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第5話

Auteur: 夢子
和子は凪を外へ散歩に連れていってあげようと考えていた。

しかし、玄関を出るやいなや、二人の警察官に呼び止められ、鋭い眼差しが和子に向けられる。

「田中さんですね?殺人教唆の容疑で逮捕状が出ていますので、ご同行願えますか?」

凪は眉をひそめ、無言で和子を背後に庇った。

「あの、何かの間違いではありませんか?」

「証拠は揃っています」二人は迷うことなく凪を押し退け、和子を取り押さえた。

警察官に手首を掴まれて、やっと状況を悟った和子が叫ぶ。「私は殺人の依頼なんてしていません!」

それでも反応がない警察官を見て、和子は縋るように凪を見た。「奥様!私は本当にやっていません。信じてください!」

異様なほど威圧的な警察官たちの様子を見て、凪は直感した。

深呼吸し、凪は和子の手を握る。「大丈夫、すぐに解決する。濡れ衣なんか絶対に着せないから」

和子が連行されるのを見送り、凪は足早に美優の病室へ向かった。

しかし、秀智と美優は、凪が現れたのを見ても少しも驚かなかったどころか、むしろ来ることを予測していたかのようだった。

「なんでこんな真似を?美優さんの事故と、田中さんは関係ないでしょ?」

秀智は凪の前に分厚い書類を投げ捨て、怒鳴り声を上げる。

「送金履歴が残っているんだ。古い番号や別口座を使えば誤魔化せるとでも思ったのか?」

凪は一瞬言葉を失い、書類に目を走らせた。読むほどに眉間の皺が深くなっていく。

「そんなはずはない。

私は田中さんに育てられた。彼女がそんな人じゃないことは、私が一番よく知っているから」

凪の言葉が終わるや否や、美優が泣き出しそうな顔で訴えた。

「凪さん、田中さんを身内だからって庇わないで。あの人が私のことがずっと目障りだったってこと、知ってるんだから」

凪は弁解しようとしたが、秀智が冷たく遮る。

「証拠は揃っているんだ。自分がしたことの責任は取ってもらうからな」

秀智はあくまでも美優の肩を持つようだ。

それからの数日、凪は何度も法律事務所に連絡を続けたが、誰もその件を引き受けてくれなかった。

探偵も雇ったが、例の交通事故の運転手はその事故で即死し、関係者も行方不明。監視カメラの映像も一夜にして削除されていた。

警察署に面会へ行っても、上層部の圧力なのか、取り次いでもらえない。

すべては秀智がやったことだと、凪はわかっていた。

人気のない街角で、鼻の奥がツンと熱くなる。

秀智と結婚する前、凪は両親と関係が悪くなったのだが、そんな凪に最後まで味方として付いてきてくれたのが和子だった。

自分にとって和子は、母親も同然の存在なのだ。

秀智も、結婚当初は二人の関係を尊重し、和子を大切にしてくれていた。

それなのに今、彼は出所不明の書類一枚で自分の大切な恩人を刑務所へ送ろうとしている。

凪は込み上げる涙をぐっとこらえた。

携帯を手に取り、画面上である連絡先に指を止める。

凪が家を捨てて嫁いだことに父親の二宮正弘(にのみや まさひろ)はずっと怒っていたが、母親の二宮霞(にのみや かすみ)を通じて間接的には連絡を取り合っていた。

躊躇ったが勇気を振り絞り、凪は電話をかける。

通話が繋がると、お互い無言になった。

凪が先に話を切り出す。「お父さん……秀智が、田中さんが美優さんの事故を裏で指示したって言って、警察に連れて行かせたの。それに、調べようとしても邪魔されて……」

正弘には怒鳴られると思っていた。しかし、受話器越しに聞こえてきた声は震えていたのだ。

「凪、こんなときに頼ってもらえて、お父さんは嬉しい。

事情は分かった。二宮家を敵に回すなんて、あの小僧ただでは済まさないからな。明日中には、必ず田中さんを釈放させてみせるよ」

通話終了とともに、凪の目からは涙が溢れ出し、嗚咽が漏れた。

いつまでも自分を守り抜いてくれるのは、親だけだったみたいだ。

それからまもなくして、警察署から翌日には釈放手続きができるとの連絡が入った。

その晩は、ここ数日で一番安心して眠ることができた。

しかし翌朝、警察署へ迎えに行くと、再び追い返されてしまったのだった。

「釈放?そんな許可は出ていません」

嫌な予感が凪を襲う。

携帯を取り出そうとした瞬間、霞から着信があった。

泣きじゃくる霞の声が聞こえる。「凪……大変なの。会社に家宅捜索が入って、お父さんが捕まっちゃった。本人からは隠すようにって言われたけど、もう私……どうしていいか」

正弘が手がけていた大型案件で、突如密輸や国家機密漏洩の疑いが浮上し、強制捜査が始まったらしい。

電話を切ると、凪はその場にへたり込んだ。

誰がやったかなんて、そんなのは決まっている。

凪は指先が白くなるほど強く携帯を握りしめた。

まさか秀智が、自分の父まで追い詰めるとは思ってもみなかった。

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