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6話/ヤスタカ。誘う

last update publish date: 2026-07-06 06:31:59

俺の中に一つの疑念が生まれた。

“性欲が増しているかも”という、少し笑えなくなってきた種類のやつだ。

禁欲明けとはいえ、朝までいろはとようこを相手にしてしまった夜を思い返す。

あれは若さではなく、“何かが噴き出してる”感じだった。

創作への熱。

誰かの言葉に触れた夜に、脳の奥がカチッと切り替わる瞬間。

そして、ようこと並んで机に向かったときの、あの奇妙な昂り。

“やりたいことが増えていく”と同時に、“身体がそっちに引っ張られている”感覚がある。

いろはが毎晩搾ってきても夜の回数が落ちないのも、理由はそこなのかもしれない。

……それに、最近、変なことまで考えるようになった。

自分が創るのはもちろんやりたい。

でも、それと同じくらい“誰かの創作を支える”のもやりたい。

問題は――俺には技術はない。あるのは“情熱と金”だけ。

金をばら撒く気はない。

“金で集まった人間”の薄っぺらさを、俺はもう十分知っている。

だからこそ、俺はまず、いろはに相談した。

自分の曖昧さごと全部をさらけ出すように。

いろはは、しばらく黙って、何かを計算するみたいにブツブツ呟いていた。

「え……待ってよ?つまり、現状の検証が終わってないまま次?

 間が悪いですね……しずかさんの籠絡も進んでないし……いや、ようこさんに協力を……

 でもようこさんもいつもってわけじゃ……りえ……いや、友達は巻き込めないし……」

何を考えてるのかはわからない。

けど、“真剣に俺のことを考えている”って空気だけは伝わってきて、なんだか胸が熱くなった。

「いろは。どうだろう。またしずかやようこにも相談した方がいいかな?」

俺がそう言うと、いろはは「それなら」と即答で2人を呼び出した。

―

「は?じゃああんたが会社作れば?」

しずかの第一声。あまりに雑で、逆に説得力がある。

「会社……?」

「というか“会社みたいな枠”ね。

 金を撒くんじゃなくて、困ってるクリエイターを受け止める"箱"。

 あなたは代表で、やりたいことが見つかるまで誰かに協力すればいいだけ」

ようこがすかさず乗ってくる。

「面白そうじゃない?私もフリーだし。

 あんたからの依頼が有料になるなら、なおさら悪くないわよ?」

聞いていると、俺の頭の中で“点”だったものが、ゆっくり“線”になっていく。

確かにこれは、金のばら撒きじゃない。

“お互い納得した契約”という形なら、誰も傷つかないし誰の尊厳も踏みにじらない。

そんなことを考えながら、気づけば俺は口にしていた。

「じゃあ手始めに……しずかとようこ。2人は参加してくれるか?」

「私はいいわよ?」

ようこが肩をすくめる。

「自由に仕事していいんでしょ?じゃあ参加してあげる」

「私も、別に断る理由はないわね」

しずかも軽く笑った。

胸が熱くなる。

“スタート地点”が、ここにできた。

「じゃあ、俺はそのための勉強だな。いろは!」

呼ばれたいろははビクッと肩を揺らした。

さっきからずっと青い顔をしていたけど、俺は深く気にせず続けた。

「いろはは簿記持ってるよな。

経理とか、依頼の管理とか、手伝ってほしいんだけど……給料もちゃんと払う」

そのためにはバイトを続けていくのは難しいだろう……思い入れの強いバイトだと思ったから、一応確認したつもりだった。

だが返ってきたのは、驚くほどあっさりした返事。

「いいですよ?辞めます。

それが今のヤスタカさんのやりたい事なんですよね?

なら私は、その隣で手伝うだけですよ♡」

迷いゼロ。

思わず抱きしめたくなるほど心強い。

「ありがとう、いろは……」

と、その瞬間。

「で?もう一つ相談があるんでしょ?」

ようこがにやりと笑ってきた。

まるで、先の展開まで見透かしているみたいな目をして。

俺は息を整えながら切り出した。

「この間会った“あいさん”にも声をかけたい。

ライターとしても、クリエイターとしても、すごい人だと思った。

仲間にできたら心強いと思う」

ここで、視界の端でいろはが“うわぁ…”という顔をしたのは気のせいだろうか。

そうと決まったらまずは勉強だな。

まあ、創作しようとした段階で個人事業主についてはある程度勉強したから、支援団体の運営についての勉強だ。

明確な方向性が見えたせいか、やる気が満ち溢れてきた。

だが、そんな俺と反比例するかのようにいろはは疲れているようだ……だが、隙あらば搾ってくるし、夜は2人がかりで攻めてくるしで、そっちの元気はあるようなんだが……もしや俺の疑念は当たったいたのだろうか。

ー

ある日、ようこからの着信。あいと話がついたらしい。

聞けば、やはり仕事は順調とは言い難いらしく、二つ返事とはいかなかったが詳しい話を聞きたいそうだ。

話し合いはファミレスにすることにした。あまりかしこまった話にはしたくなかったからだ。

一度会っているとはいえ、ほぼ初対面のようなものだ。

あいはかなりの美人で、しかも金髪碧眼の長身美人なので忘れることはないが、俺はどこにでもいる普通のおっさん……

きっと覚えてはいないだろうと思っていたが、あいの方から声をかけてきた。

「おお!ヤスタカ殿!ここだここだ!」

あいは先に到着していて、軽く手を振り席へ促してくる。

「ヤスタカ殿。改めて自己紹介させてもらう。あいだ。よろしく頼む」

固い……ようこの話では、これが素の話し方らしいが、それにしても固い。

なんというか……武士?騎士?確かにこれはクライアントとの折衝はうまくいっていないのも頷ける。

それに、なんとなくだが警戒心を強く感じる。

ようことは都合が合わず2人だけなのも、女性として当然の警戒なのかもしれない。

軽く挨拶を済ませて、本題に入る前に気になることを解決することにした。

「えっと……あいさん……取り敢えず"殿"はやめにしませんか。むず痒くて……」

「そ、そうか……じゃあ私にも敬語はいらないし"さん"も不要です。で、早速その……互助会?の説明を聞きたいんだけど」

そこから俺は、詳しい説明をした。とは言え、まだ始まってもいないので"こうしていくつもり"という説明になってしまうのだが……

「……つまり、今のままフリーとして仕事をしつつ、ヤスタカの依頼を受ければいいと……しかもそれで依頼の報酬と別で給料まで……」

ブツブツと呟きながら考え込んでしまった。

仕方ない。今はまだ机上の空論レベルだから、怪しむなという方が無茶な話だ。

だが、あいが気にしていたのはそこではなかった。

「おかしい……話がうますぎる!おいおまえ!まさかその依頼というのはいやらしいことじゃないだろうな!給料を餌に!薄給の女達を……私を……ハァ……ハァ……なんてやつだ……ご褒美か!?美味しすぎる!」

……あ〜ダメだ……どんな人間かわかってしまった……

だが、あいの書き物を読んで、才能があるのはわかるだけに惜しい……惜しいが……

「あい!落ち着いて!周りの目もあるんで!俺が社会的に死ぬんで!ちゃんとした仕事!クリエイターとしての仕事をお願いするだけなんで!」

幸い、周りは大声に反応しただけで、内容は聞こえてはいなかったようだ。……取り敢えずこの時点で、俺はあいに対して畏まることはしなくなった。

「ご、ごめんなさい……どうも私はすぐ熱くなってしまって……」

わかってくれたようだ。まあこの熱くなるのも思い込みの激しさもクリエイターならよくあることだろう。

「それで?あなたはようことどんなプレイを?酔わせて気絶するまで追い込んだりしたのか?」

あいはまだ誤解……でも無いので返答に困るが、それは結果であって目的では無いので誤魔化す。

「順番に説明するぞ?まず給料ではなく生活補助金で、あいが自分で受けた自分名義の仕事の報酬は全部受け取ればいい。

俺からの"ちゃんとクリエイターとしての"仕事の時は、団体名義で書いてもらうから、そこが団体の収入。ちゃんと売り上げはあいにも還元される。ここまではいいか?」

あいは深く考え込んで返してきた。

「つまり、生活費と引き換えにヤスタカの性奴隷になるということだな?仕方ない……ハァハァ……」

……仕方ないって言ってるしもういいかな……入ってくれるだろ……

「……と、とにかく!団体の目的は、才能ある個人への助成が目的の団体だからな?あいにはデメリットはないようにするから!じゃあ!ようこも入る予定だから!」

俺は逃げるようにその場を後にした。もちろん支払いは俺で。

ー

「ヤスタカさん、痛いのも痛がられるのも苦手ですもんね〜相性悪いのかも?ハム……」

チュプ……

帰ってきて着替えながらいろはに今日の顛末を話した。

そうなのだ。人の性癖は千差万別、そこに俺の主観が入る事は無いが、やはり自分に置き換えると苦手意識が先に出てしまう。

ジュル……ピチュ……

「ところでいろはさん?何をしてるの?」

チュパ……

「なにとは……服を脱がすのを手伝っているだけですが?お疲れのところを労っているだけと言いますか……ん……ん……」

今日もいろはは積極的だ。

「でもそうですね……ヤスタカさんはその人が欲しいんですよね?なら……私が教えてあげます♡」

ー

お風呂も晩御飯も勉強も終わり、いろはとベッドに寝転がる。ここまではいつもと同じだ。

だが一つだけ違うことがある。

それは、ベッドの上に置かれたモノだ。

アイマスク、ソフトタイプの手枷、“あんなおもちゃ”、どれも普段は使わない……なんならこの部屋にあるのも知らなかった品々だ。

「……いろは?これは?」

「んふ♡ヤスタカさんへの教材、“簡易SMセット”です♡」

いろははこう続ける。SMは特殊性癖ではないと。ほとんどの場合、決まった相手との愛情の形であると。痛みや苦しみそのものが快楽ではなく、誰に与えた、与えられたものかが大事であるのだと。

「ですから、あなたを大好きな私と、私を大好きなあなたとで試してみませんか?♡」

いろははずるい……こう言われては俺が引けないことを分かった上で誘っている。

そしてもっと悔しいのが、少し興味が出ている自分がいるという事実だ。

ー

結論から言おう……確かにこれは、異常性癖、特殊性癖などではないという認識に変わった。

日頃の行為とは違う高揚感が俺を包んでいく……また、その過程こそが愛情の形であると……

それはそれとして、今度ようこにも試してみよう。

あいの性癖を黙っていた意趣返しにこれくらいは許容してもらおう。絶対にだ!

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