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第3話

Penulis: てぃてぃ
大家さんから、すぐに電話がかかってきた。

「急にどうされたんですか?この前は更新の書類まで確認されてましたよね」

「仕事の都合が変わったんです」

「そうなんですね。でも、この前彼氏さんといらしたとき、連休明けから一緒に住むっておっしゃってましたよね?」

私は少し黙ってから答えた。

「もう別れるので」

電話を切ると、そのまま荷物の整理を始めた。

クローゼットの半分は圭介の服で埋まっていた。洗面所にはカミソリ、靴箱にはスニーカー。部屋の一角には、ゲーム機や周辺機器まで置きっぱなしになっていた。

圭介はいつも、まだ同棲してるわけじゃないと言っていた。

けれど気づけば、私の部屋には圭介の物が当たり前のように増えていた。

なのに私はずっと、圭介の生活の外にいた。

午後、美羽から一枚の写真が送られてきた。

写っていたのは、きれいに片づけられた寝室だった。ベッドには圭介と一緒に選んだライトグレーのシーツが敷かれ、机のそばには、私が圭介のために買ったフロアランプまで置かれていた。

【彩香って、ほんとセンスいいよね。

部屋が雨漏りしてるって話したら、圭介がしばらくこっちにいればって。彩香も別に気にしないよね?】

写真の中のフロアランプに目が止まった。圭介が新しい部屋で使うために、私が選んで買ったものだ。

連休明けに引っ越して、落ち着いたら二人で両家に挨拶に行こう。圭介とは、そう話していた。

なのに、その部屋で先に暮らし始めたのは美羽だった。

美羽には返事をせず、そのまま圭介に電話をかけた。

電話の向こうはかなり騒がしかった。家具を組み立てているらしく、工具の音に何人かの男の声が混じっていた。

「用があるなら早く言ってくれ。今、手が離せないんだ」

「なんで美羽が、あの部屋にいるの?」

「あいつの部屋、雨漏りしてるんだよ。大家に連絡してもすぐには直らないらしいし、行くとこないっていうから、しばらく泊めるだけ」

「結婚したら、あそこに二人で住むって話してたよね?」

圭介は面倒そうに息を吐いた。

「数日泊めるだけだろ。まだ結婚もしてないのに、いちいち自分の家みたいに言うなよ」

電話の向こうで翔平が笑った。

「そうそう。まだ結婚もしてないのに、今からそこまで気にするのかよ」

そこへ嘉人の声も聞こえてきた。

「彩香は自分の部屋があるだろ。美羽は今、本当に行くとこないんだぞ。今はそっちを何とかするのが先だろ」

スマホを握ったまま、一年前にあの部屋を見に行った日のことを思い出した。

圭介と寝室の広さを測りながら、ベッドの両側にランプを一つずつ置こうと話した。

一つは圭介がゲームをするときに、もう一つは私が本を読むときに使うためだった。

そのうちの一つが、さっきの写真では美羽のベッドのそばに置かれていた。

「美羽、いつまでいるの?」

「部屋が直るまで」

「一週間?それとも一か月?」

圭介の声が少し荒くなった。

「そこまで細かく聞く必要あるか?

俺が美羽に何かすると思ってんのか?そこまで疑われたら、結婚したってうまくいかないだろ」

いつもそうだった。私が何か言えば、気にしすぎだと言われて、最後には私のほうが悪いことになっていた。

「分かった。

じゃあ、結婚はやめよう」

圭介は一瞬黙ったあと、呆れたように笑った。

「またそれかよ。

昨日はみんな追い出して、今日は結婚やめるって?いい加減にしろよ。

落ち着いたらまた連絡してこい。今、相手してる暇ないから」

圭介はそう言って、先に電話を切った。

今回も、そのうち私から折れると思っているんだろう。昔から、先に折れるのはいつも私だった。

圭介が記念日を忘れても、忙しかったんだと自分に言い聞かせた。嘉人が私の秘密をネタにして美羽を笑わせたときも、冗談だと笑って流した。翔平が私の誕生日に美羽に付き添ってコンサートへ行ったときでさえ、帰ってきた二人に夜食まで用意した。

3人は、私が傷つかないと思っていたわけじゃない。傷ついても、どうせ離れないと思っていただけだ。

そのとき、スマホがまた震えた。今度は会社の人事から、異動の件で連絡が来ていた。

半年前、会社から南ヶ丘の新規プロジェクトへの異動を打診されていた。今より一つ上のポジションで、給与もかなり上がる話だった。

それでも私は断った。近いうちに両家へ挨拶に行くことになっていて、遠くへ異動すれば結婚の話もまた先延ばしになると、圭介に言われたからだ。

私は人事から届いたメッセージを開いた。

【以前お話しした南ヶ丘の件ですが、まだポジションに空きがあります。ご希望は変わっていませんか?】

もう迷わなかった。

【お願いします】

続けて確認した。

【最短だと、いつから勤務できますか?】

すぐに返事が来た。

【連休明けから可能です】

連休明けの切符を取ると、本棚に飾ってあった二人の写真を一枚ずつ外していった。

その途中、グループチャットに通知が来た。

美羽が載せたのは、テーブルいっぱいに料理が並んだ写真だった。圭介、嘉人、翔平の3人がグラスを手に、楽しそうに笑っていた。

【3人がいてくれて、本当によかった。私にもちゃんと居場所があるんだって思えた】

その直後、圭介がグループチャットで私をメンションしてきた。

【そろそろ機嫌直せよ】

【明日の夜、みんなでそっち行くから。飯でも食いながら話そう】

そのあと、もう一通届いた。

【あと、美羽が鮭の南蛮漬け食いたいって。材料、先に買っといてくれ】

私はそのまま画面を閉じた。

ここを出るまで、あと3日。

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