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第6話

Author: 夢子
盛沢市のメディアは情報に敏感で、翌日には二宮グループが密輸で国家機密を漏洩した件が、一気に各大手ニュースのトップを飾った。

さらには、誹謗中傷が殺到し、二宮グループの株価は暴落した。

関係が良好だった取引先も、次々と取引の打ち切りを表明する。

凪は7年ぶりにグループへ戻り、まずは不安がる株主や社員を落ち着かせた。

会社を支えながら、正弘の潔白を証明するための証拠を集めるため、凪は秒刻みの毎日を送った。

渡された調査報告書の内容に、凪は息を呑む。

やはり父は身代わりで、実際に機密を漏らしたのは秀智が秘密裏に国外へ逃がした者だった。

証拠を手に警察や裁判所へ駆け込んだが、全て徒労に終わり、凪は資料を握りしめ、足元から崩れ落ちるような絶望を覚えた。

秀智は既に、彼女のあらゆる逃げ道をふさいでいたのだ。

凪が秀智の社長室を訪ねると、彼は美優に資料の見方を教えているところだった。

凪は初めてプライドを捨てて頭を下げた。「秀智、お父さんと田中さんを解放してくれるなら、なんでもする」

ついに屈した凪の姿に、秀智は目を細める。

「最初からそうしていればよかったんだ」

秀智は凪に頭を上げさせた。「凪、別にお前を追い詰めたいわけじゃない。ただ、美優がかなりの怪我を負ってしまっただろ?だから、責任を取ってほしいだけなんだよ」

ドアがノックされ、秀智の秘書が部屋に入ってくる。「社長、契約書をご用意しました」

秀智はそれを凪に差し出した。「この契約に同意するなら、二人を助けてやってもいい。

まあ、この契約は美優への償いってところだ」

内容を見た凪は言葉を詰まらせる。「美優さんの専門は芸術関係じゃないの?ドローン技術の知識も管理の経験もないはず……」

しかし、凪の言葉をさえぎるように、秀智は静かに言った。

「知らないなら学べばいい。美優だって最近興味を持っているらしいから、練習台にちょうどいいだろ?」

凪は契約書を握りしめた。

二宮グループの資金繰りが悪化する中、何とか手元に残せた貴重な3社なのに……

それを今、美優の「練習台」にちょうどいいと?

拒否権など、自分には最初からなかったらしい。

ペンを持つ手は、まるで鉛のように重かった。

凪がサインを終えると、秀智は満足げに笑みを浮かべる。

顔色の悪い凪を見て、彼はようやく優しく言った。

「あの件はすぐ解決してやる。凪、これからはおとなしく『西園寺夫人』として生活すればいいんだ。西園寺家のことには口出しするなよ」

西園寺夫人?

凪ははっとした。いつから自分は個人としての名前を失い、「西園寺夫人」としか呼ばれなくなったのだろう。

自分はかつて、秀智と肩を並べるほどの二宮家の後継者だったのに!

西園寺家に嫁ぎ、世間体や周囲からの圧力で仕事さえ制限される日々を送ってきた7年間のツケだろう。

自分は後悔している。

約束通り、正弘と和子は数日後に釈放された。

しかし、二宮グループはもうかつての輝きを失っていた。

秀智が美優を連れて視察をしている隙に、凪は西園寺家の本家へと向かった。

普段は目も合わせてくれない竜之介に対し、凪は切り出す。

「秀智とは離婚しようと思っています。その際には何もいりません。身一つで出て行きますので。

それに、二宮家が所有する西区の土地を、お望み通りお譲りします。その代わりに私と秀智を無事に離婚させ、二宮家の人間をこの街から無事に出して欲しいんです」

竜之介は鋭い眼光で探るように言った。「本気か?離婚など、秀智が納得するか?」

だが、凪の決意は揺るがない。

「この街を離れることは、もう二宮家の中では決定事項ですから、あの土地はもう必要ありません。離婚のことについては、まだ秀智に言わないでください」

凪の言葉が嘘ではないと判断したのか、竜之介はすぐに弁護士を呼んで書類を作成させる。

契約を終えると、凪はその場を後にしようとした。

すると、竜之介がため息混じりにつぶやく。「二人が駆け落ちまでして一緒になった当初は、誰もがこんな結末になるとは思わなかっただろうな」

凪の足は少し固まったが、振り返ることはなく、そのまま出ていった。

竜之介の誕生日パーティーの日、華やかな会場には招待された財界人が溢れていた。

しかしその時、凪は家族と共に、空港に向かう車の中にいた。

車窓から遠ざかる街並みを見ていると、かつての記憶の破片が脳裏から静かに消えていくような気がする。

凪は秀智とのあらゆる連絡手段を削除した。

これから、自分は誰かの妻ではなく、ただの「二宮凪」になる。

すべての愛と憎しみを過去へ置き去りにし、一機の飛行機で雲の中へと消えていくのだった。
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