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6.おとなしくキスだけされてないから

Penulis: 桜立風
last update Tanggal publikasi: 2026-03-11 09:44:21

「俺のマンションに来ていいのは鈴原だけだ」

「…えっと、どうしてわかったんですか」

絵里奈に別れを告げ、車に乗り込みながら、神西と携帯で話す。

「…軽く、テレパシーだろうな。キスをする間柄だ。お前の考えが伝わってくることがある」

考えてることが伝わるって…

私が課長に特別な気持ちを抱き始めていることにも気付かれるってこと?

けれど携帯の向こうの神西は、それ以上のことは言わない。

なのでもう少し食い下がってみることにした。

「…でも絵里奈は、子供の頃からの親友なんです。神西課長をただの上司として紹介するならいいじゃないですか」

…そもそも、付き合おうといったのはそっちだ。

「内緒にするなら、徹底的にしましょう。会社でもバレないようにします」

凛花の言葉に、ため息をつきながらわかった、という神西。どっちのわかった…なのかは、彼のマンションに到着してからわかった。

「すべてに対し、秘密にしよう。会社、友達、実家…すべてにだ」

「…わかりました」

普通、こんなふうに同居に持ち込んでおいて、すべて内緒にするということがどういう意味に取られるか…まったくわかっていないようだ。

だいたい、夜になるとほぼ毎晩出かけていく神西が、凛花の部屋に来ることはない。

恋人として付き合うと言いながら、毎朝のキス以外、触れ合いなどないのだ。それは、同居した理由が接触を求めているからではないとわかる。

なのに同居を強要して自分のそばに置くなんて…私は死神のオモチャか?

「俺は今日から車で通勤する」

翌朝。

同じ会社に行くのに、少し時間をずらし、凛花の後に家を出ていた神西が、車のキーを手にした。

「…わかりました」

横をすり抜けようとして、サッと腕を取られる。今朝もまた、当たり前のように唇を奪われると思ったら、少し困らせてやりたくなった。

「…やめてください」

「は…?」

腕を引き寄せ、顎を上げられたところで拒否してみる。

「俺にとって意味のあるキスだ。…しなければならない」

「そんなの知りません」

「…おい」

胸を押して離れ、玄関を出ようとして、もう一度腕を取られた。

「今までおとなしくキスをされていたのにどうした?」

やや強めに抱き寄せられ、角度をつけた顔が近づいてくる。…その頬を両手で挟み…ぐいっと押しのけた。

「…気持ちよくないから嫌ですよ。もっと感じる熱いキスならしてやってもいいですけど?」

「…っ?!」

どうせ忘却と操作のキスだ。…そんな感情の乗ったキスなんてできっこない。

一瞬緩んだ腕から抜け出し、先に玄関を出た。ちょうどエレベーターが開いていて、慌てて乗り込むと…

「あ、深海さん…」

先に乗っていた人に驚きながら、扉を閉めるボタンを連打し、一歩遅れて出てきた神西を振り切った。

「いいの?…神西課長も出勤するところだったんじゃない?」

「いいんですよ別に。…ところで深海さんもこのマンションに住んでいたんですか?」

「えぇ。私は端の部屋なの」

てっきり一緒に駅まで歩くのかと思いきや、エントランスで立ち止まる深海。

「早く行った方がいいんじゃない?あの人、足が早いわよ?」

神西のことを言っているとわかるものの、あの人…という呼び方に違和感を感じる。

「おはよう、鈴原さん。この前話した歓迎会なんだけど、今年幹事になっちゃって。早めに出欠教えてくれると助かる」

会社につくと、後ろから明るい声が呼び止めた。…同期の鮫島徹だ。

紺色のスーツにブルー系のネクタイ、そして真っ白なワイシャツが今日も素晴らしく爽やか…!

「あ…ごめん。出席する!…ここのところバタバタして、返信しなくてごめんね」

「いや、まだ全然平気なんだけど、もう1人の幹事が先輩だから、ほとんど1人でやらなくちゃいけなくてさ…参ったよ」

鮫島は今年の新入社員の指導係も務めているはずだ。…人当たりが優しいのと優秀なのを見込まれて、部長に選任されたのは記憶に新しい。

「あ…そしたら私も手伝うよ。出席者の確認と、人数に合わせた会場をピックアップしておくから任せて!」

「マジ…?めっちゃ助かる…」

密に連絡を取ることを約束して、早速確認が済んでいない社員に聞いて回った。

その最後に名前を連ねているのは…神西課長。

タイミングを合わせたように、神西がオフィスに入ってきた。

おはよう…と、挨拶を返しながら、自分のデスクに向かう表情は、さっき家を出た時の慌てぶりを完全に消している。

「おはようございます。…神西課長」

椅子に座ったところで、デスクの前に立ち、声をかけた。

「…おはよう」

ピクッと上がる眉。…私に対する機嫌は直っていないようだ。

「新入社員の歓迎会を予定しておりまして、その出欠を取っております。神西課長は、出席で…よろしいでしょうか」

飲み会と名のつく集まりで、そういえば神西の姿を見たことがない。…そこで、わざとそう聞いてやった。

「いや、欠…」

「私は行きます。…鮫島さんと一緒に幹事をやることになって」

小さな声で教えてやると、ふぅ…っとため息をつき「行く…」と答えた。

「ありがとうございます!…余興で、神西課長に腹芸でもやってもらっちゃったりして!」

あはは…と明るく笑い、自分のデスクに戻ろうとした凛花の手首を、サッと神西がつかんだ。

「…余興についてなら、いい案がある。確か資料室に、過去のデータがあったはずだ」

神西は立ち上がり、ついてこい…と、指先を振る。

資料室に過去の余興のデータ…?

おかしいと思いながら…それでも上司に言われてついていかないわけにもいかない。

「ここに、本当にそんなものあるんですか?」

資料室に入ってすぐ、後ろを振り返った凛花を、神西はいとも簡単にドアに貼り付けた。

また忘却のキスだ…

そう思った時は、すでに唇を塞がれていた。

「…んっ…ふっ…」

今回は、いつもと違う…

密着した唇の隙間から舌が入ってきて、口内を愛撫される…舌と舌が絡まるのは、何とも言えない感覚を呼び起こした。

当然、こんなキスは初めてだ。

キスの温度も、強さも、抱きしめる力も…何もかもが違った。

「…やっ!」

やっとのことで、その胸を押し返した。

「く…苦しいです!」

「ふん。忘却のキスは毎日するんだ。拒否は絶対に許さない」

ハァハァと息を整える凛花と同じように、少し息遣いの荒い神西。

「忘れるだけのキスなんて嫌なんです!」

「…だから今、違ったのをしてやっただろ?」

何が不満だ…と言いたげな神西に、凛花はついに打ち明けた。

「キスの魔力は私には効きません!全部覚えてますから!」

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Komen (1)
goodnovel comment avatar
yuu
ついに言っちゃった!! 神西課長は朝言われたことがショックだったのかな? なかなか本気のキスしてきたよね。 でも効果が無いと知って、これからどうするんだろう。
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