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第五十九話

مؤلف: 麻木香豆
last update تاريخ النشر: 2026-09-09 06:34:37

 渉を見つけると、すぐに笑顔になる。

「渉」

 まるで、ずっと会いたかったと言うように。

「仕事終わったかい?」

「いえ、まだです」

 渉は戸惑いながら答えた。

「お店に入らないんですか?」

 宙は首を横に振った。

「君を迎えに来た」

「迎えに……?」

「そう」

 宙は穏やかに笑う。

「迷惑だったかな?」

「そんな……大丈夫です」

 そう答えると、宙の表情が少しだけ曇った。

「昨夜のこと……嫌だったかい?」

「……い、いいえ」

 渉は慌てて首を横に振る。

「僕も……つい甘えてしまって」

「たくさん泣いてたもんね」

「……」

「可哀想だったから、慰めてあげたんだ」

 その言葉を聞いて、渉は昨夜のことを思い出す。

 自分でも驚くほど泣いた。

 都会に来てからずっと張り詰めていたものが、宙の前では一気に崩れてしまった。

 それが恥ずかしくもあった。

 けれど……嫌だったわけではない。

「……また、宙さんの家に行っても……いいんですか?」

 気づけば、そんな言葉が口から出ていた。

 宙は目を細めた。

「もちろん」

 そして、少し笑う。

「そんなこと言わなくてもいいだろう? 鍵、あげたんだから
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  • 捨てたはずの恋人が今さら執着してきますが、僕は自分の道を描く   第七十話

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  • 捨てたはずの恋人が今さら執着してきますが、僕は自分の道を描く   第六十七話

     展示されているのは、海外から来た建築技術や新しい素材、都市設計についてのもの。 講義で見た図面と似たものもあった。「これ授業でやったやつじゃん」「ほんとだ」 仲間たちが足を止め、スマートフォンを向ける。渉もつられて撮影した。 画面越しに見ると、建物の形や構造がより分かりやすく見える。 けれど、渉自身は建築に詳しいわけではない。説明を読んでも、専門用語が多くて正直よく分からない。 それでも、実物を見ると不思議と目が離せなかった。 紙の上ではただの線だったものが、ここでは立体になっている。 人が暮らす場所になる。誰かが考え、誰かが作り、誰かがそこで生活する。 そう考えると、ただの模型には見えなかった。「こっちもあるよ」 仲間に呼ばれて振り返る。 今度は日本人の建築家やデザイナーを紹介するブースだった。 さっきまでの展示とは少し空気が違う。スーツ姿の人が多く、作品を見ながら話をしている。 名刺交換をする人。作品について説明する人。商談らしい会話をしている人。 ここにいる人たちは、ただ展示を見に来ているわけではない。 この先の仕事につながる何かを探している。「俺らも来年には就活だからなー」「こういうところから仕事決まったりしないかな」 そんな声が聞こえてくる。 就職活動。 その言葉が渉の中に残った。自分は何をしたいのだろう。 東京の大学に来たのも、とりあえずいい企業に入って、地元より高い給料をもらうため。 親にもそう言われてきた。けれど、具体的に何になりたいのかは分からない。 今はただ、宙のそばにいる。 大学に行って、宙の部屋に戻って、宙と食事をして、宙と過ごす。 それが当たり前になりつつある。 あと数年したら、自分もここにいる人たちのように仕事を探すのだろうか。 それとも……。 渉はそこで考えるのをやめた。 そのときだった。一つのブースの前で、渉の足が止まった。「……」 なんとなく、目を奪われた。 他にも優れたデザインはいくつもある。 けれど、これは違った。まっすぐに引かれた線。余計なものを削ぎ落としたような構成。細部まで行き届いた丁寧さ。 建築には正確さが必要なのだろう。 それでも、これは単なる正確さを超えているように感じた。 渉は一歩、展示に近づいた。図面を見る。 細い線がいくつも重なり

  • 捨てたはずの恋人が今さら執着してきますが、僕は自分の道を描く   第六十六話

     展示会へ向かう途中、電車の中で仲間たちと分かれて立ち、そのうち二人と渉は話していた。「最近、渉つれないからさ。なんかあったのかと思ってたんだけど」「特に何もないよ……」「実はバイト先にも行ったんだよなー」「え、あの店にも?」 渉は思わず聞き返した。 自分の変化を心配してくれていた人がいたことに、少し驚く。「スッゲーいい店で働いてるよな。なんつーか、世界観が違うっていうか。サークルのみんなで一回行ったけど、やっぱ学生の俺らには敷居が高いというか」「うんうん。ああいうところで働くと、なんか違うんかなー。俺も働こうかな」「夜遅いから絶対きついぞ。よくやってたよなぁ。疲れたんだろ、渉」「……そうかな」 渉は曖昧に返し、電車の窓へ視線を向けた。 流れていく景色。会話への反応が薄い渉を見て、二人が笑う。「相変わらずだな。そういうところが渉って感じ」 ……そういうところ。 それが自分なのだろうか。自分自身のことなのに、よく分からない。 周りから見た自分が、どんな人間なのかも。 電車がトンネルへ入る。窓ガラスに、自分の顔が映った。 数ヶ月前より、顔つきが変わった気がする。服も、持ち物も。 そして生活も。 けれど、自分が変わった理由を、この二人には話せない。 いや……話す必要もない。 そう思いながら、渉は窓から目を逸らした。 目的の駅に着き、電車を降りる。会場まではすぐだった。 駅を出たところから、人が多い。「着いたぞ。ぼやっとするなよ」「あ、うん……」 渉は仲間たちについて入口へ向かった。 初日の夕方だというのに、かなりの人で賑わっている。「きっと講義受けた生徒も何人か来てるよ」 仲間の指差す先には、見覚えのある学生たちが何人かいた。 受付へ並んでいる間にも、別のメンバーと話す。「やっぱ彼女できたんじゃね?」「でも渉って、合コンの時も女の子にグイグイ行かないじゃん」「サークルでも聞いたけど、誰かと付き合ってるって話はなかったし」「どっちかっていうと、グイグイされたんじゃね? 渉」「はははっ」 渉は苦笑した。……確かに。 宙にグイグイと迫られた。 もし相手が男だと知ったら、彼らはどう思うだろう。想像すると、胸の奥がざわついた。「まあ、バイトも辞めたことだし、また飲み会とか合コンしようぜ」「……時間が

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