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第6話

Penulis: 雲居の樵
どれくらい時間がたっただろうか。樹がふと顔を上げた。その瞳に迷いはなく、決意が漲っている。彼は大きく息を吸うと、自分の襟元を引きちぎり、若葉のベッドへ一歩、また一歩と近づいてきた。

「樹……」

若葉が言葉を発する前に、突然体が重くなった。そして唇に、あたたかいものが押しあてられる。

彼女の瞳が、ぐっと見開かれた。必死で樹を突き放そうとするが、逆に手首を掴まれ、頭の上で押さえつけられてしまった。

「最低!離して!」

若葉は唇を固く閉じ、必死に首を振って樹のキスから逃れようとする。

だが、力では所詮、男には敵わない。必死にもがく彼女の姿は、樹の目に……拒んでいるどころか、誘っているかのように映ってしまった。

樹の口の端に笑みが浮かぶ。そしてもう片方の手で若葉のあごを掴むと、無理やり自分と目を合わせさせた。

「若葉。俺のことが好きだから、お前は俺と結婚したんだろ?でも、俺は泉を見捨てるわけにはいかないんだ。

だから、お前に俺の子どもを産ませてやるよ。その子に俺のすべてを相続させれば、お前たちの生活は一生安泰だからな。

そうすれば……お前も俺に薬をくれるだろ!」

樹は若葉の服に手をかけ、一気に引き裂く。

襟元に突き刺さる突然の冷たさに、若葉の体はびくっと震えた。でも、その寒さも、心の冷え込みには到底かなわない。

樹のキスがだんだん下へと移っていくのを見て、若葉は堪えきれずに、涙をこぼした。

でも、彼女の悔しさも、苦しみも、絶望も、樹の目にはまったく映らない。彼が考えているのは、ただ泉を助けることだけ。

猛烈な吐き気と屈辱感がこみ上げてくる。若葉は唇を強くかみしめ、もう一度必死でもがいたが、樹の力にはやはり敵わなかった。

もうだめだ、と彼女が絶望しかけたそのとき、すぐそばから悲鳴が聞こえた。

樹の動きがぴたりと止まる。

樹と若葉が同時に悲鳴が聞こえた方を向くと、そこには泉がいた。ショックを受けたようで、彼女は泣きながら病室を飛び出していった。

樹はほとんど反射的にベッドから飛び降りる。そして、泉が去った方へと一目散に追いかけていった。

もし彼が一度でも振り返っていたなら……若葉が真っ青な顔をしていることに気づいただろう。そして、手術したばかりの足の傷も開き、ズボンがほとんど血で赤く染まっていることにも。

若葉は足の激痛に耐えながら、ナースコールへと必死に手を伸ばす。

唇を固くかみしめ、残っている最後の力を振り絞り、力いっぱいボタンを押し込んだ。

ナースコールの音が鳴り響くと同時に、若葉は完全に意識を失った。

傷口が圧迫されて大出血を起こしたせいで、一時的に危篤状態に陥ってしまった。

医師たちの懸命な治療により、若葉はなんとか死の淵から戻ってこられた。

どれくらい眠っていたのだろうか。長い眠りから覚めた若葉は、喉がからからに乾いていた。しかし、ベッドの横のテーブルには、コップ一杯の水さえ置かれていなかった。

仕方なく、彼女はゆっくりと車椅子に乗り込む。そして自動販売機に向かおうと車輪を漕いだ。ふと、泉の病室を通りかかったとき、樹の姿が見えた。

彼はそこに座り、スープをふーふーと冷まして泉の口元へ運んでいる。そして、彼女の口の端についたスープを、優しく拭ってあげていた。

その光景を見て、若葉は16歳の頃のある記憶を思い出した。

不良に殴られた樹は肋骨を3本も折っていたし、手には10センチ以上の切り傷があって、足もナイフで貫かれていた。それなのに彼は、若葉の大好きな料理を作って、優しく食べさせてくれた。

あの頃の樹は、すごく優しくて、思いやりにあふれていた。

しかし、残念なことに自分の知っている樹は、もう過去のなかにしかいないのだった。

若葉の口元に、自嘲するような笑みが浮かぶ。彼女は首を振ると、スマホを取り出して樹にメッセージを送った。

【薬あげてもいいよ】

【そのかわり、河野家の金庫にあるコーラルの指輪と交換ね】
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