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第276話

Author: 結奈々
「正直に言います、私が悪かったんです!」トラックの運転手は脅しに耐えきれなかった。「橘川弘志に言われたんです。ナンバーの下三桁が186のピンクの車を追えって。でも、中に乗ってるのが久瀬社長の関係者だなんて知りませんでした」

「殺さないでください、知りたいことは全部話します!」完全に取り乱していた。

ボディーガード二人は反射的に遥真の方を見た。

遥真は軽くうなずく。

二人は運転手を引きずり戻し、そのまま遥真前に放り出した。

「俺が誰か知ってるなら、あの車に誰が乗ってるか知らないはずないよな?」遥真は体を起こし、指を組んで前に置く。腕時計がちらりと見えて、白い肌がやけに目立った。

運転手の顔が一瞬で真っ青になる。

終わった。

「正直に話せるチャンスは一回だけだ」遥真の声は冷たく淡々としている。「それを逃したら、こいつらに引き渡す。その後どうなるかは、二人が『面倒見てくれる』」

運転手は一気に血の気が引いた。

――あの二人に任せるって……

一回ずつ斬られるってことか?最後まで体が無事でいられるのか?

「それ、違法ですよ」必死に良心に訴えようとする。

「あと三分だ」遥
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