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3.君の美しさを最大限に引き出せるのは俺だけだ。

last update 最終更新日: 2025-06-13 16:32:26

 メイドのラリナは背が高くて、彫が深くてはっきりとした顔をしている。

 艶々の黒髪ロングは一つ束にまとめていたら勿体ないので、流すべきだ。

 そして、フリフリしたエプロンは似合わない。

 膝上のスカートも彼女の良さを消している。

 ロングスカートか、パンツスタイルの方が似合うだろう。

 こう言ったものは小柄な子が似合うのであって、彼女はエプロンを外してシンプルな格好をした方が良い。

「そのダサいメイド服は、まず脱ぎましょうか」

 私は自分のクローゼットから、彼女に似合う赤いロングドレスを用意した。

 彼女の赤い瞳と同じ印象的な強い赤だ。

「今からこれを着るのよ。胸はないようだけど、この首まで詰まっているドレスは胸がないあなたの方が上品に着こなせるわ」

「今から、ドレスを着るのですか?」

 戸惑いながらもラリナはドレスを着ることに、ワクワクを隠せないようだ。

(そう、その目よ! 今から、あなたは生まれ変わるの)

 私はまず彼女のほぼスッピンのメイクを注意した。

 そして、サーモンピンク色の口紅が恐ろしく似合っていない。

 彼女に似合うのはハッキリした色だ。

「あなたに似合うメークは違うのよ。可愛い系じゃなくて、モード系。まずは、そのシャケみたいな口紅を落とすわよ」

「モード?」

「そうよカラーでいえば、冬カラーが似合うの。はっきりした色ね。そのぼんやりしたメークでは自分を失うわ」

「でも、私はメイドなので⋯⋯」

「その意味もないカテゴリー捨てましょう。あなたは、今からメイドではなくて、ただのラリナよ。今からあなたの美しさは大暴走するわ。今まで抑えつけられた分ね⋯⋯」

 私は彼女の美しい顔立ちをより際立たせるように、シェーディングをした。

「あ、すごい⋯⋯これが、私⋯⋯」

 ラリナは鏡を見を見て自分の姿に見惚れている。

 私は人が新しい自分を見つけ出す瞬間に、異世界でも立ち会えた。

 やはり、美の伝道師としてこの世界でも生きていこうと決意を新たにした。

「ザッツイット! さあ、今すぐ仕事をすて、夜の街を闊歩してきなさい。どさどさとあなたにくっついてくる男たちを嘲笑いにね!」

「え、私、首ですか!」

「首ではないわ。ただ、今、この場所があなたの美しさを拘束できるだけの力がないだけ⋯⋯」

 似合わぬ服を着て仕事をする事で、ラリナは時を無駄にしている。

 女の美しさはいつだって儚いものだ。

「靴もヒールを履くの。何なの、そのペタンコ靴は!」

「でも、私、背が高いですし⋯⋯ヒールは履いたことがないです。痛そうで⋯⋯」

「楽に逃げてはダメよ! 美しくなるって、時には痛みも伴うのよ。背が高いから何なの? もっと、手の届かない女になってみなさいな」

 私の圧に押され黒いハイヒールをラリナは履いた。

 確かに、歩き慣れていなくてふらついている。

「エスコートボーイを呼びましょうか」

「エスコートボーイ? お、お嬢様?」

 私は彼女と見た目的に見合う身長を持つ執事のカイルを呼んだ。

「彼にエスコートさせなさいな。美しいあなたに見合うパートナーよ」

 このように男を選り好みしていたから、私は不幸だったのだろうか。

 いや、関係ない⋯⋯私は男なんて必要ない。

 自分がやりたい道を進むだけだ。

 その日を境にラリナのことが評判になり私の元へ貴族令嬢たちがごった返した。

「ミランダ・レリーダと申します。私の美しさも眠っているのでしょうか⋯⋯お願いします。引き出してください婚約者が私を見てくれないのです⋯⋯」

 目の前にいる茶髪の令嬢の言葉に思わずため息をつく。

 付き合っている男が他の女を見るならばその男は地雷だ。

 そのような男の為に自分を変える必要などない。

 自分を変えるのはあくまでも自分の為であるべきだ。

「あなたの美しさは眠っています。でも、男の為に美しくなりたいというなら、お断りです。いつだって美しさは自分の為にあるべきです」

 レリーダ侯爵家といえば帝国一の富豪だ。

 私は彼女の足にしがみついてでも、自分の地位を保証してもらうべきだろう。

 すべき事が分かっていても、私のこだわりが邪魔をする。

「レタニアン皇太子の為に美しくなりたいというのは確かです。でも、彼は女に興味がないようで⋯⋯私はただ彼の女性への興味を少しでも引き出せればと思うのです。帝国の未来のためにも⋯⋯」

 一瞬、鳥肌がたった。

 どうやら美しいと評判のレタニアン皇太子は目の前の問題ない婚約者にも落ちない難攻不落の物件らしい。

「ミランダ嬢⋯⋯私があなたをすれ違う者が失神するくらいの美女に仕上げます。あなた様にはそれ程の美しさが眠ってますよ」

 目の前のミランダ嬢を上から下まで見定める。

 この中世西洋世界に珍しいイエローベースだ。

 似合う配色を考えるなら秋色が似合うだろう。

「ミランダ、あなたの赤髪はまるで秋に舞う紅葉のようです。そして瞳は上質なブドウを熟成させた赤ワイン」

 彼女は赤髪に赤い瞳を持っている。

 それゆえにドレスははっきりした赤を着ることが多いようだ。

(彼女に似合うのははっきりした赤じゃない。似合う赤ならボルドーのような赤⋯⋯)

 私は彼女にいつも着ない赤ではないマスタードイエローのドレスを着させた。

 メイクは深い赤と紫、アイラインは長めで。

 ミランダは大人っぽい顔立ちをしているのに、メイクは幼い。

 彼女に似合うメークをすれば、魅力を引き出せる。

 私は目の前のミランダを極上の熟成されたワインに仕上げるつもりだ。

 これで落ちないのであればレタニアン皇太子は男色だろう。

♢♢♢

 「マレリア・ハイント男爵令嬢、至急、皇室にお越しください」

 突然訪れた皇宮からの使いに連れられて、私は初めてレタニアン皇太子を訪れた。

 豪華絢爛とした皇宮に自分が用がある人間だとは思ってもみなかった。

「レタニアン・モンテアール皇太子殿下に、マレリア・ハイントがお目にかかります」

 黒髪に覗くサファイアのような透明度のある瞳に、一瞬心臓が止まりそうになる。

 何もかも見透かしてそうな目で射抜かれそうになっても、彼は17歳だ。

前世の私は34歳で彼の倍は生きている。

(堂々として良いわよね⋯⋯)

「美しいエメラルドの瞳だな。そして、その淡い緑色のドレスも珍しい色だが似合っている」

「このようなクリームのような緑が私には似合うのです。水色、ピンク色、少し幼いと感じるようなパステルカラーが私の可愛らしさを限界まで引き出しています」

 私の言葉になぜかレタニアン皇太子は吹き出した。

「な、何ですか? レタニアン皇太子殿下⋯⋯今の渋い色は殿下には似合いませんよ。自分に似合うものも分からないあなたがなぜ私を笑うのですか?」

 私は前世でも散々馬鹿にされた自分のこだわりを出してしまった。

 好きな色を着れば良い、好きなようにメイクをすれば良いと人は言うけれど似合う色とコーディネートがある。

 私も実はハッキリとしたビビットカラーが好きだ。

 しかし、色白ブルベで夏カラーが似合う私が着ると浮いてしまう。

 そのような色が似合うのは目の前にいるレタニアン皇太子だ。

「じゃあ、俺にはどのような色が似合う?」

「端的にいうとハッキリした色が似合います」

「例えば、お前みたいなか? マレリア⋯⋯」

 私を抱き寄せてくるレタリニアン皇太子は私を揶揄っている。

 (揶揄われるのは苦手だし、馬鹿にされているようで嫌だ!)

「おやめください! 私は婚約者もいる身です」

 マレリアには老伯爵の婚約者がいる。

 妻と死別したムランガ伯爵だ。

 彼は私を手にいれる代わりに実家を支援してくれるらしい。

「ムランガ伯爵か⋯⋯彼を愛しているとか冗談はよしてくれよ」

「そのような無駄な冗談は言いません」

「君の好きなことをさせてやる。好きな事を好きなように⋯⋯1つだけ条件がある」

「条件とは、何ですか?」

「俺を愛することだ」

 一瞬、心臓が止まったかと勘違いしそうになった。

 私にも婚約者がいるが、彼にもミランダ嬢という婚約者がいる。

 でも、自分の本心に向き合えば初めて興味を持ったのがレタニアン皇太子だ。

 美しい声、美しい姿⋯⋯私は彼のことを弄りたくて堪らない。

 そして、自分が求めれば、当然私を手に入れられると思っている自信家なところにも惹かれる。

(日本にいた時は、草食系ばかりだったわ⋯⋯)

 園田守はロールキャベツ男子だった。

 私はこういった古き良き時代から来たような、レタニアン皇太子のような肉食系を求めていた。

「マレリア⋯⋯俺と結婚して欲しい。もう、君しか考えられないのだ」

 目の前の男には婚約者がいる。

 略奪愛なんて、私は軽蔑していた。

 でも、今、私のハートが彼に略奪されてしまったのだ。

「あの⋯⋯私は皇室に入る訳にはいきません。美の伝道師としての仕事を⋯⋯」

 レタニアン皇太子は私に最後まで言葉を続かせてくれなかった。

 艶やかな黒髪から覗く青い瞳が私を逃さない。

「君の美しさを最大限に引き出せるのは俺だけだ」

 確かにそうかもしれない。

 彼の瞳に映る私は頬を染め、瞳孔が開き今まで見たことのないくらい魅力的だ。

 私は人の美しさを引き出すことばかりに気を取られていたようだ。

 平民と変わらないような貧乏貴族の私を妻にするなど、周囲から反対があるだろう。

 お互い婚約者がいる身でもある。

 でも、私自身も彼を唯一無二の存在だと思っている。

 私は恋愛などできない女だと思っていた。

 私の心を揺り動かしたのは前世を含めてレタニアン皇太子だけだ。

 私は周りの目があると分かっていても、彼の口づけを受け入れ首に手を回した。

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