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第582話

Author: 楽恩
翌朝早く、服部鷹は小島午男に朝食を病室へ届けさせた。

私と河崎来依が朝食を食べ終えると、看護師が彼女の薬を交換しに来た。

河崎来依は私に見せたくないようで、こう言った。「私の義女が今の南と一体なのよ。気分が悪くなると、その子に影響しちゃう。いいから、見ないで」

「......わかった」

彼女には逆らえず、ちょうど京極佐夜子から電話がかかってきたので、私は病室の外に出た。

「南、どこにいるの?会いに行くって言ったのに、高橋さんが家にいないって」

そういえば、母が時間が空いたら会いに来ると言っていたのを思い出した。

でも、また問題が起きてしまった。

彼女を心配させたくなくて嘘をつこうとしたけど、嘘をつくとその後たくさんの嘘で取り繕わなければならない。

しかも、京極家の権力に関わる問題なら、いずれおじさんも彼女に伝えるはずだ。

そのときに彼女が私に嘘をつかれたと知ったら、きっと悲しむだろう。

それなら、正直に話したほうがいい。

「服部家の病院にいる」

30分後、京極佐夜子が病院に到着した。

彼女と菅さんは手にたくさんの荷物を持っていたが、ファンに見つかるのを恐れてか、彼女の普段よりカジュアルな服装にマスクとサングラスを着けていた。

私はすでに彼女を見つめる好奇心いっぱいの患者たちに気づき、急いで病室に入れた。「母さん、来なくても大丈夫って言ったじゃない。私は本当に何も問題ないから」

「母親が、問題が起きてから見に来るなんてある?」

京極佐夜子はマスクを外し、私をちょっと睨んだ後、私を引っ張って何度も念入りにチェックした。

私が本当に何ともないのを確認して、ようやく彼女は安堵のため息をついた。「前にも言ったでしょ。この時期はトラブルが多いから、なるべく外出しないようにって。どうしても外出するなら、ボディーガードをもっと増やして」

「ボディーガードがいるよ」

私は母をソファに座らせて言った。「でも、防ぎきれないこともある」

そう言いながら、一連の出来事を彼女に説明すると、京極佐夜子の目に怒りが浮かんだ。「藤原文雄は相変わらず愚かね!」

「昔のくだらないことは、ゴミに構う気もなかったけど、今度は財産のために南の命を狙うなんて。馬鹿もいい加減にしてほしいわ。いいわ、この件は放っておきなさい。私が片付けるから」

私は彼女が私のせいで藤原
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