แชร์

第3話 氷の騎士の視線

ผู้เขียน: 花柳響
last update วันที่เผยแพร่: 2025-10-23 02:50:20

「――というわけで、天王寺先輩が、氷室くんのこと、お食事に誘いたいそうよ!」

「は?」

 私の興奮気味の報告を、乃亜は購買で買ったばかりのメロンパンを咥えながら、心底どうでもよさそうな声で一蹴した。昼休みの喧騒に満ちた中庭のベンチで、私たちは向かい合って座っている。

「いや、だからね!天王寺先輩が私を食事に誘ってきたのは、氷室くんを誘うための口実なの!私が触媒となって、二人を繋ぐのよ!すごくない?この世紀の恋の始まりに、私が立ち会えるなんて!」

「……あんた、本気で言ってんの?」

 乃亜はメロンパンを咀嚼し、ごくりと飲み込むと、呆れを通り越して、もはや憐れみのような目を私に向けた。「本気も何も、それ以外に考えられる?」と私が言うと、彼女は天を仰いで深いため息をついた。

「普通に考えて、天王寺くんはあんたに気があるから誘ったんでしょ。なんでそうなるのよ」

「ないないない。天地がひっくり返っても、それだけはない」

 私は両手を大きく振って、乃亜の突拍子もない仮説を全力で否定する。

「考えてもみてよ。あの天王寺輝だよ?学園の太陽だよ?彼が、私みたいな日陰の苔のような人間に、興味を持つわけがないじゃない。科学的にありえない。彼の隣に立つ人間は、彼と同じくらいキラキラしてないと、世界のバランスが崩壊しちゃう」

「あんたのその自己評価の低さは、もはや一種の才能だね……」

「そして、氷室くんよ!あのミステリアスな影のあるクールビューティ!天王寺先輩の光が強ければ強いほど、彼の影は色濃く、魅力的に映る……。光と影、陽と陰。これほどまでに完璧なカップリングがある?いや、ない!」

 熱弁する私に、乃亜は早々に会話を諦めたのか、「はいはい、そうですねー」と気の抜けた返事を繰り返すだけだった。わかってない。乃亜には、この神聖な関係性の尊さが、まだわかっていないのだ。

 だが、感傷に浸っている場合ではない。私には、二人の恋を成就させるという、重大なミッションが課せられているのだから。

「問題は、どうやって氷室くんを食事会に誘うか、なのよ……」

 腕を組み、私はうーん、と唸る。天王寺先輩から食事に誘われたのは、明日の夜。時間がない。

 氷室くんは、天王寺先輩と違って、いつもどこにいるのか掴みどころがない。特定の友人とつるんでいる様子もなく、講義が終わると、ふらりとどこかへ消えてしまう。神出鬼没。まさに孤高の騎士(サイレント・ナイト)だ。

「普通に、次の講義で会った時に声かければいいじゃん」

「そんな簡単なことじゃないのよ!」

 私は乃亜の単純な提案に、またしても首を横に振った。

「いい?氷室くんは、きっと、天王寺先輩からのアプローチに、とっくに気づいてる。でも、素直になれないの。だから、私が『天王寺先輩が誘ってますよ』なんてストレートに言ったら、『……興味ない』とか言って、心を閉ざしちゃうに決まってる!」

「……あんたの脳内で、氷室くんはどんなキャラなのよ……」

「だから、ここは慎重に、外堀から埋めていく必要があるの。偶然を装って接触し、彼の警戒心を解き、自然な流れで食事会に誘導する……。そう、すべては運命だったと、彼に思わせるのよ!」

 私の完璧な作戦に、私自身が感動で打ち震える。そうだ、これしかない。

 問題は、その「偶然の接触」を、どこで、どうやって起こすか、だ。

 その日の午後、私は血眼になって氷室くんの姿を探し回っていた。彼の所属する文学部の講義棟をうろつき、学生でごった返すカフェテリアを偵察し、人気のなさそうな中庭の奥まで足を運んだ。しかし、彼の姿はどこにも見当たらない。

「くっ……どこにいるの、氷室くん……!」

 諦めかけた、その時だった。ふと、目の前にそびえ立つ、古びたレンガ造りの建物が目に入った。

 ――――図書館。

 そうだ。彼は、いつも一人で静かに本を読んでいるイメージがある。もしかしたら……!

 微かな希望を胸に、私は図書館の重い扉を押し開けた。

◇

 ひんやりとした空気が、私の火照った頬に心地よかった。高い天井まで続く書架には、びっしりと本が詰め込まれ、古い紙とインクの匂いが静かに漂っている。聞こえるのは、誰かがページの束をめくる乾いた音と、自分の緊張した心臓の音だけ。

 スパイ映画の主人公になった気分で、私は書架の陰からそっと顔を覗かせ、目的の人物を探す。人文科学の棚、海外文学の棚……。そして、一番奥まった、窓から午後の柔らかな光が差し込む閲覧スペースで、ついに私は彼を見つけた。

 氷室 奏。

 彼は、一脚の椅子に深く腰掛け、手にした文庫本に静かに視線を落としていた。窓から差し込む光が、彼のサラサラの黒髪を照らし、透けるような白い肌の輪郭を淡く縁取っている。長い指が時折ページをめくる、その仕草一つが、まるで計算され尽くした一枚の絵画のようだった。

 ――――美しい。

 思わず、喉がごくりと鳴った。現実の人間に対して、こんな感情を抱いたのは初めてかもしれない。もちろん、これは恋だとか、そういう生々しいものではない。あくまで、完璧な造形物に対する芸術的な感動だ。彼が、私の推しカプ「ジーク×アーク」のアークに、どことなく雰囲気が似ているせいもあるだろう。儚げで、気高くて、どこか影がある。

 よし、と私は心の中で拳を握る。作戦通り、偶然を装って声をかけるのだ。「あら、氷室くん。奇遇ね、あなたもこの本を探しに?」みたいな感じで。

 そう決意して、書架の陰から一歩踏み出そうとした、その瞬間。

 ばちり、と。

 それまで本に落ちていたはずの彼の視線が、真っ直ぐに、私を射抜いた。

「……っ!」

 息が止まる。心臓が、鷲掴みにされたかのように軋んだ。

 隠れていたはずなのに。なぜ。

 彼の灰色の瞳は、何の感情も映していないように見える。ただ、ガラス玉のように冷ややかに、じっと、私だけを見つめている。時間が、凍り付いたかのようだ。

 動けない。彼の視線に、蛇に睨まれた蛙のように縫い付けられてしまった。

 どうしよう。声を、かけないと。でも、何を?

 混乱する私の頭の中で、乃亜の言葉が不意に蘇る。『あんた、最近やたらイケメンに見つめられてるけど自覚ある?』

 そして、先日の講義室での、天王寺先輩の行動。

 そうだ。氷室くんは、きっと、もう気づいているのだ。天王寺先輩が、私というモブを利用して、自分に近づこうとしていることに。

 だから、私を見ているんだ。

 私のことを、天王寺先輩からのアプローチを牽制するための、「盾」として認識しているんだ……!

「(……なんて、切ない……!)」

 真実に辿り着いた瞬間、私の胸は、BL的な意味での切なさで張り裂けそうになった。

 本当は、天王寺先輩のことが気になっている。でも、素直になれない。彼の眩しすぎる光に、気後れしているのかもしれない。だから、私という存在を間に挟むことで、必死に心の距離を保とうとしているのだ。健気すぎる。あまりに、健気すぎる……!

 涙ぐみそうになるのを、ぐっと堪える。泣いている場合じゃない。私は、彼のその強固な心の壁を、優しく溶かしてあげなければならないのだから。

 もう少しだけ、彼に関する情報が欲しい。そう思った私は、彼の視線から逃れるように、すぐ隣の書架に目をやった。彼が読んでいる本のジャンルだけでも分かれば、会話のきっかけになるかもしれない。

 書架の隙間から、もう一度、彼の手元を盗み見る。

 そして、私は自分の目を疑った。

 彼が読んでいる文庫本の背表紙。そこに印刷された、特徴的な装丁と、作者の名前に、見覚えがあったからだ。

「(うそ……あれって、月館つきだて小夜子さよこの『硝子の鳥籠』……!?)」

 月館小夜子。商業的には全く無名だが、一部の熱狂的なファンを持つ、マイナーな幻想小説家。その退廃的で、どこまでも美しい文章の世界観は、何を隠そう、この私が心の底から敬愛してやまない作家だった。

 ――――まさか。

 私の脳内で、再び運命の音が鳴り響く。

 氷室くんが、月館小夜子を読んでいる。これは、単なる偶然だろうか?いや、違う。

 これは、彼と天王寺先輩が、結ばれるべくして結ばれる、運命の証なのだ!

 きっと、天王寺先輩も、あのキラキラした外見に似合わず、こういう少し影のある文学が好きなのに違いない。そして、二人はまだ、お互いが同じ作家を愛読しているという事実に気づいていない。

「(趣味まで合うなんて……!運命……!この二人、マジの運命のカップルじゃないの……!)」

 興奮で、鼻血が出そうになるのを、必死に押さえた。

 もう、迷いはない。

 この恋の歯車を動かすのは、この私しかいない。

 私は、震える足で、書架の陰から一歩を踏み出した。

◇

 一歩、また一歩と、私は氷の騎士が待つ聖域へと足を進める。たった数メートルの距離が、永遠のように長く感じられた。私の心臓は、これから始まる神聖な儀式を前にして、早鐘のように激しく脈打っている。大丈夫。私ならできる。私は、彼らの恋を導くために選ばれたのだから。

 彼の前にたどり着き、私は、ごくりと唾を飲み込んだ。彼は、私が目の前に立っても、驚いた様子一つ見せない。ただ、読んでいた文庫本から静かに顔を上げ、その冷ややかに澄んだ灰色の瞳で、私をじっと見上げるだけだった。その無表情が、逆に私の決意を鈍らせる。

 何か、何か言わなければ。

『偶然ですね』?違う。『その本、私も好きなんです』?いや、それではただの馴れ馴れしい女だ。作戦を、思い出せ。彼の警戒心を解き、自然な流れで食事会に誘導する……。

 しかし、彼の射抜くような視線を前にして、私の頭の中にあったはずの完璧な台本は、綺麗さっぱり消し飛んでいた。口の中が、カラカラに乾く。緊張で、指先が微かに震えた。

「あ……あの……」

 やっとのことで絞り出したのは、蚊の鳴くような、情けない声だった。ダメだ、このままでは。私は、二人のキューピッド。もっと、堂々としていなければ。

 私は一度、ぎゅっと目を瞑り、息を吸い込んだ。そして、脳裏に天王寺先輩のキラキラした笑顔を思い浮かべる。そうだ、彼のために。そして、目の前の不器用な騎士のために。

 意を決して、私は口を開いた。全ての始まりとなる、魔法の言葉を紡ぐために。

「あの、天王寺先輩が……!」

 ――――食事に、あなたを誘いたいそうです。

 そう続くはずだった私の言葉は、しかし、途中で遮られることになった。

 私が「天王寺」という名前を口にした瞬間、それまで無表情だった氷室くんの瞳が、ほんの僅かに、鋭く揺らめいたように見えた。

 彼は、読んでいた本を、パタンと静かに閉じる。そして、その長い指を栞のようにページに挟んだまま、まっすぐに私を見据えた。

 その眼差しは、今までにないほど、真剣そのものだった。

「君の話なら、聞こう」

 静かな図書館に、彼の低く、落ち着いた声が凛と響いた。

 それは、私の予想を遥かに超えた、あまりにも真摯で、あまりにもまっすぐな答えだった。

อ่านหนังสือเล่มนี้ต่อได้ฟรี
สแกนรหัสเพื่อดาวน์โหลดแอป

บทล่าสุด

  • 攻略対象は私じゃない! ~腐女子が神視点で推しカプ見てたら、いつの間にか逆ハーレムの中心にいた件~   最終話 写真の中のヒロイン

     (……感動してくれてるんだ。嬉しいな)  そう思った瞬間だった。  私の脳内で、長らく休眠状態にあった『腐女子フィルター』が、カチリと音を立てて誤作動を起こした。  世界が、歪む。  待って。  あの涙の意味は、本当に純粋な「祝福」だけなのだろうか?  奏くんが、輝くんを見る目。  どこか悔しげで、それでいて相手の実力を認めざるを得ないといった、複雑で熱っぽい感情が入り混じった眼差し。  陽翔くんが、輝くんを見る目。 「先を越された」という男としての敗北感と、それでも「あいつなら任せられる」という友情、そして断ち切れない切なさが同居した濡れた瞳。  そして、輝くんが二人に向けて送った、勝ち誇ったような、けれど揺るぎない信頼に満ちたアイコンタクト。  (……はッ!!)  脳天に電撃が走った。  もしかして。  もしかして、これは『ライバル×輝』の……。  そこまで考えて、私は唇を噛んだ。違う違う。今、自分の結婚式ですから。披露宴の席順で相関図を作っている場合じゃありません。  奏くんも陽翔くんも、私に気持ちを伝えてくれた。その言葉を、都合のいい筋書きに書き換えたくはなかった。  目が合った奏くんに、小さく頭を下げる。陽翔くんは泣いたまま、くしゃくしゃの笑顔で手を振ってくれた。 「……し、栞?」  隣で輝くんが、不審そうに私の顔を覗き込んだ。  奏くんと陽翔くんを見ていた時間が、思ったより長かったらしい。私は慌てて、隣に立つ彼へ向き直った。 「……ううん。なんでもない」  輝くんはまだ少し疑わしそうだ。分かってます。その顔をされても仕方ない人生でした。  私は言い訳を探すのをやめ、自分から彼の手を取った。 「輝くん。私、今、すごく幸せ」  彼の目が、ふっと和らぐ。それを見たら堪らなくなって、背伸びをして頬に口づけた。すぐ近くから歓声が上がり、そこでようやく会場中に見られていることを思い出す。 「あ、いや、今のは……!」 「取り消しはなし」  輝くんが笑い、私の腰を引き寄せる。今度は目を逸らさずに、その顔が近づくのを待った。  カラン、カラン、と祝福の鐘が高らかに鳴り響く。  青空に吸い込まれていくフラワーシャワーの中で、私は輝くんの腕の中にしっかりと抱きしめられていた。その体温が、私を確かな幸福の中心に繋ぎ止

  • 攻略対象は私じゃない! ~腐女子が神視点で推しカプ見てたら、いつの間にか逆ハーレムの中心にいた件~   第143話 誓いの口づけ

     父の手から輝くんの手へ、私の手が託される。  触れた輝くんの手は、大きくて、温かくて、そして少しだけ震えていた。 「……待ってたよ、栞」  彼が誰にも聞こえないほどの小声で囁く。  その声の響きに導かれるように、私は彼の隣に並んだ。  牧師様の言葉が続き、私たちは誓いの言葉を交わす。  指輪の交換。  私の左手の薬指に、ひやりとした金属の感触と共に、永遠の約束が滑り込んでくる。  そして。 「それでは、誓いのキスを」  牧師様の言葉を合図に、輝くんがそっとベールを上げる。  隔てるものがなくなり、至近距離で見つめ合う。  彼の瞳の中に、緊張で強張った私の顔が映っている。 「……愛してる」  唇が触れ合う直前、彼が音のない言葉でそう言ったのが分かった。  私も、心の中で答える。  私も、愛してる。世界で一番。  チュッ、と柔らかい音がして、唇が離れる。  その瞬間、会場中から割れんばかりの拍手が巻き起こった。  私たちは皆の方へと向き直る。  色とりどりの花びらが舞うフラワーシャワーの中、たくさんの笑顔が私たちに向けられていた。  最前列には、見慣れた、そして大好きな顔ぶれが揃っている。  まずは、氷室奏くん。  彼は今、売れっ子のゲームシナリオライターとして第一線で活躍している。私と同じ会社に所属し、時には喧嘩し、時には背中を預け合いながら、一緒にゲームを作り上げている戦友だ。  今日の彼は、隙のない礼服姿で、眼鏡の奥の瞳を和やかに細めてこちらを見ていた。その表情はどこまでも穏やかで、まるで手のかかる弟と妹の晴れ姿を見守る兄のようだ。  その隣には、七瀬陽翔くん。  彼は大学卒業後、厳しい修行期間を経て、念願だった自分のカフェをオープンさせた。今では雑誌やSNSに取り上げられるほどの人気店のオーナーだ。  相変わらずの人懐っこい笑顔で、大きく手を振ってくれている。「先輩、おめでとう!」という口の動きが見えた。  そして、乃亜の隣には……まさかの人物。  西園寺エリカ様だ。  彼女はあれから、持ち前の驚異的なバイタリティと深いオタク知識を武器に、なんとイベント運営会社の社長になっていた。  今日の彼女は、いつもの真紅のドレスではなく、上品なシャンパンゴールドのドレスを身に纏い、扇子で口元を隠しながら優雅に

  • 攻略対象は私じゃない! ~腐女子が神視点で推しカプ見てたら、いつの間にか逆ハーレムの中心にいた件~   第142話 扉の向こうの彼

     そして今日、私たちは誓いを立てる。  多くの人に見守られ、祝福されながら、これからの人生を共に歩んでいく約束を。  コンコン、と厚い扉越しに控えめなノックの音が響いた。 「失礼いたします。……新婦様、そろそろお時間です」  式場スタッフのよく通る声に、心臓が跳ね上がる。  いよいよだ。 「よし。行ってきなさい、栞」  乃亜が私の背中をバン、と景気よく叩いた。  少し痛いくらいのその衝撃に、竦みかけていた足に力が戻る。私は肺いっぱいに空気を吸い込み、深く吐き出した。 「うん。……行ってきます!」  ずしりと重いドレスの裾を爪先で蹴り上げ、私は控室の扉を押し開けた。◇ チャペルの大きな扉の前。  父の腕に手を添えながら、私は震えそうになる膝を必死に叱咤していた。  この扉の向こうには、たくさんのゲストたちが待っている。  大学時代の友人たち、会社の同僚、輝くんの仕事関係の方々。  そして何より、私たちがここに辿り着くまでの道のりを、時に厳しく、時に温かく見守ってくれた、かけがえのない仲間たち。 「栞。……綺麗だぞ」  隣で父が、少し湿っぽい声で囁く。  普段は無口で不器用な父の、絞り出すような言葉。危うく涙腺が緩みそうになり、私はぐっと奥歯を噛み締めて堪えた。  今泣いたら、時間をかけて作ってもらったメイクが台無しになってしまう。輝くんに、一番綺麗な私を見てもらいたいから。  厳かなパイプオルガンの音色が、高い天井に響き渡る。  重厚な扉が、ゆっくりと左右に開かれていく。  溢れ出すまばゆい光。  そして、視界いっぱいに飛び込んでくる、祝福の拍手と温かな笑顔の海。  まっすぐに伸びるバージンロードの先、祭壇の前で待っているのは、白のタキシードに身を包んだ私の最愛の人。  天王寺輝。  彼と目が合った瞬間、周りの景色からふっと色が抜け落ちたような気がした。  彼だけが、鮮やかに、圧倒的な存在感を持ってそこに立っている。  (……かっこいい)  付き合い始めてもう何年も経つのに、未だに彼の姿を見るたびに胸が高鳴ってしまう自分がおかしい。  今日の彼は、いつにも増して「王子様」だった。  仕立ての良いタキシードを完璧に着こなし、綺麗に整えられた茶色の髪が光を弾いている。そして何より、私を見つめるその瞳。蕩けるよ

  • 攻略対象は私じゃない! ~腐女子が神視点で推しカプ見てたら、いつの間にか逆ハーレムの中心にいた件~   第141話 ドレスに包まれて

     あれから、いくつもの季節が巡った。  窓の外には、目に痛いほどの新緑が広がっている。初夏の陽気を含んだ風が、木々の葉を揺らす音が聞こえてくるようだ。  雲ひとつない突き抜けるような青空の下。  私は今、人生で一番高いヒールの上に危なっかしく立ち、人生で一番重たい布の塊に全身を包まれて、人生で一番強張った顔で鏡と睨めっこをしていた。 「……うぅ、苦しい。ねえ乃亜、これちょっとコルセット締めすぎじゃない?」 「何言ってんの。一生に一度の晴れ舞台でしょ? 内臓の位置なんて気にしてる場合じゃないって」  私の背後で、親友の神崎乃亜がテキパキとドレスの裾をさばいている。  今日の彼女はブライズメイドとして、淡いレモンイエローのドレスを身に纏っていた。相変わらずの切れ長で美しい瞳と、凛とした立ち振る舞い。主役の私の方が霞んでしまいそうなほどの美人っぷりだ。 「ほら、できた。……うん、悪くない」  乃亜が満足げに頷き、私の背中を鏡の方へとぐいと押した。  そこに映っていたのは、純白のウェディングドレスに身を包んだ、見知らぬ誰かのような自分の姿。  繊細なレースが鎖骨のラインを縁取るオフショルダー。ふわりと空気を含んで広がるAラインのスカートには、無数の小花が散りばめられ、動くたびにさざ波のように揺れる。プロの手によって丁寧に編み込まれた髪の上には、照明を受けてキラキラと瞬くティアラが鎮座していた。 「……私、本当にお嫁に行くんだね」  鏡の中の自分と目を合わせ、ぽつりと漏らす。  なんだか、足元がふわふわとして実感が湧かない。まるで、スクリーンの向こう側で繰り広げられる物語を、客席から眺めているような不思議な浮遊感がある。 「何寝ぼけたこと言ってんのよ。ここまで来て夢オチでしたなんて言ったら、私が許さないからね」  乃亜が呆れたように笑い、私の肩にぽんと手を置いた。  その掌から伝わる確かな体温と重みに、ようやく少しだけ、ここが現実なのだという感覚が戻ってくる。  そう。今日は、私の結婚式だ。  机を紙で埋め、送信ボタンの前で固まっていた日が、今も時々夢に出てくる。二次募集で内定をもらった『株式会社アルカディア・ワークス』で、私は今、プランナーとして走り回っている。好きだけでは済まないことばかりだけれど、会議に出す企画書の最初の読者は、相変

  • 攻略対象は私じゃない! ~腐女子が神視点で推しカプ見てたら、いつの間にか逆ハーレムの中心にいた件~   第140話 祭りの帰り道

    「え? うん、いいけど……」  三人は私から少し離れた、広場の片隅へと歩いていく。  夕陽を背にして立つ三つのシルエット。  何か重要な話をしているようだけれど、ここからでは風に流されて声は聞こえない。  胸騒ぎがする。  でも、不思議と不安はなかった。  彼らの背中から漂う空気が、決して険悪なものではないと分かっていたからだ。  しばらくして、話が終わったのか、三人がこちらへ戻ってきた。  その表情は、どこか吹っ切れたような、清々しいものだった。 「……終わったよ、栞」  輝くんが戻ってきて、再び私の手を取る。 「何の話だったの?」 「ん? ……男同士の、秘密の話」  彼は悪戯っぽく笑って、教えてくれなかった。  奏くんと陽翔くんを見ると、二人は何かを納得したように、満足げな顔でこちらを見ていた。 「……月詠。俺は先に行く」  奏くんが、私に近づいてくる。  そして、そっと手を差し出した。 「え?」 「握手だ。……今日の記念に」  戸惑いながらも手を出すと、彼は私の手をギュッと強く握りしめた。  その手は意外なほど熱く、そして優しかった。 「……幸せになれよ」  ボソッと呟かれた言葉に、目頭が熱くなる。 「奏くん……」 「それと、天王寺」  奏くんが輝くんへ向き直った。 「式の日取りが決まったら、早めに知らせろ。仕事を空ける」 「……ああ」 「さっきも言ったが、知らせるのは月詠任せにするなよ」  輝くんが頷いた。その顔を見届け、奏くんは鞄を肩に掛け直した。 「じゃあな」  奏くんはひらりと手を振り、雑踏の中へと消えていった。 「俺も帰ります!」  陽翔くんが元気よく手を挙げる。 「先輩! またバイトで!」 「うん、お疲れ様!」 「あ、輝先輩。……約束、忘れないでくださいね」  陽翔くんが意味深な言葉を残し、輝くんに拳を突き出す。  輝くんも拳を合わせ、コツンとぶつけ合った。 「ああ。分かってる」  陽翔くんもまた、笑顔で去っていった。  二人を見送った後、私は輝くんを見上げた。 「……ねえ、本当に何の話だったの?」 「内緒」  輝くんは人差し指を唇に当て、ウィンクする。 「式の話をされた。……あいつら、来てくれるって」 「え……」 「ちゃんと招待状、送ろうな。……二人で

  • 攻略対象は私じゃない! ~腐女子が神視点で推しカプ見てたら、いつの間にか逆ハーレムの中心にいた件~   第139話 彼女からの言葉

     会場の外へ出ると、空は茜色に染まっていた。冷たい風が頬に触れ、ようやく自分がどれだけ泣いたか分かる。  入口から少し離れた場所で輝くんが手を挙げた。隣には奏くんと陽翔くんもいる。私はエリカ様とそちらへ向かい、まず輝くんの前で足を止めた。 「一緒に来てくれて、ありがとう」  彼は一瞬驚き、それから笑った。 「うん。楽しそうだったね、栞」  差し出されたハンカチを受け取ると、私の手ごとそっと握られた。 「物語もよかったけど。あとで栞が何を話すか、そっちが楽しみだった」  また泣きそうになってしまう。舞台の二人に感動した気持ちを、この人に話したくてたまらなかったことまで、見抜かれた気がした。 「……長くなるよ?」 「知ってる」  後ろから陽翔くんがティッシュを差し出す。 「先輩、まず鼻。話す前にそっちです」 「う、うるさいっ。これは感動の涙なの!」  笑いながら受け取ると、奏くんが静かに眼鏡をかけ直していた。その目元も少し赤い。からかう気にはなれず、私は何も言わずにティッシュの袋を差し出した。 「ふぅ……。魂が浄化されましたわ」  エリカ様が、満足げに溜息をつく。  その顔は憑き物が落ちたように晴れやかで、いつもの棘々しさが嘘のようだ。 「ええ。……最高のイベントでした」  奏くんも頷き、受け取ったティッシュをそっとポケットへ収めた。 「また、イベントがあったらご一緒しましょうね、同志よ」  答えようとした時、彼女が扇子を閉じた。 「その前に。……あなたに、謝らなくてはならないことがありますわ」  急に改まった声に、私も背筋を伸ばした。 「あの日、召使いだの、平民だのと。知らない方を、あんなふうに呼ぶべきではありませんでした」  彼女は私を見ていた。言葉を急いで継ぎ足すことも、笑い話にすることもなかった。  あの日の痛みが少し戻った。それでも、今日、隣で同じ台詞に泣いた人の顔を、私はもう知っている。 「……嫌でした。あれは」 「ええ」 「でも、今日は楽しかったです。また、一緒に見たいと思いました」  エリカ様が小さく息を吐いた。扇子を持つ手が、胸元から下りる。 「……では、次の抽選も、二人で申し込みましょう」  私とエリカ様は、固い握手を交わした。  かつての恋敵が、今や最強のオタク仲間。  人生、何が起

  • 攻略対象は私じゃない! ~腐女子が神視点で推しカプ見てたら、いつの間にか逆ハーレムの中心にいた件~   第132話:輝のプロポーズ(仮)⑨

    「……誰目線なんだよ」 輝くんが脱力したように突っ込む。 けれど、その表情には怒りよりも、照れくささと、そして隠しきれない安堵が混ざっていた。「……へえ。合格点いただきましたか」 輝くんは私の肩を抱き寄せ、勝ち誇ったように三人を見回した。「聞いたろ? 栞は俺を選んでくれたんだ……これでもう、文句はないな?」 その高らかな宣言に、陽翔くんと奏くんの顔つきが変わった。 ただの野次馬ではない、真剣な男の顔。「&hel

  • 攻略対象は私じゃない! ~腐女子が神視点で推しカプ見てたら、いつの間にか逆ハーレムの中心にいた件~   第123話:スランプと支え⑫

     翌朝。 目が覚めると、輝くんはまだ隣で眠っていた。 昨夜の情熱的な彼とは打って変わって、子供のように無防備な寝顔だ。 その頬をつんと指でつつくと、「ん……」と唸って、私を抱き枕のように腕の中に引き寄せた。(……重いけど、幸せ) 時計を見ると、いつもより少し遅い時間だ。 今日は日曜日。二人とも、久しぶりの完全オフだ。「……ん、おはよ」 しばらくして、輝くんがもぞもぞと起き出した。 寝癖がついた髪が可

  • 攻略対象は私じゃない! ~腐女子が神視点で推しカプ見てたら、いつの間にか逆ハーレムの中心にいた件~   第118話:スランプと支え⑦

    「あいつが戦っているのは、自分のためじゃない。……君のためだ」「……私の?」「君という帰る場所があるから、あいつは強くなれる。君が隣にいるから、無謀な挑戦もできるんだ。……あいつにとって、君は『足手まとい』なんかじゃない。最強の『武器』なんだよ」 彼の言葉が、冷え切った心にじんわりと染み込んでいく。 そうだろうか。 私なんかが、輝くんの力になれているのだろうか。「それに……」 奏くんの手が、私の

  • 攻略対象は私じゃない! ~腐女子が神視点で推しカプ見てたら、いつの間にか逆ハーレムの中心にいた件~   第117話:スランプと支え⑥

     店内は暖房が効いていて、焙煎されたコーヒーの芳醇な香りが漂っていた。 私たちは窓際の席に向かい合って座った。テーブルの上には、さっき取ってもらった白い猫のぬいぐるみがちょこんと座っている。「……ありがとう、奏くん。気を使わせちゃったね」 湯気の立つココアを一口飲み、私は正直に礼を言った。甘い液体が食道を下りていき、強張っていた胃を内側から温めてくれる。 奏くんはブラックコーヒーを口にし、カップをソーサーに戻した。カチャン、と陶器が触れ合う澄んだ音がする。「礼には及ばない。…&helli

บทอื่นๆ
สำรวจและอ่านนวนิยายดีๆ ได้ฟรี
เข้าถึงนวนิยายดีๆ จำนวนมากได้ฟรีบนแอป GoodNovel ดาวน์โหลดหนังสือที่คุณชอบและอ่านได้ทุกที่ทุกเวลา
อ่านหนังสือฟรีบนแอป
สแกนรหัสเพื่ออ่านบนแอป
DMCA.com Protection Status