LOGIN「ゼフィリア王国の王女が再訪?今度は第二王女のアンナ王女だけだって?」
ゼフィリア王国から書簡が届き、その内容に私は驚きを隠せなかった。前回、失礼のないようにと心してもてなしたつもりだったが、失礼どころか、どうやら王女の心を射止めてしまったらしい。
「第二王女だけが来るってことは……目的はお前だよな?」
アゼルがチラッとルシアンに視線を向ける。
「僕、王女様に気に入ってもらえたのかな?」
ルシアンはいつものようににこやかな笑顔を浮かべている。
皆、それ以上は何も言わなかったが、もしかしたら今後、ゼフィリア王国がルシアンとの縁談を持ち掛けてくるかもしれないと心の中で思っていたはずだ。そして、ルシアン自身も自分が結婚相手に選ばれるかもしれないと悟っているかのようだった。
ルシアンはいつもと変わらない笑顔で明るく振る舞っていたが、私には、ルシアンの瞳の奥にどこか物寂しげな色が宿っているように思えて気になってしょうがなかった。
(もし、本当にゼフィリアから縁談の話があればルシアンはアンナ王女と結婚することになるの?)
その夜、庭園で静かに月を見上げているルシアンの姿を見つけそっと隣に座った。
葵sideアゼルがルーウェン国王に就任してから、半年が経った。サラリオ様は兄として新しい国王となったアゼルを懸命に支え続けた。バギーニャ王国も国王は健在だが、実質の会議など公務はサラリオ様が行っており、アゼルと一緒になる場ではサポートをしていた。国内の政治だけでなく、他国との関係も今は極めて安定している。そしてついに、ルシアンとその王妃アンナの番が来た―――――ルシアンの戴冠は、アゼルの時のように突然の報ではなかった。ゼフィリア王国の国王は、結婚して早い段階でルシアンが実質的に国政を担うように指導していたのだ。だからこそ、正式な発表に私たちは驚きよりも安堵をもたらした。ルシアンの戴冠式は、厳かで荘厳なものだった。ルシアンは、太陽のように明るい微笑みの中で、いつも冷静に物事を判断する一面があるが、王冠を戴くその瞬間、アンナ王女と目を合わせた一瞬の深い優しさを見た。アンナ王女の顔には、夫が国王となることへの深い喜びと、その重責を共に担う揺るぎない覚悟が滲んでいた。二人の間には私たち夫婦の温かさとはまた違う、信頼に裏打ちされた深い絆がある。彼らが国を治める姿は、最も模範的な王族の姿だろう。式典後、用意された部屋に入るとサラリオ様は静かに私の手を握
葵sideバギーニャ王国の四人の王子がそれぞれ結婚をした。長兄のサラリオ様は、異国から来た私と。次兄のアゼルは、ルーウェン王国のリリアーナ王女と。三兄のルシアンは、ゼフィリア王国のアンナ王女と。そしてキリアンは国立図書館の司書だったエレナ。そして、どの夫婦も子宝が恵まれた。キリアンとエレナの小さな息子が生まれた時、私たちは皆で宮殿に集まった。賑やかな庭園では、五人の男の子と七人の女の子、合計十二人の小さな王族が賑やかに遊んでいた。「子どもたちは元気ですね。まるで小さな国のよう。」アンナ王女がにこやかに笑い、その横でリリアーナ王女も、優しく、そしてどこか誇らしげな瞳でその光景を見守っていた。芝生の上を無邪気に駆け回るわが子たちの姿は、私たち親にとって未来そのものだった。「あの子たちが、私たちの次の代を担うのね。」リリアーナ王女のその言葉に、アンナ王女は明るい笑い声を上げた。「リリアーナ王女ったら、気が早いですわ。まだ私たちの代にもなっていないと言うのに。」アンナ王女は、子どもたちを目で追いながらそう冗談めかして言った。しかし、アンナ王女の言葉を聞いたリリアーナ王女は、複雑な笑み
葵side第一子となる男の子セドリックが産まれてから、あっという間に三年の歳月が流れた。幼かった息子は、今や元気いっぱいの三歳。サラリオ様の碧い瞳と、私の黒い髪を併せ持つセドリックは、宮殿の庭園を走り回り、毎日を発見と冒険に満ちたものに変えてくれた。王妃としての私の生活は、以前よりも多忙になった。王国の公務に加え、未来の国王となるべき息子への教育と愛情を注ぐ日々だ。しかし、その忙しさは、私にとって何よりも充実した幸福を運んできた。「お母さま!見て!」庭園の噴水の前で、セドリックは小さな石を両手に抱え、誇らしげにこちらを見ている。その無邪気な笑顔を見るたび、私の胸は温かい感謝で満たされる。「まあ、立派な石ね。それは、誰にあげるのかしら?」私がしゃがんで尋ねると、セドリックは少し考えてから、駆け足でテラスに向かった。テラスでは、執務の合間に休憩を取っていたサラリオ様が、静かに書類に目を通している。「お父さま!これ!」セドリックは、その立派な石をサラリオ様の膝の上にどんと置いた。サラリオ様は驚きながらも、その石を手に取り満面の笑顔になった。「これはいいもんを見つけたな、セドリック。
葵side「ねえ、今、動いた―――――」妊娠七か月。お腹の中にいる子どもが初めて力強く動くようになっていった。夜になると、まるで自分の存在を主張するかのように元気よくお腹を蹴って、ぼこぼこと動き回っている。その活発な動きを感じるたび、自分の身体に宿る生命の誕生を強く実感し、私の心は温かい光に包まれるようだった。「あと三か月もしたら、この子がお腹から出てくるのね。なんだか信じられないわ。」私がそうつぶやくと、サラリオ様はソファに座る私の隣に座り、そっとお腹に手を当てた。サラリオ様は、この小さな動きを「神聖な奇跡」と呼んでお腹の子との会話を楽しんでいた。「葵のお腹がどんどん大きくなっていくのも、こうして動くのも全てが不思議な感じだな。……あ、また蹴ったぞ。元気に出ておいで。会えるのを楽しみにしているからな」サラリオ様は、微笑みながら私のお腹に優しく話しかけた。妊娠期間中、私は王妃としての公務を続けながら、アゼルとリリアーナ王女の結婚、そしてルシアンとアンナ王女の第二子誕生という慶事を見守った。特に、アンナ王女が女の子を出産したという知らせは、私の出産への不安を希望に変えてくれた。バギーニャ王国の未来が、明るい命で満たされていくのを感じた。そして
葵sideサラリオ様と「子どもを授かりたい」と語り合ったあの夜から二か月が過ぎた。私たちは、毎日のように身体を重ね、二人で未来について語り合うことが増えていった。そして、ここ数日、身体にはかすかな異変が生じていた。吐き気はしないのに胃の奥がむかついて気持ちが悪い。体が火照るように熱を持ち、頭がボッーとしてダルい。そして朝は極度の倦怠感に襲われ、ベッドから起き上がるのが辛かった。(まさか、これは……)私は、侍女のメルが妊娠したときに話していたつわりの初期症状を思い出し、胸が高鳴るのを感じていた。ある朝、起き上がろうとすると強い吐き気に襲われ、顔を押さえてベッドにうずくまってしまった。「葵、大丈夫か!?すぐに医師を呼ぶように手配する!」サラリオ様は、私の様子に慌てて飛び起きる。その蒼い瞳には深い動揺が宿っていて、病気ではないかと不安に駆られているのがわかった。「サラリオ様、大丈夫です。病気ではないと思うので落ち着いてください」私は震える手でサラリオ様の手を握りしめた。「すぐに、女性の医師を呼んでいただいてもよろしいでしょうか。」私が、女性の医師を呼んで
葵side「葵、葵に出逢えて私は本当に幸せだ。感謝している。」アゼルとリリアーナ王女の婚姻の儀が終わった日の夜、寝室に戻ると、サラリオ様は突然、日頃の深く静かな感謝を伝えてきた。「サラリオ様?突然どうしたのですか?」「いや、今日の婚姻の儀でアゼルとリリアーナ王女を見ていたら、急にこの想いを伝えたくなったんだ。」「二人とも情熱的でしたもんね。あの堂々としたキスには、私も驚きました。」「ああ。アゼルのやつ、見ているこっちの方が恥ずかしくなってしまったよ。」サラリオ様は肩を竦めて苦笑した。「ふふふ、アンナ王女の体調も、心配しましたが、ご病気ではなくて良かったですね。ご懐妊とは、アゼルの結婚と言い本当に嬉しいことが続きますね。」私がそう言うと、サラリオ様は急に真剣な眼差しになり、私の両手をしっかりと握った。「そのことなんだが……葵、私たちも子どもを作らないか。もう結婚して二年が経った。国のためもあるが、何より私と葵の愛の証として、子どものことを真剣に考えていきたいと思うが、どうだろうか。」







