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第922話

Author: 風羽
しばらくして、夕梨はぎこちなく顔を上げた。

視線の先には、寒真が立っていた。

いまでも彼女は、彼が自分に後ろめたいことをしたとは思っていない。

ただ――あまりにも、立場がつらい。それだけだった。

それでも夕梨は、最後の品位を守った。

そっと息を整え、控えめな声で言う。

「お二人のこと、お祝い申し上げます」

ここでは自分はホテルスタッフで、目の前の二人は大切なゲストだ。

夕梨は礼を尽くして会釈し、スタッフを呼んで彼らの後を引き継ぐと、まるで子どもが大人の世界から退場するようにその場を静かに離れた。

外は底冷えする夜気が満ちていた。

暖房が効いているはずなのに、廊下の一部はひやりとしている。

夕梨は早足で歩いた。

けれど気づけば、両腕で自分の体を抱きしめていた。

ふと立ち止まり、胸の前で腕を組み、ゆっくりと顔を上げて壁灯を見つめた――そのとき。

急いだ足音が、遠くから近づいてきた。

寒真だった。

二歩ほど後ろまで来ると、彼は歩みを緩め、静かに呼んだ。

「夕梨」

夕梨は数秒だけ、心の乱れを押し込める時間を取った。

振り返ったとき、その顔には悲しみも怒りも
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良香
愛でなく、金や権力、コネクションが欲しくて狙った相手から選ばれなかったからと言って、人の気持ちを傷つける言動をするなんて、女がすたるぞ。生まれは変えられない。せめて、卑しい行いをしないようにするのが、あなたの女の質を落とさないって事じゃないの?
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