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5.凛花、実家にて

Auteur: 桜立風
last update Date de publication: 2026-03-10 10:42:52

闇夜に浮かぶ、外壁をツタが絡まるマンション…そこが住まいだと神西に言われた時、すべてが繋がった気がした。

背中のカマ、情報もなく部屋にやってきたこと、アパートの突然の全焼…

忘却と操作のキス…そして打ち明けられた死神の話。全部の辻褄が合う。

…凛花はこれまでのことをすべて忘れていなかった。

その中でわかったことがある。…やはり自分は、見てはいけないものを見ていたのだ。

同時に…死神なんて存在が、こんな身近にいたなんて、普通に驚きだ。

だって上司だよ?…やたら厳しくて怖いのはそのせいか…

「…それにしてもなんだか薄暗い明かりしかつかない部屋だな」

自分に与えられた部屋の窓から、何気なく階下を見下ろして…ちょうどかき消すように姿をくらます神西の姿を見た。

傍らに、黒ずくめ女性が立っていて、巻き起こる風にサラサラのボブヘアが揺れたのが見える。

…あの女の人、確か秘書室の…

神西課長、どうして一緒にいるの?そして目の前で消えて見せるなんて…自分が死神だって話、あの人にも話したんだろうか。

「…わざわざ来なくても、住所を教えてくれれば送るのに。…着払いで」

なんちゃって…!と明るく笑うのは、凛花の父、鈴原守【すずはらまもる】。

本当だったらアパートに運ぶはずの荷物を実家に取りに来た。時間を合わせて家に居てくれた父と顔を合わせ、軽口を叩き合う。

「お父さんのことだから、どうせそうだと思ったのよ!…送料もったいないから、取りに来たの!」

「バカだなぁ。着払いなんて冗談に決まってるだろ?…もしかして、住所を教えたくないから取りに来た?」

「………そんなんじゃないよ」

…いえ、その通りです。

まさか、神西と同居しているマンションの住所を知らせるわけにいかない。

「あーあ。…ママ、凛花が何やら怪しいことを言うようになりました。ごめんねぇ…一生懸命育てたんだけどさぁ」

四季折々の花を咲かせる庭を見渡せる、リビングの一番いい場所に置いてある母の写真は、記憶のまま優しい笑顔を浮かべている。

父はよく、そんな母の写真の前で話しかけていた。…ちゃんとテーブルがあって花が飾られ、母が着ていた服まで飾ってある。しかも、季節によって変えるという手の込みよう。

母は…私が10歳の時亡くなった。

ある朝突然…冷たくなっていた母に、抱きついて泣いたのを覚えている。

それからの父は、母の写真と残した服やアクセサリーを愛し、子供だった私を育ててくれた。再婚や恋人の話は聞いたことがない。

医師というハードな仕事をしながら、父は毎日写真の中の母の頬を撫で、生きてきたのだ。

一緒にランチを取った後、持っていく荷物をまとめて車に積み込んで戻ってくると…父の携帯が聞き慣れたメロディーを奏でていた。

「…あ、病院からだ」

画面を確認し、ごめんね、と言って書斎に消える父。…担当の患者さんの容体が急変したのだろうか。

50歳を超えた背中を見送りながら…もう少しのんびり仕事をしてしてほしいと思う。

「やっぱ呼び出しでした。ちょっと行ってくるね」

「うん。…それじゃ、私もそろそろ行くね」

「…凛花」

バッグに手をかけたところで…少々しんみりした声で呼ばれた。

「話せることだけでいいから、何かあったらお父さんには知らせてね」

「…うん、もちろんだよ。ずっとそうしてきたもん」

「…またまた…!凛花は話せることが少ないんだから!」

父は笑顔の母の写真に目をやり、柔らかく見つめた。なんだか…1人で暮らし始めた私の無事を、天国の母に祈っている気がする。

…あぁ、お母さん…祈られても困るだろうな。もし今ここにいたら、怒られるレベル?

ごめんね、お父さん、お母さん。

…私、死神と一緒に暮らし始めた。

そして、毎日毎日キスをされているうちに…なんだかおかしな気持ちになってる。

同居とキスという取り合わせなんて…誰でも少しは相手を意識させるだろう。

イケメンすぎてタイプじゃない、なんて言ったけど…やっぱりあの美しい顔が近づいてくると、心臓は高鳴るわけで。

しかも同じ部署の直属の上司。

私だって年頃の女子だ…毎日キスをされれば、気持ちは次第に変わってくる。

それは…あのキスが、忘却はさせられなかったけど、操作の効果はあったということなのかな。

「スゴいじゃん!…社会人2年目で1人暮らし!」

「あぁ…うん」

「どのへん?今度遊びに行くよ」

父が病院に戻るタイミングで一緒に家を出て…約束通り、幼なじみの絵里奈に会った。

「まだ引っ越したばっかりで、住所がわかんないから、また教える」

「そ…?忘れないでよ?」

いつもなら昼間でもビールで乾杯する私たちだが、今回は車で来ていることと、絵里奈の体調を考えてやめておいた。

「それより…結婚の話、進んでるんでしょ?」

「あ…うん」

「…なに?康太まさか…ウダウダ言ってないでしょうね?」

絵里奈は高校大学と離れたものの、家が近所の幼稚園時代からの友達。同じく幼なじみの清水康太と、この度結婚する。

「言ってないよ。…でも、やっぱし予定してないことだったからさ」

「…まぁ、責任がのしかかってくるかもしれないけど、それはお互いさまじゃない?」

「そう、なんだけどね」

絵里奈と康太の結婚は、先に子供が出来たことがわかって、バタバタと進んだ。…いわゆるできちゃった結婚だ。

…私はついこの間ファーストキスを経験したばかりだというのに、親友の幼なじみは、早くも母になろうというのだから驚きだ。

「これから…いろんな事が変わっていくんだなぁって。仕事も、2年目でやっと慣れたとこだったのに」

「…産休取るの?ギリギリまで、働くとか?」

「いろいろ考えたけど、退職する。だって動きまわれるフットワークの軽さが若手の武器なのに、妊婦でそれもできなくなるなんて、なんかお荷物じゃん?」

「そんなことないと思うけど…」

けれど絵里奈の気持ちはよくわかる。仕事を教えてさぁこれから…という時に妊娠して結婚するなんて聞いたら、先輩たちはどう思っただろう。

私でも居づらくなるかもしれない。

「でも、子供が生まれたらまた復帰すればいいじゃん。絵里奈の仕事なら、可能じゃない?」

「うん。…そうだね。それを目標に、今は変わっていくことを受け入れなきゃ」

少しだけふっくらし始めたお腹をさすり、絵里奈は緩やかに笑う。

「それより凛花、1人暮らし、どう?」

「…あぁ、そうだね、意外と臨場感があるっていうか。少しだけ不気味ではあるかな」

「なにそれ。お化けでも出るの?」

…お化けというか死神。

親友にも打ち明けられないのはやっぱりつらい。…帰ったら絵里奈にだけは教えていいか聞いてみよう。

そう思った瞬間、携帯が着信を告げた。画面を確認してみると「神西課長」という文字。

慌てて着信をつなげ、携帯を耳に当ててみると…

「ダメです」

もしもし…と言う前に圧倒的拒絶の言葉に出会い、のけぞった凛花。

…いったい何がダメだというのか。

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Commentaires (1)
goodnovel comment avatar
yuu
死神さんは思考も読めるの... お母さんを早くに亡くしてたんだ。 一人暮らしをしたのはお父さんのことを思って? 毎日繰り返されるキスは効いてなかったんだ。 でも気持ちの変化はあったと…それって恋だよね。 ただ相手がね…これは前代未聞の恋の幕開け......
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  • 死神上司の危ない…キス💋私に魔力は効きませんが?   62.元死神たちの会合

    「はじめまして。神西蓮と申します」「うわ、イケメンすぎて緊張するぅ……」バイト先に出勤して社長と副社長の秘密を打ち明けられ、凛花も思い切って蓮の話をした翌週、彼を2人に会わせることにした。話は聞かせてあり、体験談をぜひ聞きたいといった蓮。父の賛成も取り付け、会社近くのカフェで落ち合ったところだ。2人にキラキラした目を向けられ、キョトン、とする蓮。人間の姿を手に入れた彼は、ピュアで邪気のない子供のような表情を見せることが多い。そういうことは、社長たちにもあったのか……「改めて自己紹介しとくね。俺は兄で社長の絆【きずな】。こっちは弟で副社長の縁【えにし】。凛花ちゃんが見破った通り、俺たちは双子。あんまり似てないけどな」座ったまま頭を下げる凛花と蓮に、2人は早速経験談を話し始めた。「俺たちが死神稼業から足を洗ったのは、寿命が来ている人間に、カマを振れなかったからなんだよ」「そう。そのせいで人間界に修行に落とされそうになって、それが嫌で2人で逃げ続けて……そのうち幹部たちと戦うことになってさ」「まぁ、勝利したってわけよ」話を聞く限り、その戦いとはいわゆる剣を振り回したりするバトルとは違ったらしい。「戦いがある、とは聞いてたけど、なんていうか……まやかし、みたいなものだったな」「精神的にジワジワ追い詰められる感じ。……あれ、もし人間がされたら確実に病むよ」まさに、病んだ。2人の話に大きくうなずく凛花。蓮が2人に向かって口を開く。「人間の姿を手に入れた後、死神からの接触は?」「1度もない。ただ死神時代の記憶はいつまでも消えないんだよね」「それについては諸説あってさ……」縁の答えに、絆が声を落として身を乗り出す。「結婚すると消えるらしい……!」「らしい、とは?おふたりにも経験談を聞かせてくれる仲間がいるんですか?」たまらず質問する凛花に、絆は笑い出した。「……え?いっぱいいるよ!皆自分からは言わないだけだから」そう言われて思わず辺りを見渡してしまう。若い人が多いけれど、カフェの外には老若男女、たくさんの人が歩いている。……あの中に、死神としての経験を持つ人が、いる?「結婚するとその記憶自体なくなって、本当の人間としての人生が始まるって話。……話を聞いた人も恋人と結婚して、次に会った時死神の話をしたら笑い飛ばされたもん」

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