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壁の中の世界②

Auteur: rinsan
last update Date de publication: 2026-04-22 18:36:28

「なら行こか」

男は、今まさに車中へと身を沈めようとする背中に向かって、絞り出すような声を投げた。

「おやめください。あそこは…カシラのようなえらい方が、

行かれるようなところじゃあらしません!」

「ほう…お前このお嬢はん一人で行かすちゅうんか?」

彼の冷徹な声と、突き刺さる視線の鋭さに、男の思考は瞬時に凍りつき、

わずかな身じろぎさえも忘れたかのように硬直した。

それでも、男は震える喉の奥から、絞り出すようにその言葉を解き放った。

「じ、自分がこのお嬢さん衣笠開キ町まで連れて行きます!」

その言葉は、男にとって抗いようのない「理」であった。

若頭という「看板」に傷がつく。その代償として、己の指や命が如何に無力であるか。

男はその残酷なまでの非対称さを、誰よりも深く、噛み締めていた。

彼は男の提案を咀嚼するように、細められた瞳の奥で視線を彷徨わせた。

短くなった吸い殻を指先から放ると、

乾いた土の上に落ちた火種を靴の先で無造作に踏み砕く。

薄い煙が靴底から這い出し、空気の中に霧散した。

彼は首を回し、少し離れた場所に立つ鈴華を視界に捉えた。

「君、先に車に乗りや」

鈴華は一言も発さず
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    「特別な意図などありません。ただ久々に友人に会いたかったという、私的な逍遥に過ぎません」「ほう、、、六穣会は関係ないと?」腑に落ちぬ表情を隠そうともせず、彼はあからさまな不快を滲ませた。 しかし、それ以上の追究が空隙を埋めることはないと悟ったのか、 やがて重い口を閉ざし、言葉の礫を投げるのを止めた。「・・・で、君をどこに送ったらええんや?」答えを拒むかのように、鈴華の視線がわずかに彷徨う。 喉元まで出かかった言葉を一度飲み込み、彼女は覚悟を決めたように、彼に向かって目的地を口にした。「西木屋町にあるスナックです」「西木屋町、、、うちのシマやな。なんて名前の店や?」「…ヨ

  • 洛陽夜曲   六穣会

    彼女は呼吸ひとつ分の沈黙を経て、『はい』とだけ告げた。彼女の沈黙という深淵に、どのような想像が沈んでいるのか。彼は一瞬その淵を覗き込もうとしたが、すぐにそれを止めた。ただ静かに言葉を紡ぎ、その静寂を破る。「そういうたら、まだ名前をきいてへんかったなぁ。君なんて名前?」「鈴華、、、槇村鈴華です」「鈴華、、、ええ名前やな。、、、で、君何者やの?カタギの娘が血生臭い九条組の『顔』に辿り着くはずがあらへん」「私はしがない小娘にすぎません。ただ、父が六穣会という場所に身を置いておりますので、普通の方なら知り得ないようなことが、自然と耳に届いてしまうのです」「六穣会の槇村やと⁉」溢

  • 洛陽夜曲   煙草とドラッグの香り

    車内に乗り込んだ彼女を確認し、ほっとした表情を一瞬浮かべ、エンジンをかける。静かに走り出した窓越しの街灯が彼女の長い黒髪を柔らかく照らしている。 「君みたいなお嬢さんが一人歩きするのは、やっぱり心配やからな」 「九条のシマで問題は起こしません」※シマ…組の縄張り。管理地域。 煙草の煙を指先で弄りながら薄くほほ笑む。車内の照明が彼の彫り込まれた眉間に影を作る。 「そうやろうなぁ。こないな綺麗な娘さんが問題を起こすとは思えへんけど、用心に越したことはあらへん」 会話の途切れ目だった。ふいに、彼女が車のシートから身を乗り出し、囁くような声とともに、彼女の顔が彼の口元へと寄せられた

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