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第16話

last update Last Updated: 2025-12-31 20:00:00

「……っ」

あまりの距離の近さに、私は息を呑んだ。

心臓が、激しく脈打つ。

氷室様が、こんなふうに笑うなんて……。氷室様も、感情を持つ一人の人間なんだ。

当たり前のことなのに、彼の完璧な冷徹さに慣れていた私は今、初めてその事実に気づいた気がした。

「来てくれてありがとう」

氷室様は、デスクの上の山積みの資料を少し寄せ、スペースを作ってくれた。

「ここに置いてくれ」

私は、胸の奥で温かさを感じながら、バッグから夜食を取り出した。

おにぎり3個。鮭、梅、昆布。温かい味噌汁を入れた保温ジャー。小さなタッパーに入れた、故郷の母の味を真似た漬物。

「おにぎりなら、キーボードを叩きながらでも片手で食べられると思って。スープは、体を温めてくれるように具沢山の味噌汁にしました」

「助かる」

氷室様はおにぎりを手に取った。真っ先に、梅を選んだ。一口、頬張る。

「……梅か。疲れているときは、この酸味が一番効く」

そう言って、彼はまた一口、大切そうにおにぎりを口に運んだ。

咀嚼する音が、静かな部屋に響く。

私は、息を詰めて見守る。美味しいかな?

氷室様は、黙々と食べている。そして、わずかに目尻を緩めて──。

「……美味い」

ぽつりと、小さく呟いた。

飾り気のないその言葉が、何よりも嬉しかった。まるで、一番のご褒美をもらったような気持ち。

私は、隣のソファにそっと腰をおろした。

窓の外は、都心が一望できる。この高さから見る景色は、まるで宝石箱のようだ。

氷室様はおにぎりを食べながらも、視線は資料から離さない。時折、キーボードを叩くカチャカチャという乾いた音が聞こえる。

「スープは熱いので、気をつけてください」

「ああ」

静かな社長室。時計の秒針の音だけが響いている。

不思議な時間だった。こんなに静かで、

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