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103.謎の人物と新たなライバル

last update Last Updated: 2025-08-06 17:22:07

昼食後、サラリオと二人きりになったのを見計らって探りを入れるように話しかけた。

「サラリオ王子、無礼がないように皇族の方々には全員ご挨拶をしたいと思っているのですが、まだお会いしていない方はいますでしょうか?」

あくまで王女としての礼儀を重んじる姿勢を見せながら、サラリオの反応を注意深く観察していた。

サラリオは、いつもの完璧な笑顔で応じる。

「リリアーナ王女、お心遣いありがとうございます。しかし、初日に紹介した者が全員です。王女にご足労をかけないよう、来訪日の宴の場に関係者は全て招待しました。」

「そうですの……。」

サラリオからは何か隠しているような様子も戸惑いの口調も感じられない。しかし、その言葉にわずかながらの違和感を覚えた。

(「アオイ」なんて珍しい名前なら、たとえ一度きりでも紹介してもらったら絶対に忘れるはずがない。だとしたら、あの宴にはいなかったということ?だけど、侍女には『様』をつけて呼ばれていた……)

サラリオ王子の誰にも見せない心の壁。侍女たちが口にする皇族でも貴族でもない、見知らぬ「アオイ様」という名前。そして、アゼル王子がその存在を隠そうとしているような態度ーーーー

その時、彼女

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  • 愛されなかった武士の娘が寵愛の国へ転身~王子たちの溺愛が止まらない~   102.王女の嘆きと厚い壁

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  • 愛されなかった武士の娘が寵愛の国へ転身~王子たちの溺愛が止まらない~   100.過去との決別と夫の幸せを願う気持ち

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    (このまま、ずっとこうしてサラリオ様の腕の中に抱かれていたい…)サラリオの胸の鼓動や体温、吐息を感じながら抱きしめられると、まるで時間が止まったような不思議な気持ちになった。触れられることに自然と恐怖はなかった。それどころか、自分はずっと前からこの時を待っていたのではないかと思うくらい、穏やかで心落ち着く幸せな気持ちになった。アゼルやルシアンに抱き寄せられた時は驚きと緊張で心臓が跳ね上がったが、今は磁石の法則かのように自然と、ぴったりとくっつていった。「サラリオ様……」自分の気持ちと同じことを相手も想っている。通じ合えた喜びに抑えきれない気持ちが込み上げ、気がついたら瞳は潤んでいた。頬はきっと、熱を帯びて紅潮しているだろう。私は静かに顔を上げてサラリオ様の澄んだ碧い瞳を見つめた。彼は、そんな私を優しく、愛おしそうに見つめ返してくれる。視線が交わった瞬間、私の視線は彼の口元へと引き寄せられていた。サラリオ様は、私の視線と気持ちに気がついたようで大きな手で私の頬を優しく撫でた。顔が、ゆっくりと、ゆっくりと近付いてくる。私は、目を閉じてその瞬間を心待ちにした。やがて、柔らかな唇が触れ合い、互いの温かさを確かめ合うように動かし合う。先日のアゼルとの口移しのキスとは全く違う、優しく、深い愛情に満ちたキスだった。

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