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第三話「契約」

Author: ひなた翠
last update publish date: 2026-03-13 16:33:22

 男の動きが激しさを増していって、奥を何度も突き上げられる。痛みで視界が滲んで、涙が頬を伝って流れ落ちた。床に手をついて耐えようとするも、男の腰の動きは容赦なく続いて、身体が前後に揺さぶられる。

「痛い……やめて……」

 掠れた声で懇願しても、男は答えなかった。ただ黙々と腰を打ち付けてきて、奥を執拗に突いてくる。お腹の中が圧迫されて、息を吸うのも苦しくなった。

 男の手が僕の腰を掴んで、さらに深く引き寄せられる。今までより深い場所を貫かれて、悲鳴が喉から漏れた。

「あ……ああっ……!」

 声が大きくなって、自分でも驚く。

 身体の奥が熱くなって、痛みとは違う感覚が混ざり始めた。オメガの身体が勝手に反応していて、濡れ始めている。こんな一方的な行為は、嫌でしかないはずなのに、痛みは薄れていき身体を支配するのは気持ちいいという感覚のみ。

「くっ……」

 男が低く呻いて、動きが不規則になった。腰を突き入れる速度が上がって、奥を何度も突かれる。男の呼吸が荒くなって、僕の背中に熱い吐息がかかった。

 男の手が僕の髪を掴んで、頭を持ち上げられる。首が反って、天井が視界に入った。男の唇が僕の首筋に触れて、強く吸い上げられる。

「んっ……ああっ」

 首筋に痛みが走って、また新しい痕がつけられたのだとわかる。男の舌が首筋を這って、耳の後ろまで舐め上げられた。

「ああっ……もう……」

 声が途切れ途切れになって、呼吸が乱れる。男が僕の肩に手を置いて、さらに深く腰を押し込んできた。今まで届かなかった場所を貫かれて、身体が跳ねた。

 男が低く呻いて、腰の動きがさらに激しくなる。

 次の瞬間、男が奥で止まった。熱いものが身体の中に注がれていくのがわかって、吐き気がこみ上げてくる。男の精液が奥を満たしていく感覚に、全身が震えた。男が荒い息を吐きながら、何度か腰を浅く動かして、残りの精液を全て吐き出していく。

 やがて男の動きが止まって、ゆっくりと腰を引いていった。身体から男のものが抜かれる感覚に、僕は歯を食いしばった。引き抜かれると同時に、中から熱い液体が流れ出てきて太腿を濡らす。男の精液と僕の体液が混ざり合って流れ落ちていく感覚に、穢されたように感じられた。

 男が僕から離れて立ち上がると、スーツのズボンを整え始めた。何事もなかったかのように服を直している男の姿を見て、怒りが込み上げてきた。ベルトを締めて、ワイシャツの裾をズボンに入れていく男の動作は淡々としていて、僕を抱いたことなど些細な出来事にすぎないかのようだった。

 僕は残っている力を振り絞って身体を起こし、男に向かって手を振り上げた。平手が男の頬を叩く音が部屋に響いて、男の顔が横を向く。手のひらがヒリヒリと痛んで、叩いた衝撃が腕に伝わってきた。

「弟が帰ってくる前に帰れ!」

 叫んだ声が掠れて、喉が痛んだ。男は頬に手を当てて、ゆっくりとこちらを振り返った。叩かれた頬が少し赤くなっていて、白い肌に僕の手の痕がうっすらと残っている。男の表情に変化はなくて、まるで痛みすら感じていないかのようだった。

「随分と元気じゃないか」

 男が冷たく言って、内ポケットから名刺入れを取り出した。黒い革の名刺入れを開いて、一枚の名刺を抜き取る。男は名刺を僕に差し出すのではなく、無造作に床に放り投げた。

 名刺がひらひらと舞って、僕の目の前に落ちた。白い紙に黒い文字で印刷された名前が目に入る。

 ――鬼頭鷹臣。

「一回十万だ」

 男が淡々とした口調で告げて、僕は顔を上げた。男は僕を見下ろしたまま、ネクタイに手をかけている。

「は……?」

「お前を抱いたら、一回十万円の返済にしてやると言った。一千万の借金と利息を含めて――まあ、ざっと百三十回くらい抱かれれば返済できる。三日に一回抱かれるとして、一年あれば終わる計算だ。大したことないだろ」

(大したことない――だと?)

 好きでもない男に、突っ込まれるのが百回以上もあるのかと思うだけで吐き気がする。

 計算を告げる男の声に感情はなくて、まるで事務的な取引を説明しているかのようだった。僕は唇を噛んで、男を睨みつけた。

「ちなみに連絡しなければ利息がどんどんと増えていく」

 男が続けて言って、ネクタイを締め直した。

「増えれば増えるほど、返済のためのセックスが増えるだけだ」

 男の言葉に、僕は拳を握りしめた。爪が手のひらに食い込んで、痛みが走る。

 男はニヤリと意地悪な笑みを浮かべると、玄関に向かって歩き出した。乱れた制服のまま床に崩れ落ちていく僕を一瞥もせずに、男は家を出ていく。

 静寂が部屋に戻ってきて、僕は一人取り残された。

 そのまま力が抜けると床に頬をつけて横になり、荒い呼吸を繰り返す。身体中が痛くて、動く気力もなかった。

 時間が経つのも忘れて横たわっていると、だんだんと壁の時計の音が耳に入ってきた。チクタクという規則的な音が、現実に引き戻してくる。

(やばいっ。歩が帰ってくる)

 弟の顔が頭に浮かんで、僕は歯を食いしばって身体を起こした。足が震えて力が入らず、壁に寄りかからないと立っていられなかった。

 よろよろと洗面所に向かって、蛇口をひねる。冷たい水で顔を洗って、鏡を見た。泣き腫らした目、乱れた髪、首筋に残る赤い痕。鏡に映る自分の姿が、知らない誰かのように見えた。

 制服を脱いで、身体を確認する。胸、腹、太腿と、至る所に赤く腫れた痕が残っていた。急いで服を着直して、洗面所を出た。

 リビングに戻ると、床に体液が零れているのが見えた。男の精液と、僕の愛液が混ざり合って床を汚していて、目を背けたくなる。白く濁った液体が床に広がっていて、生々しい証拠が残っていた。

(掃除! 床を拭かないと)

 僕は痛む身体に鞭打を打って、ぞうきんを持ってくると汚れた床を拭いた。あんな惨劇があった後とは思えない光景に戻すが、身体に残る痛みと痕は消えなかった。

 名刺を拾い上げる。

 鬼頭鷹臣。金融業。電話番号とメールアドレスが印刷されていて、名刺の紙質は上質で重みがあった。男の顔が脳裏に浮かんで、腹が立つ。

 僕はスマホを取り出して、震える指で名刺の番号を入力した。一文字一文字確認しながら打ち込んで、発信ボタンを押す。コール音が二回鳴って、男の声が聞こえた。

「鬼頭だ」

 低い声が耳に届いて、僕は息を吸い込んだ。さっきまで僕を抱いていた男の声だ。

「これでいいんだろ」

 吐き捨てるように言うと、男は短く笑った。電話越しでも、男の冷笑が伝わってくる。

「早いな。賢い選択だ」

 男の言葉に、僕は唇を噛んだ。

(賢い選択だと?)

 僕に選択肢なんてなかった。弟を守るためには、この男に従うしかない。

 認めたくはないが、こいつの言った通りにこの世に「支配される側」と「支配する側」しかいないと言うなら、僕は確実に「支配される側」だ。

 逃げられないのなら「支配する側」の言いなりになるしかない。

「今後はしたいときに俺が呼び出す。逆らわずに来い」

 一方的に告げられて、反論する隙も与えられない。

「わかったら返事をしろ」

 男が追い打ちをかけるように言って、僕は歯を食いしばった。

「……はい」

 搾り出すように答えると、男は満足したように短く笑った。

「いい子だ」

 その言葉に、屈辱で胸が張り裂けそうになる。電話が切れて、ツーツーという音が耳に響いた。僕はスマホを床に投げつけた。

 僕はその場に座り込んで、膝を抱えた。

「『あとよろしく』ってこういうことかよ!」

 父が逃げて、借金が残された。

 僕たちは借金をするような生活を送ってきていないはずだ。慎ましく、父の給料でやりくりしていたのに、どうして一千万円もの借金を抱える事態になっているというのだ。

 父は人としてちょっと足りてないところがあるというか――。親として頼りない部分はあるが、それでも父親として懸命に生きていたと思ってた。

 恋愛体質で、常に誰かに愛されていたいという欲求が人よりも強めで、ちょっとアルファの男に弱い部分はあった。

 それでも家族を優先に、交際はしていた――はずだった。

(歩だけは守らないと)

 さっきまで幸せだったのに。大学に合格して、初めての恋人ができて、穏やかな日常だった。全てが一瞬で崩れた。たった数時間で、僕の人生が変わってしまった。

「着替えないと。これじゃ、歩にバレる」

 制服を脱いで、私服に着替える。首筋の痕を隠すために、タートルネックのセーターを選んだ。鏡に映る自分を見て、何も知らない弟の前で笑えるだろうかと不安になる。

 玄関のドアが開く音が聞こえて、歩の声が響いた。

「ただいま」

 明るい声に、僕は笑顔を作った。

「おかえり」

 リビングに入ってきた歩は、いつもと変わらない笑顔で僕を見た。

「お兄ちゃん、今日の夕飯はなに?」

「何がいい?」

(普通を演じるんだ。歩には知られたくない……守らなくちゃ)

 窓の外では完全に日が暮れて、夜の闇が訪れていた。僕の人生も、一緒に闇に呑まれていった。

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  • 支配者の刻印〜愛を知らない獣が借金オメガを溺愛する〜   第二十一話「お預けの日々」

     父さんは妹の父親でもある恋人と別れた。 いくら好きでも、拉致監禁する人とはこの先一緒にいたくないと父さんは話していた。病院のベッドで、涙を流しながら決意を語る父さんの横顔が忘れられない。妹のゆりを抱いて、これからは一人で育てると宣言した父さんの声は震えていたが、強かった。 そういうことなら、と鷹臣さんは、父さんの恋人を容赦なく遠い所へと送ったらしい。 確実に稼げる厳しい場所らしいが、僕たちには教えてくれなかった。どこに送られたのか聞いても、鷹臣さんは「知らないほうがいい」と言うだけだった。北の方だという噂を鉄平さんから聞いたが、本当かどうかはわからない。 父さんは生活費を稼ぐために、ホストに復帰した。 産後の体調が戻ってきたタイミングで、以前働いていた店に相談したらしい。店長が快く迎えてくれて、すぐに復帰が決まった。夜の仕事だから、ゆりをどうするのかと聞いたら、二十四時間営業の保育園を探してどうにかすると話していた。僕が預かると言うと、夜泣きもまだあるからと一度は断られた。 まだ生まれたばかりのゆりを保育園に預けるのが、僕にはどうしても我慢できなくて、もう一度父にお願いをした。 そしたらやっと父が頷いてくれて、父が仕事の日は僕が預かることになった。 夜になると、父さんがゆりを連れてくる。 鷹臣さんのマンションに父さんが現れて、ゆりを僕に預ける。哺乳瓶やおむつ、着替えは鷹臣さんが一式揃えてくれていて、僕の部屋にベビーベッドも用意されていた。父さんは「ごめんね、柊。よろしくね」と頭を下げて、仕事に向かっていく。 四ヶ月になったゆりは、夜中に一回から二回ほど夜泣きをする。大抵は、ミルクで飲み終わるとすぐに寝てくれた。 ベビーベッドでは寝てくれずに、僕のベッドで一緒に横になるとすやすやと気持ちよく寝てくれるいい子だ。 ゆりを預かるようになってお預けの日々が続く鷹臣さんだが、意外と機嫌がそこまで悪くはない。 ある夜、ゆりと一緒にベッドで眠っていると、ドアが静かに開く音がした。 薄目を開けると、鷹臣さんが部屋に入ってくるのが見えた。月明かりが窓から差し込んでいて、鷹臣さんのシルエットが浮かび上がっている。ベッドに近づいてきて、僕の隣に座った。「起きてるか?」 低く囁かれて、僕は目を開けた。鷹臣さんが僕を見つめていて、欲望に染まった瞳が月明かり

  • 支配者の刻印〜愛を知らない獣が借金オメガを溺愛する〜   第二十話「父の真相」

     目が覚めると、社長室のソファで横になっていた。 身体を起こして周囲を見回す。向かい側のソファに鷹臣さんが座っていて、腕を組んで、じっと僕を見つめている。窓の外は暗くなっていて、オフィスの照明だけが部屋を照らしていた。「父さんは?」 僕が聞くと、鷹臣さんが答えた。「救急車で近くの病院にいった」 鷹臣さんの表情は穏やかで、怒っている様子はなかった。「ついていかなかったんですか?」「部下がついていった」 短い返事だった。僕は唇を噛んで、視線を落とす。「泣いてる父さんを抱きしめるような仲なら、そっちについていけばいいのに」 嫌味が口から出てしまう。自分でも嫉妬だとわかっている。醜い感情を抱えきれずに、鷹臣さんに八つ当たりしているだけだと頭では理解できるのに、気持ちが落ち着かなかった。鷹臣さんが父さんを抱きしめていた姿が、目に焼きついて離れない。 鷹臣さんが小さくため息をついた。 立ち上がって僕の隣に移動すると、座り直す。距離が近くなって、鷹臣さんの体温が伝わってきた。鷹臣さんから香る父さんの匂いに、僕は耐えきれずに顔を背ける。 以前、僕の身体から篤志の匂いがしてイラつくと言っていた鷹臣さんの気持ちが初めてわかった。 他の誰かの匂いがするのが、こんなに嫌なものだとは思わなかった。鷹臣さんの身体に父さんの匂いが染み付いていて、胸が苦しくなる。「監禁されてたそうだ」 鷹臣さんが静かに告げた。「――は?」 驚いて顔を上げると、鷹臣さんが真剣な眼差しで僕を見つめていた。「柊の父親の話だ」 鷹臣さんが説明を始める。僕は黙って、鷹臣さんの話に耳を傾けた。「姿を消した日は、本当は俺の事務所に来て、返済の相談をして新しい職を見つけるつもりだった」 父さんが姿を消した日の朝を思い出す。いつもと変わらない朝だった。父さんは優しく微笑んで、「いってきます」と言って家を出た。「お前に残した『あとよろしく』は、働く場所によってはもう会えなくなるかもしれないという気持ちだったらしい」 鷹臣さんの言葉に、僕の胸が締めつけられた。父さんは僕たちを捨てるつもりじゃなかった。会えなくなるかもしれないと思って、あの置き手紙を残したのだ。「学費と借金と同時に賄えるような仕事があれば、そういう仕事を斡旋してもらうつもりだったと話していた」 鷹臣さんが続ける。「

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