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第6話

Penulis: 連衣の水調
彼女は歓喜のあまり、涙がこぼれそうになった。

痛みをこらえながら、玄関へと向かう。

しかし、たった数歩進んだところで、ドアが勢いよく開かれた。

「胤道?」

そこに立っていたのは胤道。

彼の姿を見た瞬間、静華の瞳が輝いた。

「胤道、聞いてほしいの……!」

「黙れ。すぐに俺と来い!」

彼の言葉は、まるで氷のように冷たかった。

静華は、思わず足を止めた。

「……何があったの?」

胤道の目が、彼女を射抜くように見つめる。

「りんが運転していて、人を轢き殺した。そして、ひき逃げした」

静華の頭が真っ白になった。

「望月が……人を殺した?」

一瞬、何かが胸の奥で崩れ落ちる音がした。

「当然、彼女は自首すべきよ!それなのに、どうして……」

ふと、喉が詰まった。

言葉が出ない。

静華は、恐る恐る彼を見上げた。

胤道の冷たい視線が、彼女を貫いた。

「お前が罪を被れ」

彼女は信じられないように彼を見つめた。

「嫌だ!」

静華は、絶望の中で叫んだ。

「どうして!?なぜ望月が人を殺したのに、私が刑務所へ行かなきゃならないの!?何の罪もないのに!!」

「お前は、二年間、彼女の『居場所』を奪っていた」

彼はまるで当然のことのように言った。

「それに、防犯カメラの映像には彼女の姿が映っている。お前とりんはそっくりだ。誰も区別がつかない」

「ならば、真実を話せばいい!」

静華は息を荒げながら訴えた。

「私は望月じゃない!彼女とは別の人間なの!それに……!」

彼女の胸の奥から、長年押し殺してきた言葉が溢れ出る。

「何が彼女の『居場所』を奪っていた?六年前にあなたを火の中から助けたのは、私よ!あなたを命がけで救ったのは、私だったのよ!!」

その言葉に、彼がどんな反応を示すのか――

彼女は一縷の希望を抱いた。

しかし。

彼は、眉一つ動かさなかった。

「やっぱりな」

彼は、まるで何かを確信したかのように、吐き捨てた。

「軽柔の言っていた通りだ。

お前は、彼女が六年前に俺を救ったと知り、それを自分のものにしようとしているんだな。どこまでも浅ましい女だ」

「……な、何を言ってるの?」

「もしお前が本当に俺を助けたのなら、なぜこの二年間、一度も口にしなかった?

お前なら、世界中に触れ回っていただろう?」

静華の涙が、零れ落ちた。

言おうとした。何度も。

だが、彼はいつも彼女を拒絶した。

「お前の声を聞きたくない」

「余計なことは言うな」

「黙って俺の傍にいろ」

ずっと、彼はそう言い続けてきた。

「もういい、森」

彼は苛立たしげにため息をついた。

「お前が素直に罪を被れば、俺が手を回して死刑にはさせない。刑務所に数年いれば、出られるようにしてやる。

その後は、きちんと面倒を見てやる」

数年――?

静華は、涙の中で笑った。

「絶対に嫌よ」

彼女は震える声で言った。

「私を利用しないで。望月が犯した罪なんだから、彼女が償うべきよ!」

「……お前」

胤道の目が、一瞬怒りに燃えた。

「いいだろう。後悔させてやる」

彼は静華を睨みつけると、ドアを荒々しく開け、去っていった。

彼女は、その場に崩れ落ちた。

膝が震え、力が入らない。

――その時、携帯が鳴った。

画面を見ると、母の名前――森梅乃(もり うめの)が表示されていた。

彼女は急いで電話を取った。

「静華?どこにいるの?」

母の弱々しい声が耳に届いた瞬間、静華の目に涙が滲んだ。

母は知的障害を持ち、まるで子供のような人だった。

彼女が胤道の命令でりんの身代わりになった後、母は彼の手配によって別荘で静かに暮らしていた。

それなのに、突然、電話をかけてくるなんて。

静華は鼻をすすりながら、努めて明るい声を作った。

「お母さん、私は胤道と一緒にいるよ。 どうしたの?急に電話なんて……お世話してくれている渡辺さんは?」

「……渡辺さん、いなくなったよ……」

静華は愕然とした。

「いなくなった?どこへ?」

「わからない……」

母の声が、不安に震えていた。

「いま、知らない人が来てね……私の部屋を壊して、ここはお前の家じゃない、出て行けって……

そして……精神病院に送るって言ってきたの

静華……私、どうしたらいいの?」

静華の全身が凍りついた。

突然、「やめて!何をするの!?離して!」

「お母さん?お母さん!」

通話が突然切れた。

静華の心臓が凍りつく。

頭の痛みも忘れ、彼女は玄関へと飛び出した。

タクシーを捕まえると、息を切らしながら母の住む別荘へと向かう。

しかし、到着した時、母の姿はなかった。

門の前では、見知らぬ男が鍵をかけている。

静華は、駆け寄った。

「あなた誰!?母はどこ!?どこへ連れて行ったの!?」

彼女は男の腕を掴み、揺さぶった。

だが、男は無造作に彼女の手を振り払った。

「は?あの狂ったババアがお前の母親か?

さすが親子だな、どっちも頭がイカれてる。

さっき精神病院の奴らが迎えに来たんだから、お前も一緒にぶち込んでもらえばよかったのにな」

精神病院!?

「まさか……!母を精神病院に送ったの!?」

静華の目が見開かれる。

「この家を乗っ取った!?何の権利があってそんなことを!!」

男は鼻で笑った。

「権利?そんなもん決まってるだろ。

この家の所有者は野崎様だ。 野崎様が取り戻すと言ったんだから、当然だろ?

それに、精神病院に送ってやったのも親切だと思えよ。

あんなボケたババア、病院に入れなきゃ明日には死んでるだろ? 俺たちも、善行ってやつをしてやったんだ」

男はにやりと笑うと、そのまま車に乗り込み、立ち去った。

静華の身体が、冷たく硬直する。

彼女の脳裏に浮かぶのは――

母が、無理やり精神病院へ連れて行かれる光景。

これは、胤道の報復なのか?

彼女がりんの罪を被らなかったから?

その時――

手に握りしめたスマホの画面が光った。

静華は、反射的に開いた。

――動画が送られてきた。

母の姿が映っていた。

震えながら、壁に身を寄せる母。

「ほら、飯の時間だぞ、クソババア」

カメラの外から、男の声が聞こえる。

画面が動くと、映し出されたのは、大きなバケツ。

その中には、何かわからないぐちゃぐちゃの食べ物。

腐ったような匂いすら漂ってきそうだった。

その上には、無数のハエが飛び回っている。

「食えよ。さっきまで腹減ったって騒いでたんだろ?」

母は、怯えながら身を縮めた。

そして、食べ物を見て、鼻を覆った。

「……臭い……」

「は?食い物をもらってるだけありがたいと思えよ、クソババア!!

食えって言ったら、食え!」

母は縮こまり、首を振った。

「やだ……こんなの食べたら、お腹壊す……」

その瞬間――

カメラが激しく揺れる。

次の瞬間、男の足が母の身体を蹴り飛ばした。

母は、床に転がった。

それだけでは終わらない。

髪を掴まれ、何度も頬を殴られる。

「このクソババアが!!食えって言ってんだろ!!

さっさと口に入れろ!野崎様に送る動画だぞ!」

何人もの男が、無理やり母の口をこじ開ける。

そして――

腐った食べ物を、母の口に押し込んだ。

「やめて!!!!!」

静華は、スマホを床に落とした。

涙が止まらなかった。

しかし――

彼女は動画の中にいない。

叫び声は、何も届かない。

画面が暗転すると、次の瞬間、新たなメッセージが届いた。

「これが、お前がりんの罪を被らなかった代償だ」

静華の視界が揺れる。

涙が止まらない。

妊娠の影響で吐き気がする。

彼女は、絶望に飲み込まれそうだった。

六年前――

「一生、お前を守る」

彼は、燃え盛る炎の中でそう誓った。

……今、彼が与えてくるのは、どんな拷問よりも残酷な苦しみだった。

冷酷に、犬のように扱われ、罵倒され、無視されるのは、耐えられた。

でも、母を傷つける権利、彼にあるか?

その時。

彼女の中で、何かが壊れた。

もう、何も残っていない。

彼は、母を汚し、踏みにじった。

それは、許せない。

――彼女は、ゆっくりと涙を拭いた。

震える指で、スマホを操作する。

「発信中……」

相手は胤道。

通話がつながった瞬間、不機嫌そうな彼の声が響く。

「何だ?またゴネる気か?」

静華は、彼の声を聞いた途端、涙がこぼれた。

六年間、愛し続けた人。

その愛は、たった今、完全に消え去った。

「野崎……」

彼女は、震える声で呟いた。

「……そんなに私が憎いの?」

「何を言ってる?」

「そこまでして、私を地獄に落としたい?」

「……お前、何を勘違いしてる?」

彼は、面倒そうに言った。

しかし、彼女の涙が止まらない。

「……分かったわ。

私が、望月の罪を被る。

刑務所に行くわ。だから――母を元の生活に戻して。

私は、あなたの前から完全に消える。

それでいいでしょ?」
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齊藤ロビン
例え轢き逃げでも死刑にはならないよ
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