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第4話

Author: Hare Ra
「どうかな?」しばらく経っても耕平が答えないのを見て、祐樹が尋ねた。

その様子からは、簡単には断れそうにない圧が感じられた。

信じられるだろうか。何年もの間、必死に働き、祐樹に取り入り、機嫌を窺い、時には媚びへつらうことすらしてきたのに――昇進の話など一度も来なかった。

それなのに今回は、聖羅を働かせるのを許すだけで、マネージャーになれるという。

「一度、聖羅に聞いてみます」

「彼女がその気になったら、明日にでも直接会社に来てもらってくれ」祐樹が笑みを浮かべて答えた。

「承知しました」

一方、台所にいた聖羅は一人で戸惑っていた。祐樹の専属秘書になるべきなのだろうか。けれど、これは待ち望んでいたチャンスでもある。

しばらくして、祐樹は帰ることにした。

聖羅と耕平は、玄関先まで彼を見送った。

「答えは明日聞かせてくれ」祐樹は耕平にそう言いながらも、視線の端では聖羅を捉えていた。

「かしこまりました」

耕平と聖羅の寝室。

耕平の体は汗にまみれていた。ちょうど欲を満たし終えたところだった。一方の聖羅は、ただ黙って横たわっているだけだった。

耕平は隣に寝転がり、息を荒くしていた。聖羅が絶頂に達していないことなど、彼にはどうでもいいことだった。

自分さえ満足すれば、それで終わり。聖羅が満たされたかどうかなど、どうでもよかったのだ。

「お前、立花さんから仕事を誘われたんだ」呼吸が落ち着いてから耕平が口を開いた。

聖羅は布団を引き寄せ、露わになった体を隠した。

「どんな仕事?」知らないふりをして尋ねる。

実際には、先ほどの耕平と祐樹の会話を、聖羅は少し耳にしていた。

「専属秘書だ」耕平がぶっきらぼうに答えた。

「秘書ってこと?」聖羅が確認する。

「そう、それだ。立花さんの秘書がちょうど辞めたばかりでな。今は代理を立てている状態だ。それに加えて、アシスタントも兼任してほしいそうだ」耕平が説明した。

「そう」聖羅は短く答えるにとどめた。

申し出には、まだ迷いがあった。あの尋常でない視線と、大胆な手の感触。この誘いは本当に仕事の実力を見込んでのものか、それとも――

「お前、やりたいのか?」耕平が尋ねる。

「どうせ、あなたが許してくれないでしょ。私がやりたいって言っても無駄よ」聖羅は力なく答えた。

耕平は黙り込んだ。視線を真っ白な天井へ向ける。マネージャーという地位はあまりにも魅力的だった。こんなに簡単に昇進できる機会などそうそうない。

「いや、やっぱ受けた方がいいと思うぞ」耕平がついに言った。

「え?」聖羅は驚いた。

耕平が急に働くことを許すなんて、おかしいと思わない方がどうかしている。

聖羅は、祐樹が耕平にどんな条件を持ちかけたのか聞いていなかった。だからこそ、あっさり許可を出したことに衝撃を受けていた。

「せっかく俺が許してやってるんだ。気が変わらないうちに決めろ」耕平が冷たく続けた。

「本当にいいの?」聖羅が尋ねる。

「明日、直接立花さんのところへ行け」耕平は聖羅の問いには答えず、背を向けた。

しばらくすると、耕平から寝息が漏れ始めた。もう眠りに落ちたらしい。

翌朝。

「ねえ、あなた、本当に私が働いてもいいの?」聖羅は鏡の前で身支度を整えながら尋ねた。

白いシャツに、黒のキュロットパンツ。白いリボンのカチューシャをつけ、聖羅の装いは完璧に仕上がっていた。

「うるさいな。働きたいなら働けばいいだろ。毎日毎日、うるさく言われるのはもう懲り懲りだ」耕平が鬱陶しそうに答えた。

「ありがとう、あなた」

「……ふん」

耕平は妻をちらりと見た。濃い化粧をしなくても、妻はこんなに綺麗だったかと内心驚いていた。少しばかり惜しい気持ちがよぎる。だが、これも自分のためだ。

もうすぐ自分はマネージャーになれる。

会社に着くと、耕平は祐樹の部屋の場所だけを聖羅に教え、さっさとその場を後にした。

「人前では、俺たちが夫婦だってことを見せるなよ」耕平が聖羅に釘を刺す。

「え?どうして?」聖羅が困惑して尋ねる。

「お前、いちいち聞き返すのやめろ!面倒くさいんだよ!」耕平は苛立った様子でそう吐き捨てると、さっさと自分のオフィスへ向かって行った。

教えられた通りに進むと、聖羅はやがて扉の上に【代表取締役社長 立花祐樹】と書かれたプレートのある部屋の前にたどり着いた。

コン、コン、コン。

聖羅は躊躇いながらノックをした。

「入って」

中から声が聞こえる。

カチャ。

聖羅はドアノブに手をかけ、部屋の中へ足を踏み入れた。ふわりと薔薇の甘い香りが漂う。祐樹にもこんな繊細な一面があるのかと、少し意外に思った。

「聖羅?」祐樹は、まるで彼女の来訪に驚いたかのような声を上げた。

「はい、社長。耕平から、専属秘書が必要だから来るようにと言われまして」聖羅は俯きがちに答えた。

「そうか。座って」

聖羅は言われた通り、向かいの椅子に腰を下ろした。だが彼のまなざしはまるで全身を裸にするようで、鋭くも意味深だった。

「仕事の内容は、もう聞いてる?」祐樹が優しく尋ねる。

聖羅は首を振った。「耕平からは、アシスタントとしか」

祐樹は椅子から立ち上がると、パソコンの画面を聖羅の方へ向けた。

そしてそのまま回り込み、すぐ背後に立った。距離があまりにも近い。耳元に祐樹の息づかいさえ感じ取れるほどだった。

「これが、秘書としての君の仕事だ。俺のスケジュール管理も含めてね」祐樹は低い声でそう言いながら、聖羅の肩に手を置いた。

聖羅は黙り込んだ。居心地の悪さがこみ上げる。

肩に置かれた祐樹の手が、優しく肩を揉むように動いた。

「給料は、いくら希望する?」祐樹が、聖羅の赤くなった耳元でほとんど囁くように尋ねる。

「わ、分かりません……っ」聖羅が震える声で答えた。

「緊張しなくていい。言ってごらん、承諾するから」祐樹はそう言った。

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