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第4話 キューピッド出動

ผู้เขียน: 花柳響
last update วันที่เผยแพร่: 2025-10-23 08:14:31

「君の話なら、聞こう」

 その言葉は、私の心に深く、そして都合よく刻み込まれた。

 氷の騎士、氷室奏は、私の話を聞いてくれると言ったのだ。つまり、天王寺輝との恋物語の幕開けを、彼は静かに、しかし確かに受け入れたのである。ああ、なんて尊い展開だろう。クールな彼が、勇気を出して一歩踏み出したのだ。その歴史的瞬間に立ち会えたという感動で、私は図書館からの帰り道、ずっと頬の緩みを抑えることができなかった。

 もちろん、彼を食事会に誘うのは、思ったよりも骨が折れた。私が「実は明日、天王寺先輩と食事をするんですが、ご一緒にどうですか」と切り出すと、彼は一瞬、本当にほんの一瞬だけ、眉間に皺を寄せたように見えた。

 だが、それはきっと、照れ隠しだ。私の脳内BLフィルターは、彼の僅かな表情の変化を「素直になれないツンデレの典型的な反応」と瞬時に翻訳した。

「……なぜ、俺が」

「ええっと、それは……天王寺先輩が、きっとその方が、楽しいかなって……」

「君は、どうなんだ」

「え?私ですか?私はもちろん、お二人が揃ってくださった方が、百万倍楽しいです!」

 私が満面の笑みでそう答えると、彼は何かを諦めたように小さく息を吐き、「……わかった」とだけ呟いた。

 快諾である。完璧な流れだ。

 そして翌日。私は、人生で初めて訪れるような、お洒落なイタリアンレストランの前に立っていた。待ち合わせの時間ぴったりに現れた天王寺先輩は、私服姿もまた完璧だった。シンプルな白いシャツに黒いパンツという出で立ちなのに、彼が着ているというだけで、それが世界最高級のブランド品に見える。

「やあ、月詠さん。待った?」

 爽やかな笑顔に、私の心臓がまたしても無駄に跳ねる。いかんいかん、この人は私の攻略対象ではない。彼は、彼の隣に立つべき人のものなのだ。

「いえ!全然待ってません!それから、先輩、見てください!」

 私は、自分の手柄を披露する子供のように、得意満面で自分の背後を指し示した。そこには、約束通り、少しだけ気まずそうな顔で佇む氷室くんの姿がある。彼は、モノトーンを基調とした、飾り気のない服装。それがまた、彼のミステリアスな雰囲気を際立たせていた。

「じゃーん!サプライズです!氷室くんも誘っちゃいました!」

 えへへ、と私が笑いかけると、天王寺先輩は一瞬、本当に一瞬だけ、その完璧な笑顔の裏で驚きに目を見開いた。だが、それも束の間。彼はすぐにいつもの王子様スマイルに戻ると、私の頭に、ぽん、と大きな手を置いた。

「そっか。月詠さんが楽しいなら、それが一番だよ」

 頭を優しく撫でられるという、少女漫画の王道シチュエーション。だが、私の脳内では、それは全く別の意味を持っていた。

「(……よくやった、月詠。これで、氷室くんと自然に話せるきっかけができたじゃないか)」

 そう、これは私への労い。彼の恋のキューピッドである私への、感謝の頭ポンポンなのだ。

「はい!頑張りました!」

 私が胸を張ると、天王寺先輩は楽しそうに笑い、氷室くんに視線を移した。

「氷室くん、だよね。来てくれてありがとう」

「……別に」

 そっぽを向いて短く答える氷室くん。ああ、もう!ツンデレ!可愛すぎる!

 私は、目の前で繰り広げられる光と影の邂逅に、一人で胸を熱くしていた。二人のために頑張る私、超健気じゃない?この恋、私が絶対に成就させてみせる。自己満足という名の幸福感に浸りながら、私は意気揚々とレストランの扉を開いたのだった。

◇

 予約されていたのは、窓際の景色の良いテーブルだった。柔らかな間接照明が店内を照らし、テーブルの中央に置かれた小さなキャンドルの炎が、上品に揺れている。明らかに、私のような人間が普段利用するファミレスとは、世界の階層が違った。

 席に着く段になって、私は重大なミスを犯していることに気づく。

 案内されたのは、窓に沿った長いベンチ席と、向かいの椅子席。天王寺先輩と氷室くんが、ごく自然に、私の両隣の席に座ったのだ。向かい側は空いたまま、窓を背にして私だけが二人の間に挟まれている。店員さんが一度だけ椅子に目をやったけれど、誰も移ろうとはしなかった。

「(しまったああああ!)」

 内心、私は頭を抱えて絶叫した。

 やらかした。完全に、やらかしてしまった。これでは、二人がお互いの顔を見ながら話せないではないか。私が、物理的な「壁」となって、彼らの恋路を邪魔している!なんてことだ。キューピッド失格だ。

「月詠さんは、何にする?ここのカルボナーラ、美味しいよ」

 メニューを広げながら、天王寺先輩が優しい声で話しかけてくる。違う、先輩!あなたが話しかけるべきは、私ではなく、あなたの隣の隣にいる、氷の騎士です!

「わ、私は何でも!そ、それより、氷室くんは!氷室くんは何がお好みでしょうか、天王寺先輩!」

 私は必死に、二人の会話のパスを繋ごうとする。しかし、私の焦りをよそに、当の氷室くんはメニューを静かに見つめるだけで、一言も発しようとしない。その沈黙が、私の罪悪感をさらに煽った。

「(ご、ごめんなさい氷室くん……!私が、私がもっと気の利くキューピッドだったら……!)」

 注文を終え、料理が運ばれてきても、状況は変わらなかった。天王寺先輩は、私に学校のことやサークルのことを尋ねてくる。その度に、私は「氷室くんはどうなんですか!?」と無理やり話を振るが、氷室くんは「……別に」「……普通だ」と、単語で返すばかり。

 気まずい。気まずすぎる。このままでは、せっかくの食事が、ただの気まずい会で終わってしまう。それは、絶対に避けなければならない。

 私は、フォークとナイフをカチャリと置いた。覚悟を決める。

 ――――こうなったら、私が、消えるしかない。

 もちろん、物理的にではない。意識的に、だ。私がこの場にいないかのように、空気のように存在感を消せば、二人は私のことを気にせず、会話を始められるかもしれない。

「(そうだ、私がもっと縮こまれば……!私が透明になれば、二人の間には何もなくなる!)」

 私はまず、椅子の上で限界まで体を小さく丸めてみた。しかし、これでは不十分だ。二人の視界から、完全に消えなければ意味がない。

 次の瞬間、私は、自分でも信じられないような行動に出ていた。

 テーブルの上、二人の視線が交差するであろう直線軌道上から、自分の頭をどかすために。私は、不自然なほどぐぐっと身を乗り出し、ほとんどテーブルに突っ伏すような姿勢になったのだ。

「……月詠さん?」

 天王寺先輩の、困惑したような声が聞こえる。

「顔、サラダに付きそうだけど」

「お、お構いなく!どうぞ、続けてください!さあ、お二人で!語らってくださいまし!」

 顔を上げられないまま、私はくぐもった声で必死に訴える。私の視界の端で、揺れるキャンドルの炎が、キラキラと輝いていた。

◇

 結局、私のその奇行は、天王寺先輩が「ふふっ……っ、だめだ、面白い……」と肩を震わせながら笑い出し、しまいには「お願いだから、普通に座って?お腹痛い」と懇願してきたことで、強制的に終了させられた。

 私は、彼にそんな苦しい思いをさせてしまったことに深く反省し、その後はできるだけ背筋を伸ばし、しかし決して二人の視線を遮らないよう、斜め45度の角度を保って食事を続けるという高度な技術を駆使した。

 そんな私の涙ぐましい努力の甲斐あってか、食事の終盤には、二人の間に微かな、しかし確かな変化が見られたように思う。

 天王寺先輩が「このティラミス、美味いな」と呟けば、氷室くんがこくりと頷く。

 氷室くんが、ふと窓の外に視線をやれば、天王寺先輩も同じ方向を、優しい目で見つめる。

 言葉は、ない。

 だが、言葉がなくとも、二人の魂は確かに共鳴し始めていた。私が作り出したこの空間で、二人はお互いの存在を、その鼓動を、確かに感じ取っているのだ。

「(ああ……尊い……)」

 私は、目の前の高級そうなティラミスを口に運びながら、感動で泣きそうになるのを必死に堪えた。この一口は、ただのデザートではない。二人の恋の始まりを祝う、祝福の味だ。

 最高に後味の良い(と私だけが思っている)食事会は、こうして幕を閉じた。店を出ると、ひんやりとした夜風が火照った私の頬を撫でていく。街のネオンが、昼間とは違うしっとりとした光で世界を彩っていた。

「ごちそうさまでした!とっても、美味しかったです!」

 私が深々と頭を下げると、天王寺先輩は「どういたしまして」と柔らかく笑う。その隣で、氷室くんは街の喧騒から逃れるように、少しだけ俯いていた。その儚げな横顔が、また私の腐女子心をくすぐる。

「さて、それじゃあ……」

 天王寺先輩が、何かを言いかけた、その時だった。

 私たちの間を、まるで運命の合図のように、夜風が強く吹き抜けた。私は思わず目を細め、彼は言葉を切る。

 一瞬の、静寂。

 その静寂を破ったのは、二つの声。私の左右から、全く同じタイミングで発せられた、二人の声だった。

「家まで送る」

「送っていく」

 凛とした、天王寺先輩の声。

 静かで、低い、氷室くんの声。

 二つの声は、夜の空気の中で綺麗に重なり合い、そして、私の鼓膜を震わせた。

 え?と顔を上げると、私の右隣に立つ天王寺先輩と、左隣に立つ氷室くんが、私を挟んで、お互いを真っ直ぐに見つめ合っていた。その瞳には、先ほどまでの和やかな雰囲気など微塵もない。

 静かな、しかし燃えるような火花が、二人の間で散っているのが、私にさえ見えた。

 ああ、そうか。

 ――――これは、宣戦布告なのだ。

 私というキューピッドを、どちらが自分の陣営の駒として、家に送り届けるか。

 恋の主導権を懸けた、男たちの静かなる戦いが、今、始まったのである。

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