。後はあの男(グレン)に任せよう。」短い会話ではあるものの、ネルは約束を守って戦ってくれたアルバスに感謝した。そして次はカイルの所にも空間移動した。転移した場所でカイルはボロボロの状態で倒れていた。ミーナとニケル。2人の回復魔法を使ってようやく意識を取り戻したカイル。普段タフなカイルであるが、意識を取り戻してもその声はか細く弱々しかった。「…みんな…帰ってたのか?…」「カイル君!エミル、カイル君が目を覚ました!」意識が戻った事を確認したミーナは慌ててエミルを呼んだ。エミルも慌てながらカイルの顔に近づいた。「カイル!」「エミル…良かった…無事だったのか…。」「馬鹿!いつもいつも!自分の事を後回しにして!本当に馬鹿!」ボロボロと涙を流しながらカイルに対して言うエミル。それに対してカイルは一言。「…ごめんな。」そうエミルに言うと、エミルは更に号泣しながらカイルの胸元で泣きじゃくった。「カイル君。連絡してくれてありがとう。今ね、グレンが戦いに行ってるの。」「グレン…そうか。なら、安心だな。」そう言うとカイルは安心した様に目を閉じて眠った
この時の俺はどんな人だったのか、今でも鮮明に覚えている。しかし、どうしても思い出せない事が1つある。自分の本当の名前だ。名前は悪魔祓いになったと同時に捨てたからだ。今も過去の記憶は覚えてても、自分の名前に関する記憶だけはどうしても思い出せない。覚えているのは、楽しかった日常が一夜にして地獄に変わってしまった事。そして…あの時俺を逃してくれた俺の兄の最後を、俺は今でも覚えている。11年前ーキュアリーハート。それは(癒しの心)という意味を込められた平和の国。この国は東西南北にある四大国の中心に位置している。四大国に比べて経済力があるとか、規模が特別大きいなどそういった事はなく
「月の民殲滅は確かにシルフの国王が提案し、様々な国の魔道士達を招集させて殲滅していく、というのが一般的に知られている事です。」 「はい、俺もそういう風に聞きました。」 「でも本当は違うの。シルフの国王は元々平和主義を心掛けていた心の優しい人で当時も月の民殲滅には反対していたのです。けど、あの男が来てからシルフの国王は変わりました。」 「それは、さっき言っていた思考を操る魔法か?」 フィナの口ぶりで何を言いたいのか察したグレンが口を挟んだ。 「はい。12年前に突然やって来たハイド・スペクターが原因だと思います。彼は何故なのか分かりませんが会った当初から国王に気に入られ、その日
その頃、ミーナ達はグレンとカイルが乗った馬車と離れてしまい、現在は残った人達を騎士団達は馬車の外に集めさせた。しかし、集められた一般の人達は数日前の事件から現在まで散々な目に遭っている為不満が高まっているのか騎士団の人達に文句を言っていた。「どういう事なんだよ!馬車が無くてどうやって移動するんだ!」「お前ら騎士団だろ!俺たち今物凄く困ってるの見てわかんねーのかよ!」「そうよ!私達はこれからどーなるのよ!」「何とかしろ!騎士団だろ!」口々に罵声を飛ばす一般の人達。無理もない。つい数日前までは平和に過ごしていたのだ。急にこんな事が続けば誰だって普通じゃいられなくなる。しかし、一般
あの日、私とその親友であるカイル・エリオンは家へ帰る途中で何者かに誘拐された。そして気づいた時はもうどこか分からない暗い暗い檻の中に閉じ込められていた。なぜ閉じ込められていたのかはあまり覚えていないけど、多分親から身代金としてお金を手に入れる為に利用しようとしたのだと思う。自分の親は確かに裕福だった。それは認める。けど裕福は幸せとイコールではない。お金があるから周りから違う目で見られ誰1人して私を対等に扱おうとした者はいなかった。親もお金が全てという考えの人でお金で私の人生を奪おうとした。私は小さい頃から一人ぼっちだった。檻の中にいる時、既に私は全てを諦めてしまっていた。意







