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第802話

Author: 栄子
綾は動きを止め、誠也の方を向いた。

誠也は彼女の頬にかかった髪を撫で、唇の端に軽くキスをした。

「怒らないって約束してくれる?」

綾は眉を上げた。「何をしたかによるわね。もし、私に隠れて何か悪いことをしていたなら、怒らないわけにはいかないでしょ?」

「そういう意味じゃない。つまり......」誠也は唇を噛み、少し考えてから続けた。「個人的な資産のことなんだ」

それを聞いて、綾は彼が話そうとしていることをいくらか察しがついた。

しかし、長い間隠されていたことに少しムッとしていたので、彼をからかうことにした。

「個人的な資産?別に構わないけど、隠し子がいたりするわけじゃないでしょ」

誠也は焦った様子で言った。「綾、俺はお前しかいないんだ。子供も優希と安人だけだ」

綾はわざと意地悪な口調で言った。「そうとも限らないでしょ?新井さんが哲也くんを産んだ例もあるくらいだから?」

誠也は言葉を失った。

ビジネスの世界では怖いものなしの男も、愛する人の前では、すっかりおどおどしてしまうのだ。

誠也は彼女の気持ちが分からず、言葉を選びながら話そうとしていた。せっかく少しだけ関係が修復したのに、また壊したくなかったのだ。

だから、なかなか要点を言い出せずにいた。

綾は、こんなに慌てふためいている彼を見るのは初めてで、思わず苦笑した。「誠也、冗談よ。一体何を隠しているの?」

誠也は唇を噛み締め、深く息を吸い込んだ。「前にお前に、俺の財産を全部お前に絵渡したかって聞かれた時、嘘をついた」

「それだけ?」綾は笑った。「それはあなたの財産だし、私にくれなくても構わないし、隠していたと言われても......」

「それだけじゃない......」誠也は綾の手を握り、真剣な眼差しで、まるで裁きを受ける覚悟で言った。「実は、その資産には色々と複雑な事情があって、しかも、別の名義で持っているんだ」

「別の名義?」綾は驚いたふりをした。「どういうこと?」

「綾、実は、俺が山崎圭なんだ」

そう言うと、誠也は綾をじっと見つめた。

彼は息を呑んだ。

綾は、薄々感づいていたことを、ついに彼の口から聞くことができた。

ずっと、彼の方から真実を話すのを待っていたのだ。

そして、ついにその時が来た。

綾の心は複雑だった。

正直に話してくれたことに喜びを感じながらも、

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