LOGIN「……おまえの匂いだ」
低く湿った声が、喉の奥でこすれるようにして落ちていく。
その響きは空気の中に溶け、耳の奥でじわりと滲み、胸の奥にじんと沈んだ。 その響きが、皮膚の奥をゆっくりと這い回り、喉の奥で浅い息が詰まった。「……っ、なに……おまえ……」
震える声が、無意識のうちに喉の奥で掠れた。
唇がわずかに開き、言葉を絞り出そうとしたが、乾いた空気が歯の隙間から震え混じる音を立てた。 頬がわずかに熱を持ち、その熱の上を男の視線が、無言のままじっと撫でていく。 答えを求めているわけじゃないのに、喉がひりつくように疼き、唇が震えを繰り返した。 男は答えず、ただじっと冬馬を見つめたまま、ゆっくりと顔を傾け、舌の先を伸ばした。 ざらりとした舌の感触が頬を撫で、湿った熱が皮膚に薄く滲んだ。 その瞬間、肩がわずかに跳ね、指先が膝の上で小さく痙攣し、震えが腹の奥にまで広がった。「やめろ……」
かすれた声が、喉の奥で細く零れた。
けれど、その言葉はあまりにも小さく、湿った空気に溶けて消えた。 男は耳を貸さず、ただ喉の奥で低く、湿った声を震わせながら突然、名を告げた。「――俺は、朔夜だ」
その名前が、低く湿った響きを持って、喉の奥からゆっくりと落ちる。
耳の奥でその音が重く残り、視界がじわりと滲んだ。 音の端が濡れていて、かすかに震えながら、肺の奥にまで染み込んでいくようで――息が詰まり、胸の奥がずくりと痛んだ。「……朔夜……?」
無意識のうちにその名前を繰り返していた。
声が掠れ、喉の奥で震え、吐き出された音が自分のものとは思えず、耳の奥で跳ね返る。 その音を聞いた瞬間、胸の奥がひゅうっと縮み、息を吸い込むたびに肺の奥がひりついた。「そうだ……冬馬」
男が名前を呼んだ。
それは低く湿り、どこか熱を孕み、喉の奥で転がるように響いて耳に届いた。 呼ばれた瞬間、胸の奥がまたきゅうっと縮み、目の奥がじわりと熱を持った。 声を出したくても、出せない。 息が震え、喉の奥でひゅう、と細い音を立て、肩がわずかに痙攣した。その声と匂いと熱が、確かにこの身体の奥に触れた感触として、静かに、けれど消えずに、残った。
その響きは、低く湿り、どこか熱を孕み、喉の奥で転がるようにして耳に届いた。
『冬馬』――その名前が、濡れた声の中でそっと息づき、耳の奥で小さな波紋を残した。 呼ばれた瞬間、胸の奥がひゅうっと縮み、肺の奥で呼吸が引っかかった。 息を吸い込むたび、男の――朔夜の匂いが胸の奥に滲み込み、ざわざわとした波が内側で膨らみ、喉の奥でかすかな音が擦れた。「おまえは、ここに還る」
囁くような声が、耳元に微かに触れた。
その声が、息の熱と共に肌の表面を撫で、冷たいのにどこか熱を孕んだ感触を皮膚の奥に滲ませていった。 言葉が、喉の奥でひゅうっと細く震え、吐く息に絡まるようにして、胸の奥に重たく沈んでいく。 その重さが、息を吐くたび、思い出したくなくても繰り返し蘇り、皮膚の裏側でじわじわと疼いた。 ふと、朔夜の指先がそっと動いた。 頬のラインをかすめるように、親指がゆっくりと滑り、皮膚の表面を撫でてくる。 ひやりとした夜気の中で、その指先の熱がやけに鮮明に感じられた。 わずかな圧が、皮膚の下にまで沈み、じわりとした感触が内側に滲んでおり、指先が少しだけ沈むたび、脈打つような感覚が頬の奥で微かに震え、胸の奥で小さな疼きが広がった。 視線が絡んだまま、男の瞳の奥に何かが揺れていた。 言葉にできない熱――押し殺した何かが、暗い水底のようなその瞳に潜んでいて、冬馬の心臓をひやりと掴んだ。「……やめろ……」
かすれた声が唇の間から零れたが、その声さえ朧で、濡れた空気に溶けて消えた。
朔夜は何も言わず、ただ冬馬の頬をひと撫でしてから、指先をそっと引いた。 けれど、その一瞬の熱と圧は、皮膚の奥にじわりと沈み、消えなかった。 頬の薄い皮膚がじんわりと熱を残し、その上に冷たい夜気が触れたとき、そこだけがひりつくような感触を持った。 その名残が、じっと皮膚に焼き付けられたように、消えなかった。 朔夜は、身体をゆっくりと引き、名残惜しそうに冬馬の頬を一度だけ見つめた。 その視線が、皮膚の下の奥深くにまで何かを刻みつけるようで、息が浅く震えた。 そして、男の輪郭が煙の向こうでぼんやりと揺らぎ、森の奥へと溶けていった。 草木の影に沈み、夜の中に消えるまで、冬馬は目を逸らせなかった。 息が細く震え、膝の上で握りしめた拳が白くなる。 吐き出した息が、夜気に触れて細い白い線を引いた。 頬に残る指先の感触と、ざらりとした舌の名残が、夜気の冷たさに触れ、じんわりと沈んでいく。 けれど、完全には消えず、皮膚の奥にじっとりと染み込んでおり、喉の奥に滲んだ匂いが、息を吸い込むたびにまた微かに蘇り、胸の奥で小さなざわめきが波打った。 遠くで、低い遠吠えのような音が、細く、長く、夜気を震わせた。 その音が、まるで背骨の奥にまで届くように響き、胸の奥がずくんと痛んだ。「やっぱり、あれは夢なんかじゃない……」
震える声が、喉の奥で小さく掠れた。
静かに震えている指先をそっと頬に当てると、まだ熱がわずかに残っている気がして、ひやりとした息が唇の間から漏れた。 胸の奥でざわめきが静かに波打ち、肩をすぼめ、腕を胸元で抱えるようにして、震えを抱きしめた。――夜が、深く、重たく、降り積もっていった。
坂道を下り、山の裾に広がる小さな集落に足を踏み入れたとき、空気が僅かに湿っている気がした。 昼間のはずなのに、雲が薄く広がり、陽の光はどこかくぐもり、瓦屋根の影が薄暗く地面に滲んでいる。 家々の壁はどこも煤けて色褪せ、軒先の植物もどこか元気がなく、息を潜めるように佇んでいた。 玄関先で箒を持つ老婆が、こちらをちらりと見ていたのだが、その視線はほんの一瞬で、すぐに地面へと落とされ、口元が小さく引き結ばれた。 他の村人たちも同じで、こちらが近づくと、わずかに肩をすぼめ、視線を逸らし、声を潜め、ただ作業の手を止めずにいる。 鍋を洗う水音、箒の掠れる音、靴音が湿った土を踏む微かな音。 それらが、妙に遠く、けれど耳の奥で張り詰めたように響いた。 その空気に、喉の奥がひりつき、思わず唾を飲み込む音がやけに大きく耳に残った。 浅い息を一つ吸い込み、震える指先を胸元で握る。「……あの、祖父のことで、少し……」 声が掠れ、喉の奥で途切れた。 自分でも息を呑むように言葉を飲み込み、唇の端がわずかに引きつるのが分かった。 けれど、家の軒先で縁側に座る年老いた男が、ゆっくりと顔を上げた。 土の匂いが混じるような空気の中、深く刻まれた皺の奥に、濁った瞳がわずかに光を含んだ。 口元がかすかに動き、湿った吐息が洩れた。「ああ……おじいさんのことなら、まあ……」 言葉の端がぼそりと途切れ、そこから先は小さな溜息のように流れ、濁流のように曖昧に溶ける。 何を言いたいのか、何を言いたくないのか、その輪郭が掴めない。 無理に続きを待つように視線を向けると、男の瞼が一度、重たく伏せられた。「……あの人も、長いこと……あの山に……な……」 途切れ途切れの言葉の間で、老婆が小さく咳払いをし、手元の箒の動きを止め
男は、すぐ目の前にいた。 肌が触れそうなほど近く、湿った吐息が喉の奥で低く震え、細く浅い呼気が冬馬の頬を掠めた。 そのわずかな風のような温度さえ、皮膚の奥まで染み込んでくる気がして、ひやりとした寒気が背中を這い上がった。 目を逸らしたいのに、逸らせない。 視線が絡んだまま、息が詰まった。 吸い込もうとした空気が胸の奥で細く詰まり、喉が渇いてひりつき、唇の端がわずかに震えた。 その震えが頬へと広がり、浅く息を吸い込むたび、かすかな音が喉の奥で鳴った。 それが自分のものだと気づいた瞬間、さらに強く胸の奥がざわめき、声が出せなくなった。 男の顔が、さらに近づく。 わずかに傾いだ影が煙の向こうで揺れ、肌のすぐ近くで息づかいが濃くなった。 鼻先が冬馬の頬のすぐ近くを掠め、浅く、湿った呼気が肌に触れた。 その瞬間、ふわりと鼻腔を満たしたのは、雨に濡れた獣の匂い。 湿った土と草の匂いの奥に、わずかに血と鉄の生臭さが混じり合い、胸の奥にまで染み込んでいった。 息を吐くたび、その匂いが肺の奥で渦を巻き、じくじくとした疼きを残した。 男はそっと鼻先を寄せ、頬のすぐ近くで浅く息を吸い込んだ。 その音が、ひゅう、と湿った気配を含んで耳の奥で響き、その熱が薄い皮膚を撫でる。 目を閉じることも、拒むこともできず、ただ身じろぎもせずに受け止めるしかなかった。「……おまえの匂いだ」 低く湿った声が、喉の奥でこすれるようにして落ちていく。 その響きは空気の中に溶け、耳の奥でじわりと滲み、胸の奥にじんと沈んだ。 その響きが、皮膚の奥をゆっくりと這い回り、喉の奥で浅い息が詰まった。「……っ、なに……おまえ……」 震える声が、無意識のうちに喉の奥で掠れた。 唇がわずかに開き、言葉を絞り出そうとしたが、乾いた空気が歯の隙間から震え混じる音を立てた。 頬
薄暗い夕方。 雨が止んだあとの空気はまだ重たく、じっとりとした湿気が縁側の木の板に染み込んでいた。 座り込んだ腰の下から、薄く冷たい感触がじわりと伝わってくる。 ふう、と小さく息を吐き、タバコの箱を手のひらで軽く叩いた。 指先が微かに震えていて、箱の端がひしゃげ、紙の感触がひどく指に残る。 一本を取り出し、咥え――唇の端が乾き、微かに切れて、紙の感触がざらつきを伝えた。 ライターを擦ると、ぱち、と小さな火花が弾けた。 その音が、やけに耳に残る。 炎の先がちらりと揺れ、タバコの先に赤い火が灯った。 吸い込むと、肺の奥が熱を持ち、じんと鈍い感触が広がり、細い煙を吐き出すと、それがゆっくりと空気の中で漂い、ふわりと上へ消えていった。 その煙の向こうで、ふと――何かが視界の端で揺れた気がした。「……誰……?」 小さく、掠れた声が喉の奥で零れた。 すぐに答えが返ってくるはずもないと分かっていたのに、唇が勝手に動いていた。 鼓動が、喉の奥で重たく響く。 手の中のタバコが微かに揺れ、煙がふわりと揺れた。 その奥に――いた。 森の縁に、じっと佇む影。「……あ……」 小さな声が喉から洩れ、震えた。 指先が冷たくなり、膝の上で無意識にぎゅっと握りしめた拳が震えた。 煙が視界をぼやかし、湿った空気が鼻腔に薄く絡む。 その奥から、野生の匂い――雨に濡れた獣の、微かに生臭さを含んだ匂いが、じんわりと胸の奥に滲みてきた。 男が、森の奥に立っていた。 無言のまま、ただ、じっとこちらを見ている。 その視線は鋭いわけではなかった。 けれど、目の奥に潜んでいる何かが、言葉にならない重さでこちらの胸の奥にのしかかってくる。 怒りか、渇望か、それとも……もっと別の、形のない何か。 分からない。 分からないのに、胸の奥がきゅう、と縮み、息が浅くなる。「……なんで……」 声にならないような小さな声が、喉の奥で掠れた。「……また……」 何か言おうとしたが、言葉が喉に引っかかり、うまく出てこなかった。 震える指で、タバコの先端を灰皿に押しつけ――じゅ、と煙が立ち、焦げた匂いが鼻をかすめる。 指先が白くなるほど力が入っていることに気づき、そっと手を開く。 でも、手の震えは止まらなかった。 男が、ゆっくりと近づいてきた。 一歩、また一
身体が重い。 ただの疲れじゃない。 背中の奥がじわじわと火照るようで、逆に手足の先はどこか冷たく、熱と冷たさが皮膚の下で混じり合いながら、ゆっくりと絡まっていくようだった。「……はあ……」 小さく吐き出した息が、思った以上に掠れていた。 喉が乾いている――けれど、その渇きはただの乾きじゃなく、何かを噛み締めたあとに残るような、じっとりとした痺れを含んでいた。 胸の奥で鼓動が、まだ静かに、けれど確かに響いていた。 耳の奥で、じくりとした鈍い音が絡みつき、頭の芯をじわじわと熱くする。 祖父の遺品を整理しようと、居間の隅に置かれた古びた棚を引き寄せた。 木の表面はざらつき、角が丸く擦り減っていて、触れる指先に古い木の匂いが移った。 引き出しを引くと、ぎい、と軋む音が狭い部屋に響き、思わず肩が小さく跳ねた。 音が、妙に大きく聞こえ、壁や床に反響して、耳の奥にじわりと沈んでいく。 引き出しの中から出てきたのは、見覚えのない古びた骨董品の数々だった。 小さな木箱、煤けた紙に包まれた何かの欠片、埃をかぶり、微かに黄ばみを帯びた紙の端が、指先にふれるたび、ざらりとした感触を伝えてくる。 そして、その奥に――白く尖ったものが、ひっそりと潜んでいた。 獣の牙のような、けれど何の牙かも分からない、不確かな形をしており、同じように埃にまみれ、長い時間を閉じ込めたように沈んだ色をしていた。 それを思わず手に取った瞬間、掌の奥に、ひやりとした冷たさがじわりと広がった。 冷たいのに、じんわりとした感触が皮膚の下へと沈み、そこから細い棘のようなものがじわじわと広がっていくような錯覚を覚える。 指先がかすかに震え、喉の奥がひゅう、と細く鳴った。 背筋に、ぞわりと冷たいものが這い上がる。 背中の奥、肩甲骨の間あたりに、じっと張りつくような視線のようなものが、重たく、ひやりと留まった。 振り払いたいのに、身体は固まったまま、息が浅く、胸の奥で微かに引っかかる。「……っ、何の、牙だ……?」 掠れた声が、喉の奥で引っかかり、息と混じって震えた。 喉がひりつき、唇が乾いて、舌先がかすかにひりつく。 どうして、こんなものが――何で、こんなものが、こんなところに。「……なんなんだよ、これ……」 思わず零れた声は、自分の耳にさえ遠く、頼りなく響いた。 それ
薄い光が、瞼の裏にじんわりと染み込んでくる。 閉じたまぶたの奥で、朝の色が淡く滲み、ぼんやりと揺れていた。 意識は深いところからゆっくりと浮かび上がり、肺の奥で湿った息が小さく震えた。 喉が乾いている――けれど、ただの乾きじゃない。 そこに、じんわりとした熱が残っているような、奇妙な感覚があった。「……っ」 小さく息を吸い込み、掠れた声が喉の奥で引っかかった。 何か言おうとして、けれど言葉にはならず、また浅い呼吸に混じって消えた。 唾を飲み込むと、喉の奥に微かな痛みが走り、その奥に残る熱の痕跡が、息のたびにじわじわと広がるようだった。 ゆっくりと瞼を開けると、障子の隙間から薄曇りの朝の光が、細い線を引くように差し込んでいた。 天井の木目が、かすかに揺れる視界の中でぼんやりと滲み、古びた木の匂いが、ひっそりと鼻腔に満ちていった。 雨は……止んだんだろうか? それとも、まだ降っているんだろうか――分からなかった。 ただ、部屋の空気は湿り気を帯びていて、畳に触れた指先がじんわりと冷たさを吸い込んでいった。「……何だよ、これ……」 低く、かすれるような声が、誰にも届かず、天井の木目に向かってこぼれ落ちた。 自分の声が、ひどく遠く、別の誰かのもののように感じられる。 頭をわずかに動かすと、首筋の奥に、重たく沈むような疼きが残っていた。 寝違えたような一過性の痛みじゃない。 もっと、じっとりとした――夜を引きずるような、深く沈んでいく疼きだ。 息を吸い込むと、肺の奥で何かがざわめいた。 湿った匂いが、うっすらと広がる。 雨の匂い。 土の匂い。 そして、その奥に、獣のような匂いが薄く残っていた。「……っ、何だよ……これ……」 唇が乾き、震える声が喉の奥でかすれて消えた。 震える指先を髪に伸ばすと、根元に残る湿り気に、指がわずかに絡まった。 それは雨のせいじゃない。 もっと近く、肌の奥にまで触れたものの残り香だった。 皮膚の上に、髪の奥に、じっとりと絡みつくように纏わりついている。 それが外の森から流れてきたものじゃないことを、冬馬は本能でわかっていた。「……夢、じゃ……ないのか……?」 声が震え、吐息に混じってかすれた。 胸の奥がきゅうっと縮み、息が浅くなる。 吐き出した息にすら、その匂いが微かに混じってい
「――やっと、戻ってきたんだな」 誰かが、そのように呟いた声が聞こえたような気がする。 腕の中に抱え上げられる感覚があった。 身体がゆっくりと浮き上がり、何かに包まれるような熱が背中にじわじわと染み込んでくる。 空気の冷たさに触れていたはずの皮膚が、別のものに覆われ、押し当てられるようにじんわりと重みを帯びていく。 それは焚き火のような一方的な温もりではなく、もっと湿度を含んだ、生々しい体温だった。 血が流れ、鼓動が響く、その『生』の感触が、布越しにじかに伝わってくる。 胸元に頬が触れた。 濡れた生地の冷たさが一瞬、ひやりと肌に当たり、思わず浅い息が喉の奥で震えた。 けれど、その冷たさの奥から、じわりと滲み出すように熱が広がり、まるで染み込むようにして肌の奥へと入り込んでくる。 冷たいのに、熱い――その曖昧な感覚に、思考が追いつかない。 ただ、頬に触れるその場所が、自分のものではない別の存在によって埋められていくようで、胸の奥にかすかな痺れが残った。 浅い呼吸が、朦朧とした意識の中で細く震える。 吐息をこぼしたとき、耳のすぐそばで低い声が、濡れた空気を震わせた。「……おまえの匂いだ」 声は低く、湿っていて、掠れ、けれどひどく熱を孕んでいた。 それは言葉の形をしているのに、言葉以上のもの――吐息の熱、喉の奥で擦れた音、息の流れ、唇の動き。 そのすべてが混ざり合い、鼓膜に直接触れるように、耳の奥で震えた。 意味を理解するよりも早く、声そのものが胸の奥に落ちる――それはまるで、長い間探していたものをやっと見つけた、そんな安堵にも似た響きを含んでいた。 けれど、そこに滲むのは安堵だけじゃない。 もっと深く、重たく、引きずるようなもの――欲望にも似た、諦めきれない執着が、その一言の奥に潜んでいるような気がした。 鼻先が、頬から耳元へとゆっくりと滑り、髪の根元に触れた。 湿った毛先が肌にかすかに触れ、そのたびに、かすかな吐息がふう、と肌の表面を撫でた。 喉の奥で低く鳴る音が、微かに唸るように響き、肺の奥までじんわりと染み込むようで――獣が、獲物の匂いを確 かめるように。 それはまるで、自分のものを見つけ出し、確かめるような動作だった。 鼻先が髪を梳くたび、浅い呼吸が小さく震え、その震えを、抱く腕が感じ取っている気がした。 皮