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不死身青年と旅人童女の追憶Ⅰ

Author: kumotake
last update Last Updated: 2025-08-08 18:56:07

『旅人』という言葉を、耳にしたことはあるだろうか......

 それは一般に、『旅をしている人』を指して使う言葉で、さらにもっと詳細に言えば、『自らの所属する社会を離れて、別の社会への移動過程にある人』を指して使う言葉でもあるらしいのだ。

 しかしながらこの言葉を、こんな風に後者の様に考えながら使う人は、おそらくいないだろう。

 いなくて当然のことである。

 このたった二文字の、見れば意味がすぐにわかる様な単語を、こんな風に考えて使う人がいること自体、そもそもおかしな話で、普通ではないのだ。

 けれど旅人という者は、その二文字の単語ほど、今ではわかりやすい者ではないのかもしれない。

 なぜなら今の旅人という者は、その人の見た目からはあまり、わからなかったりもするからで......つまりどういう意味かというと、旅人は必ずしも、格好からして旅人というわけではないという意味だ。

 旅人を旅人として認識するには、その旅人である者が自ら誰かに、「私は旅をしています」と言う必要があって......旅人はそんな風に、誰かに自分が旅人であることを自己申告しない限り、他人から見ればその人は、旅人として存在していないということになる。

 逆に言えば、旅人ではない人を、旅人と他人が捉えてしまえば、例えそうじゃ無くともその人は、旅人として存在できてしまうのだ。

 これでは誰しもが、そういう風にしてしまえば、旅人として存在できる様なモノである。

 しかし実際のところは、そういうモノなのかもしれない。

 今では昔と違い、様々な交通手段が普及したことで、誰しもが遠い距離の移動が容易になった。

 車で道路を走ったり、電車で線路を辿ったり、飛行機で空を飛んだり、船で海を渡ったり。

 遂には地球から離れて星々を巡るために、ロケットなんてモノも出て来てしまった。

 それ故に旅人という者の存在は、やはり昔よりも希薄になってしまったのかもしれない。

 今では旅人かそうでないかの見分けは、昔よりもつきにくく、分かりにくいモノになってしまった様に思える。

 その昔は、ただひたすら歩きながら、町から町へ、街から街へと移動していたらしいので、きっとその姿を見れば、誰しもがすぐに、『この人は旅人である』と気付いたのだろう。

 そんな時代の人間が、もし今の日本を見たらどう思うのだろうか。

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