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第27話:セルフィの思い

Author: 大正
last update publish date: 2026-05-09 07:00:08

 side:セルフィ

 奇妙なお兄さん……私のご主人様、タカナシさんとの生活も二日目になった。思えば、初日にいきなり剣を持たされてさあ、振ってみろと言われたのはかなり無茶だった気がします。

 でも、剣を持たされた私は急に世界が広がったように見えて、そしてモンスターの動きもゆっくりに見えて。まるで剣が私を欲していたかのように動き出すことができました。

 戦うのは初めてだったけれど、それでもこの上なくうまくいった気がします。これが剣聖というスキルの効果だったのでしょう。

 私にそんなすごいスキルが付属していたのはびっくりですが、父の同郷の人間だったという理由だけで私を引き取ると言い出した、その度胸にもすごいものがあります。

 おそらく、同郷なのはほんとうなのでしょう。父が黒髪黒目であったという話とも一致しますし、でも、父は遊び人だったそうですから、もしかしたらその尻拭いに現れたのかもしれません。

 とにかく異世界? という別の世界から来て、あと300日ぐらいすればその異世界に帰ってしまうそうですので、それまでに私を独り立ちさせて、立派な冒険者として、もしくは一人でも暮らしていけるように色々と整えてくださるそうです。

 しかし……私もその間に捨てられないようにとは言え、できるだけ友好的な関係を築こうとしなければなりませんね。いくら借金奴隷とはいえ、反抗的な態度やギリギリできる範囲での拒否を続けているようでは、また奴隷商に逆戻りさせてしまうかもしれません。

 あそこにいるよりは、まだご主人様のそばにいるほうがいろいろと楽です。

 なにより、三食きちんと食べられて体も拭けて、自分のベッドで眠れるという幸せに比べればそれぐらいたやすいことです。私も、きちんと学んで真似できるところは真似していかないといけません。

 本人は気づいていないようですがご主人様はいくつもスキルを持っているそうです。

 ひたすら歩き続ける能力や暇つぶしができる能力、高速で計算ができる能力、戦闘にすんなりなじむ能力、それから、まだまだ色々知っていることも多そうです。

 きちんと生活費を計算しながら生活できているようですし、しばらく食べていくには困らないだけの計算はできる様子ですので、私ともども暮らしていくことはできるでしょう。

 何より、ご主人様は私を奴隷扱いしていません。食事も一緒のタイミングで取りますし、その……着替えやお湯を借りるのにも一緒のほうが都合がいいとはいえ、同じ桶を使いますし、奴隷ごときがご主人様と同じ待遇で生活できると思うな、といった一般的な奴隷の扱い方を承知してないように思えます。

 本来奴隷なら、よほどの理由や時間がないなんて話ではない限り、奴隷と共に食卓を囲むなんてことはあり得ません。一部の商人や時間がない役人なんかだとあり得る話ではある、とは聞いていますが、そのあり得ないことを普通にあり得る話にしてしまっているのがご主人様です。

 何を考えているのか、それとも何も考えてないのか。もしかしたら、普通に奴隷から解放した気分になっているのかもしれません。

 まだ私は名目上奴隷です。奴隷から解放するには手続きと奴隷から解放する理由、それから奴隷解放にかかる手続きの代金を支払わないといけません。そこまでの支払い能力があるんでしょうか。

 まだそこまで稼げるかわかりませんけど、自分を奴隷から解放するためにも、そして私が奴隷のまま置いていかれてまた一人ぼっちになっても大丈夫なように、しっかり稼いで役に立って、みんなの役に立たなければなりません。

 剣聖の力があるから、モンスター狩りはできる。体は勝手に動いてくれるし、どうすれば倒せるかも分かる。後は、こんな時間がずっと続けばいいなと思っている。ずっとは続かないのは最初の日に教えてくれているのに。

 なんだろう。胸の中からフワッと浮き上がるような、温かい感触が自分の中にある。背中を拭いてもらった時も感じたような、その感触は人の温かみというものなんだろうか。

 母のことはあまり好きにはなれなかったけど、それでも母の悪口は許せなかった。それが自分を仮にも育ててくれた恩と、この人から生まれたんだ、という生きているというありがたみからだっただろうか。

 結局母は生活費を賄いきれずに私を手放す結果になったけれど、私は母を恨んではいない。恨むなら父だろう。私を作るだけ作って、自分の時間が切れたからって、おそらくご主人様と同じ異世界に帰って、今でものほほんと暮らしているのだろうか。

 もし出会うことがあるならば今までの分のお小遣いと数発ぶん殴るぐらいは許される気がする。でもきっと、父にもこっちの生活以外にもあっちの生活があって、異世界というところには家族もいて、奥さんもいるのかもしれない。そう思うと……何しに来たんだろう。

 ご主人様もそうだが、この世界に何をしに来たんだろう。暇つぶし? その割には暇なく働いている。今日も昨日も日暮れぎりぎりまで働いて、しっかり働いていらっしゃる。お休みとは何なんでしょうか。

 本当にこの人がお休みをもらうために異世界まで来たんだとするなら、きっと普段はもっと重労働や奴隷労働というにはよほど口に出せないような厳しい環境に身を置いているのかもしれません。

 ご主人様は私にはとことん優しいです。もしかしたら他の人にも優しいのかもしれませんが、少し歳の近い娘としてみてくれているのかもしれません。だとしたら、甘えていいんでしょうか。

 甘えすぎて突然豹変して「奴隷の分際でいい顔をするな」とか言い出さないですよね。その辺の境目をうまく探っていく必要がありそうです。私の人生がかかっています。しっかり探って怒られないようにしたいですね。

 今のうちは、どんな反応にもちゃんといい子だなって思ってもらえるようにしましょう。なでなでされたら嬉しそうにして、褒められたら素直に応じて、ご主人様の頑張りにはきちんと頑張りを褒める。この方針で行こう。

 後は……あとは何をするかわからないご主人様ですから、変なことをし始めたらそれをしっかり見定めて、何を求められているかをはっきり受け取る必要がありそうです。

 後300日ほど、もしかしたらもっと早く抜け出させるかもしれませんが、タカナシさんの奴隷でいる間は素直に求められるものを差し出せるようにしないといけません。でも、もし体を求められたらどうしましょう。さすがにそんなそぶりは見せませんでしたが……

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