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不死身青年と殺人鬼少女の青春Ⅸ

Author: kumotake
last update Last Updated: 2025-08-07 21:19:22

「まぁ、あの子のことは、今はそれほど心配しなくていいよ、荒木君」

「......」

 あの一件から、少しばかり時間が経った今日この頃、僕と相模さんは、あの時と同様、例のカラオケボックスのお店の一室に、向かい合わせになりながら座っていた。

 しかしながら、今回はどちらも歌わない。

 歌うための場所であるということは、もちろん僕も、そして彼も、重々承知している。

 しかしまぁ今日は、『歌う』というよりも『謳う』のだ。

 事後報告というか、答え合わせというか......

 そういう感じに、そういう風に今まで出した、出し並べた情報をすり合わせて、すり減らして、柊のこの一件に、殺人鬼のあの一件に、区切りをつける。

 今日の目的は、そんなところだ。

 先に開口した相模さんは、それに対して何も言わない僕を見て、続けてゆっくりと、あのとき僕に見せた新聞記事をテーブルの上に置いて、話し出す。

「もうわかっていることから、丁寧に並べていこう。まず、あのときココで君に見せたこの新聞記事、ココに載っている人物の名前は 柊 陽太(ひいらぎ ようた) 血縁上は柊ちゃん 柊 小夜(ひいらぎ さや) の兄で、当時は今の君等と同じ大学一年生で......」

「彼も、殺人鬼の異人だった......」

 そう僕が口を開いたところで、相模さんは少しだけ間を置いた後、「そうだねぇ......」と言った。

 最初に......

 僕が最初に殺人鬼の異人のことを知ったのは、相模さんからの電話で、『仕事仲間から聞いた、噂程度の代物』と、そういう風に聞いていた。

 それはつまり、噂が流れる程に、それ程までに、前例があったということで、そしてそれはそこまで古くない事例だったからという事に、他ならない。

 そしてその事例が、この新聞記事の内容である。

「まぁ、火のない所に煙は立たぬって言うしね......無関係の人間の、しかもまだ、年端も行かぬ子供を異人が殺したなんて......これほどの前例があれば、こういう危険性の根拠の様なモノがあれば、今回のように、僕ら専門家の間では、噂くらいになっても、おかしくはないよね......」

 そう言いながら、彼は自分がテーブルの上に置いたその新聞記事を、ジッと見る。

 そしてその時の彼の視線は、珍しくも少しだけ、険しく見えた。

 それはきっと......

 きっと自分が関係してい
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