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第8話

last update Last Updated: 2025-04-13 08:55:45

返事を聞くのが怖くて、私は俯きそうになる顔を必死に上げると、陸斗くんの瞳が揺れていた。

「……ごめん」

まるでハンマーで頭を殴られたような、強いショックを受ける。

「僕、今まで希空ちゃんのことは……仲の良い友達だと思っていたから」

“ 仲の良い友達 ”

それはそれで、嬉しいけれど……そっか。陸斗くんは私のこと、好きではなかったんだ。

あまりのショックに、頭がクラクラして。息も、いつもみたいに上手くできなくなる。

陸斗くんにポニーテールを可愛いって褒めてもらったり、ブレザーを貸してもらったり。

香澄ちゃんにも、脈アリだと思うと言ってもらえて……私は、きっと心のどこかで舞い上がってしまっていたんだ。

陸斗くんが私を好きだなんて保証は、どこにもなかったのに。なんで、こんな勢いで先走ってしまったのだろう。

「……っ」

こうなったのも、自業自得なのに。視界が涙で、だんだんとぼやけていく。

「希空ちゃん、本当にごめんね」

「ううん。自分の気持ちを、伝えたかっただけだから。聞いてくれてありがとう」

私はこぼれそうになる涙を必死に堪えて、何とか言い切る。

「あの、陸斗くん。私ひとりで図書室の鍵、職員室まで返しにいくから。先に帰ってて」

これ以上、陸斗くんと二人きりでいるのは辛くて。

私は陸斗くんの手から鍵を取ると、職員室へと向かって駆け出した。

職員室に鍵を返却したあと、廊下をとぼとぼと歩く私の目からは、ついに堪えていた涙が溢れ出す。

「っうう」

私、失恋したんだ。陸斗くんに、振られたんだ。

私は人気のない廊下の片隅に、力なくしゃがみ込む。

「っく、う……っ」

さっきから、涙がポロポロと溢れて止まらない。

私は、両手で泣き顔を覆う。

好きだった。

去年、陸斗くんに学校の階段で助けてもらったあの日からずっと……私は、あなたのことが好きだったのに。

「振られちゃったよ……っ」

『希空ちゃん!おはよう』

こんなときでも思い出すのは、陸斗くんの優しい笑顔。

好き。たとえ振られても、陸斗くんのことが私はまだ好き。

この1年間ずっと、陸斗くんのことだけを想ってきたんだもん。好きって気持ちは、振られたからってそんなに簡単にはなくならないよ。

「……小嶋?」

突然低い声で名前を呼ばれ、私が顔を上げると。

「……っ、相楽くん……」

目の前には、部活終わりなのかスポーツバッグを肩にかけた、陸斗
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