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第451話

Author: 花野めい
「そろそろ行くぞ」龍太郎は由樹の肩を軽く叩いた。

「これ以上ぐずぐずしてると、記者が来るぞ」

百栄の代表であり、酒井家の後継者。

そのどちらの肩書きだけでも、深夜に海辺で酒を飲み、警察まで駆けつけたとなれば、マスコミにいくらでも脚色されて、面白おかしく記事にされかねない。

由樹が立ち上がると、黒いシャツが風を孕んで大きく膨らんだ。

風に向かって立つと、今度はシャツが引き締まった腰にぴたりと張りつく。

「世話をかけたな。もう戻る」

身を翻すと、振り返りもせず岸のほうへ歩き出した。

この一帯にはタクシーが走っておらず、警察官たちはそのまま由樹と龍太郎を送り届けてくれた。

パトカーを降りると由樹は上着を羽織り、振り返りもせず別荘の中へと入っていく。

後ろからついてきた龍太郎が、ふいに声を立てて笑い出した。

「早坂三久って、本当にただ者じゃないな」

笑い声が消えるより早く、ドアがぴしゃりと閉められる。

その勢いに龍太郎はびくりと肩を震わせた。鼻先が扉まであと一センチというところだった。

「明日、高崎家の人間が来るからまた連絡する」

ドア越しにそう声をかけると、龍太
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    三久はトーク画面をじっと見つめていた。息を潜めるようにして、由樹からの返信を待つ。何度も画面を確認したが、新しいメッセージが届くことはなかった。やがてスマホの画面も暗くなり、由樹からの返信は、それきり来なかった。三久はスマホの画面を消し、暗闇の中に身を沈めた。しばらく寝返りを打ち続け、ようやく眠気が訪れる。翌朝早く、三久は電話の音で目を覚ました。目も開けないまま枕の下に手を伸ばしてスマホを取り、応答する。「もしもし、早坂三久様のお電話でしょうか」「はい。どちら様ですか」「こちら、ヴェリア産後ケアセンターでございます。ご予約内容の確認でお電話いたしました。8月28日がご出産予定日と伺っておりますので、二週間前を目安にご入居のご案内をさせていただきます。ご入院の準備もあらかじめお済ませいただければと……」電話の向こうの柔らかな女性の声が、丁寧に説明を続ける。三久は遮った。「すみません、お電話番号をお間違えではないかと思います。私、そちらに予約した覚えはありませんが」「こちらは高崎久留美様よりご予約をいただいております。料金もすでにお支払いいただいておりますので、当日はそのままお越しいただければ結構です」スタッフはそのまま、入居手続きの流れを説明し続ける。三久は最後まで辛抱強く聞き終えた。眠気はすっかり吹き飛んでいた。起き上がるのも待ちきれず、そのまま久留美へ電話をかけた。久留美はほとんど間を置かず応答した。「三久さん?」たったひと言に喜びと驚きが滲んでいた。「先ほどヴェリア産後ケアセンターからお電話があって、そちらでお部屋をご予約くださったと伺いました」三久は前置きなく本題に入った。「ええ。紫織と出産時期がほとんど同じだから、あなたの分もと思って予約しておいたの。この間あなたが一度来てすぐ帰ってしまったでしょう。もしかしてお金のことを気にしているのかと思って」久留美の声は慈しみに満ち、まるで面倒見のいい年長者のようだった。「申し訳ありません。そのご厚意には甘えられません」「まあ、そんなに急いで断らないで」久留美は言葉を遮った。「私だって、誰にでも理由もなく親切にするわけじゃないの。あなたと紫織のあいだには、良くないことがいろいろあったでしょう。だから和

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    「そろそろ行くぞ」龍太郎は由樹の肩を軽く叩いた。「これ以上ぐずぐずしてると、記者が来るぞ」百栄の代表であり、酒井家の後継者。そのどちらの肩書きだけでも、深夜に海辺で酒を飲み、警察まで駆けつけたとなれば、マスコミにいくらでも脚色されて、面白おかしく記事にされかねない。由樹が立ち上がると、黒いシャツが風を孕んで大きく膨らんだ。風に向かって立つと、今度はシャツが引き締まった腰にぴたりと張りつく。「世話をかけたな。もう戻る」身を翻すと、振り返りもせず岸のほうへ歩き出した。この一帯にはタクシーが走っておらず、警察官たちはそのまま由樹と龍太郎を送り届けてくれた。パトカーを降りると由樹は上着を羽織り、振り返りもせず別荘の中へと入っていく。後ろからついてきた龍太郎が、ふいに声を立てて笑い出した。「早坂三久って、本当にただ者じゃないな」笑い声が消えるより早く、ドアがぴしゃりと閉められる。その勢いに龍太郎はびくりと肩を震わせた。鼻先が扉まであと一センチというところだった。「明日、高崎家の人間が来るからまた連絡する」ドア越しにそう声をかけると、龍太郎はその場を後にした。……警察官たちは由樹を家まで送り届けたあと、三久に電話をかけ直した。「ありがとうございます」三久は相手に礼を言った。「この件は社長の評判にも関わりますので、どうか内密にお願いできますでしょうか」「酒井さんにこちらで何かあれば、我々としても責任問題になりますから。早坂さん、ご連絡ありがとうございました」警察官のほうも事情を弁えているようだった。電話を切ると、三久は理紗に安心するようメッセージを送り、それから食卓へと戻る。その頃には洲人はすっかり酔いが回っていて、テーブルを叩きながら目を見開き、昔、由樹がしでかしたひどい話について熱弁を振るっていた。「そうちゃんも寝る時間だし、もうお開きにしましょ」三久はテーブルへ歩み寄り、片づけ始める。「もういいから」梨々香が立ち上がり、三久の背中を押しやった。「この酔っ払いを連れて帰って。あとはあたしと青木さんでやっとくから。早く行きな」洲人が一体どんな余計なことを言ったのか、梨々香の機嫌をここまで損ねている。三久は洲人の腕を引いた。「早く行きましょ」洲人はふらつ

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