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毒占欲番外編:束縛される夜

Author: 相沢蒼依
last update Last Updated: 2025-07-26 19:50:14

 毒占欲番外編でこれから書く小説【モテ星座】で稜くんの恋人克巳さんが、蠍座であるのをちゃっかり書きます(・∀・)。

 蠍座は12星座中、束縛ランキングが第1位!

 蠍座の愛は白か黒か、疑わしきは束縛すべし!

(うんうん、きちっきちに麻縄で縛りあげるな(´∀`)って、これってば、ただの拘束じゃん!)

 研ぎ澄まされた洞察力が、束縛心に火をつける!

(そうだね、蝋燭に火を点けてぽたぽたしちゃうかも)

 蠍座は「ゼロか100か」「白か黒か」思考が両極端になりがちです。つまり蠍座にとって、愛と憎しみは常に隣り合わせ。

 可愛さ余って、憎さ100倍の感情に切り替わることは日常茶飯事。加えて、ほかの追随を許さないほど洞察力に長けているため、恋人のちょっとした変化もすぐに察知します。

「もしかして、意識が自分以外に向かっているかも」と気づいた途端に、己の情念に任せたドロドロの束縛感情が、ひょっこりと顔を出すでしょう。

 ちなみに恋愛合理主義ランキングは12星座中、最下位です(・∀・) その結果は、上記に現れているから。

 蠍座の恋愛は合理主義からかけ離れた、ドロドロ愛憎劇となる傾向が強く、蠍座本人もドロドロでなければ、恋愛している気がしないらしい。

 まぁ、こういう洞察力やドロドロの愛憎劇を経験してるからこそ、いろんなモノが書けるんです(ノω`)

 面倒くさいヤツでごめんなさいと、謝り倒してばかりの蠍座作者ですが、お付き合い戴けたら嬉しいです。

***

「バレンタインの日くらい、一緒に過ごしたかったな」

 ときとして、自分のやってる仕事がひどく恨めしくなる。それでも克巳さんが『稜が一番よかったよ』なんて褒めてくれるから、文句を言いつつも頑張っちゃうんだよね♪

「ただいま~!」

 鍵を開けて、家の中に響くように声をかけた。なのに、いつもならすっ飛んでくる克巳さんが、今日に限って出て来ない――。家に明かりがついてるし、テレビの音も聞こえてるから、在宅なのはわかってる。タイミング悪くトイレかも?

 何か調子狂う……。離れてた距離を埋めるように、玄関で襲われるのが当たり前になっていたから。

 手に持ってるボストンバックが、急に重たく感じた。まるで今の俺の心みたい。

「やだな……。いつもと違うだけで、こんなふうに揺らいでしまうなんて。俺らしくもない。明るく振る舞わなきゃ」

 リビングへと続く扉を開け放つと目に映ったのは、ソファに座ってなにかを読みふけっている克巳さんの背中だった。

「あの、ただいま……」

(真剣になにかを読んでいたから、俺の声に気づかなかっただけなんだよね?)

 ボストンバックを足元に置いて、克巳さんの傍に行こうとした。行こうとしたんだけど、振り向いたその顔つきがえらく厳しいもので、ぴたりと足が止まってしまう。

「……お帰り稜」

 低い声色で告げられた言葉は、感情がないみたいだ。なにがいったい、どうしてしまったというのだろう?

「あの……どうしたの克巳さん? 俺ってばなにか気に触ることでも、知らない間にしちゃったのかな?」

 留守中の連絡を怠ってなかったし、自分の気持ちを常に伝え続けていたし、浮気だってもちろんしちゃいない! だから、こんな態度をされる覚えはない――。

「稜、君のそういう無自覚なところ、本当にイライラさせられるな。これはいったいどういうことなのか、きっちりと説明してほしい」

 持っていた本らしきものを、投げつけるようにテーブルに置く。それは、今日発売された週刊誌だった。

「あ……これって――」

【今週のスクープ! 葩御稜に新たな恋人発覚!? バレンタインの聖なる夜に、一緒に過ごしたお相手】

 こういうイカサマな記事で、毎度のごとく恋人をでっち上げられ、俺と噂された相手は一時的ではあるが、脚光を浴びる。

「バレンタインの日、浮気はしてないって電話で言ってたが、実際はどうだったんだろうか」

 ソファに座ったまま腕を組み、テレビを見たまま言い放つ克巳さん。偶然なんだろうけど、そのテレビには俺が出ていて、バカ騒ぎしているバラエティ番組の様子が、今の雰囲気をぶち壊すには、持って来いの材料にしかならなかった。

 でもおかしい――こんなこと日常茶飯事になってるのに、今さら不機嫌になって突っ込んでくるなんて。

「えっとね、なんかタイミング悪いところを激写されちゃったみたいで。それは違うんだ。あのね」

「……タイミングか。記事にするには、バッチリだったってことだろう? 狙われてるのがわかっていて、わざわざ行動したワケなんだ」

「だって、帰るホテルが同じだった。それだけなんだよ! それに写ってるの、二人きりみたいな感じになってるけど、他の共演者もいたんだよ。克巳さん信じてってば!」

「だから安心しきって、かわいい女のコとふたりで並んで、楽しそうに歩いていたということか」

(克巳さんが言うことに、いちいちトゲがありまくる。らしくないな……。他にもなにかあるんじゃないのか!?)

「あのね克巳さん、俺はアナタだけだよ。アナタ以外、誰も欲しくないし、いらないから」

 もしかして毎回誰かと噂されている状態が、克巳さんの心に強いストレスになったのかもしれない。長期間じゃないけれど離れている間に、疑心暗鬼になってしまったのかな。

 相変わらず座ったまま、こっちを見ようともしない彼の肩に、そっと手を置いた。振り払われたら立ち直れないかもとびくびくしながら、肩に触れ続ける。

 てのひらに伝わってくる、克巳さんの体温。ずっと触れたくて堪らなかったのに、今の状況は最悪すぎて切なくなった。しかも相変わらず無視したままは、俺としてはつらすぎるよ。

「稜……」

 眉間にシワを寄せて振り向き、やっと俺の名を呼んでくれた。

「な、に?」

 このイヤな空気を、どうしたら良くできるんだろう? 謝ればなんとかなるのかな――ムダに心臓がバクバクしてる。

 克巳さんは肩に置いていた俺の手をぎゅっと掴むと、一気に引き寄せる。そのまま克巳さんの上に跨ってしまう形になって、内心慌てふためいた。

「浮気してない証拠、今ここで見せてごらん」

 俺の下で意味深にほほ笑みながら、頬をそっと撫でてくれた。

 浮気してない証拠って、今はすっげぇヤバい。だってここに来る前に、こっそりとヌいてしまったから。いつも早くイってしまう自分をなんとかすべく、先手を打ってみたのに――だからいつもと違うのが、バレてしまう可能性が大。

 多分どんなに頑張っても、アッチが大にならないという(涙)

 どうしよう――。

「どうしたんだい? なにか都合の悪いことでも、隠しているみたいな顔してるけど」

 Σ(゚Д゚;)ギクッ

「やっ……、そんなことないよ、あはは! どうやって証拠を見せようかと、アレコレ考えてたんだ。ほら俺ってば、エンターテイナーだからさ」

 誤魔化しきれない下半身の事情を、どう表現してやろうか。よりによって、タイミングが悪いにも程があるよ。

「なにをしてくれるんだろう、楽しみだね」

 喉で低く笑いながら告げられる言葉に、うっと顎を引くしかない。

(――と、とりあえずここは無難にしてみよう……)

 邪魔になる長い髪を耳にかけながら、克巳さんの顔に近づいた。薄い唇に向かって、キスをしようとしたら、肩をぐっと掴まれてしまう。

「!!」

「そんなことで、浮気してないって証明がちゃんとできるのか? 安易だよ稜」

「克巳さんにとっては安易かもしれないけど、俺にとっては大事なことなんだよ。アナタとのキスはその……」

 気持ちイイだけじゃなく、愛を感じるから。伝わってくるんだ、俺のことが好きだって。

「余計な言葉を塞ぐため?」

「ちがっ、そんなんじゃなく俺は――うっ!」

 反論が見事に塞がれてしまった。だっていきなり下から腰を動かして、克巳さん自身を感じる部分に、ぐりぐりっと押しつけられてしまったから。

 既に形を変えてるソレに、否応なしに感じてしまって、勝手に息が上がってしまう。

「俺はの次は……何だい?」

 いつもなら流れるように言葉が出てくるのに、克巳さんから放たれる無言の圧力が、俺の言葉を奪っていく。目つきが鋭いんだ、まるで責めているみたいに。

 下唇を噛んで固まる俺の左手首を掴むと、人差し指を口に含んだ。

「ぁあ…ん、っ……克巳さ……」

 くちゅくちゅと音を立てて吸いながら、舌を絡ませつつ、じっくりと舐めあげられると、呼吸が勝手に乱れてしまう。

 身体が熱い――俺も克巳さんに触れてあげたい。感じさせてあげたいから……。

 散々舐られて透明な糸を引く自分の人差し指を見て、同じようにしてあげようと、克巳さんの手を取った。だけど振り払われて、虚しく空を掴む。

「克巳さん……」

(イヤだ、こんなの。なんだか俺だけ興奮して、すれ違ってるみたいだ。一緒に感じたいのに――)

「稜、反省してる?」

 脇腹から、ゆっくりと下りていく克巳さんの両手。布越しでも伝わってくるその熱さとか、触れられているゾクゾク感で、気がおかしくなりそうだ。

「ンンッ! は、反省し……ふぁ、っ」

 下りきった両手で大腿骨を撫でてから、ギリギリのラインを描いて、太ももに伸ばされた。触れてほしいトコに触れず、イジワルをする克巳さん。これも、反省させるためなんだろうか?

「そんなモノ欲しそうな顔しても、コレはあげないよ。反省していないようだからね」

 そう言いながらも、下から容赦なく突き上げられた。そんなことをされたら、なんとしてでも、克巳さんが欲しくなるじゃないか。

 相変わらず両手は太ももをゆっくりと撫で擦っているだけで、それ以上のことをしてくれない。

 つらすぎる――心も身体もこんなに、克巳さんを欲しているのに!

「お願いだ、から……反省するか、らっ…んっ、克巳さ…んをちょう……だ、い……」

「ふぅ、困ったコだね君は。ここまでしないといけないとは、存外ガンコなんだな」

 よいしょと言いながら起き上がって、ぎゅっと俺の身体を抱き締めてくれた。髪を梳くように、優しく頭を撫でる。

「克巳さん?」

「ごめんなさい、これから気をつけます。の謝罪は?」

「きっ、気をつける、絶対に! ゴメンなさい!」

 畳み掛けるように話しかけられたので慌てて答えると、克巳さんは俺の頭に顎を乗せて、やれやれと小さく呟いた。

「マネージャーさんが俺にグチるのが、すごくわかる気がするよ。全然コトの重大さを、理解していないんだから」

「俺のマネージャー?」

 克巳さんのあたたかさを実感しながら、安心してぎゅっと抱きついたら、強く抱きしめ返してくれた。

「そうだよ。稜のイメージダウンに繋がるような相手と噂されたらどうしようって、いつも冷や冷やしているんだよ。もう少し考えてあげなきゃ、彼がかわいそうだ」

(もしかして、俺のマネージャーのことを考えて反省させるべく、今まで演技していたのか!?)

「克巳さんすげぇ! すっかり騙されちゃったよ。ねぇ、俳優にならない?」

 はしゃいで言った俺の頭を、克巳さんはコラッと怒って軽く叩いた。

「これからちゃんと、周りに気をつけて行動すること。わかったね? それに俺は君のように、器用な人間じゃない。なので俳優は無理だよ」

 よいしょっと横抱きしてから、ゆっくりと立ち上がり、寝室に連れて行ってくれる克巳さん。

 俳優の件、すっげぇ残念だな。

「これからが本番。反省しながら感じてくれ」

「なんだかなぁ、それ……。反省はするけど終わってからでいい? 克巳さんをじっくりと感じたいし」

「わかった、本当にしょうがないコだ。ちゃんと反省するんだよ」

 念を押されて言われたので、きちんと反省することを決意したけど、それは次の日のお話になることを、俺は知る由もなかった。

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     テレビ局の裏口からひょっこり顔を出すと、なぜか外に克巳さんが待っていた。「やっぱり……ここから出てくると思った」 柔らかい笑みを浮かべて、俺を出迎えてくれたんだけど――作り笑いみたいなその笑い方に、妙な引っ掛かりを覚える。「あれぇどうしたの? 克巳さん仕事は?」 自分の抱いた違和感を悟られぬように、いつも通りに振る舞うべく、おどけた声を出しながら、かけていたサングラスを頭にズラして、その顔を見上げた。「昨日重大発表するんだって、メッセージをくれたじゃないか。気になって、仕事を休んでしまったよ」 変わりのない俺を見て安心したのか、作り笑いがなくなり、明るい声で返事をしてから、バシンと背中を強く叩かれた。「痛っ! まったく克巳さんってば、俺に容赦ないんだから」 背中の痛みにちょっとだけ顔を歪ませつつ、意味ありげに上目遣いで見つめた。たちまち頬を染める顔色に満足する。 こういうところで、自分に対する気持ちを確かめちゃうのは、あまり良くないんだろうけどね。でも確かめずにはいられなかった。久しぶりの再会だったから、なおさら――。 結局、森さんとリコちゃんは殺人未遂で逮捕され、俺は刺されたキズのせいで一ヶ月あまりの入院生活を送った。路上で行われた愛憎劇が周囲にいた人たちのスマホでしっかり撮影されていたらしく、ネットで大量にバラまかれてしまった結果、入院中はテレビや週刊誌に、俺の名前が出ない日はなかった。 失恋やらいろんなことで心が痛んだけれど、そんなボロボロの俺を克巳さんが献身的に傍で支えてくれたおかげで、こうやって立ち直ることができた。 今はそんな彼を心から愛しいと想える、自分がここにいる――。「入院中に克巳さんが差し入れしてくれたジュエリーノベルって雑誌、気に入った作家ができたんだよ。その作家が本を出す関係で今度対談するんだけど、一緒に来ない?」  左腕にそっと腕を回して、大好きな彼に寄り添う。触れたところから伝わってくるぬくもりが、すっごく心地いい。「……仕事の休みが、うまく取れたらね」 ほほ笑み合い、ゆっくりとふたりで歩き出した。人通りが多いところに出るので、顔バレを防ぐべくサングラスをかける。「それにしても稜、君は人の心をいちいちかき乱すのが得意なんだな。お得意のパフォーマンスなんだろうけど、あれじゃあ現場の人たちが大変だろう?

  • 欲しがり男はこの世のすべてを所望する!   act:ゲイ能人・葩御稜として③

     稜が『大事なことをテレビで暴露するかもしれないよ♪』というメッセージを送ってきたせいで、どうにも気になった俺は銀行を休み、テレビ局の裏口で待機していた。ここで待機していても、彼に逢えるかどうかわからない――表の玄関から出てしまったら、そのまますれ違いとなってしまうだろう。 マスコミがおもしろおかしく誇張をした報道のせいで、世間の目がまだ稜に対して冷たい視線を向けている最中に退院。その後、芸能界に復帰するために迷惑をかけた関係各所に、謝罪行脚をしていると電話をもらったきり、連絡が途絶えてしまった。メールをしても返事が来ず、自宅に赴こうかと思ったときに、待ちに待ったメッセージが着て。『こんなに、しっぺ返しを食らうとは思わなかった。毎日お偉いさんに頭を下げる日々に、正直疲れ切ってしまったけど、何とか頑張るから』 これを読んで、稜が住んでいるマンションに向かう足が止まってしまった。いつも明るく振舞う彼が弱音を吐いている姿に、今直ぐに駆けつけたくなったけど、俺が行ったところでなにができるだろうかと……。 逢いたい気持ちをぐっと堪えて、メールの返信をすべく文章を考える。彼にこれ以上の負荷がかからないように、当たり障りのないものにしなければならない。『あまり無理せずに頑張るんだよ。応援してる』 たったこれだけを打ち込むのに、えらく時間がかかってしまった。本当はもっと伝えたいことがあったり、聞きたいこともあったせいで、長い文章を打ち込んでしまった。本当に稜については、貪欲な自分。そこから不要なものを一気に削除し、ここまで短いものに直して送信した。 これの返事が来たのが送信した、一週間後の昨日だった。ありがとうの言葉と一緒にテレビ出演のことが書いてあり、復帰の目途が立ったことに安堵したのだが――稜が出演するという番組をスマホに映して、画面を食い入るように眺めた。久しぶりに目にする彼の姿に、胸が痛いくらいに高鳴る。(また少しだけ、痩せたんじゃないだろうか。ほっそりして見えるのは、小さい画面で彼を見ているせい?)「やっと、君に逢えたというのに――」 カメラ目線でこちらを見る視線と俺の視線は、残念ながら絡んでいないんだね。 君が見つめる先にいるのは、目の前の司会者とテレビ画面のむこう側にいる、視聴者なのだから。俺を魅了したその笑みは、たくさんの人を惹きつけるだろう

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