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7.忘却のキス効果なし。

مؤلف: 桜立風
last update تاريخ النشر: 2026-03-12 08:44:55

「…なんだと?」

「だから、忘却も操作も、私にはできてません」

「いつからだ…?」

片手で額を押さえ、神西課長はため息まじりに聞いてくる。

「…初めは一瞬忘れましたけど、すぐ思い出しました」

「…なんで早く言わないんだ?」

「言ってもどうにもならないんじゃないですか?」

めぐみに言われたことを思い出す神西。忘却のキスは、し続けなければならない…

「…お願いだ。鈴…いや、凛花?」

急に雰囲気を変えてにじり寄ってくる神西に、あっという間に抱きしめられた凛花。

「誰にも秘密にしてほしい。背中のカマのこと、それから…」

「わかってます。私には見えるけど、危なくないんですよね。扱えるのは本人だけだし…」

「あぁ…その通りだ」

ことさら大きくため息をつくと、神西は凛花にあることを教えた。

「人間に正体がバレたことが上に知られると…獣にされてしまうという言い伝えがある」

「獣って、狼とか…狐とか狸とか?」

「あぁ。家畜…って聞いたこともある」

「…家畜!豚とか鶏とか?」

つい笑ってしまった凛花を、笑えない神西がじっと見つめた。

「…とにかく姿を変えるらしいが、何しろ前例がない。どんなものに変えられてしまうか、わからない」

「なるほど。…それが怖いんですね」

「怖いって…いうか、困るよな。だって獣か家畜だぞ?…この美しい俺が」

眉間にシワを寄せ、ナルシストぶりを見せる神西を、凛花は明るく笑い飛ばす。

「言いませんよ。…ただし」

「…ただし?」

「今夜は出かけないで、もっと死神の仕組みを教えてください」

背伸びをして肩を抱く凛花。

神西は、イエスと言うより他なかった。

約束通り、マンションに帰ると神西が先に到着していて、何やら料理をしていた。

「あの…なにを料理しているんですか?」

「ニワトリだ」

「…にわ…っ!」

ドンッとまな板に乗せられたぐったりしたニワトリ…シンクには、レタスが洗ってボールに入れてある。

なんか…取り合わせがおかしい気がする。

「…ちょっと待ってくださいっ!!」

大きめの包丁を上から振り下ろそうとする先に、ニワトリの首…

慌ててその腕を取り、包丁も取り上げた。

「一羽丸ごと、誰が食べるんですかっ?…だいたい、どうしてニワトリを?」

「死神がカマを振り下ろすのは人間だけじゃない」

「…は?これ、課長が仕留めたんですか?」

「仕留めたってゆーか、寿命だから向こうに送ってやっただけだ」

親指であらぬ方向を指すので、そちらに目をやる。…要するに、葬ったということだとわかる。

「…で、魂の抜け殻がコレ」

今度はその親指をまな板のうえでのびているニワトリに向ける。

「ダメダメ!だめっ!ダメダメっ!ニワトリをさばくなんてダメっ!もってのほかですっ!」

神西は凛花に指示され、ニワトリを袋に入れ、近くの料理屋に持っていくことになった。

「…もうっ!後は私がやるので…課長はサッサとお風呂に入ってきてください!」

「なんだ…人間はニワトリを食べないのか…」

「食べますけど、さばくところからは普通始めませんっ!」

ハッキリ言われ、やや意気消沈した神西。言われた通り、おとなしくバスルームへと向かった。

何をどうやったらこんなにビショビショにできるのか…呆れてキッチンを片付けているうちに、凛花は猛烈な空腹を感じた。

今日はデリバリーを頼もう。

…神西に好みを聞こうか迷ったが、結局自分の好きなものを注文してしまった。

「あ…モーレツイーツで、私の好きなものを頼んじゃいましたけど、嫌いなものとかありました?」

「…嫌いなもの?」

ペタペタと足音が聞こえて…お風呂から出てきたのだろうと、何気なく振り返った。

するとそこに、神西がいた。確かに、神西が…

とっさに目に入ったモノから少しずつ視線を上げていき、神西のクールで美しい顔面にたどりついて…

「…ぎゃーっ!」

初めて悲鳴が出た。

慌てて向き直って、両手で顔を隠す。

「…何やってるんですか??…バスタオルとかっ…下着とか、隠しません?!…普通!」

「…は?何を慌ててる?」

「…下半身を隠してくださいって言ってるんですっ!」

しっかり見てしまった。まぶたの裏に一瞬で…大きなモノが焼き付いた。

大きな…?…いやいやっ!大きなモノなんて、そんな破廉恥なっっ

「…風呂から出ると、下着を身につけるのか、人間は」

凛花の言うことを無視して、隠さないまま窓辺へ歩いていく神西。

「…ちょっと待ったっ!外を歩いてる人に見られますよ!」

顔を背けて大きなモノを見ないように、神西の腕を引き、窓辺から離す凛花。

…ふと、違和感を覚えた。

お風呂から上がったばかりなのに、腕が冷たい。凛花はバスタオルを持ってきて、神西の腰に巻きながら、さりげなく背中にも触れてみた。

…やっぱり、冷たい…

「驚いたか?」

「…はい?」

「風呂なんか入っても温まることはない。当然だろ?だって死神なんだから」

その顔が、少しだけ寂しそうに見えた。そういえば、人間界にいるのは何故なんだろう…凛花は神西をソファに座らせ、もう一枚持ってきたバスタオルで髪を拭いてやった。

「寒い…っていう感覚がないんですね」

「暑いって感覚もないぞ?」

「じゃあ例えば、一緒にいる人が寒がって、温めてあげなければいけない時は…」

「…さあ?そんなシチュエーションに遭遇したことがないからわからん」

ゴシゴシ髪を拭いてやると、たまに香る神西のフレグランスを感じた。

「お風呂では温まれないけど、香水はつけるんですね」

シャワーの後の習慣かと思ったが…神西の答えは意外だった。

「いや…この香りは、体臭だな」

後ろにいる凛花を見上げるように、ソファの背に頭を乗せる神西…瞳の色がグレイだと、初めて気づいた。

そんな目に下から見つめられて…途端に頬に熱が集まるのを感じる。

「…こんないい匂いが体臭ってうらやましいですね」

タオルを片付けるため離れようとして、パシっと手首をつかまれた。

考えてみれば、神西は今…上半身裸だ。(さっきまでフルチン)薄暗い室内の明かりの下で、筋肉に陰影がついて、やたら色っぽい。

「なん…ですか」

「タオルを片付けるなら、これも…」

せっかく巻いたバスタオルを腰から外そうとして…慌ててその手を止める。

「女性の前でフルチンはいけませんよ?タオルを取るならサッサと服を着なさい!」

腕を取って引っ張り、立ち上がらせて、神西の部屋へと押し込んだ。

…いろいろ想定外で、妙な疲れを感じる。死神の生態を理解するまでしばらくかかりそうだと凛花は思っていた。

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تعليقات (1)
goodnovel comment avatar
yuu
色々ありすぎて笑いが止まらない! 魂の抜け殻もあちらに送られた後、もう少し配慮してほしかったんじゃない? 流石死神!やることが斬新だわ。 でも凛花ちゃんを思ってお料理したんですよね... 凛花ちゃんも最終的にストレートに言っちゃってるし、二人の掛け合いが楽しい! 体臭がいい匂いとか羨ましいな〜。 課長には謎がまだまだありそうだね。
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  • 死神上司の危ない…キス💋私に魔力は効きませんが?   62.元死神たちの会合

    「はじめまして。神西蓮と申します」「うわ、イケメンすぎて緊張するぅ……」バイト先に出勤して社長と副社長の秘密を打ち明けられ、凛花も思い切って蓮の話をした翌週、彼を2人に会わせることにした。話は聞かせてあり、体験談をぜひ聞きたいといった蓮。父の賛成も取り付け、会社近くのカフェで落ち合ったところだ。2人にキラキラした目を向けられ、キョトン、とする蓮。人間の姿を手に入れた彼は、ピュアで邪気のない子供のような表情を見せることが多い。そういうことは、社長たちにもあったのか……「改めて自己紹介しとくね。俺は兄で社長の絆【きずな】。こっちは弟で副社長の縁【えにし】。凛花ちゃんが見破った通り、俺たちは双子。あんまり似てないけどな」座ったまま頭を下げる凛花と蓮に、2人は早速経験談を話し始めた。「俺たちが死神稼業から足を洗ったのは、寿命が来ている人間に、カマを振れなかったからなんだよ」「そう。そのせいで人間界に修行に落とされそうになって、それが嫌で2人で逃げ続けて……そのうち幹部たちと戦うことになってさ」「まぁ、勝利したってわけよ」話を聞く限り、その戦いとはいわゆる剣を振り回したりするバトルとは違ったらしい。「戦いがある、とは聞いてたけど、なんていうか……まやかし、みたいなものだったな」「精神的にジワジワ追い詰められる感じ。……あれ、もし人間がされたら確実に病むよ」まさに、病んだ。2人の話に大きくうなずく凛花。蓮が2人に向かって口を開く。「人間の姿を手に入れた後、死神からの接触は?」「1度もない。ただ死神時代の記憶はいつまでも消えないんだよね」「それについては諸説あってさ……」縁の答えに、絆が声を落として身を乗り出す。「結婚すると消えるらしい……!」「らしい、とは?おふたりにも経験談を聞かせてくれる仲間がいるんですか?」たまらず質問する凛花に、絆は笑い出した。「……え?いっぱいいるよ!皆自分からは言わないだけだから」そう言われて思わず辺りを見渡してしまう。若い人が多いけれど、カフェの外には老若男女、たくさんの人が歩いている。……あの中に、死神としての経験を持つ人が、いる?「結婚するとその記憶自体なくなって、本当の人間としての人生が始まるって話。……話を聞いた人も恋人と結婚して、次に会った時死神の話をしたら笑い飛ばされたもん」

  • 死神上司の危ない…キス💋私に魔力は効きませんが?   5.凛花、実家にて

    闇夜に浮かぶ、外壁をツタが絡まるマンション…そこが住まいだと神西に言われた時、すべてが繋がった気がした。背中のカマ、情報もなく部屋にやってきたこと、アパートの突然の全焼…忘却と操作のキス…そして打ち明けられた死神の話。全部の辻褄が合う。…凛花はこれまでのことをすべて忘れていなかった。その中でわかったことがある。…やはり自分は、見てはいけないものを見ていたのだ。同時に…死神なんて存在が、こんな身近にいたなんて、普通に驚きだ。だって上司だよ?…やたら厳しくて怖いのはそのせいか…「…それにしてもなんだか薄暗い明かりしかつかない部屋だな」自分に与えられた部屋の窓から、何気なく階下を見

  • 死神上司の危ない…キス💋私に魔力は効きませんが?   4.否が応でも

    「今日から、俺の部屋においで」…妖艶な香りと共に寄り添うのは、神西。「い…いつの間に?」驚く凛花の目が、今朝は注がれなかった自分の背後を見ていると気づく。やはり…忘却のキスの効果は短いと知る。「…忘れ物に気づいて…取りに行こうと思って来た」「…え、何を、忘れたんですか?」「替えの…ネクタイを」取り返しのつくものだったとホッとしたのだろう。凛花はそれでも律儀に言った。「…こんなことになっちゃって…あの、お給料が出たら買ってお返しします」グスッと鼻をすすり、涙ぐむ目元を拭くのを見て、神西はわずかに首をかしげた。なぜ泣く…?引っ越したばかりでたいした荷物はなく、ほかの入居者

  • 死神上司の危ない…キス💋私に魔力は効きませんが?   3.

    …いったいどういうつもりなのか。本当に部屋にやってきた上司が、部下の部屋で普通にスーツの上着を脱ぐなんて…会議室での話は、役員たちが集まってきて呆気なく終わった。2人で中にいた事をごまかすように、とっさに会議の準備を手伝っているふりをした凛花。…お茶汲みまでさせられたところで、神西に声をかけられた。「ありがとう鈴原さん。もうデスクに戻っていいですよ」ドアを開けてくれる仕草が自然で、意外にジェントルマンだと感心したのに…バシッと強めにファイルを押し付けられた。「…このファイル、あとでよく目を通しておいてください」デスクに戻って確認してみれば…中味は小さなメモ1枚。『寄り道厳禁。帰

  • 死神上司の危ない…キス💋私に魔力は効きませんが?   6.おとなしくキスだけされてないから

    「俺のマンションに来ていいのは鈴原だけだ」「…えっと、どうしてわかったんですか」絵里奈に別れを告げ、車に乗り込みながら、神西と携帯で話す。「…軽く、テレパシーだろうな。キスをする間柄だ。お前の考えが伝わってくることがある」考えてることが伝わるって…私が課長に特別な気持ちを抱き始めていることにも気付かれるってこと?けれど携帯の向こうの神西は、それ以上のことは言わない。なのでもう少し食い下がってみることにした。「…でも絵里奈は、子供の頃からの親友なんです。神西課長をただの上司として紹介するならいいじゃないですか」…そもそも、付き合おうといったのはそっちだ。「内緒にするなら、徹

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