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壁の中の世界③

last update Veröffentlichungsdatum: 23.04.2026 09:58:00
やがて車は衣笠開キ町へと辿り着いた。華やかな京の喧騒を背に

そこには取り残されたような静寂が横たわっている。

時が凪ぎ穏やかな光が満ちるなか、二人は車を降りた。

京都、紙屋川。かつて御土居の西端を流れていたその川の砂防ダム内部には

法と地図の隙間に埋もれた「集落」が存在する。

その場所は、地図の上ではただの「川」であり、「ダム」だった。

しかし、コンクリートの巨大な壁の向こう側には、

戦後から時間が止まったままの剥き出しの“現実”がそこにある。

湿った風が谷底を吹き抜ける。頭上を走る現代的な道路の喧騒は、ここまでは届かない。

聞こえるのは、コンクリートの隙間を縫うように流れる水の音と、

古びたトタンが風に震える乾いた音だけだ。

ダムの堤体、その巨大な影に寄り添うようにして建てられたバラックの群れ。

それらは、地面から生えてきたというよりは、増水するたびに流されまいと、

互いの肩を寄せ合って岩場にしがみついているように見えた。

二人は誘われるように、ダムの内懐へと通じる狭隘な入り口に立つ。

その境界線の先には、未知の静寂が待ち受けていた。

「ここは、忘れられた場所や」

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