Home / 青春 / 異人青年譚 / 大学生青年と吸血鬼少女の強奪Ⅳ

Share

大学生青年と吸血鬼少女の強奪Ⅳ

Author: kumotake
last update publish date: 2025-07-21 19:26:38

 パンケーキを食べに行った次の日

 ゴールデンウィーク二日目である今日は、朝からあまり天気が良くなく、一日中雨が降り続く予報が、テレビから聞こえていた。

 時間の節目になり、番組が変わる。

 そしてまたその番組では、前の番組でも報道していたことを、報道する。

 特に見ているわけでもないテレビ、朝起きて身支度をするときの時計代わりである。

 これはこれで案外便利だ。

 こちらの要望に関係なく、今イチオシのスイーツだったり、芸能人の不倫疑惑や、新しい映画の完成披露試写会、政治家の汚職、ゴールデンウィークにおすすめのテーマパークの情報、通り魔の事件や強盗、交通事故、その他諸々。

 そんなモノばかりがひっきりなしに、テレビから流れ込んでくる。

 そして僕はそれらの大半に、まったくと言っていい程に興味が持てないから、身支度に集中出来るのだ。

 それにしても......

 昨日琴音さんからされたあの話が、まだ自分の心の中に引っ掛かっている。

 琴音さんの説明通りなら、僕は現状、半分ほど人間ではなくて、人間の生き血を吸いながら生きる、吸血鬼になってしまっているのだ。

 それでも、琴音さんは生き血を吸うことはないと言っていたから、大丈夫だと言っていたから、きっと大丈夫なのだろう。

 なにか根拠があるわけでも、信頼とかがあるわけでも、そういう目には見えない大切なモノは、正直言ってないけれど......

 それでも、少なくとも僕をこんな風にしたのは彼女なのだから、こんなことを話せるのは、彼女だけなのだから......

 僕はどうなってしまっても、あの吸血鬼の異人の少女 佐柳琴音 を信じるしかないのだろう。

 そんな風に考えながら自分の顔を洗っていると、傍に置いていた携帯電話にメッセージが届いていた。

 画面を確認すると、そこには昨日、連絡先を交換したばかりの彼女の名前があった。

 彼女とはそう、佐柳琴音 その人である(人ではないけれど......)。

『今日見に行きたい映画があるんだけれど、一緒に来てくれない?』

 なんだか遠慮がなくなったように思える送られたそのメッセージの文面からは、肯定以外の返事が出来そうにない雰囲気が漂っていた。

 まぁ実際、僕はそれを断れないのだけれど......

 このゴールデンウィークの期間中は、外出の時は琴音さんと行動を共にするように、あの専門家から言われている。

 それは不安定な存在である僕たちが、各々の場所で何かしらの問題を起こさないようにするための措置だ。

 けれどどちらかと言えば、僕よりも彼女の方が、問題を起こしてしまう可能性は大きいのだろう。

 なんせ元々異人で、専門家に管理されていたのは、彼女の方なのだから。

『いいですよ』と僕は返信する。

 そして雨が降りしきるゴールデンウィーク二日目の外に、僕は折りたたみ傘を広げながら、いつものように歩き出した。

 横浜駅には最近、駅から一歩も外に出ずに映画館に向かうことができる施設が建設された。

 それ以外にも様々な飲食店や書店、アパレルに家電量販店、お土産なんかにも使えそうなお菓子やケーキ、総菜、さらには野菜や果物なんかのお店もあるくらいで......

 お金さえあれば、全ての買い物が駅から外に出ることなく完結できるのだ。

 しかしながらその『お金』が著しく乏しい大学生という人種は、結局は行き慣れた外のお店の方に行ってしまうそうで......

 まぁその話は、僕の話ではないのだけれど。

 そもそも僕は、普段あまり買い物はしないし、ましてや今回のように、誰かと映画を嗜むこともしない。

 だから知らなくて当然なんだけれど......

「あのさ、琴音さん」

「ん?なに?」

 不思議そうにワザとらしく首を傾げながら、彼女は笑顔でこちらを見る。

 そんな彼女に対して、僕はため息交じりに言葉を紡ぐ。

「僕はどちらか言えば無趣味な方だから、ヒトの趣味に対して何かを言うことは基本しない。だけど今回に限って言えば、さすがに訊かずにはいれないんだ。だからまぁ訊くけれど......」

「うん」

「......なんでこれが見たいの?」

 そう言いながら、僕は彼女が見たいと言っていた映画を指差した。

 そしてその指差した先には、恋愛でもなければミステリーでもなく、またアニメーション作品でもなければ、特撮でもない。

 もちろんハートフルなコメディでも、情熱的な人間ドラマでもない。

 そこに書かれていた作品は......

『ルージュ~血の彷彿~』

 呪いの人形が主人公達を次々と残忍な殺し方で屠っていく、スプラッターとホラーを掛け合わせたような、そんな映画だったのだ。

「今Twitterで流行っているんだよ、この映画。だから見てみたいかな~って思って」

「いや......だって琴音さん......」

 言い掛ける僕に、彼女は被せる様に言う。

「あっ、もしかしてホラー苦手だった?」

「あっ......いや、そういうわけではないけれど......っていうかこれ、ホラーっていうか、スプラッターの要素の方が強いよね?」

 そもそも普段が吸血鬼の琴音さんは、どちらかと言えばホラー側な存在だろうに、そんな彼女が、一体どういうつもりでこの映画を見るんだ。

 しかも......

「だから結構......グロイですよね、これ......」

「うん、血がいっぱい出るね!」

 嬉しそうに言いやがる......

「もしかして美味しそうとか思いませんよね?」

「えーそんなことないよーぜんぜんそんなことなーい」

 そんな風に、まるでそう思っていたことを隠す気がない彼女が棒読みで言葉を返すから、僕はつい言ってしまう。

「この中途半端吸血鬼め......」

 まぁそれは、僕も同じなんだけれど......

 二時間ほどの、鮮血が縦横無尽に飛び回る映画を堪能した後、僕たちは近くにあるファミレスで食事をすることになった。

 夕飯というには早く、昼食というには遅すぎるような時間帯だけれど、なんせ長時間、一つの映像作品に集中していたのだ。

 だからまぁ、少しくらいは、空腹を感じる。

 席に着いて、タッチパネルで注文を済ませ、それぞれドリンクバーから飲み物を用意した後、互いにそれぞれの飲み物を一口飲んで喉を潤してから、一拍間を置いて、僕は彼女に尋ねた。

「それで、どうでしたか?お目当ての映画は」

「うーん、内容はあんまりかなー」

 さいですか......

「でも映画館で映画を見れたこと自体は、とても面白かったし、贅沢だった」

「贅沢って......まぁたしかに、二時間の映像に二千円近く払っているんだから、その気持ちはわからなくはないけれど......」

 そう僕が言い掛けたところで、琴音さんは否定する。

「あぁ違う違う、そういうことじゃなくて......」

「ん?」

「お金のことってよりも、時間とか、設備とか、マナーとか、そういうこと」

「えっと......」

 どうしよう、話の意味が少しわからない。

「......つまり、どいうこと?」

 そう僕が尋ねると、彼女はまた一口ドリンクを飲んで、そして言う。

「つまりさ......私でも誠でも、毎日何かしら、やらなくてはいけないことに追われてて、そういうことを連絡したりするために、携帯とかって持ってたりするけれど、その携帯の電源を完全に切って、二時間、音響やら映像やらの機材が整った部屋で、ただひたすら、映画の世界に没頭できるって......それってかなり、贅沢なことじゃない?」

 その彼女の言葉を聞いて、僕は『あぁ、そういうことか』と納得してしまった

「.....たしかに、そうかもしれないね」

 つまり彼女は、考えることが多い今の世の中で、そういうことを一切合切すべて思考の外側にどかして、一つの『映画』という映像作品に、二時間近く費やせるあの空間そのものが贅沢だと、そう言っているのだ。

 けれどそれだと......

「でもそれだと......わざわざあんな映画じゃなくても良かったんじゃないの?ぶっちゃけ、殺し方と鮮血の飛び散り方が凄かっただけで、内容はあまり面白くなかったよ」

 本当にぶっちゃけたな、僕よ......

「でも世間的には、アレは結構絶賛されているらしいよ?」

 からかうような表情で、彼女はそう言う。

 だからそれに対して、僕は表情を変えないで返答する。

「それはまぁ、世の中何が流行るかなんて、わかったモンじゃないからね。『流行り物は廃り物』ってことだよ」

 そんな風に、僕は自分が知っている言葉を彼女に言った後に、自分のドリンクを一口飲みながら、少しだけ考える。

 この言葉は、あまり良い意味ではないよな......

 結局、この日はただ本当に、映画を見ただけで終わった。

 ファミレスで食事をした後に、その店前で解散した。

 まぁ、そもそも付き合っている恋人同士でもなければ、友人と言えるほど時間を共有していない、なんと言えばいいのかもわからない、怪しい間柄の僕たちは、その日の予定が終了したら、すぐに解散する方が、何かと都合がいい。

 それを別に、僕は彼女に言ったわけでも、彼女が僕に言ったわけでもないけれど、それは多分、お互いに少なからず、そう思っているのだろう。

 だから昨日のパンケーキも、そして今日の映画も、彼女の目的が達成されれば、そこで僕たちは解散したのだ。

 そして解散後、家路に着いた僕は、自分が生活をしているアパートに続く、暗くて不気味な夜道を歩いていたところだった。

 横浜の駅前とは、打って変わって街灯が少なく、そして住宅街だからなのだろう。

 不自然なまでに静かで、暗い。

 故郷である九州は、もっと早い時間にこのくらいの暗さと静けさになるけれど、それは周りに何もないから、当たり前だ。

 けれどこの場所は、こんなにも様々なモノが混在しているのに、そのはずなのに、こんなにも音がしなくて、光がない。

 それがとても、不気味に思えて仕方なかった。

 それにまさか、こんな不気味な夜道の途中で誰かと会うことも、予想していなかったのだ。

 っというよりも、予想出来るはずがない。

「やぁ荒木君、随分と遅かったねぇ。待ちくたびれたよ」

 そう言いながら、その男は住宅街にある階段の手すりに腰掛けて、こんな暗い夜道でも、どんな表情をしているのかわかる程に、声を弾ませる。

 そしてその声は明らかに、僕のことをからかっている様な、けれどそれでいて、観察している様な、そんな風に聞こえたのだ。

「......相模さん、でしたっけ?」

「覚えててくれたんだ、うれしいね」

「そりゃ、忘れませんよ。だって......」

「ん?」

「だって貴方は、僕と琴音さんの、ある意味では命綱のような、そういう役割の人なんですから......」

 そう、この人は専門家だ。

 琴音さんのような存在の、異人と言われている者達を管理する専門家。

 僕がこんな、わけのわからない状況に陥っても、それを冷静に分析できる専門家。

 だから今は、ある意味で色々なことが、この人頼りなのだ。

「命綱か......僕はそんな大層な役回りでは、本来ないんだけれど、でも今の君からしたら、天変地異のような今回の状況に見舞われた君からしたら、僕のことをそう見えていても、仕方ないのかもね」

 そう言いながら、男は自分が腰掛けていた階段の手すりから離れる。

 そして手すりから離れた男は、そのままの空気で続きを言う。

「まぁ、とりあえず現状を知りたいから話がしたいんだけれど、立ち話もなんだからさ......」

 そう言って、まるで「付いて来い」と言わんばかりに、僕に視線を向ける。

 そして僕はその視線を、無下に断るわけにもいかないのだ。

 一日の内に、しかもそれほど時間を置かずして、ファミレスに行ったことがある人は、一体どれほどいるだろうか......

 いや、もしかしたらこの事象自体は、案外そんなに珍しくもないのかもしれない。

 ファミレスという場所は、特に値段が張る所でもなければ、行きづらい雰囲気の所でもない。

 もしもそんなファミレスが存在したら、それはただの『レストラン』で、『ファミリー』を枕に据えること自体、間違っているのだから。

 それなら、こう付け加えればどうだろうか......

『人間離れした人間達と、別々のタイミングで、一対一で』

 うん、これならきっと、僕ぐらいしか当てはまらないだろう。

 連れて来られたファミレスで、とりあえずそれぞれドリンクバーと、摘まむための食べ物を二、三品注文し終えたら、注文を終えた時の空気のまま、何か大切な話しを始める雰囲気を作るわけでもなく、それこそ、日常的な世間話をするような空気で、彼は話し始めた。

「それで、半分とはいえ異人になったわけだけれど、その後の調子はどうだい?何か変わったことや、不都合なことはあるかい?」

「えっと......そうですね......」

 唐突に尋ねられたその質問に、少しだけ戸惑いながら、昨日と今日の記憶を再確認する。

「そうですね、別に昨日の今日なので、そこまで変わったり、不都合なことがあったりするわけでも、ないですけれど......」

「けれど?」

「まぁ、強いて言うなら、食欲がないくらいですかね......」

 そんな風に、僕はまるで内科の問診でもしているかのような言葉を、恐る恐る口にする。

「あーそっか、まだ異人になってそこまで時間が経っていないから、その程度の影響があるくらいなのか。じゃあわざわざ、今日君に会わなくても良かったかな」

 そう相模さんが言った所で、タイミングよく食べ物が運ばれてくる。

 ポテトフライと、ほうれん草のソテーと、小さなピザ。

 これ、まさか僕も食べなくてはいけないのだろうか......

「あの......」

「ん?」

「僕、もう今日は夕飯を済ましているんですけれど......」

 そんな風に恐る恐る言う僕に、相模さんは何事もなかったかのように返答する。

「あぁ、知っているよ」

「えっと......だったらこの料理......」

「あーこれね。これは僕が食べるために頼んだだけだから、そんなに気にしないでいいよ」

 そう言いながら一口、相模さんはほうれん草のソテーを口にする。

「あーそうなんですか、じゃあ、そうします」

 そう言って、僕はドリンクバーから持ってきた紅茶を一口飲み込む。

 なんだろ、食べなくてもいいと言われたことに安堵したからだろうか、少しだけ落ち着いてしまう。

 そもそも一度夕飯を食べた後に、もう一度ファミレスに来るなんて......

 アレ......

 さっきの会話、何かおかしくないか......?

 だって......

「あの......相模さん......」

「ん?どうしたんだい?」

「なんで僕が、も·う·夕·飯·を·食·べ·て·い·る·こ·と·を、知っているんですか?」

 そう尋ねた僕の声に、彼はそのまま、不敵な表情を変えぬままこう言った。

「まぁ、それが仕事だからね」

 食事をしながら相模さんは、まるで決まりきった言葉を復唱するように、まるでそうすることが当たり前のように、言葉を紡いだ。 

「知っていると思うけれど、僕の仕事は、人間の姿形をしながら、人間とは明らかに異なった性質や体質を持つ者、いわゆる『異人』を、専門的な知識を駆使して、管理することだ」

「つまり......ずっと監視していたんですか......?」

「いいや、それはないよ」

「だって......」

「こう見えてもなかなか忙しくてね、さっきまでは本当に、別件の仕事を片付けていたところだ」

 そう言って一口、飲み物を飲み込んだ彼は、続けて言う。

「だから僕は昨日や今日、君が佐柳ちゃんとどんなことをしていたのか、それは知らないし、知る由もなければ、別に知りたいとも思わない。誰が好き好んで、こんな初々しい若い男女の間柄を監視するなんていう、無粋なことをするというのかね、荒木君」

「......」

 いや、貴方なら好き好んでやりそうだから、僕はそれを疑ったんだけれど......

 そう思いながら、未だに底が見えないこの人に、僕は少しばかりの苛立ちを覚え始めていた。

 なるほど、こんな調子の人だから、琴音さんは嫌っているのだろう。

 なんとなく、納得できた。

 しかしこの人は、僕にそんな風に思われていることを知らずに、そのまま話を続ける。

「それに僕の仕事は、管·理·することであって監·視·することではないから、そこんところは注意深く一線を引かないと、大変なことになるしね~」

「大変って......どう大変なことになるんですか......?」

「そんなの、決まっているでしょ」

「......」

 どうもピンと来ていない僕に対して、相模さんは顔色を変えずに言う。

「まぁ最悪、死ぬだろうね」

「えっ......」

 言い切った相模さんの表情は、言う前とは本当に何も変わらない。

 そしてそれを聞かされた僕の表情は、見えなくとも強張っていることが理解できた。

 そして僕のその表情を見て、相模さんは言う。

「あのさ荒木君。君はまだ実感が持てていないから、無理もないのかもしれないけれど、異人っていうのは、本来はかなりヤバい存在なんだ」

「ヤバイって......でも......」

「『人を殺してはいけない』『人を死なせてはいけない』、そんなのは所詮、人間である僕達が同族を絶滅させないための理屈だ。それに人間だって、自分達の都合で、色々な生き物を殺すじゃないか」

 そう言いながら、相模さんは皿にわずかに残ったフライドポテトを、フォークで刺して、そしてそれを口に運ぶ。

 その彼の姿が、些か怖く思えた。

 しかし彼は、ただ食事をしているだけのだ。

 

 

 

Continue to read this book for free
Scan code to download App

Latest chapter

  • 異人青年譚   不死身青年と旅人童女の追憶Ⅵ_2(描き直し中)

     そんな風に、話しながらなんとなく歩いた先には、大学の近くでも見る様なコンビニが見えたので、朝食も食べていない僕達は、何も相談することはなく店内へと吸い込まれた。 そしてそれぞれ買い物をして数分後、そのコンビニから少しばかり歩いた先に置かれていたベンチに二人並んで腰掛けて、おにぎりとかサンドイッチとか、そういうモノを口にする。 口にしながら、柊は僕に言う。「荒木君って、男の子の割にはかなり食が細いわよね?そんな調子で大丈なの?」 その柊の台詞は、僕の手元にある小さなおにぎり向けられていた。 もっとも僕が、食べ物はそれぐらいしか購入していないから、そんな台詞が出たのだろう。 手元のおにぎりを平らげて、僕は言う。「男の割にって……そういう言い方は今のご時世的にはどうなんだ?まぁもともと太い方ではないけれど、この体質になってからは尚更かな……」「尚更って……不死身になったらさらに食が細くなるの?どういう理屈?」「どういう理屈なんだろうねぇ……相模さんは曰く、今の僕の身体は、全体の約八割が異人で、残り二割が人間という組成らしくて……そしてそれ故に、人間的な欲求が薄れているということらしい。だから食欲とかも昔よりさらに減少したっていう……まぁでも、この身体にそんな理屈が、どれほど当てはまるのかも、正直なところわからない」そう言い切って、購入していたお茶に口を付ける。流れ込む液体は、人間の時に感じていたモノと変わらない。食事ではないけれど、それに付随するからなのだろうか。コンビニ売られているペットボトル飲料の緑茶の味、そのモノである。 なのに、やはり、どうしても……人間の時に飲んでいたモノよりも幾分、美味しさを感じづらくなっているように思えるのだ。口を話して、僕は言葉を続ける。「まぁ僕の場合は、本来の異人とは違って、成り方が特殊らしいくてさ……なんて言うのかな、異人に成り果てた切っ掛けが、あまりにも直接的過ぎるって……」 そこまで話して、思い出したのは、やはり琴音のことだった。拳銃を突き付けた時の彼女の表情と、その後に落下した彼女を抱き止めた光景と、それと……「気持ち悪い顔しているわよ、荒木君。まるで初めてのキスでも思い出している様な顔をしているわ」 言いながら柊は、自分が食べていたサンドイッチの最後の一口を食べ終える。 そして僕は

  • 異人青年譚   不死身青年と旅人童女の追憶Ⅵ_1(描き直し中)

     それなりの時間を費やして歩いた先に見えた景色は、昨日と同様の海だった。 しかし早朝というだけあって、さすがに観光地とは言え、昨日程は人が居ない。 故に昨日よりも、海や砂浜が、幾分広く思えるのだ。 そんな景色を視界に映して、ゆったりとした歩幅で歩きながら、少しだけ前を歩く柊に、声を掛ける。「悪くないなぁ……散歩……」 そう言うと柊は、僕の方を振り向いて、言葉を返す。「そうでしょ。でも今日は特別よ、場所がいいわ」「あぁ、まぁそうだろうなぁ……横浜駅の辺りは散歩していても、こんな気持ちにはならないだろうし……」「えぇ……あんな所の早朝なんて、見るに堪えないから……」「……」 彼女が言葉を返した後に、また数分ほど、僕と柊は無言で歩く。 例えとして出した場所が、良くなかった。 僕が挿された場所を、琴音が殺した場所を、彼女の兄が殺された場所を、例えにするべきではなかったのだ。 ただ単に、大学近辺に住む奴に話すのとは違うのだ。 そんな風に考えていると、柊は再びコチラを振り返り、僕に言う「口にした後に、後悔しても遅いわよ」「……あぁ、ごめん」 そう言いながら、僕は彼女から視線を外す。「……そんな風にされたら、私も気まずいわ。もう全部、済んでしまったことなのだから……仕方ないわよ」 そう言いながら、視線を外している僕の方に向けて、いつも通りの声色で彼女は言う。 ほんとうにいつも通りで、冷たい温度を孕ませて…… だから僕も、いつもの様に言葉を紡いだ。「仕方ない……のかもしれないけれど……それでも僕は、やっぱり柊に、ちゃんと謝るべきだ。僕があのとき刺されなければ、柊の家族は死なずに済んだのかもしれないし、少なくともこんなおかしな、異人なんかに関わる様なことには、ならなかっただろう。そう考えると結局、僕が切っ掛けで、柊をこんなおかしな所に連れてきてしまった様な、そんな風に思えて仕方ないんだ……だから……」 そこまで話して、後は最後に『ごめん』と付け足すだけだった。しかし柊は、そんな僕の言葉を待たずに、返答するのだ。「あら、つまりアナタは、自分のせいで私がおかしくなったって、だから責任を感じているって、勝手にそこまで思い詰めていて……けれどそこまで思い詰めはしたけれど、反省の仕方が思いつかないから、とりあえずは謝罪の言葉を述べようと……そ

  • 異人青年譚   不死身青年と旅人童女の追憶Ⅴ_6(描き直し中)

     明朝、耳元に届いた冷たい声は、些か怪訝さを含んでいた。「荒木君……」 しかしその声が、あまりに分かりやすいそれだったから、僕は眠気眼の状態で、声の主に返事をする。「ん……あぁ、あれ……柊、おはよう……」「おはよう……って、あなた……どうしてこんな所で熟睡しているの?」「っ……あぁ、まぁ……色々あって……」 言いながら、身体をゆっくりと動かすと、寝ていた状態が良くなかったのだろうか、はたまたこんなフロントのソファなんかで寝るべきではなかったのだろうか、鈍く重い痛みが身体を襲う。 悲しいことに、そんな痛みが原因で、上手いこと身体を起こすことが出来ないのが現状である。 そしてそんな状態の僕を見ながら、わざわざ視線を合わせるためにしゃがみこんで、柊は僕に言葉を返す。「色々って……ほんと、よく通報されなかったモノね……」「えっ、僕通報されるの?」「されるでしょ、少なくとも私が従業員ならしているわ」「ひどくない?」「深夜に部屋じゃなくフロントのソファで寝ている不審者が居れば、誰だって通報するのは当然じゃないかしら?」 そう言いながら柊は、身体を起こそうとしている僕なんかよりも早い動きで立ち上がり、手をコチラに差し出す。「一応客なんだがなぁ……しかしそう言われると、何も言い返せない気がする」 そう言って、僕は柊のその手を取って、無理矢理身体を起き上がらせた。 起き上がりながら視界に入ったフロントの時計の時刻は、六時を指していた。「それにしても、早くないか?」 その声に対して、柊も時計の方に視線を送って、言葉を返す。「いつもこの時間に目が覚めるのよ……せっかくだから散歩でもしようかと思って、外に出たの」「あぁ、だからそんな……」 そう言い掛けた所で、僕は口を噤んだ。 いつもより明らかに、外に出るには無頓着な格好をしている彼女の装いに対して、危うく口を滑らすところだった。 しかしそんな僕を見て、彼女は言う。「賢明よ、荒木君。それ以上口を滑らせていたら、うっかり殺していたかもしれないわ」 そう言いながら、コチラに視線を送った後に、彼女は外に向かって歩き出した。「だから何も言っていないだろ。うっかり殺されるのは納得がいかない」 そう言いながら僕も、彼女の後を追う様にして、ゆっくりと歩き出す。 どうせ起きてしまったわけだから、同

  • 異人青年譚   不死身青年と旅人童女の追憶Ⅴ_5(描き直し中)

    大浴場での入浴を終えた後、部屋に戻ると、既に灯は消されていた。まぁ旅行初日に、あそこまで予想外な展開になったのだから、それも仕方ない。きっとしばらくしたら、僕も他の奴等と同様、すぐに意識を失って、意図も簡単に眠りにつけるのだろう。「……」 あーまぁ、そうだよね。 この身体になってから、食欲とか性欲とか睡眠欲とか……いわゆる人間の三大欲求が薄れているわけなのだから…… だからまぁ、こうなることは、想像に難くない。「……眠れないなぁ」 天井に向けて呟いた言葉は、空気に溶けて消えていく。 しかしその独り言が、少しばかりうるさかったのだろうか、隣に眠る奴等が、同時に寝返りを打つ。 右隣には柊、左隣には琴音……「……?」 アレ?なんだこの状況? 部屋に戻った段階では、どちらも真ん中には背を向けて寝ていた。 それで僕が眠るのは、もう真ん中のスペースしか見当たらなかった。 だからそのスペースに身を任せて仰向けになった。 うん、大丈夫、ここまでは至って普通の行動である。 しかしそこから数分後、今の様な状況になるわけなのだが…… これはあれか?ん?あっ、そうか……寝返りを打ったのか?「……フゥ」 今度は上を向いたまま、小さく息を吐く。 不幸中の幸いなのは、先に述べたように、今の僕は不死身の異人であるが故に、人間の三大欲求が通常よりも薄れているという点で、異人というモノは、人間とは異なるが故に、人間らしい欲求からは遠ざかっている……らしい…… いや、コレはたぶん、今までの経験からも、そうであると言える筈だ。 ゴールデンウィークの時に、琴音とラブホに行った時も、夏休み前に、柊を家に泊めた時もそうだった。 だからまぁ、この様な状況になったとしても、僕は特に、何も思わない。 そんな風に考えていると、両隣からどういうわけか、薄っすらと異なる甘い匂いが、同じタイミングで鼻に届く。 ほんとうにどういうわけなのだろうか……皆同じシャンプーだろうに…… あぁ、ダメだ、コレはいくらなんでも、たとえ人間でなくても……コレはよくない。「……っ」 僕は静かに身体を起こし、部屋を出た。 出た所で、行く宛などはないけれど、しかしあのままあの状態で、ずっと横になり続けても、眠れるわけがない。 ならいっそ、少しばかりホテルの廊下を歩いて、ロビーでジュース

  • 異人青年譚   不死身青年と旅人童女の追憶Ⅴ_4(描き直し中)

     そんな風に考えていた矢先、僕の思考を読んだのか、それとも単に、からかうのが目的の表情で、紡いだだけなのだろうか、いつも通りの表情ではあるけれど、先程までと明らかに違う声色で、彼は言う。「それはそうと、荒木君。今日は随分と楽しかったそうじゃないか。佐柳ちゃんだけでなく、年端もいかない現地の女の子までひっかけるなんて、まったくさすがだよ。大学生はそうではなくてはいけない」 そう言いながら、湯船に浸かりつつ、しかし身体ごと僕の方に向き直る相模さんに対して、逆に視界に入れない様に身体を逸らして、僕は言い返す。「一体大学生にどんな偏見を持っているのか気になるところではありますけれど……それに、誤解というか、語弊だらけな気がするので訂正しますけれど、あの子とは偶然、一緒に行動することになっただけですよ。それ以上でもそれ以下でもありません。だって……」「だって普通の女の子だから……かい……?」「……」「まぁ、現段階ではそうだろうね。今のところは本当に普通の少女だ。君や佐柳ちゃんが関わったというだけで、それ以外は、当たり前だが何もわからない」 そう言いながら、身体を湯舟から上げて、しかしその動きの最中、言葉は続ける。「そもそも、君が関係を持つ者全てが、異人に成り果てていくなんて、そんな傍迷惑な話になってしまうのは、コチラとしても勘弁していただきたい」「……そうですよ。彼女はいたって普通の女の子です。それ以上でもそれ以下でもない」 言いながら、湯面に映る自分の顔に視線を合わせて、僕は彼に続ける。「それよりも、明日は琴音が例のカウンセリング、受けるんですよね?」 そう僕が尋ねた時、彼は露天風呂から室内に戻ろうとしていた。 だが僕の声が聞こえたからだろう。 扉に手を掛けて、コチラに視線を合わせながら、彼は言う。「あぁ、そうだよ。順番も、スケジュールも変更はしない。君は最後だ、荒木君。だからせいぜい、明日は柊ちゃんと二人で、熱海観光を楽しめばいい。あぁでも、あまり下手なエスコートはしない方がいい。怒らせたら本当に、怖かったからねぇ……」  そう言い残して、彼は露天風呂を後にした。 言い残された僕は、露天風呂に一人、取り残されながら想いを馳せる。 僕等と別れた後に、柊がどれだけ激昂したのかは、正直なところ測り知れないけれど、しかしそれでも、さっきまでの

  • 異人青年譚   不死身青年と旅人童女の追憶Ⅴ_3(描き直し中)

     けれど相模さんときたら、その向けたられた視線に、投げ掛けられた質問に、相変わらずの微笑を浮かべながら、また一段と深く湯舟に身体を沈めて、言葉を紡ぐ。「フフッ、説明……説明か……そうだねーなんて説明するのが正しいのかなぁ……」「……」 視線に対して、少しばかり合わせたかと思えば、またすぐに切って、けれどまた合わせて。 そんなことを二回か三回繰り返した後に、彼は静かに、口を開く。「そんなに睨むなよ……どこまで白状するべきなのか、僕としても判断が難しくてね。なんせコレは、僕個人の動きではなくて、組合という組織が関わっていることだ。下手に口を割ってしまうのは、非常に不味い」 そう言って、言い終えたのか、もしくはその後の言葉が出て来ていないだけなのか、数秒の空白が横たわる。 だから僕も、彼と同じ速度で、言葉を返す。「ずいぶんと……」「ん?」「ずいぶんと、白状なんですね。この旅行を企画してくれたのは貴方なのに、別行動することが前提で、しかもそれでいて、その目的やら詳細は、あまり話せないなんて……」 そう言い終えると、その後の言葉が出てこない僕は、数秒の沈黙を横たわらせる。 すると相模さんは、ため息交じりに、けれど声色は上向きに、言葉を紡ぐ。「まぁ、申し訳ないとは思っているよ。騙し討ちをした様なモノだしね……けれどこうでもしないと、君等三人を効率良くカウンセリングするのが難しいのも事実だ。特に柊ちゃん」 彼のその言葉に、僕はつい、反応してしまう。「柊が……ですか……?」「……意外そうだね」「えぇ……だって、どちらかといえば、僕や琴音の方が、異人としても人間としても、存在が不安定なわけですから、問題視されるなら、僕等二人の方だと、そんな風に思っていましたし……」 そう僕が言い淀むと、彼は訂正する。「あぁ、その認識は間違っていないよ。その通り、君や佐柳ちゃんの方が、異人としても人間としても不安定な存在で、警戒しなくてはいけないのも、問題視しなくてはいけないのも事実だ。けれどそれなら、問題視することが決まっている分、対処も予め考えられる。早いうちに手を打てるなら、考えられる時間が多い分、対処も楽になる」「だが彼女は、柊ちゃんは、まだ未確定な部分が多過ぎる。暫定的に人間であるだけで、異人性が抑えられているだけだと、僕は君に説明したと思うけれど、正

  • 異人青年譚   不死身青年と旅人童女の追憶V

     気がかりだった着替えの件は、近くのコンビニに売られている物を使うということになり、それを買いに行くときは一人でいいから家に居ろと、そう言って彼女は再び僕の家を出ていった。    僕の家から徒歩数分のところに、一軒だけコンビニがあるから、おそらくそこに向かったのだろう。 出て行ってから三十分と経たない間に、柊は部屋に戻ってきた。 そして部屋に入るなり、彼女は言う。「汗をかいたから、シャワーを浴びたいわ」 そう言いながら僕の方を見つめる彼女は、数秒のわざとらしい沈黙の後に、睨みが利いていない無表情な顔で言い放つ。「覗いたら殺すわよ?」「誰が覗くか!」 そういうのはもう少し、表情

  • 異人青年譚   不死身青年と殺人鬼少女の青春Ⅳ

     現時点での時刻は、おおよそ十六時頃だろうか...... 「......っ」「......」 いや、もしかしたらもう既に、そこから一時間程経過して、十七時になってしまっているのかもしれない。 なぜなら、今いるこの場所を訪れた時よりも、少しだけ周りの人間の数が、多くなって居るからだ。 しかしまぁ、今僕達が居るこの場所を思えば、この時間帯にこれだけ人が集まる現象は、実はそこまで珍しい事柄でもない。 なぜならこの場所は......「......あ、あのさ......」「なに?」「いや......とりあえず、何か頼まないか?」 大学から程近い、所謂ファミリーレストランと言われる

  • 異人青年譚   大学生青年と吸血鬼少女の強奪Ⅰ

     時刻は真夜中の三時頃だろうか...... 草木が眠る丑三つ時というだけあって、普段は大勢の人間が出入りするこの大学という施設も、日が出るにはまだ少しだけ時間がある今に至っては、僕一人しか居ない状況だった。 しかしながら僕は、真夜中の大学に忍び込んだわけではない。 そもそも大学という施設は、敷地内に入るだけなら、こんな夜中であろうとも普通に出入りができるのだ。 特にこの大学に関していえば、神奈川の横浜近くの某所にキャンパスを構える立地の良さと、そこまで高くない偏差値(まぁそれは学部学科によるが)のおかげで、約一万七千人の学生が在籍している、日本屈指のマンモス校である。 そんな大学だか

  • 異人青年譚   プロローグ

    『異人』 人間と同じ姿形をしていながら、人間とは明らかに異なった体質や性質を持ち合わせた、異端の存在。 この物語の主軸であり、中心であり、中枢を担っているこの言葉を、僕(荒木 誠)はこの春に、故郷である九州から、大学がある神奈川の横浜に来て、初めて知った。『人間とは異なる』というのだから、この言葉が、人間ではない何かに対して誂われた言葉であることは、なんとなく、初めて知る人にも、理解できるかもしれない。 実際、僕自身も、最初のうちはこの言葉の字面だけを理解していた。 字面だけを理解して、全てを理解した気になっていた。 そう、たったこれだけの説明では、どうしたってこれを理解するには

More Chapters
Explore and read good novels for free
Free access to a vast number of good novels on GoodNovel app. Download the books you like and read anywhere & anytime.
Read books for free on the app
SCAN CODE TO READ ON APP
DMCA.com Protection Status