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愛のタイムリミット
愛のタイムリミット
Author: 清瀬

第1話

Author: 清瀬
綾野隼人(あやの はやと)が初恋の人・藤宮玲(ふじみや れい)が離婚したと知った夜、隼人は酔いつぶれるまで酒をあおった。

私・綾野依織(あやの いおり)が夜中まで世話をしているあいだに、ふと隼人のスマホのアルバムを開くと、中はその女の写真でぎっしりだった。

翌朝、酔いが覚めた隼人は「俺たち、ちゃんと式を挙げ直そうか」と私に言った。

それが、その女を国内に呼び戻すための餌だって、私はすぐに分かった。

私は笑って、その申し出を受け入れた。

ただ、隼人が式場の契約書に署名していく、その束の中に、一通だけ、離婚協議書をそっと紛れ込ませておいた。

……

「式場の契約書って、なんでこんなに分厚いんだ?」

隼人は眉間に皺を寄せながら、一枚一枚ページをめくるだけで、なかなかサインしようとしない。

さすがに夕凪市でも名の通ったビジネスエリートだけあって、そう簡単に人に騙される男じゃない。

けれど、その下から二枚目には、私がこっそり紛れ込ませた離婚協議書が挟まっていた。

私はうつむいたまま、それほど緊張してはいなかった。

「補償の条項がやたら多いみたいよ。時間あるなら、ゆっくり読んでみたら?」

どうせ、隼人にそんな時間があるはずがない。

今日は、隼人の初恋の人――玲が、こちらに戻ってくる日だ。

昔、玲が婚約したとき、隼人は腹いせのように私との結婚を選んだ。

そして今度は、玲が離婚して、隼人は酔いつぶれ、明け方に酔いが覚めるなり私に式を挙げ直そうと言ってきた。

全部、玲をこちらに呼び戻すための駆け引きにすぎない。

私たちの結婚なんて、あの二人の都合で振り回される道具にされただけだ。

やっぱり、と思った。

隼人の顔には、はっきりとした苛立ちが浮かんでいた。

「これから迎えに行かなきゃいけない人がいる。こんなの確認する暇はない」

その目の奥に、ふっと柔らかい光がよぎる。

さっきまでの不機嫌さは、全部私に向けられたものだ。

あの一瞬の優しさだけは、玲にしか向かない。

慌ただしくサインを終えると、隼人は私の前に背中だけを残して出て行った。

三日前、隼人は突然、式を挙げ直そうと言い出した。

隼人と結婚して五年になるが、派手な披露宴もなければ、大々的な発表もなかった。

互いの両親とごく親しい友人以外、誰も私たちが夫婦だなんて知らない。

ニュースで隼人が紹介されるときでさえ、肩書きの横にはいつも「未婚」の二文字が並んでいる。

たまに出るゴシップ記事も、決まって隼人と玲の、痛々しい恋の歴史を美談みたいに語っていた。

実は隼人と籍を入れているこの私には、そのどこにも名前を残す資格がない。

本当は、ここまで来るあいだずっと分かっていた。

隼人には、死ぬほど愛した女が一人だけいる。

結婚して五年、隼人なりの優しさがまったくなかったわけじゃない。ただ、その分はほんの少しだけだった。

私は私なりに愛情を注いで、ここに私がいることを、少しでも隼人の日常にしてもらおうとしてきた。

けれどこの家で、隼人の顔に本物の笑顔が浮かんだことは、一度もなかった。

そんな隼人が、あの日だけは一滴も飲まないはずの酒を浴びるように飲み、酔いつぶれるまで笑い顔を貼りつかせていた。

後でこっそり調べてみると、案の定、玲が離婚した日だった。

その夜も、夜中まで隼人の世話をしてから、玲の誕生日を入力して隼人のスマホのロックを外した。

アルバムを開くと、写真のデータが容量を埋め尽くしそうな勢いで溜まっていた。

そこに写っているのは、玲だけ。

私の姿は一枚もない。

電子アルバムの表紙だけは、隼人と私のウエディングフォトになっていた。

けれどその中の私の顔だけ、玲の顔に差し替えられていた。

籍を入れたとき、式なんかいらないと言い張っていた隼人が、写真だけはどうしても撮ろうと譲らなかったことを思い出す。

そういうことだったのか、と胸の奥で小さくつぶやいた。

その瞬間、私ははっきり悟った。

この五年の結婚生活は、そろそろ幕を下ろすべきなんだと。

残っているのは、離婚の手続きがすべて終わるまでの時間だけ。

カウントダウンの始まりだ。

手続きがすべて終わるまで、あと一か月。

ちょうど隼人が私に、式を挙げ直そうと約束したあの日までの期間も、同じく、あと一か月しか残っていない。

カウントダウンは、残り二十日。

隼人はそれまで以上に、朝早く出て夜遅く帰るようになった。

かつて口にした結婚式の約束なんて、最初からなかったみたいに。

たまに隼人の幼なじみのインスタが流れてきて、写真の隅にはいつも、女を連れて並んで歩く隼人の姿が小さく写っている。

その女の顔は、隼人のスマホのアルバムで見慣れた顔だった。
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