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虚無

Author: rinsan
last update publish date: 2026-07-13 13:06:27

洗練されたフレンチの門を後にした二人の間には、

埋めようのない温度差が横たわっていた。

梨花は、まるで当然の権利を行使するかのように、

しどけなく京司の腕に自らのそれを絡ませた。

「まあまあの店だったわね」

彼女の言葉は、充足感に甘くふやけ、夜の空気に溶けていく。

弾むような足取り、艶然とした横顔。

そこには、選ばれた者だけが享受できる女の傲慢なまでの上機嫌があった。

しかし、隣を歩く京司の胸中に去来していたのは、

静かな、それでいて逃れがたい拒絶の情であった。

鼻腔を執拗に衝く、重苦しく甘ったるい香水の残香。

そして、衣服越しに伝わってくる梨花の湿り気を帯びた体温と、

絡みつく蔦のような腕の感触。

それらすべてが、今の彼には生理的な嫌悪を呼び起こす毒素でしかなかった。

親密さを演じるためのその接触が深まれば深まるほど、

彼の精神は逆に頑ななまでに透明な壁を築き、

彼女から遠ざかろうと身を固くしていた。

京司の脳裏に、不意に鈴華の残り香が立ち上がった。

それは人工的な香水などではなく、雨上がりの森で若葉が放つ、

新緑の芳香に似ていた。

肺の最奥まで満たしたくなるような、

生命の純粋さ
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