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第4話

Author: チーズプリン
私は街を当てもなく、夜が更けて静まり返るまで、随分と歩き回った。

帰宅したのは午前二時を過ぎてからだった。驚いたことに、リビングの電気がまだ点いていた。

ドアが開く音を聞いた瞬間、宗介は勢いよく顔を上げ、怒りを露わにしてこちらへ歩み寄り、私を問い詰めた。

「今、何時だと思ってるんだ?メッセージには返さない、電話にも出ない。遅くなるなら、一言くらい言えないのか」

私は呆然とした。

これまで数え切れない夜、家に帰らず、電話にも出ず、メッセージも返さなかったのは、彼のほうだった。

私が連絡を入れても、出ないか、うんざりした様子で「残業だ」と言うだけ。

それなのに今、私がたった一度帰りが遅くなっただけで、彼は悪びれずに声を荒らげて問いただしてくる。

私は彼を避けるように視線を外し、淡々と答えた。

「美術展に夢中になっていて、メッセージに気づかなかったの。外に出たら、スマホの電池も切れていて」

美術展の話を聞いた途端、宗介の表情がわずかに和らいだ。おそらく、自分が約束を破ったことに、多少なりとも後ろめたさを覚えたのだろう。

彼は気まずそうに私の腕を引き、書斎へと連れて行った。

書斎の壁には、先日ようやく完成したばかりの一枚の絵が掛けられていた。

それは、私と宗介の肖像画だった。

私たちが結婚した当時、あまりにも貧しく、宗介は親戚や友人を証人として呼んだだけだった。

ウェディングドレスもなく、指輪もなかった。

退職して何年も経つ元教師の方が、私たちのためにこの肖像画を描いてくれたのだ。

しかし、制作の途中でその先生が突然重い病に倒れ、絵は長いあいだ中断されたままになっていた。

あの頃すでに、この結婚がどこか不完全なものになることを、神様がひそかに警告していたのかもしれない。

描き足された目の前の絵は確かに美しかったが、そこに浮かぶ笑顔は、あまりにも不自然だった。

私たちの結婚生活のように、表面は華やかでも、内側はとっくにひび割れている。

私の表情が穏やかなままであることに気づき、宗介の口調には次第に焦りが滲み始めた。

「この絵、有名な先生に頼んで仕上げてもらったんだ。明日の予定も空けた。もう一度、結婚式を挙げよう。

前から星空の下で式をしたいって言ってただろ?最高のチームも予約したし、星を見るのに一番いい場所も見つけた。あの頃の心残りを、一緒に埋め合わせないか」

私は絵から視線を外し、ゆっくりと離婚協議書を取り出した。

「やり直しの結婚式より、これを書いてくれるほうが嬉しいわ」

私の手に紙の束があるのを見て、宗介は中身も確かめずに笑った。

「来未、珍しく俺に頼みごとをするじゃないか。これは何だ?お前が作ったデザイン案か?お前は俺の大事な妻で、大手柄を立てた者だ。今日は俺が約束を破ったんだから、望むものがあるなら何でも叶えてやるよ」

自分の度量の大きさを誇示するかのように、彼は内容を確認することもなく、最後のページの署名欄を開き、自分の名前を書き込んだ。

署名を終えると、それをテーブルに放り投げ、埋め合わせをするかのような熱を帯びた足取りで私に近づいてくる。

私は一歩後ずさり、どう断るべきか考えていた。

その瞬間、宗介のスマホが鳴り、彼の次の行動を遮った。

萌々香からだった。

彼はすぐに通話を切ったが、間を置かず、再び着信音が鳴り響いた。

宗介は申し訳なさそうな視線を向け、言い訳をしようとした。

私はこれ以上ないほど思いやりに満ちた笑顔を浮かべた。

「出てあげて。本当に大事な用事かもしれないわ」

電話の向こうから、女の子の震える声が漏れ聞こえてきた。

萌々香の家でブレーカーが落ち、シャワー中にうっかり転んでしまい、今は足が動かせず、とても怖がっているという。

宗介は電話を切り、後ろめたそうに私を見た。

「萌々香が……ちょっとしたトラブルでさ。一人暮らしの女の子だし、不便だろうから、俺が行ってこないと」

「早く行ってあげて。そのうち怖くて泣き出しちゃうわ。焦らせないであげて」

今夜の私は、異様なほどに気が利いていて、宗介はかえって不安そうだった。

彼は腰を下ろし、私の目を見て、何か悩みがあるのかと尋ねようとした。

だが、その問いは、再び鳴り出したスマホの着信音に遮られた。

私は早く出るよう促し、ついに萌々香からの催促に押されて、宗介はスマホを手に立ち上がった。

「来未、明日の結婚式を済ませたら、今度こそゆっくりと二人の時間を作るよ。前に行きたいって言ってたヴェルディアにも行こう。ついでに新婚旅行も兼ねて……俺たちも、そろそろ子供を考えてもいい頃だよね」
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