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第二話「いきなり落とされる絶望の底」

Auteur: ひなた翠
last update Date de publication: 2026-03-13 16:25:57

 家の鍵を開けて中に入ると、いつもと違う静けさが家全体を包んでいるように感じた。父が帰宅しているはずの時間なのに、玄関に靴がない。リビングに入っても誰もおらず、キッチンも使った形跡がなくて、妙な違和感が胸の奥に引っかかった。

「父さん?」

 声をかけても返事はなく、静寂だけが僕の声を飲み込んでいく。父の部屋を確認するも、やはり誰もいない。

 リビングに戻ると、テーブルの上に小さなメモが置いてあるのが目に入った。父の字で書かれた走り書きのメモを手に取って読むと、たった一行だけ書かれていた。

『あとよろしく』

 意味がわからなくて、何度も読み返す。あとよろしくって、何を? 誰に? メモを握りしめたまま、僕は立ち尽くした。

(どういうこと)

 胸騒ぎがして、慌ててスマホを取り出した。父の番号を選んで発信ボタンを押すと、コール音が鳴り続ける。五回、六回、七回と鳴り続けて、留守番電話のアナウンスが流れた。

 切って、もう一度かけ直す。今度は三回コールが鳴って切れた。拒否されたのだと気づいて、手が震えた。

 三回目の発信をすると、すぐに留守番電話に繋がった。電源を切られたのだと理解して、僕はその場に座り込んだ。

「なんで……」

 声が震えて、目の前が揺れる。父がいない。メモだけ残して、どこかに行ってしまった。電話にも出てくれない。何が起きているのかわからなくて、頭の中が混乱していく。

 父はいつも家族優先だ。仕事中でも、電源をいきなり切るようなことはしない。電話に出られない場合は、折り返しかけ直してくれるし、気づいたら電話に出て「あとでかけ直す」と言ってくれる。

 まるで拒絶するように呼び出し音のときに切るようなことはしないのに。

 スマホを握りしめたまま呆然としていると、突然激しい呼び鈴の音が鳴り響いた。ピンポンピンポンと連続して鳴り続け、その後ドアを叩く音が響く。ドンドンドンと力強く叩かれて、全身が硬直した。

「開けろ! 柚木朔夜!」

 男の低い声が聞こえて、僕はリビングから玄関を見つめたまま身体が固まってしまう。知らない声が父を呼んでいる。ドアを叩く音がさらに激しくなって、恐怖で息ができなくなる。

「なんだ、開いてるじゃないか」

 そう聞こえた直後、玄関が開く音がした。

(鍵……閉めてない)

 足音がして、リビングに向かって近づいてきた。

 僕はどうしたらいいのかわらず、近づく足音が怖くて後ずさったが、足がもつれて床に尻もちをついた。黒いスーツを着た大柄な男がリビングに入ってきて、目が合う。

(――誰?)

 男は僕を見下ろして、鋭い黒い瞳が僕を射抜いた。視線が合った瞬間、身体の奥が急に熱くなって、息を呑んだ。

(なに、これ)

 下腹部が熱を持ち始めて、まるでヒートの前兆のような感覚が全身を駆け巡る。オメガである僕の身体が、目の前のアルファに反応している。

 男が一歩近づいてきて、僕は立ち上がると後ずさった。背中が壁にぶつかって、逃げ場がなくなる。男はさらに近づいてきて、僕の顎を掴んだ。

「お前が息子か」

 低い声が耳に届いて、身体が震えた。男の手が僕の顔を持ち上げて、無理やり視線を合わせられる。黒い瞳が僕を見つめて、何かを確認するように顔を観察していた。

 次の瞬間、男の唇が僕の唇に重ねられた。

「んっ……!」

 驚いて目を見開くと、男の舌が僕の口の中に侵入してきた。抵抗しようとして手を男の胸に押し当てるも、びくともしない。男の舌が僕の口内を蹂躙して、唾液が混ざり合っていく。

 身体の奥がさらに熱くなって、下腹部に甘い痺れが走った。男のフェロモンが鼻腔を満たして、頭がぼんやりとしていく。

 抵抗する力が抜けて、身体が男の腕の中にすっぽりとおさまってしまう。

 男が僕の腰を抱いて、壁に押し付けてきた。身体全体が男の体温に包まれて、熱さが増していく。男の唇が僕の唇を貪るように吸って、何度も角度を変えてキスを繰り返した。

 身体の奥から湧き上がってくる快感に、思考が霧散していった。下腹部の熱が臨界点に達して、僕は男の腕の中で震えた。

「あっ……ああっ……!」

 制服のズボンの中が熱くなって、僕はキスをされたまま絶頂に達してしまった。初めて誰かに触れられただけでイってしまった事実に、羞恥と混乱で涙が溢れそうになる。

(篤志とのキスと全然違う……なに、これ)

 男が唇を離して、僕の顔を見つめた。僕は荒い息を吐きながら、男の胸にもたれかかった。力が入らなくて、立っていられない。

「柚木朔夜は?」

 男が問いかけてきて、僕は必死に頭を働かせた。

「い、いない……」

 震える声で答えると、男は僕の手からメモを奪い取った。『あとよろしく』と書かれたメモを見て、男は低く笑った。

「ああ、逃げたか」

 男が呟いて、ポケットからスマホを取り出した。どこかに電話をかけて、短く指示を出している。

「柚木朔夜が逃げた。すぐに探せ」

 電話を切ると、男は再び僕を見下ろした。

「情報によれば、ここはオメガのガキが二人だったな」

 その言葉に、僕は目を見開いた。オメガが二人。僕と、歩。弟のことを言っている。

「弟には手を出さないでください」

 条件反射で言葉が口から飛び出して、男の表情が変わった。口角が上がって、冷たい笑みを浮かべる。

「じゃあ、この始末をつけるのはお前しかいないな」

 男が僕の肩を掴んで、床に押し倒した。背中が床に打ち付けられて、痛みが走る。男が僕の上に覆い被さってきて、重さで息が苦しくなった。

「待っ……何を……!」

 抗議しようとすると、男は僕の両手首を片手で掴んで頭の上に固定した。もう片方の手が僕の制服のボタンを外していって、シャツが開かれる。冷たい空気が肌に触れて、鳥肌が立った。

「お前の父親が作った借金は一千万だ」

 男が淡々とした声で告げて、僕は息を呑んだ。

「いっ……せん、まん……?」

「父親が逃げた。お前が代わりに払え」

「そんな……僕には……」

 言葉が続かなくて、男は僕の顔を覗き込んだ。

「払えないなら、身体で払ってもらう」

 男の手が僕のズボンに伸びて、ベルトを外し始めた。理解が追いつかなくて、僕は首を横に振った。

「やめて……お願い……」

 懇願しても、男の手は止まらない。ズボンが脱がされて、下着も一緒に引き下ろされた。下半身が露わになって、恥ずかしさで顔が熱くなる。

「やめてっ……!」

 叫んで抵抗しようとすると、男は僕の両手首をさらに強く握った。痛みが走って、動けなくなる。男は自分のベルトを外して、ズボンのジッパーを下ろした。

 男のものが目に入って、僕は恐怖で震えた。大きくて、硬くて、明らかに通常サイズじゃない。

「入らない……無理……」

 泣きそうになって訴えると、男は冷たく笑った。

「入れる」

 男の指が僕の秘部に触れて、身体が跳ねた。

(嫌だ――)

「痛い……やめて……」

 懇願しても、男の指が中に入ってきた。一本、二本と増やされて、無理やり広げられていく。痛みと異物感に、僕は身体を捻った。

「暴れるな」

 男が低く命じて、僕の足を大きく開かせた。男のものが僕の秘部に押し当てられて、ゆっくりと侵入してくる。

「いやっ……! やめてっ……!」

 叫んだ瞬間、男が一気に腰を突き入れた。身体が引き裂かれるような痛みが全身を駆け巡って、僕は悲鳴を上げた。

「あああああっ……!」

 涙が溢れて止まらなくなり、視界が滲む。奥まで貫かれて、お腹が圧迫されて息ができない。痛みで身体が硬直して、震えが止まらなかった。

「この世は支配する側とされる側しかいない」

 男が僕の耳元で囁いて、腰を動かし始めた。

「俺は支配する側、お前は支配される側」

 出し入れされるたびに痛みが走って、僕は泣き続けた。

「お前の父も支配される側だったが……逃げた」

 男の動きが激しくなって、奥を突かれる。痛みに悶えながら、僕は男の腕を掴んだ。

「父親の借りは息子であるお前が責任をもって返せ」

 男の唇が僕の首筋に触れて、強く吸われた。痛みが走って、さらに涙が溢れる。首筋だけでなく、鎖骨、胸、腹と、男の唇が移動していって、至る所に痕をつけられていった。

「やめ……もう……」

 声が掠れて、懇願する言葉すら出てこなくなる。男は容赦なく腰を動かし続けて、僕の身体を貪った。

 痛みと屈辱の中、男の唇が僕の身体を這い続けた。首筋だけでなく、鎖骨、胸、腹と、男の唇が移動していって、至る所に痕をつけられていく。強く吸われるたびに痛みが走って、さらに涙が溢れた。

 時間の感覚がなくなって、どれだけ抱かれているのかわからなくなる。身体中に残されていくキスマークが、屈辱の証として刻まれていった。

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  • 支配者の刻印〜愛を知らない獣が借金オメガを溺愛する〜   最終話「弟たちへの祝福、そして――」

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  • 支配者の刻印〜愛を知らない獣が借金オメガを溺愛する〜   第二十四話「弟の一番でいたかった」

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  • 支配者の刻印〜愛を知らない獣が借金オメガを溺愛する〜   第二十二話「五年後の僕ら」

     朝の光がキッチンに差し込んでいた。 スーツの上にエプロンをつけて、僕は歩の弁当を仕上げていた。卵焼きを綺麗に詰めて、ブロッコリーとミニトマトを隙間に入れる。蓋を閉めて弁当袋に入れると、歩がリビングに入ってきた。 十六歳になった歩は、すっかり背が伸びていた。 僕の肩を越すくらいの身長になって、制服姿が凛々しい。中高一貫の私立に通っていて、毎朝早く家を出る。父さんとは一緒に暮らさず、今も鷹臣さんのマンションで僕と生活していた。「お弁当」 僕が手渡すと、歩が笑顔で受け取った。「ありがとう、兄さん」 嬉しそうに弁当袋を鞄に入れて、玄関へと向かう。僕も後を追って、玄関で歩を見送った。「いってらっしゃい」「いってきます」 歩が手を振って、マンションを出ていく。ドアが閉まる音が響いて、静寂が戻ってきた。 時計を見ると、もうすぐ父さんが迎えにくる時間だった。 僕は鷹臣さんの寝室へと向かった。ドアを開けると、カーテンが閉まった薄暗い部屋が広がっている。鷹臣さんが裸でベッドに寝ていて、規則正しい寝息が聞こえてきた。「鷹臣さん、起きて」 優しく声をかけると、鷹臣さんがうめき声をあげた。「んー……」 寝ぼけた声だった。僕はベッドに近づいて、鷹臣さんの肩を揺する。「もうすぐ父さんが迎えにくる時間だよ。着替えて」 父さんはホストで働いていたが、ゆりの保育園の時間内で仕事ができるように、鷹臣さんが自分の秘書として雇用してくれた。今は運転手兼秘書として、鷹臣さんの仕事をバックアップしている。「ああ」 鷹臣さんが短く返事をして、ベッドから起き上がった。裸の上半身が朝日に照らされて、筋肉の陰影が浮かび上がる。僕は顔を逸らして、カーテンを開けた。「朝ごはんはテーブルに。お弁当はキッチンにありますから」 伝えると、鷹臣さんが僕を見た。まだ眠そうな目で、僕を見つめている。「……もう行く時間か?」 寂しそうな声だった。僕は時計を確認して、頷く。「そう。行ってきます」 鷹臣さんに近づいて、軽くキスをした。甘い口づけに、鷹臣さんが僕の腰を抱き寄せる。「いってらっしゃい」 優しく囁かれて、僕の胸が温かくなった。もう一度キスをして、寝室を出る。     ◇◇◇ 社会人になって三ヶ月が経った。 鷹臣さんの職場に就職しろと言われたが、僕は別の会社に就職した

  • 支配者の刻印〜愛を知らない獣が借金オメガを溺愛する〜   第二十一話「お預けの日々」

     父さんは妹の父親でもある恋人と別れた。 いくら好きでも、拉致監禁する人とはこの先一緒にいたくないと父さんは話していた。病院のベッドで、涙を流しながら決意を語る父さんの横顔が忘れられない。妹のゆりを抱いて、これからは一人で育てると宣言した父さんの声は震えていたが、強かった。 そういうことなら、と鷹臣さんは、父さんの恋人を容赦なく遠い所へと送ったらしい。 確実に稼げる厳しい場所らしいが、僕たちには教えてくれなかった。どこに送られたのか聞いても、鷹臣さんは「知らないほうがいい」と言うだけだった。北の方だという噂を鉄平さんから聞いたが、本当かどうかはわからない。 父さんは生活費を稼ぐために、ホストに復帰した。 産後の体調が戻ってきたタイミングで、以前働いていた店に相談したらしい。店長が快く迎えてくれて、すぐに復帰が決まった。夜の仕事だから、ゆりをどうするのかと聞いたら、二十四時間営業の保育園を探してどうにかすると話していた。僕が預かると言うと、夜泣きもまだあるからと一度は断られた。 まだ生まれたばかりのゆりを保育園に預けるのが、僕にはどうしても我慢できなくて、もう一度父にお願いをした。 そしたらやっと父が頷いてくれて、父が仕事の日は僕が預かることになった。 夜になると、父さんがゆりを連れてくる。 鷹臣さんのマンションに父さんが現れて、ゆりを僕に預ける。哺乳瓶やおむつ、着替えは鷹臣さんが一式揃えてくれていて、僕の部屋にベビーベッドも用意されていた。父さんは「ごめんね、柊。よろしくね」と頭を下げて、仕事に向かっていく。 四ヶ月になったゆりは、夜中に一回から二回ほど夜泣きをする。大抵は、ミルクで飲み終わるとすぐに寝てくれた。 ベビーベッドでは寝てくれずに、僕のベッドで一緒に横になるとすやすやと気持ちよく寝てくれるいい子だ。 ゆりを預かるようになってお預けの日々が続く鷹臣さんだが、意外と機嫌がそこまで悪くはない。 ある夜、ゆりと一緒にベッドで眠っていると、ドアが静かに開く音がした。 薄目を開けると、鷹臣さんが部屋に入ってくるのが見えた。月明かりが窓から差し込んでいて、鷹臣さんのシルエットが浮かび上がっている。ベッドに近づいてきて、僕の隣に座った。「起きてるか?」 低く囁かれて、僕は目を開けた。鷹臣さんが僕を見つめていて、欲望に染まった瞳が月明かり

  • 支配者の刻印〜愛を知らない獣が借金オメガを溺愛する〜   第二十話「父の真相」

     目が覚めると、社長室のソファで横になっていた。 身体を起こして周囲を見回す。向かい側のソファに鷹臣さんが座っていて、腕を組んで、じっと僕を見つめている。窓の外は暗くなっていて、オフィスの照明だけが部屋を照らしていた。「父さんは?」 僕が聞くと、鷹臣さんが答えた。「救急車で近くの病院にいった」 鷹臣さんの表情は穏やかで、怒っている様子はなかった。「ついていかなかったんですか?」「部下がついていった」 短い返事だった。僕は唇を噛んで、視線を落とす。「泣いてる父さんを抱きしめるような仲なら、そっちについていけばいいのに」 嫌味が口から出てしまう。自分でも嫉妬だとわかっている。醜い感情を抱えきれずに、鷹臣さんに八つ当たりしているだけだと頭では理解できるのに、気持ちが落ち着かなかった。鷹臣さんが父さんを抱きしめていた姿が、目に焼きついて離れない。 鷹臣さんが小さくため息をついた。 立ち上がって僕の隣に移動すると、座り直す。距離が近くなって、鷹臣さんの体温が伝わってきた。鷹臣さんから香る父さんの匂いに、僕は耐えきれずに顔を背ける。 以前、僕の身体から篤志の匂いがしてイラつくと言っていた鷹臣さんの気持ちが初めてわかった。 他の誰かの匂いがするのが、こんなに嫌なものだとは思わなかった。鷹臣さんの身体に父さんの匂いが染み付いていて、胸が苦しくなる。「監禁されてたそうだ」 鷹臣さんが静かに告げた。「――は?」 驚いて顔を上げると、鷹臣さんが真剣な眼差しで僕を見つめていた。「柊の父親の話だ」 鷹臣さんが説明を始める。僕は黙って、鷹臣さんの話に耳を傾けた。「姿を消した日は、本当は俺の事務所に来て、返済の相談をして新しい職を見つけるつもりだった」 父さんが姿を消した日の朝を思い出す。いつもと変わらない朝だった。父さんは優しく微笑んで、「いってきます」と言って家を出た。「お前に残した『あとよろしく』は、働く場所によってはもう会えなくなるかもしれないという気持ちだったらしい」 鷹臣さんの言葉に、僕の胸が締めつけられた。父さんは僕たちを捨てるつもりじゃなかった。会えなくなるかもしれないと思って、あの置き手紙を残したのだ。「学費と借金と同時に賄えるような仕事があれば、そういう仕事を斡旋してもらうつもりだったと話していた」 鷹臣さんが続ける。「

  • 支配者の刻印〜愛を知らない獣が借金オメガを溺愛する〜   第六話「繰り返される夜と変化」

     鬼頭さんからの呼び出しは、三日と開かずに来た。スマホが振動するたびに、胃の奥がきゅっと縮むような感覚がある。 メッセージを開くと、いつものようにホテルの名前と部屋番号、位置情報が表示されていて、『すぐ来い』という短い命令が添えられていた。 歩に「バイトが入った」と嘘をついて家を出て、指定されたホテルに向かう。高級ホテルのロビーを抜けて、エレベーターに乗る。部屋に入ると、いつものように女性の香水の匂いが鼻をついた。 甘ったるい香りが部屋に充満していて、ベッドが乱れている。枕元に長い髪の毛が落ちていて、前回とは違う色だった。香水の匂いも違う。今日はフローラル系の強い香りで、前回のムスク系

  • 支配者の刻印〜愛を知らない獣が借金オメガを溺愛する〜   第五話「急な呼び出し」

     夜九時を過ぎた頃、スマホが振動した。画面を見ると、知らない番号からメッセージが届いている。開くと、ホテルの名前と部屋番号、位置情報の地図が表示されていて、その下に短い文章が添えられていた。『すぐ来い』 鬼頭さんからだとすぐにわかった。リビングで宿題をしている歩を見て、笑顔を作る。「ごめん、急にバイトが入った」 立ち上がって上着を羽織ると、歩が顔を上げた。「こんな時間に?」「うん。すぐ戻るから」 そう声をかけると家を飛び出して行った。 冷たい夜風が頬を撫でて、息が白く染まる。駅に向かって歩きながら、スマホで地図を確認した。 電車に乗って、ホテルのある駅で降りる。駅前には高級

  • 支配者の刻印〜愛を知らない獣が借金オメガを溺愛する〜   第四話「罪悪感の日々と嘘」

     鬼頭さんに無理やり、抱かれてから二日が過ぎた。 昨日の夜、篤志から連絡が来て急遽、出かける用事が入った。(初めてのデート) 鬼頭さんと出会っていなければ、僕はきっと今日の日を飛び跳ねるほど喜んだと思う。今の僕は、嬉しい気持ちと同じくらい罪悪感に胸を苦しめられている。 父の残した借金のために無理やり犯された身体が、穢らわしく感じられた。お金のためだった――そう言い訳すれば、心は軽くなるのだろうか。 将来の番となる人のために、綺麗な身体のままでいたいとまでは思っていないが、鬼頭さんとした行為は、好きな人と愛を分かち合うための行為でありたい。 支配される側の僕にそんな意見を言える権利

  • 支配者の刻印〜愛を知らない獣が借金オメガを溺愛する〜   第一話「幸福の絶頂」

     スマホの画面に表示された「合格」の二文字を見つめながら、僕は何度も瞬きを繰り返した。信じられない気持ちと、じわじわと込み上げてくる喜びが胸を満たしていって、思わず声が漏れた。第一志望の国立大学に合格した事実が、まだ夢のように感じられて現実味がない。 リビングのソファに座ったまま、僕はスマホを握りしめた。画面が揺れて見えるのは、手が震えているからだと気づき、深呼吸をする。冷たい空気が肺を満たし、ゆっくりと吐き出すと少しだけ落ち着いた気がして、もう一度画面を確認した。(合格してる。見間違いじゃない) 鼓動が早鐘のように打ち、頬の筋肉が勝手に緩んでいくのがわかる。嬉しさが全身を駆け巡り、涙

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