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4. 「異世界ほのぼの日記2」51

Author: 佐行 院
last update Last Updated: 2025-06-15 09:01:19

-51 生姜焼きと2人の関係-

 肉屋に来た者の内、転生者の2人はほぼほぼ同じ気持ちになっていた。今は帰り方も分からないこの異世界に来る前の記憶を辿り、この世界で初めて会ったはずの2人が同様の懐かしさを覚えていた。

 綺麗な皿に盛られており良い匂いで5人の食欲を誘う物の正体は、ご飯が進みお弁当の定番で人気のあるあの料理。

 おかずとしても肴としても相当の威力を発揮する香りと味。

好美・真希子「これは・・・。」

 目に飛び込んできた光景を未だ信じる事が出来ない2人をもう既に着席していたナルリスが手招きした。

ナルリス「早く食べようよ、折角の美味しそうな料理が冷めちゃうよ。」

真希子「そうだね、待たせて悪かったよ。」

 促されるがままに着席する2人、全員が席に着いたのを確認したケデールは意気揚々とその場を仕切っていた。

ケデール「皆さん、お着きになりましたね。では当店で1から育て上げた豚のロース肉で作った生姜焼きをお召し上がりください、ガイさんの田んぼで採れた白米とご一緒にどうぞ。」

 店主の言葉が終わると一斉に生姜焼きに箸を延ばして1口、咀嚼をする度にやはり記憶にあるどこか懐かしい味で好美と真希子は嬉しそうだった。よっぽど生姜焼きが好きだったのだろうか、涙を流しながら白米で追いかける。

好美「やっぱりこれ・・・、あいつの・・・。」

真希子「あの子の味だよ、まさかこっちに来ているのかい。」

 当時使っていた素が同じだったのだろうか、2人にとっての懐かしい味はぴったりと一致していた。

 それはそうと、注目すべきは豚肉そのものである。1から餌に拘りながら育て上げ、脂の甘みと柔らかさを重視して育て上げたその肉は5人の舌を確実にうならせていた。横に添えられたキャベツやマヨネーズと組み合わせながら食べ進めていき、5人はただただ無心に食事を進めていった。10分もしない内に用意された皿が綺麗に空けられていた。

 その様子を見て満足そうな表情を浮かべる店主は、店の奥に顔を向けて頷いた。

ケデール「この豚を育てた人間を紹介させて下さい。実はこいつ、好美ちゃんや真希子さんみたいに転生して来た奴でしてね。この世界にやって来た瞬間、丁度担当者を探していた俺が拾って豚の世話をお願いしていたんです。この料理もこいつがどうしても自分が作りたいって言うから許可しましてね。おーい、こっちこっち。」

 
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