Masuk和田若葉(わだ わかば)は名家に生まれ育った、誰もが羨むお嬢様。その彼女が、女癖の悪さで知られる御曹司・河野樹(こうの いつき)に、自ら結婚を迫った。 樹は軽い笑みを浮かべ、あっさりとその申し出を受け入れる。だが、結婚式を目前に控えたある日、若葉に信じがたい条件を突きつけた。それは、オークションで「別の女の初夜」を落札してこい、というものだった。 そして迎えた結婚式当日。樹は祝福に包まれるはずの式場で、平然と他の女と情事にふける映像を流してみせる。 それだけでは終わらない。全身にキスマークを残し、衣服もろくに身につけていない女たちを、彼は若葉の会議室へと送りつけてきたのだった。 ずっと耐えてきた若葉だったが、その我慢も限界に達し、樹を問い詰めに向かった。しかし、そこで若葉が目にしたのは、別の女を庇い怪我をする樹の姿…… そして、その女の存在こそが、樹が若葉を侮辱し、傷つける理由だったのだ。 繰り返される裏切りと悲しみのなかで、若葉は気づいた。幼なじみだった二人の気持ちは、もう過去のものになってしまっていただと。 心が冷え切ってしまった若葉は、自分から離婚を切り出す。 ところが、若葉が樹の元を去ろうとした、まさにその前日。彼女は倉庫で、突然の爆発事故に巻き込まれてしまったのだった。
Lihat lebih banyak若葉はハイヒールを響かせ、河野グループの役員フロアへと入っていった。会議室のドアを開けた途端、中にいた全員がその場で固まる。「自己紹介させていただきますね。私は和田若葉です。爆発事故で顔が酷く損傷してしまいまして。なので、顔を変えました。みなさん、驚かないでくださいね」少し離れた場所に立つ彰人は、鋭い目つきで彼女を睨みつけ、指でせわしなく机を叩いていた。「おじさんは私が生きていること、もちろんご存じでしたよね?だって……私を殺そうと人を差し向けたのは、あなたなんですから!」若葉の何気ない一言に、その場にいた全員が息をのんだ。すると、樹が険しい顔で立ち上がり、ずかずかと父親の前に歩み寄る。「お父さん、若葉は死んだって、俺に言ってたじゃないか!それに、いったいどういうことなんだよ!なんで若葉を殺そうとなんかしたんだ?」彰人は息子を憎々しげに睨みつけ、出ていけと合図しようとしたが、それよりも前に、若葉が冷たい声で口を開く。「それは、私を殺してしまえば、誰もあの日の真相なんか調べなくなるからですよね?おじさん、あなたは昔、どうにか和田グループの重要機密を手に入れられないかと機会を窺っていて、私が重い病気だと知ると、すぐに適合者を探すように手配しました。そして、奇遇とでもいうのでしょうか、おばさんの血液が私に適合しました。そして、彼女は私の命の恩人となり、母がもっとも信頼する人にもなりました。ある入札で、また和田グループが大きな案件を勝ち取った時。あなたはそろそろ頃合いだと判断したのでしょう。おばさんを使って、和田グループの機密情報をこっそり盗ませました。でも、おばさんはそんなことしたくはなかった。だから、これらのことを私の両親に打ち明けました。そして、私の両親もあなたの長年の汚いやり口を調べ上げたんです。しかし、あなたが河野グループの危機的状況を黙って見過ごせるはずもありません。だから、巧妙に交通事故を装って、私の両親を……そしておばさんまで殺したんですよね」一気に言い終えた若葉の体は、怒りでかすかに震えた。しかし、樹の顔に怒りや驚きがないことにふと気がつく。それどころか……不気味なほど、落ち着いていた。「樹……まさか……あなたは全部、知ってたの?」若葉は驚きに言葉を失った。近づいてくる樹を、彼女は
「若葉、やっぱりお前だったんだね」樹はこらえきれずに嗚咽を漏らした。若葉を抱きしめようと腕をのばしたけど、その手は何も掴めなかった。驚いて若葉のほうへ顔をあげると、彼女は浩平の後ろに庇われながら立っていた。樹の黒い瞳に、たちまち不満の色が浮かぶ。しかし、樹はこみあげる怒りをなんとか抑え、ひきつった笑みを浮かべた。「若葉、もう一度チャンスをくれないか?ちゃんと、二人で話がしたいんだ」しかし、なにも答えない若葉を見て、樹はおそるおそる数歩近づいてみる。そして自分の胸をおさえ、明らかに震える声で続けた。「若葉、お前がいなくなってしまったあの日から、俺は毎日ずっと後悔していたんだ。それに、夢に見るのはいつも、爆発現場のことばかり。何度も後悔した。どうしてあのときお前を助けなかったんだろう、どうしてお前が炎にのまれるのを、ただ見ていることしかできなかったんだろうって……」話続ける樹は、だんだん感情的になっていった。そして、もう一度若葉を自分の胸に引きよせようと手をのばしたが、またしても浩平に阻まれる。その瞬間、ずっと抑え込んでいた樹の怒りがついに爆発した。拳を振り上げ、浩平に殴りかかる。浩平はもちろん怯むことなく、躊躇わずに彼の顔へと重い一撃をたたきこんだ。「この一発は、若葉さんを見捨てて、彼女を見殺しにしようとした分」さらに続けて、浩平はもう一発拳を叩き込む。今度の一撃はさっきよりもずっと強く、樹の口の端は切れ、血が滲んでいた。「これは若葉さんがお前のために耐えてきた、これまでの苦しみの分!これは若葉さんがお前のせいで受けなくちゃならなかった、つらい治療の分だ!」……浩平は言葉を重ねるほどに感情を抑えきれなくなり、握りしめた拳にも、次第に力がこもっていった。そしてついに彼は樹に跨がり、拳を振り上げては、何度も何度も叩きつけた。泉が叫びながら浩平を突きとばしたとき、樹はすでに血まみれになっていた。それでも彼はもがきながら、若葉のほうへと必死に手をのばし、彼女の名前を呼びつづけていた。しかし、若葉は樹に一度も視線をむけなかった。それどころか、ハンカチで浩平の手の甲についた血を拭い、心配そうな顔で彼の顔の傷にそっと触れる。「樹」若葉は深く息をすいこんだ。そして、くるりと向きなおると、悲しみにくれる樹を
驚きで目を大きく見開いた泉が、ばっと立ち上がる。男を問い詰めようとしたそのとき、若葉が腕を組んで入ってくるのが見えた。「小島。ちょっと揺さぶりをかけただけで、この人全部白状してくれたわよ。路地裏で私をめちゃくちゃにしたあと、殺すように頼まれたって言ってたけど」泉はごくりとつばを飲み込み、しきりに視線を彷徨わせる。どうやって言い訳しようか必死に考えていると、若葉がゆっくりとスマホを取り出した。「ここにはもうひとつ、面白いものがあるんだけど。あなたもきっと興味があると思うわ。あなたはあのとき、和田グループの物流マネージャーにお金を渡して、契約書と港の入庫書類を偽造させた。そして和田グループの荷物を河野グループに横流ししたあと、港を爆破。そうやって、すべての証拠を消し去ろうとした……そうよね?」若葉が録音データを再生する。そこから聞こえてきたのは、恐怖におびえた物流マネージャーの声だった。彼はもうすでに、すべて白状していたのだ。若葉はもう死んだのに、こんな昔のことが蒸し返されるなんて泉は思ってもみなかった。彼女は手をぎゅっと強く握りしめる。若葉をにらみつけ、泉は叫んだ。「あなたはいったい何者なの!」「あなたに殺されかけた本人以外、あなたの昔の悪だくみを気にする人なんていると思う?」泉の足元がふらついた。怒りに燃えていたその瞳に、一瞬だけ恐怖の色を浮かべると、若葉を指さしながら後ずさり、どさっとソファに倒れ込んだ。「な、なんで?なんで生きているの!あのとき、たしかに爆発で死んだはずでしょ!それに、その顔は一体……」若葉はその問いには答えず、ゆっくりと泉の目の前まで歩み寄った。そして、樹が最近自分に送ってきたメッセージを、しずかな声で読み上げ始める。「明里さん、初めて会ったときから、すごく懐かしい感じがしたんだ。一目見ただけで、この人だって思った。君と一緒にいたい。今こんなことを言っても、信じてもらえないかもしれない。だから、これからは行動で俺の気持ちを見てほしい」若葉はちらりと泉に目をやり、泉の瞳に怒りの炎が燃え上がっているのを確認すると、若葉はさらに言葉を続けた。「泉とはとっくに縁なんか切れてるし、もうどうだっていいんだ。だから彼女の言うことなんて気にしないで。もし彼女が君にまた何かひどい
「そんな、会ったばかりなのに、いきなりお家だなんて……ちょっと気が早くないですか?」若葉は意地悪く笑うと、ゆっくり樹に体をすりよせた。そして彼に抱きつき、真っ白なシャツの襟に、真っ赤な唇を押しつける。「じゃあ、河野さん。私はもう帰りますね」若葉は呆然と立ちつくす樹を見て、くすりと笑った。そして、ひらひらと彼に手を振ってみせる。しかし、彼女はくるりと背を向けると、そこにいた別の男の胸に飛びこんだ。一部始終を見ていた浩平は苦々しい顔で、若葉にハンカチを差し出す。若葉は唇をゴシゴシと力任せに拭った。その目には、隠しきれないほどの嫌悪が浮かんでいる。でも、樹の目には、二人がいちゃついているようにしか見えなかった。そのまま一緒に帰るつもりなのだと思い、彼は悔しさにハンドルを叩きつけ、荒々しく車を走らせて家に戻った。ドアを開けるとすぐ、泉が駆け寄ってきて樹に抱きつく。しかし、樹のシャツの襟についているキスマークが目に入った瞬間、彼女の胸に怒りの炎が燃え上がった。「これ、どこの女のやつ?絶対、この前のバーにいた女でしょ!」唇を震わせながら怒る泉の様子に樹はうんざりし、もはや言い争う気力もなく、彼はさっさと書斎にこもった。リビングでは、泉が一人で狂ったように物を壊している。彼女は歯が砕けるのではないかというほど奥歯を強く噛みしめた。「あの女……絶対に後悔させてやる!」……翌日、泉は友人を通じて若葉の連絡先を手に入れると、彼女をカフェに呼び出した。会うなり泉は、自分と樹が昔からどんなに愛し合っているか、延々と語って聞かせた。若葉はコーヒーを一口飲み、軽く眉を上げる。「そんなに愛し合ってるのに、どうして結婚しないの?」その言葉は、泉の心の最も痛いところを突き刺した。泉は唇を固く結ぶ。鋭い爪がカップをこすり、嫌な音を立てる。それでも、若葉に言い返せる言葉が見つからず、勝ち誇ったような目でカフェを出ていく若葉を、ただ見送ることしかできなかった。「そっちから仕掛けたんだからね。どうなっても、私を恨まないでよね」泉は荒い息をつきながら、スマホを取り出してある番号に電話をかけた。……3日後。若葉がバーに足を踏み入れたとたん、酒瓶が一本、彼女めがけて飛んできた。とっさによけなければ、今ごろ頭が割れて血ま
Ulasan-ulasan