Share

7.忘却のキス効果なし。

Penulis: 桜立風
last update Tanggal publikasi: 2026-03-12 08:44:55

「…なんだと?」

「だから、忘却も操作も、私にはできてません」

「いつからだ…?」

片手で額を押さえ、神西課長はため息まじりに聞いてくる。

「…初めは一瞬忘れましたけど、すぐ思い出しました」

「…なんで早く言わないんだ?」

「言ってもどうにもならないんじゃないですか?」

めぐみに言われたことを思い出す神西。忘却のキスは、し続けなければならない…

「…お願いだ。鈴…いや、凛花?」

急に雰囲気を変えてにじり寄ってくる神西に、あっという間に抱きしめられた凛花。

「誰にも秘密にしてほしい。背中のカマのこと、それから…」

「わかってます。私には見えるけど、危なくないんですよね。扱えるのは本人だけだし…」

「あぁ…その通りだ」

ことさら大きくため息をつくと、神西は凛花にあることを教えた。

「人間に正体がバレたことが上に知られると…獣にされてしまうという言い伝えがある」

「獣って、狼とか…狐とか狸とか?」

「あぁ。家畜…って聞いたこともある」

「…家畜!豚とか鶏とか?」

つい笑ってしまった凛花を、笑えない神西がじっと見つめた。

「…とにかく姿を変えるらしいが、何しろ前例がない。どんなものに変えられてしまうか、わからない」

「なるほど。…それが怖いんですね」

「怖いって…いうか、困るよな。だって獣か家畜だぞ?…この美しい俺が」

眉間にシワを寄せ、ナルシストぶりを見せる神西を、凛花は明るく笑い飛ばす。

「言いませんよ。…ただし」

「…ただし?」

「今夜は出かけないで、もっと死神の仕組みを教えてください」

背伸びをして肩を抱く凛花。

神西は、イエスと言うより他なかった。

約束通り、マンションに帰ると神西が先に到着していて、何やら料理をしていた。

「あの…なにを料理しているんですか?」

「ニワトリだ」

「…にわ…っ!」

ドンッとまな板に乗せられたぐったりしたニワトリ…シンクには、レタスが洗ってボールに入れてある。

なんか…取り合わせがおかしい気がする。

「…ちょっと待ってくださいっ!!」

大きめの包丁を上から振り下ろそうとする先に、ニワトリの首…

慌ててその腕を取り、包丁も取り上げた。

「一羽丸ごと、誰が食べるんですかっ?…だいたい、どうしてニワトリを?」

「死神がカマを振り下ろすのは人間だけじゃない」

「…は?これ、課長が仕留めたんですか?」

「仕留めたってゆーか、寿命だから向こうに送ってやっただけだ」

親指であらぬ方向を指すので、そちらに目をやる。…要するに、葬ったということだとわかる。

「…で、魂の抜け殻がコレ」

今度はその親指をまな板のうえでのびているニワトリに向ける。

「ダメダメ!だめっ!ダメダメっ!ニワトリをさばくなんてダメっ!もってのほかですっ!」

神西は凛花に指示され、ニワトリを袋に入れ、近くの料理屋に持っていくことになった。

「…もうっ!後は私がやるので…課長はサッサとお風呂に入ってきてください!」

「なんだ…人間はニワトリを食べないのか…」

「食べますけど、さばくところからは普通始めませんっ!」

ハッキリ言われ、やや意気消沈した神西。言われた通り、おとなしくバスルームへと向かった。

何をどうやったらこんなにビショビショにできるのか…呆れてキッチンを片付けているうちに、凛花は猛烈な空腹を感じた。

今日はデリバリーを頼もう。

…神西に好みを聞こうか迷ったが、結局自分の好きなものを注文してしまった。

「あ…モーレツイーツで、私の好きなものを頼んじゃいましたけど、嫌いなものとかありました?」

「…嫌いなもの?」

ペタペタと足音が聞こえて…お風呂から出てきたのだろうと、何気なく振り返った。

するとそこに、神西がいた。確かに、神西が…

とっさに目に入ったモノから少しずつ視線を上げていき、神西のクールで美しい顔面にたどりついて…

「…ぎゃーっ!」

初めて悲鳴が出た。

慌てて向き直って、両手で顔を隠す。

「…何やってるんですか??…バスタオルとかっ…下着とか、隠しません?!…普通!」

「…は?何を慌ててる?」

「…下半身を隠してくださいって言ってるんですっ!」

しっかり見てしまった。まぶたの裏に一瞬で…大きなモノが焼き付いた。

大きな…?…いやいやっ!大きなモノなんて、そんな破廉恥なっっ

「…風呂から出ると、下着を身につけるのか、人間は」

凛花の言うことを無視して、隠さないまま窓辺へ歩いていく神西。

「…ちょっと待ったっ!外を歩いてる人に見られますよ!」

顔を背けて大きなモノを見ないように、神西の腕を引き、窓辺から離す凛花。

…ふと、違和感を覚えた。

お風呂から上がったばかりなのに、腕が冷たい。凛花はバスタオルを持ってきて、神西の腰に巻きながら、さりげなく背中にも触れてみた。

…やっぱり、冷たい…

「驚いたか?」

「…はい?」

「風呂なんか入っても温まることはない。当然だろ?だって死神なんだから」

その顔が、少しだけ寂しそうに見えた。そういえば、人間界にいるのは何故なんだろう…凛花は神西をソファに座らせ、もう一枚持ってきたバスタオルで髪を拭いてやった。

「寒い…っていう感覚がないんですね」

「暑いって感覚もないぞ?」

「じゃあ例えば、一緒にいる人が寒がって、温めてあげなければいけない時は…」

「…さあ?そんなシチュエーションに遭遇したことがないからわからん」

ゴシゴシ髪を拭いてやると、たまに香る神西のフレグランスを感じた。

「お風呂では温まれないけど、香水はつけるんですね」

シャワーの後の習慣かと思ったが…神西の答えは意外だった。

「いや…この香りは、体臭だな」

後ろにいる凛花を見上げるように、ソファの背に頭を乗せる神西…瞳の色がグレイだと、初めて気づいた。

そんな目に下から見つめられて…途端に頬に熱が集まるのを感じる。

「…こんないい匂いが体臭ってうらやましいですね」

タオルを片付けるため離れようとして、パシっと手首をつかまれた。

考えてみれば、神西は今…上半身裸だ。(さっきまでフルチン)薄暗い室内の明かりの下で、筋肉に陰影がついて、やたら色っぽい。

「なん…ですか」

「タオルを片付けるなら、これも…」

せっかく巻いたバスタオルを腰から外そうとして…慌ててその手を止める。

「女性の前でフルチンはいけませんよ?タオルを取るならサッサと服を着なさい!」

腕を取って引っ張り、立ち上がらせて、神西の部屋へと押し込んだ。

…いろいろ想定外で、妙な疲れを感じる。死神の生態を理解するまでしばらくかかりそうだと凛花は思っていた。

Lanjutkan membaca buku ini secara gratis
Pindai kode untuk mengunduh Aplikasi
Komen (1)
goodnovel comment avatar
yuu
色々ありすぎて笑いが止まらない! 魂の抜け殻もあちらに送られた後、もう少し配慮してほしかったんじゃない? 流石死神!やることが斬新だわ。 でも凛花ちゃんを思ってお料理したんですよね... 凛花ちゃんも最終的にストレートに言っちゃってるし、二人の掛け合いが楽しい! 体臭がいい匂いとか羨ましいな〜。 課長には謎がまだまだありそうだね。
LIHAT SEMUA KOMENTAR

Bab terbaru

  • 死神上司の危ない…キス💋私に魔力は効きませんが?   55.凛花を救ったのは……

    「お父さん、朝食準備できたよ。あと、お弁当も」「あぁ!こりゃ美味そうだな!いつもありがとうな、凛花」仕事を辞めて家にいるようになって、初めはそっとしておいてくれた父だったが、1週間が過ぎてこう言われた。「再就職を急げとは言わない。家事も無理にとは言わない。けどな、朝になったらリビングへ出てきなさい。顔を洗って髪をとかして、服を着替える。それだけでいいから……な?」つらそうな表情を見て、どれほど父に心配をかけていたのかと思う。それからは進んで朝食の準備と父に持たせるお弁当を用意するようになった。「たいしたものじゃないよ。朝食なんて目玉焼きとトーストだし、お弁当もウインナーと野菜を炒めたのと冷凍コロッケだし……」父はそれでも嬉しいと言ってくれた。父に心配をかけないために始めたことではあるものの、料理をするようになれば自然と買い物に出るようになり、そうなればうまい具合に外の空気を吸える。それがやがて自分を少しずつ癒していき、やっと、ぼんやりした時間をもてあますようになった頃、父が意外なことを言った。「……犬?」「あぁ。もう成犬なんだが、海外に引っ越しをする先生が預け先を探していたんだ。凛花は大の犬好きだし、相談もなく名乗りを上げてしまったよ」「それは別にいいけど……」聞けば大型犬の部類に入る精悍な顔立ちのあの犬だと知らされる。ジャーマンシェパード。警察犬として活躍することも多い賢い犬だ。「シェパードくん……はじめまして」我が家にやって来た、まだ名前も知らない犬。ひざまずいて迎える凛花に落ち着いた様子で近づき、そっと前足を膝に乗せてきた。「君は、なんていう名前?」後からついてきた父が答える。「レオ、って名前だそうだ。成犬だし、名前を変えたら戸惑わせるだろうから、そのままレオでいこうか」「レオ……」簡単に頭をよぎる似た名前。……蓮。呼び間違えたりしたら、恥ずかしいな。リビングの端にケージが設置されるのを見て、少し意外に思った。我が家にはそれなりに広い庭がある。レオのようないかにも運動が必要そうな犬なら、いつでも走りまわれる庭で飼うのかと思った。「室内で買われていたそうなんだ。マンション育ちらしい」「なるほど!お坊ちゃん育ちってわけね?」それからは、レオの世話が凛花の生活のほとんどになった。朝と夕方の散歩、食事、水浴びな

  • 死神上司の危ない…キス💋私に魔力は効きませんが?   54.めぐみと再会……わずかな希望

    驚いて視線を外せない凛花に、めぐみの目が自然に向く。少し唇が開いて、明らかに驚いた様子……まさか、私のことを覚えているの?伊藤課長はベテランの女性社員をめぐみの担当にしたので、席は遠く離れてしまった。このままお昼休みまで待つしかない。凛花は時々離れた席のめぐみに視線をやり、時間が過ぎるのを待った。「鈴原凛花さんよね?」ちょっと集中している間に、お昼休みの時間がやって来たようだ。声に振り向くと、そこにはめぐみが立っている。「めぐみさん……今までどこに?」つい、追求するようなキツい言い方をしてしまった……何も覚えていないかもしれないのに。反省する凛花に、めぐみは笑いかける。「私は覚えてるわよ。とりあえず、個室のそば屋さん知ってるから、そこで」これで、蓮の行方もわかる……久しぶりに、からだ中に血液が巡るのを感じた。「あの日、すべてが終わったのよ」そば屋に落ち着き、注文を終えためぐみが口を開く。「目が覚めたら、隣に寝ていたはずの連さんがいなくなってて、もぬけの殻になってました。慌ててめぐみさんの部屋に行ったけど、めぐみさんも鮫島くんもいなくなってて」課長が変わり、鮫島も何も覚えていなかったことをまとめて話す凛花。「あの日目を覚ましたら、私は冥界にいた。それで……すべてが終わったんだって確信したの」「……蓮さんは、」「それが、わからないのよ。彼の指導係だったわけだから、私が戻っているということは、彼も冥界に戻っているはずなのに」めぐみはそっと眉間にシワを寄せた。「蓮がもどらないことに、最高幹部が躍起になってたわ」ところで……と、めぐみは唐突に話を変える。「あなたは全部覚えているのね?」「はい。でも、蓮さんがどこに行ったのかわからなくて、その話をできる人もいなくなってしまったので、少し心を病みました」凛花の言葉に、めぐみは目を見開いた。そして次の言葉に、凛花は思わず立ち上がりそうになった。「もしかしたら、蓮によく似た人が周りに現れて……いない?」「……伊藤課長!……蓮さんに似てると思いませんでしたか?それから、課長の奥さんの名前が、アミルっていうんですけど」「アミルは冥界にいたわよ?……伊藤課長は、蓮には似ても似つかないと思うけど?」それを聞いて愕然とした。私は、短い間に蓮の顔も忘れてしまったのか……「でもまぁよく聞

  • 死神上司の危ない…キス💋私に魔力は効きませんが?   53.終わりまでの日々

    唇は、ゆっくり離れていく。それは決して欲望にまかせて、衝動的にキスをしたわけではないと、説明しているようだ。「ごめんね」「いえ、私のほうこそ」どんなに蓮に似ていても、伊藤課長には奥さまがいる。会社のこんな場所で……いや、奥さまがいる人とこんなキス、許されることじゃない。そう思うのに、離れる事ができない。ただ、教えてほしかった。どうして、あなたからもキスが返ってきたのか……「わからない。急に、愛しい気持ちがこみ上げてきて。……下心とかそんなものではないんだ。決して、」不思議なほど、体が勝手に動いた……という伊藤課長の瞳に、見覚えのあるきらめきが見えた気がした。「最後にひとつだけ、教えてください」聞くだけ聞いてみようと決心した。「神西蓮、という人を……ご存じないですか?」「神西、蓮……」視線を彷徨わせ、過去の記憶を辿っているのが見ていてわかる。しばらくして、その視線が止まったことに気づいた。「……記憶はないが、その人がどうかしたのかな?」探るような瞳が近づいてきて、凛花はそれを合図に伊藤課長から距離をとる。「いえ……何でもないんです。すみません、変なことを聞いて」「その人なの?君とここでキスをしたのは……」つま先が、少し動いた気がした。「君の過去の恋人?……もう、退職したのかな?」「いえ……すみません」多くを語れなくて、の謝罪だった。悲しみと悔しさと、自分の浅はかさに嫌気がさす。「もし思い出したら、連絡する……ね?」ありがとうございます、と答えながら、さっき目の奥に見えたきらめきが、蓮のまなざしとはまったく違うものだったと気がついた。この人は……栗田医師と同じだ。自分に気があって、誘われたと思ったのだろう。キスをしたのは自分なので、それは仕方がない。……けれど奥さまがいて、結婚したばかりなのに、そんな誘いにあっさり乗ってしまう人なんだとわかってがっかりした。そして最後に自分で会社に汚点を残したことを、心から後悔した。「……それでは、失礼します。あの、いろいろとすみませんでした。心が不安定になっていたと取っていただけたら、幸いです」凛花はため息を隠して頭を下げ、何か言いたそうな課長を残して会議室を出た。「会社を、辞めるのか」「うん。相談もせず、ごめんなさい」その夜、帰宅した父に伊藤課長に辞表を提出し

  • 死神上司の危ない…キス💋私に魔力は効きませんが?   52.2人にそっくりの別人……?

    アミル、という名前を聞いた瞬間、心臓が早鐘を打ちはじめた。あの出張の日、蒸気になって消えた、と言った蓮の言葉を思い出す。……どうしてここにいるの?名前は違うけれど、姿形は蓮にしか見えない伊藤課長の隣で。アミルはアミルという名前で復活を遂げたのか、それはどういう経緯なのか聞いてみたくなった。「……ちょっと鈴原さん!行くよ?」牟田さんに声をかけられ、ハッと意識を取り戻す。「はい、」あの2人は、私の知る蓮とアミルじゃない……無理やり自分に言い聞かせ、凛花はBBQの準備に戻った。「記念撮影しますよ〜皆さん!集まってください〜」仕切り屋鮫島の声が、続々と準備を終えた社員を集める。肉の担当である凛花たちも、すぐに焼けるよう味付けを終え、手を洗っているところだった。牟田と恵美に続いて皆が集まる場所に行ってみると、中央にアミル、そしてその隣に張り付くように伊藤課長。「3人とも、奥さまの近くに行って!皆伊藤課長の方に並んじゃったから!」小声で言う鮫島の言葉に「えぇ〜……」と不満げにが声を上げるが、仕方なく言われた通りにする。彼女の後ろに回り込みながら、そっとその姿を観察した。やはり、そっくりだ。短い付き合いで、細かいところまで知らなかったとはいえ、今のところ彼女と違うところを見つけられない。性格がまったく違う、というオチだろうか。あんな女豹みたいなタイプではなく、優しくて穏やかで、虫も殺さないような静かな女性。だったら諦めもつくのに。「……ちょっとあなた!うちの人に近づきすぎよ?!離れなさいっ!」ピリっとした声は、聞き覚えのあるアミルの声。刺々しい言い方も並外れた独占欲も彼女を思い出させる。「……僕がもっと君に近づけばいいかな?アミル、愛してるよ」チュッと2人がキスをするところを、間近で見てしまった。……部下がいるのにデレ甘の伊藤課長にやや引くものの、蓮も周辺の人に気遣うことなくキスをすることはあったと思い出した。「撮りますよ〜!はい、スマイル!」大多数の社員は伊藤課長の方に寄り、奥さまの後ろには凛花たち3人という歪な集合写真は、1人立ち尽くした凛花の異様さが際立つものとなった。その後凛花は、伊藤課長に退職願を提出した。「鈴原さん、これ……」「そのままの意向です。短い間でしたが、お世話になりました」退職願を差し出した凛花

  • 死神上司の危ない…キス💋私に魔力は効きませんが?   51.新課長とBBQと不穏

    「鈴原さん、体調はどうかな?あまり無理をせずに、いつでもリモートに切り替えていいからね」伊藤課長が蓮と大きく違うのは、常にソツなく優しいところ。「はい、ありがとうございます」常識的で部下の様子をまんべんなく見ていて、クールで非常識だった蓮とは大違いだ。栗田のときにやらかしたので、左手薬指はソッコーで確認済み。キラッと輝くリングはまだ新しいようだ。凛花はため息をつきながらも、声をかけられて染まる頬を隠せずにいた。「……バーベキュー歓迎会?」「うん。伊藤課長、あんまりお酒を飲まないらしいんだけど、アウトドアとかキャンプが好きみたいでさ、そういう歓迎会なら喜んでくれると思って」話を持ってきたのは鮫島くん。彼の記憶にはもうないけれど、似たようなシチュエーションを思い出した。「参加……しようかな」「そう?良かった!」日にちの希望を聞かれ、あとで集計して決定すると伝えられた。つい、手伝おうか……なんて言いたくなるけれど、あの時のことを思い出してつらくなりそうなのでやめておいた。それに私は彼をフッたようだし、ここはあまり手を出せないでおこう……やがてアンケート結果が発表され、2週間後の週末、バーベキュー歓迎会が開催された。数人が出してくれた車に分乗し、凛花は乗せてくれた女性の先輩にお礼を言いながら車を降りた。全員が到着するまで女子社員たちと周辺を散策する。……こういう形で部署の人たちに会うのは初めてだ。ここしばらく体調も良く、会場になった河原近くのバーベキュー場は、空気も景色も素晴らしい。「……あれ?」先輩女性社員の牟田さんが、あらぬ方を見て声を上げた。「ん?どうかしましたか?」「いや……この辺って、野良犬とかいるのかしらね?」「野良犬……」実はずっと気になっていた。栗田に迫られて、絶体絶命のピンチの時現れた、白く浮かび上がる狼のこと。野良犬、と聞いてちょっと思い出してしまった。「なんかね、モフモフっとしたのがいたのよ。犬にしてはちょっと大きかったかなぁ……」「え、ちょっとやめてくださいよ!まさか熊?東京でもここまで奥だと、熊の出没ありますよ確か……」後輩社員の恵美ちゃんが、携帯を取り出して何やら調べ始めた。「熊ほど大きくはない。……イノシシかなぁ」「うん、熊はこの辺には出てないみたいです。イノシシの可能性高いです

  • 死神上司の危ない…キス💋私に魔力は効きませんが?   50.謎の狼

    「え……っ?狼?」夜の暗闇に、ぼうっと浮かび上がる、犬にしては大きい生き物。それはまるで意思を持っているかのように、じっと凛花を見上げた。「なんか……変な感触があった気がするけど……君の髪の毛かな」顔や服をパタパタとはたき、改めて凛花に向かってくる栗田。まさか……この生き物が見えていないの?「じゃあ、どうする?そこに、休憩できるところがあるけど」腕をつかまれ、あっという間に肩を抱かれてしまった。指さす方向には、HOTEL……の文字。「こんな郊外の小さな駅にさぁ……ラブホがあるなんて気が利いてるよね?」「え……っ、ちょっと」行くなんて言っていないのに、HOTELと書かれた看板を目指し、歩き出そうとする。「なに?今さら行かないとか言わないでよ?」「いや、行きませんよ。だって……」どうして食事中に気づかなかったんだろう……ふと髪をかきあげた栗田の指に、光るものを見つけてしまった。「先生、既婚者じゃないですか?!こんな事して、奥さん裏切っちゃいけませんよ!」「またまた……今気づいたフリしちゃって!たまにいるんだよね。既婚者が好きな女の子って。やっぱり人のものに手を出す背徳感?罪の意識?……たまらんでしょ?わかるよ〜」やり取りをじっと見つめていた狼らしき動物が、低く唸り声をあげた。栗田には、その姿も声も聞こえないらしいが……凛花の拒否にひるまない栗田をじっと睨んでいる。「と、とにかく帰りましょう」HOTELとは反対方向に栗田を引っ張っていこうとして、その反動を利用するかのように、栗田は凛花を抱きしめてしまう。「俺、人より弱いんだよねぇ……若い子の誘惑に!」「誘惑じゃないです!拒否してます!不倫はダメです!私はもう帰りたいんですっ!」「夕飯食べさせてやったのに……冗談じゃないよ?」ご飯は自分でお金を払って食べたのだ!そう言いたいが、離れるほうが先だっ!……さっきから股間のあたりに硬い感触を感じて、気持ち悪くて仕方がない……!「……やめっ……てっ!」渾身の力で胸を押したその時だ。幻想的に白く浮かび上がる狼が、背後から栗田に飛びかかった。凛花に胸を押されていたのも相まって、そのまま後ろに倒れてしまう。ガルル……ッと低い唸り声が響かせながら、栗田の胸元に両前足を置いている。そして凛花の方を向いた狼は、ひと声大きく吠えた。それは

  • 死神上司の危ない…キス💋私に魔力は効きませんが?   40.Side.めぐみ 死神アミル

    「あの2人、きっと離れられないと思うんだよね」蓮が突然やって来て、酔いつぶれた夜から数日後、今日は鮫島とデートで水族館に来た。長いこと人間界で暮らしながら、こんな観光地に来たのは初めてで、実は楽しみすぎて昨夜あまり眠れていない。「そう?……どうして、そう思うの?」「だって、たった一夜でめっきり老け込んじゃったんだもん。鈴原さん、出社してもぼんやり座ってるだけだし、あのままじゃ給料泥棒って言われてクビになるって!」「それは……まぁ、心配ね?」鮫島も心配そうにため息をつき、続けた。「……目の下のクマもバッチリ真っ黒で、あのままじゃまた、倒れてしまうと思う」「そう……ねぇ」めぐみ

  • 死神上司の危ない…キス💋私に魔力は効きませんが?   38.凛花の真実……

    ……真逆って、いったいどういうこと?凛花はフッとため息をついて、口元を緩めた。父はたまに、変な言い回しをする。それは場を盛り上げるためだったり、笑わそうとすることがほとんどだ。「……またお父さん、変なこと言って蓮さんを笑わそうとして!」貼り付いていた壁から離れ、2人が話している場所へ歩き出す。するとまさかそこに凛花がいるとは思わなかった父が、くるりと振り返った。「……え、お父さん、なんで…?」慌てて拭ったが、父の頬が涙で濡れているのを見てしまった。見上げた蓮の顔も苦しそうな真顔だ。……これはいったい、どういうことなんだろう。「凛花にも、そろそろ本当のことを伝える時が来たみたい

  • 死神上司の危ない…キス💋私に魔力は効きませんが?   37.実家訪問

    「はじめまして。神西蓮と申します」ライトグレーのスーツにシルバーのストライプネクタイを締めて、にこやかに挨拶をする蓮は、どこからどう見ても死神になんて見えない。それなのに、玄関先でまず第一声、頭を下げた蓮に、父は固まって何も言わない。「……ちょっと、お父さんっ?!」「あ?……あぁ、ごめんね、あんまりカッコいい人だから、どうしたのかと思っちゃって!」頭を掻きながら謝罪し、改めて蓮に笑顔を向けた。「ようこそいらっしゃいました。……さぁ、遠慮せず上がってね」リビングに案内すると、蓮はわずかに眉間にシワを寄せた。……まぶしいのだろうか。凛花は陽射しが当たらないダイニングテーブルに蓮を

  • 死神上司の危ない…キス💋私に魔力は効きませんが?   36.会いに行きたいんだ

    ただならぬ凛花の様子に、鮫島も一層表情を引き締めた時……「……待てよ」鮫島の腕にかけた凛花の手を、蓮の手が取る。「お父さんに、挨拶に行くから」いつの間に戻ってきたのか……振り向くと蓮がいた。いつもなら大げさに驚くが、今は、それどころではない。「なに……言ってるんですか、私、知ってるんですよ?!」取り乱し、蓮の胸を叩く。「背の高い男の人が、私に……あなたの末路を、」「わかってる」「だったらどうして…?!どうして私を遠ざけないんですかっ」2人のやり取りを、どうしたものかと見つめる鮫島。「いいんだ」「な……何がいいんですか」「逆に……お前に何も害がないのなら、ホッとした

Bab Lainnya
Jelajahi dan baca novel bagus secara gratis
Akses gratis ke berbagai novel bagus di aplikasi GoodNovel. Unduh buku yang kamu suka dan baca di mana saja & kapan saja.
Baca buku gratis di Aplikasi
Pindai kode untuk membaca di Aplikasi
DMCA.com Protection Status