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アニメじゃない

Auteur: 文月 澪
last update Dernière mise à jour: 2025-06-20 16:00:15

 悔しい。

 昨日から岬くんに振り回されっぱなしだ。

 今日なんていきなり家まで来て、結婚!?

 私達まだ高校生でしょ!?

 お母さん達までまきこんで、一体何を考えてえんだろう。

 私はこの年まで、恋愛の経験がない。告白されたこともないし、告白したこともないのに。

 憧れはある。少女漫画のように、熱烈に好意を寄せられ、強引だけど甘く求められるような……あれ?

 今、まさにその状態なのでは?

「なってくれるよね? 岬 美希に」

 髪にするりと指を絡め、囁く岬くんの声に、胸がキュッと鳴る。横で奇声を上げるお母さんのお陰で、流されずに済んだのは不幸中の幸いかもしれない。

「あ、あのねぇ!」

 私がなんとかこの状況を抜け出そうと試みると、さっきまでの色気はどこへやら。岬くんがにこりと年相応の笑顔で言う。

「そろそろ準備した方がいいんじゃない? もう8時過ぎたよ。参戦服なら時間かかるでしょ?」

 ハッとして時計に目をやると、もう8時10分を回ろうとしている。会場は家からバスで20分ほどかかるから、8時30分には出ないと、本当に時間がない。

 サークル入場は一般開場から余裕があるけど、スペースの設営には意外と時間がかかる。お隣さんへの挨拶もるし、仲のいいサークルに差し入れもしたい。

 でも、この場に岬くんだけ置いていくのは危険なのでは!?

 時計と岬くんを交互に見ながら若干パニックに陥っていると、岬くんが更に急かしてきた。

「ほらほら早く。僕も設営手伝うし、売り子もするか

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