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第6話

Auteur: 心の底
莉亜はリビングの片隅に立っていた。周りにいる親戚たちがモゾモゾと動き出し、堪らず朔也のほうへと押し寄せた。

潤は薫子の傍に立ち、礼儀正しく兄に声をかけた。

さっきまでその潤の周りでご機嫌取りをしていたおじたちが一斉に向きを変え、親密な笑顔で朔也に近づき挨拶をした。

「朔也さん、どうして突然帰国したんですか?」

「朔也君は最近、国内企業の買収に忙しいんだろう?本当に実力をつけてきたな」

「さあさあ、こっちに来て座って。これは高級茶葉を使って淹れたんだよ」

潤はおじたちが我先にと熱心な態度を取る様子を見て、笑みを少し消し、すぐに気持ちを整えて先導した。

莉亜は黙ってあの注目を一身に集めるスラリと背の高い端正な顔をした男をちらりと見た。そしてまた無意識に後ろに少し下がった。

この時、彼女は完全に大勢の人から距離ができた。彼女は体を横向きにして中に入ってくる人に道を開け、できるだけ自分の存在感を消そうと努力していた。

すると朔也が一歩ずつ近づいてきた。

朔也は潤と性格や態度は違っている。彼はさらに神秘的で冷たい雰囲気を持ったイケメンで、高貴さを漂わせている。

自分に媚びを売る周りに朔也はただ少し会釈して返すと、誰にも気づかれないように人だかりを見渡し、一人ずつ確認していた。

そして視線が再び莉亜のほうに向くと、急に足を止めた。

彼が立ち止まると、潤もそれに合わせて動きを止めた。「兄さん、どうしたの?」

朔也は潤を気にも留めず、静かに目線を莉亜に一瞬向けた。

ただ一目見られただけなのに、莉亜はドキッとした。

その一瞬の眼差しから表現し難い独占欲のようなものを感じたからだ。

しかし、彼女は朔也とは何回か会ったことがあるだけだ。

潤は周りと同じように、朔也の視線の先を確認すると、訝しそうにしていた。

「莉亜、こっちへ来て兄さんに挨拶して」

莉亜が一歩踏み出そうとした時には、すでに朔也のほうから向かってきていた。

潤は周りと同じくその様子に驚いていた。

さっきまで、この場にいた人間がこぞって朔也に声をかけに行ったが、朔也自ら動いて誰かに近づいてはいかなかった。

朔也の深い瞳からは彼の感情が読み取れなかった。「莉亜さん?」

莉亜は呼吸を少し止め、なんだかその言葉がくすぐったく感じた。

莉亜は朔也から話しかけられるとは思っていなかった。ここ数年会っていなかったし、以前もただ少し会ったことがあるだけなのに、彼が自分のことを覚えていたことに驚いた。

莉亜は会釈した。

「朔也さん、お久し……」

彼女が挨拶し終わるのを待たずに、朔也は手を差し出してきた。

その動作は有り得ないほど自然だった。

莉亜はそれに反応できず、慌てて社交儀礼として同じように手を伸ばし、彼の手を握った。

握手する時、朔也が少し力強く彼女の手を握ったのを感じた。彼の親指はわざとらしく彼女の指の上に重なり、熱を帯びていた。

朔也は握手を交わして瞬時に手を戻した。

潤が突然近づき、莉亜を自分の懐に寄せて片手を彼女の腰に当てた。そして彼女の左手と自分の右手を絡め合わせた。

「兄さん、いつまでここにいられるの?莉亜と一緒に時間がある時食事でもしたいなと思ってさ」

朔也は二人の親密そうな様子を見つめ、潤が莉亜の手を握ると視線をそこへ一瞬向けた。「一カ月くらいだ」

そう言い終わると、誠司が執事に体を支えられながら二階から下りてきた。

朔也は祖父のほうへ行き話していた。そして少ししてからパーティーの準備が整ったと連絡があり、正式に始まった。

莉亜は潤と一緒にメインのテーブルの左側に座った。

そして招待客も次々と自分の席についた。

朔也と潤の二人は本家出身で、メインのテーブルには誠司と薫子、そして朔也が座った。

莉亜と潤は彼らの後に次ぎ、彼女はちょうど朔也の斜め向かいの席だった。

相馬家のパーティーが始まり、みんな朔也に近況について尋ねた。

莉亜は下を向いて食事していて、耳に周りの話が聞こえてきた。

金融街の権力者、ハイテク企業の大株主、フィナンシャルトレードなんたら、それからスマートモビリティの創始者だとか……

朔也の外での肩書きの多さには舌を巻くほどだ。

莉亜は当時、金融街でもらったあの招待客名簿に朔也が第三位に載っていたことを思いだした。

そして彼女は一番最後に名前が載っていた。

ここ数年の間、彼女と朔也には一切の交流はなかった。結婚したばかりの頃、あの人前にはほとんど姿を現さない彼が相馬家でのお披露目パーティーに顔を出し、結婚の贈り物を届けて去っていったのを覚えている。

たった数年の間に、朔也は今や金融街でトップとなり、その実力を示した。

すぐにパーティーは終わり、それぞれ気楽にデザートを食べ始めた。

莉亜は結婚受理証明書のことが気になり、上の階へコートを着替えに行くと適当な言い訳をついた。

潤は朔也と話がしたいと思い、視線は兄のほうへ向けて、特に気にせずこう言った。「うん、早く行っておいで」

すると莉亜はすぐに立ち上がって上階に行った。

みんなは一階に集まっていた。莉亜だけが屋敷の三階に上がり、潤の部屋のドアを開いた。

中に入ると、結婚受理証明書はベッドサイドにある棚の上方に、なんと額縁に入れられて掛けてあった。そのすぐ隣には彼らの結婚写真が飾られていた。

莉亜はそれに近づいた。その瞬間、脳裏には潤とあの女の親密そうな様子が浮かび、ぐっと拳を握りしめた。

この時、あの結婚証明が目を刺すように主張していた。まるで愚かな彼女を嘲笑っているかのようだった。

潤があの女と親しそうにしたのを目撃した後、許すべきではなかった。

一度浮気をすれば、また同じことを繰り返すという事実を突き付けられた。

莉亜は嫌悪感をつのらせ、デスクのパソコンチェアを引っ張ってきた。

椅子についているキャスターがくるくると動いて、安定しない。

彼女はその椅子の上に立ち上がり、片足をベッドの端に置くことでなんとか無理やり立っていられた。

莉亜はパールホワイトのワンピースをたくし上げ、ゆっくりと手を上に伸ばした。

指もできる限りまっすぐにピンと伸ばし、あと六センチほどの距離だった。

莉亜はゆっくりとつま先立ちし、どうにかして触れようと試してみたが、どうやっても目標物に手が届かなかった。

莉亜は眉をひそめ、高い所に立って周りを見渡した。そして棚の横にある本を手に取り、腰を屈めた時にドアの外から突然誰かの足音が聞こえてきた。

その足取りは早かったが、どっしりと落ち着いていた。

その足音で男性だとわかる。

その瞬間、莉亜はギクリとし、急いでデスクに手をついて下りようとしたが、ちょうどもう片方の手の袖が棚に引っかかってしまった。

彼女は焦って外そうとしたが、間に合わなかった。

この時ドアが開いた。

莉亜は体をビクリと震わせ、足の力が抜けバランスを失ってしまい、椅子の上から後ろ向きに倒れそうになった。

彼女は短く悲鳴を上げたが、想像していた痛みは感じなかった。

大きな手のひらが彼女の太ももを掴み、もう片方の手で腰のあたりを支え、勢いよく莉亜を自分の懐に抱きしめてゆっくりと床に下ろした。

莉亜は熱くがっしりとした胸に抱きしめられ、その瞬間、爽やかなウッド系の香りがふわっと鼻を刺激した。

それは潤の香りではない。

莉亜が顔を上げた時、危うく男の顎にぶつけてしまうところだった。

朔也はすぐに手を離し、後ろに一歩下がって距離をとった。

莉亜の顔は一瞬にして真っ赤になった。さっき朔也に触れられた太もものあたりが火傷したように熱く感じられた。

彼女は気まずさを感じ、困ったようにその場に固まった。「あ、ありがとうございます」

朔也は落ち着いた様子で、彼女のりんごのように真っ赤になった顔と、さっき彼が掴んで赤くなった彼女の太ももに視線を落とした。

彼はゴクリと喉を動かし、違和感なくこう言った。「君がここにいるとは知らなくて、ごめん」

莉亜は否定するように首を横に振り、さらに気まずく感じてしまった。

明らかに彼に面倒をかけてしまったのに。

朔也は上のほうに目線を向けて尋ねた。「手伝おうか?」

莉亜も彼の視線のほうへ顔を向けた。

棚の上には結婚したという証明書だけが目立つように置かれていた。
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