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第347話
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慌てて元旦那を高嶺の花に譲った後彼が狂った 第1158話
「正直に言うけど、怒らないでくれる？」その言葉を聞いた瞬間、来依にはすぐに察しがついた。彼女はひとつの仮定を口にした。「もし彼が精神系の病気と診断されたら、行為能力がないと見なされる可能性ってある？」海人は彼女のためにエビの殻を剥きながら、相談するような口調で言った。「……二人のことは、できれば本人たちに任せちゃダメかな？」来依は海人が剥いたエビを受け取らなかった。「清孝がやったことは、すでに犯罪よ。あんたはつまり、私の実の妹が傷つくのを見過ごして、犯罪者である清孝と二人で解決させろって言いたいの？」「そんなつもりじゃ……」「あなた、結局は清孝の肩を持ってる。まあそうよね、あの子はあんたの妹じゃないもの。気持ちが入らないのも無理ないわ」「……」海人は、今は何を言っても墓穴を掘るだけだと感じていた。正直、清孝のことには関わるつもりなんてなかった。まさか紀香が来依の実の妹だったなんて、そして自分が来依と結婚することになるなんて、思ってもみなかった。「俺たち、お互いに正直でいるって約束したよな」海人はため息をつきながら話した。「正直に言うよ。清孝が紀香を諦めることは絶対にない。俺が手を打って、二人を会わせないようにはできる。でもずっと監視しているなんて、無理なんだ。清孝は大人だ、それも大きな権限を持った大人。仮に精神病院に入れても、やつにはそこから抜け出す手段がある。やつが犯罪を犯したことについては、告訴すればいい。でも仮に刑務所に行ったとしても、一生出られないわけじゃない。いずれは出てくる。そしてまた紀香に絡んでくるだろう。毎回、罪を犯すのを待ってから刑務所に送るつもり？ そんなことできる？藤屋家だって、あいつにそんなスキャンダルを背負わせるわけにはいかない。精神病院に送るのも、刑務所に送るのも、どちらも現実的じゃない」藤屋家は百年以上続く名家で、先祖には功績を挙げた者もいる。そんな家と真っ向から対立すれば、どちらにとっても損しかない。海人の根底には、やはり損得の計算があった。今では家庭もあり、過激な手段は取りたくなかった。「清孝のしたことは間違ってる、でも彼は本気で紀香を傷つけたりはしない」来依はその言葉を冷たく遮った。「じゃあ、妹が本当に死んだり、怪我した
慌てて元旦那を高嶺の花に譲った後彼が狂った 第1157話
アメリカって、本当に広いのに。どうしてこんなにも偶然が重なるの？来依は再び訊ねた。「何日くらいいるつもり？」彼女が受け取ったのは、紀香が海外での撮影に無事到着したというメッセージだけだった。それ以外には、紀香から何の説明もなかったし、来依もあえて深く聞こうとはしなかった。あくまで個人の仕事だし、あまり口出しする必要もないと思っていた。でも今考えれば、もう少し聞いておけばよかったかもしれない。紀香の返事は簡潔だった。「三日間。今日のはもうすぐ終わるから、あと二日」「わかった。帰ってくる時、教えて。迎えに行くから」「いいよ、そんな手間かけないで。私、ちゃんとやっていけるから。お姉ちゃんは休養と気持ちのほうを大事にして。心配しないで、ちゃんと自分のことは自分でできるよ」来依は紀香の生活力を信じていた。再会する前から彼女のことは調べていて、この子がどんな風にここまで来たのか、知っていた。でも清孝のことは違った。彼のことは知らないし、何より制御できる相手ではなかった。危険な存在、そう感じていた。「慣れない土地なんだから、安全には気をつけてね」「うん」来依が通話を切ると、ふいに温かくて乾いた手が彼女の額にそっと触れた。伸ばされた人差し指が、眉間のシワを静かになぞっていく。もう、彼女にはどうすることもできなかった。頼れるとしたら海人しかいない。彼に相談するしかないと思った。でも、海人と清孝の関係を考えると……「ねえ、こんなことってある？国なんて山ほどあって、場所も無限にあるのに、同じ国にいたとしても、そんなに簡単に出くわすことってある？」来依は核心には触れず、遠回しに切り出した。海人は彼女を食卓の椅子に座らせながら言った。「食べながら話そう」来依は食欲がなかった。「清孝って、治療に行っても、外部と連絡取れるの？」海人は料理を目の前に並べ、まずスープをよそった。「何言ってるんだ。あいつは精神疾患の治療に行ってるだけで、別に精神病患者じゃないし、危険人物でもない。完全に外界と遮断されるなんてこと、あるわけないだろ。それに藤屋家のことは、春香が管理してるとはいえ、すべてを任せっきりにするわけにもいかない。あいつが知ってることを全部、春香に渡すなんて無理な話だ」
慌てて元旦那を高嶺の花に譲った後彼が狂った 第1156話
紀香は、ただ淡々とした目を向けただけだった。視線が止まったのは、ほんの五秒にも満たなかった。そのまま、すぐに撮影を続けた。実咲も清孝を見かけた。けれど今の彼女にとって、清孝の印象はあまり良くない。ゲームや小説の中では「強引な愛」が好きでも、現実に目の当たりにすると、やっぱり怖い。紀香の手首には、まだ傷跡が残っている。昨日、来依の口から清孝がやったことを聞いたばかりで、彼女はますます怒りが込み上げてきた。顔がいいからって、お金があるからって、権力があるからって……偉いのかよ！……うん、偉いのかも。って、なに言ってるの私。紀香は、実咲がなにかぶつぶつ言いながら、その場で足を交互に蹴り上げているのを見て、ちょっと笑ってしまった。本人が一番怒っていないのに、隣で実咲がひとりプンスカしている。「実咲、ライトお願い」「はっ、はいっ！」すぐに我に返り、急いでライトを持って走ってきた。――少し離れた場所で。カンニーは清孝の表情を観察し続けていた。彼の「心の動き」を読み取ろうとしていたのだ。メモ帳まで出して、必死に何かを書き込んでいる。一郎が静かに口を開いた。「藤屋さん、自分で歩きますか？ それとも僕がご案内します？」清孝は壁に寄りかかったまま、忙しそうに働いている紀香の姿を、目を離さずに見つめていた。彼女は今日、とてもシンプルな格好をしていた。淡いイエローのブラウスに丸襟、ウエストで締めた黒のプリーツスカート。髪はさっとお団子にまとめられていて、可愛らしさが際立つ。スラリとした足は、日に焼けて少し色がくすんで見える。おそらく肌色のタイツでも履いているのだろう。撮影中の彼女が動くたび、スカートの裾がふわりと揺れる。その一つひとつに若々しいエネルギーが溢れていた。……とても綺麗だった。けれど――この「綺麗」は、誰にも見せてほしくなかった。彼だけが、彼女のすべてを見ていたい。その独占欲が、静かに膨れ上がっていく。封じ込めていた暴力性が、少しずつ広がり始めた。あの夜、彼女を鎖で繋いだ時のことがよみがえる。あんなことしなければよかったと、後悔はしている。それでも――また、ああしたいと思ってしまう。少し、ゾクッとするくらいに。一郎は、その目の光に危
慌てて元旦那を高嶺の花に譲った後彼が狂った 第1155話
「昨日の自然とのふれあいは、効果あったと思うんですよね」カンニーは一郎が反応する前に、勝手に話を進めはじめた。一郎はしぶしぶ付き添い、清孝と共に教会へ向かうことに。だが、その教会ではなんと撮影が行われており、敷地は完全に封鎖されていた。さらに周囲には大勢のファンが集まり、黄色い悲鳴が飛び交っている。その中に聞き慣れた名前が混ざっていた。——「神埼吉木！」……うわ、マジかよ。目を凝らすと、ファンたちが掲げているうちわやボードに写っているのは、やはり吉木本人だった。なんという偶然、いやもはや因縁か。「まさか撮影やってるとはね……」カンニーは肩を落として嘆いた。「この教会はこっちで一番有名な場所なんです」教会での治療がどうして効果的なのかは、一郎にはわからない。けれど今やるべきことは一つ。清孝とカンニーを中へ入れる準備だ。「藤屋さん、ちょっと交渉してきます」清孝は静かに頷いた。しばらくして、一郎は無事交渉を終え、二人を連れて中へ。その道中、ついに我慢できず聞いてしまう。「カンニー先生、なんでこの教会じゃないとダメなんです？」「この教会で愛を誓った夫婦は、誰一人離婚していないんですよ。愛の聖地として有名なんです。愛の傷を抱える藤屋さんには最適だと思いまして」思いましてか……と一郎は眉をひそめた。この医者、大丈夫なのか。だが清孝の担当医はこの人だし、海人からも変更の指示はない。まあいい。自分は自分の役目を果たせばいい。そう思った矢先、一本の柱の向こうで、ふと足を止めた。視線の先、芝生の方に、見覚えのある人影。彼はすぐに清孝を見た。表情は変わらず冷静――だが、一郎には分かる。彼は長年海人に仕えてきた。訓練も受けているから、物事の本質を見抜く力がある。だからこそ、清孝の目に一瞬だけ宿った光を見逃さなかった。明らかに、清孝は紀香がここにいることを知っていた。やばい、これはまずいぞ。海人は言っていた。「三ヶ月は絶対に紀香に会わせるな」と。なのに――ほんの数日で、まさかの対面。「藤屋さん……」一郎は顔を引きつらせた。「約束、破りましたね」「偶然の再会まで、俺のせいにするのか？」一郎は呆れた。「偶然かどうかは、ご本人が一番よくわかってるはずです」
慌てて元旦那を高嶺の花に譲った後彼が狂った 第1154話
紀香が到着すると、佐夜子からメッセージが届いた。撮影現場までの送迎を手配したと連絡先が送られてきて、「空港を出たら連絡を」とだけ書いてある。「了解です」彼女はそう返事をして、指定された番号に電話をかけた。言われた通りに進み、迎えの人物を見つけた。「錦川先生ですね」その男は車のドアを開けながら自己紹介した。「神崎先生のアシスタントをしております。ジョーと呼んでください」自分にアシスタントがついたわけでもなく、「神崎先生」という言葉からしても、どうやら自分ではない。だとすれば、あの「神崎」は……名前に聞き覚えがある。すると隣の実咲が彼女の腕をつかんで興奮気味に言った。「神崎吉木先生よ！私、大ファンなの！私がやってるあの乙女ゲーム、彼の顔がモデルになってるキャラもいるの！本当にかっこいいんだから！」「……」紀香も吉木の名前は聞いたことがある。来依が以前、彼とちょっとした噂になっていたからだ。ただ、今回の仕事は仕事であり、私情は関係ない。今回の撮影は大型スクリーンに映されるプロモ用だと聞いている。大阪で公開されるかはわからないが、万が一海人が目にしたら──来依が多少怒るのは避けられない気がした。「錦川先生、私のメイク、どう？」今回の撮影は急だったため、飛行機では紀香も実咲も寝ていた。空港に着いてから、簡単に洗面所でメイク直しをして出てきたところだ。「最初から神埼吉木さんだって分かってたの？」メールの確認を任せていたはずなのに、まるで今知ったような反応だ。実咲は鏡を見ながら、メイクがまだ完璧じゃないと、慌ててポーチを取り出す。「だって、撮影対象には神崎先生の名前なんてなかったんだもん」「……は？」紀香は思わず驚いた。「そうだよ」実咲はうなずいた。「今回は曽木悦奈の撮影よ」「……は？？」紀香はぽかんとした顔で聞き返す。「曽木悦奈の撮影なのに、なんで神埼吉木の車に乗ってるの？」実咲はメイクの仕上がりを確認しながら、無邪気に鏡をパタンと閉じた。「だって、私は京極さんから先生に個人的に連絡があったと思ってたし、私の方には正式な業務メールしか届いてなかったんだもん。だからどうしてこうなったかは……私もわからないよ？」紀香「……」佐夜子からは「撮影がある」と
慌てて元旦那を高嶺の花に譲った後彼が狂った 第1153話
「それに、私あのゲーム、ダウンロードすらしてないんだけど」ゲームの画面すら見てないのに、何を騒いでるのかと呆れる。海人は来依の肩に顎を乗せ、鼻先を首筋にすり寄せながら、彼女の香りを吸い込んだ。その低くて甘い声には、どこか拗ねた色がにじむ。「最近さ、ずっと俺に冷たくて、怒ってることも多いだろ？今日、他の男を見たいとか言い出すし……俺のこと飽きたんじゃないのか？昔の話までしちゃってさ、まるでお前の華の時代を邪魔したみたいに聞こえるんだけど。ねぇ、俺って、まだ足りてないのか？他の男を考えるなんて、ひどくない？」「……は？」来依は思わず吹き出してしまった。「あんた、本当に一度病院で頭の検査受けたら？」海人は真顔で頷く。「確かに、スキャンしたら恋愛脳＝来依って診断されるかもな」来依はつい笑ってしまい、彼の唇に軽くキスを落とす。海人はそのチャンスを逃さず、キスを深くした。ドライバーは何も言わず、静かに仕切りを上げた。車内の温度がじわじわと上昇する。来依の手が彼の首筋から腹筋に移動し、しばらくその硬さを楽しんだ。海人は彼女を強く抱きしめ、首筋に顔を埋めて呻いた。「菊池さんって、誘い方がずいぶんと回りくどいのね」彼の声はかすれていた。「帰ったら、衣装替えてサービスしてやるよ」その頃、一品旨の外では──海人に抱えられ急ぎ足で帰っていく来依を見て、実咲が紀香に小声で聞く。「もしかして……あれって、アレしに帰ったってこと？」紀香は経験はないけど、それくらいの勘はある。何より海人の性格を誰よりも知っている。お姉さん、最近安定期だし。さっきまで男の話で盛り上がってたし、まあ…当然よね。そう答える前――その時、不意に小さな声が耳元に。振り返ると、南が鷹に肩に担がれていた。「……」しかも鷹は前置きゼロ。ノンアル・セルフ運転・超速帰宅。車を停めるなり、車内で彼女を押し倒し、即・本題に突入。南が「部屋で」と言っても、彼はさらに激しさを増す。彼女の口から思わず声が漏れた。そのとき、彼の低くかすれた声が、恨みを込めて彼女を責めた。「ああ、他の男がいいって？」「まだ年のこと？」「俺が年くって満足させられないってか？」「じゃあ言ってみろよ、今──気持
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