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作者: 琉斗六
last update 公開日: 2026-06-22 21:01:03

 真壁が〝オカシイ〟ネットの友人を増やさないか……? とハラハラしていた若桐だが。

 その後、真壁から友人が増えた話は聞かされない。

 プライベートの依存度がかなり高い真壁は、そういう話を若桐には赤裸々に語る。

 件の〝聖一さん〟関連の話は続いているが、スマホをチェックしても特に不穏な動きはない。

(しっかし、スマホチェックとか……。これじゃあますます篠原さんに〝おかん〟って言われっちまうぞ……)

 真壁が風呂を使っている間、布団でゴロゴロしながら、預けられたスマホのチャット履歴を見る。

(てか、このパティシエさん。会話ログを読むとそれほど悪い人じゃなさそうなんだけど……)

 相変わらず、内容は微妙にズレてはいるが、大真面目な筋肉考察の話が並んでいた。

(この人……。イイカラダしてるかどーかは関係なくて、この性格のせいでカレシ出来ないんじゃない

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  • 空に墜ちる -if-   2-2

     基地から少し離れた繁華街。 案内された店は、いつものざっくばらんなカウンター居酒屋ではなく、落ち着いた照明の料亭で、しかも個室だった。「なんだ、今日はずいぶん奮発するじゃないか」「気にすんな。埴生さんに教えてもらった店だ。味も酒も間違いない」 席に着くなり、響野は生ビールのジョッキを二つ頼み、真壁の前にドンと置いた。「まずは乾杯だ。俺の第二子に」「そういえば、麗子さんは?」「今は実家だ。奏真の時に妊婦の世話が出来なくて、カミサンが爆発したからな。今度は轍を踏まないように、早々に里帰りをさせたんだ。だが、家に誰もいないのは、なかなかきつい」「寂しがってるのはおまえのほうか」「ハハッ、否定はしねぇよ」 ジョッキを合わせると、ビールの泡が細かく弾けた。「ま、こんな俺でも幸せ家族ができてんだ。若桐さんには感謝しかないぜ」「あの土下座は見ものだった」「思い出すな!」 椿山荘の庭園での一件を思い出し、真壁は笑う。「一目惚れというのは聞いたことがあるが、おまえの場合は一本惚れだな」「いや、全く。ありゃあ綺麗な投げだった……って、おまえは投げられてないから、そんなことが言えるんだ!」「麗子さんの仕掛けは素直だからな。あれを食らうおまえのほうがどうかしてる」「俺には負けるのに……」「体重差だろ?」「まったく……。……だが、引き合わせてくれた若桐さんには、アタマ上がらんよ。……ま、おまえは俺とは、意味が違うだろうが」「そういう言い方はよせよ」 思わず低く遮ったが、響野のニヤついた目は誤魔化しようがない。 だが、響野は仲居が料理を運び終わったところで、顔つきが変わった。「実は今日、おまえを呼び出したのは、もっと真面目な話でな」「なんだ?」「麗子が実家で、妙な噂を聞き込んできた」「実家ってこ

  • 空に墜ちる -if-   2:影の噂

    「おい、真壁!」 執務室のドアが、ノックもなく勢いよく開いた。  顔を覗かせたのは、フライトスーツの袖をまくった響野だ。「三佐、困ります。司令部内は……」 体の大きな響野の影になって見えないが、向こうから副官の西條三尉が困ったように言っている声が聞こえた。  二十代半ば、まだ経験も浅く規律重視の西條は、響野のような破天荒なタイプは苦手らしい。  しかも上官では、強く物言いも出来ないのだから、戸惑いは当然だろう。「西條。いいよ、ありがとう」 真壁はデスクから立ち上がって扉の傍へ行き、響野の向こうで慌てふためいている西條に声を掛ける。  眉間にシワを寄せて、眼鏡の奥の目が怒っている西條は、真壁の顔を見るとやや安堵した顔になった。  そして、あまり納得いかない様子ながらも一礼して引き下がる。「相変わらずガチガチだな、あの副官」 「仕事熱心なんだよ」 「良かったな、やつも上司がおまえで」 「おまえの副官だったら、胃潰瘍で入院してしまうぞ」 「副官なんぞ、小煩いだけだ」 「それより、どうした? また、なにか無理を通せという話じゃないだろうな?」 「いや、今日は飲みだ。残業続きと聞いてる。たまには息抜きしようや」 「……まさか、もう店は決まってるとか?」 「さすが、わかってらっしゃる」 「強引だな」 「同期特権だ」 響野はガハハと笑って、親指をくいっと持ち上げた。  真壁は小さく息を吐きながらも、その勢いに押されるように上着を手に取る。  どうせ断っても、響野は引き下がらない。  そういう男であることを、真壁は長年の付き合いでよく知っていた。

  • 空に墜ちる -if-   1-2

     司令部棟の廊下を歩いていると、向こうから恰幅の良い男が歩いてくるのが見えた。 姿勢はゆったりしているが、あの目の鋭さは昔と変わらない。「おう、真壁。頑張ってるか?」「これは、埴生さん。お久しぶりです」 敬礼を返しつつ姿勢を正すと、埴生はにやりと笑った。「時間あるか? 次の会議まで、三十分ほど待たなきゃならんのだ」「はい、構いませんよ」 廊下を並んで歩く。 途中、通りすがりの隊員が真壁に軽く会釈していくのを見て、埴生が肩で笑った。「やっぱり目立つなぁ、おまえは」「物理的にデカいですからね」「そういう意味じゃない。松島で広報やって、築城で副隊長務めて、どっちでも結果出してんだ。一時(いっとき)は映えだけで選ばれたなんて言われてたが……」「言われてましたね、ええ」「出る釘は打たれるってやつだな。でも、ああいう華やかな場所を任されて、ちゃんとやりきったやつは、上から見りゃ使いやすい」 言いながらバンッと背中を叩かれる。 肉厚の手のひらの重みが、まだ現役の力強さを物語っていた。 基地の喫茶ルームに入り、冬の日差しがガラス越しに差し込む窓際へと腰を下ろす。 カウンター奥では、スチームの白い湯気が静かに揺れていた。「ま、そんなんだから、将補候補に名前が上がるのも、俺は早すぎるとは思わねぇ」「……将補……候補?」 一瞬、心臓の拍が強くなる。「早すぎるのでは?」 真壁の問いに、埴生は声を上げて笑った。「なに言ってんだ。当然の結果だろ? 若桐も目を掛けてるから、自然と注目も集まるしなぁ」「それ、本人に言ったらすごく嫌がりますよ?」「分かってる。あいつは自分がどんだけとんでもない人脈持ってるか、自覚ねぇからなぁ」 埴生が手放しで若桐を褒めるのが、胸の内で誇らしい。「……そういえば、若桐教官。お元気

  • 空に墜ちる -if-   1:静かな違和感

     朝の庁舎は、まだ空気が冷えている。 浜松基地の司令部棟に入ると、壁際に並ぶ掲示板には今週の行事予定と訓練計画、そして人事異動の内示が貼られていた。 真壁は、それを横目に廊下を進む。 築城で三年。 転勤願いが通り、浜松へ戻って二年目。 今は一佐に昇進した真壁は、飛行隊長としてもっぱらデスクワークに縛られていた。 相変わらず、真っ直ぐに背筋を伸ばし、片手には資料の入ったバインダー、もう片方には蓋付きのタンブラー。 執務室に入ると、机の上には昨夜メールで届いた報告書が山積みになっていた。 燃料消費量の月次報告、訓練空域の調整依頼、広報イベントの警備計画──書類の見出しだけで一日が終わりそうだ。 真壁は椅子に腰を下ろし、まずは人事関係の書類に目を通し始めた。 この一枚の紙切れが、数十名の隊員の配置を変え、訓練計画を左右し、場合によっては部隊の士気を上下させる。 その意味も責任も、真壁は充分理解していた。 部隊運営の数字は順調で、ミスも滞りもない。 ふと手を止め、真壁はデスクの端に置かれたスマホに目をやった。 胸の奥にある、小さなざらつき。 それが個人的な理由に偏っていて、それを今考えてはいけないことも、分かっている。 しかし── ここ二週間ほど、若桐から、連絡が一切ないことが、引っかかっていたのだ。 若桐との付き合いは──既に十六年。 真壁も今年で三十九歳になる。(なにか、したんだろうか……?) 最後に会ったのは、先月。 御前崎の堤防で釣りを楽しみ、夜は若桐が釣ったアオリイカが夕食を彩った。 いつものささやかな休日。 若桐は、変わりなく真壁を甘やかしてくれた。 そう。 若桐はいつだって、真壁を甘やかしてくれる。 間違っているときは叱咤し、落ち込んでいるときは鼓舞し、真壁の気づかないところではそっと支えて。(次は、いつ会えますか?) そんなとりとめのな

  • 空に墜ちる -if-   1-6

    「それで、なんでおまえはあそこで仰向けになってたんだ?」 その問いは、結婚式の二次会の席で真壁が発した問いだった。 問われた響野はもごもごと口ごもり、目をそらしている。「だって奏汰くんが〝女性は全部、自分の背中で守ります〟とか、言うから。なんか、カチンときちゃったのよ」「それで、投げちゃったの?」 若桐は、呆れた顔で麗子を見る。「あの一本背負いは、美しすぎた……」 ほうっと溜息を吐きながら、響野はキラキラの眼差しで麗子を称賛する。「お似合いだ、おまえら」「なんか、若桐さんの言い方トゲがある!」 怒る麗子に、若桐はへらっと笑う。「なんか、若桐さん。麗子さんのおじさんみたいだな」「篠原医官とは、付き合いが長いらしいから。麗子さんとの初対面は五歳のときだったらしい」「五歳の麗子さん! 俺も会いたかった〜」「惚気るな。面倒くさい」 そこで戯れる若桐と麗子の様子を眺め、悔しそうな響野を真壁がすっぱりと切り捨てる。「あのさぁ。ホントは俺よりおまえのほうが、よっぽどノンデリじゃね?」 問う響野を、真壁はさらっと無視をする。「おい、響野。おまえ真壁に絡んでないで、嫁さん押さえとけ。俺は号泣してる篠原医官を慰めてくるから」「式の間中、泣いてましたもんね」「茨城県なんて、それほど遠くないのに。なんで泣くのかしら?」 麗子の返しに、若桐は肩をすくめるだけだった。─築城の章:終わり─

  • 空に墜ちる -if-   1-5

    「守さん! 響野連れてきました」「おう、ご苦労。響野も、ご苦労さん」「こんな高級なホテルに呼び出して、なんなんすか?」「服装は……、まぁ、そんなもんか。タイは曲がってねぇな。よしよし……」「なんすか、その品評会みたいなの!」「品評会そのものだよ。おまえはこれから、見合いすんだから」「はっ?」 予告もなしの奇襲に、響野は開いた口が塞がらない。 が、横で真壁もぽかん顔になっている。「見合い……って、誰が?」「響野が」「誰とですか?」「篠原医官の娘さんだ。今年三十歳。美人だぞ」「えっ? 篠原医官の娘さんって、浜松の医療棟で事務やってる人ですよね!」「なんだ、知ってるのか? おまえみたいな頑丈人間が、医療棟の世話になることあったのか?」「噂は知ってますよ! 篠原医官が鉄壁の防御してて、声も掛けられないって有名じゃないすか!」「カレシの一人もいないとか言って、自分で追っ払ってるのかよ、先生……」 若桐が、呆れ顔で呟いた。 ラウンジの奥の席に、篠原医官夫婦と、白いワンピース姿の女性が立っている。「お待たせしました。こちらがお話した響野です」「初めまして」 双方の挨拶と紹介を終えたところで、夫妻と若桐が立ち上がる。「では、二人で話を……」「真壁、おまえもこい」「あ、はい」 立ち上がり、篠原夫妻は別の席に移った。 だが若桐はそのまま、庭園へと進む。 真壁はそのあとを追った。「あの、守さん」「ん〜?」「これ、お見合いなんですよね?」「そうだよ」「響野、結婚するんですか?」「気が合えば、するだろ」「あの……、響野の親を呼ばなくて良かったんですか?」「あいつ、親と折り合い悪

  • 空に墜ちる -if-   1-4

    「いいか……」 抱いた腰回りの細さと、触れる背中の体温。 肩口に顔を寄せれば、真壁の甘い体臭が鼻腔をくすぐる。「緊張するな」「はい」 言葉だけを聞けば、訓練生時代の会話と大差ない。(内容は、かなり違うけどな……) かすかな自嘲を含みながら、若桐は真壁の手を取り、それを下腹部へと導いた。「前開いて……」「はい」 言われるままに、真壁はベルトを外した。 取り出した自身の様子に、真壁は戸惑った顔をする。「うわ……」「ビビるな、握れ。そんで……こすって……。自分で自分の気持ちいいポイントを探すんだ」 真壁の手に手を添えて、若桐は動きを促す。「あ……っ!」 真壁の喉から

  • 空に墜ちる -if-   1-3

     格納庫を出て、基地内の道をしばらく無言で歩く。 薄く涼しい夜風が、航空祭の名残をさらっていくようだった。 若桐は、官舎の自室に真壁を案内する。 廊下の端、突き当りは非常階段に繋がる角部屋だ。 隣室の同僚は、航空祭の打ち上げに出席するような話をしていたから、今夜は戻らないだろう。「ここ、空佐のお部屋ですか?」「肩書きはいらん。入れ」 キーを差し込み、扉を開く。 真壁が中に進む間、若桐は廊下に他人の気配がないことを確認していた。 そして、扉を閉める時も再度周囲を確認し、閉めたあとに施錠する。「最後にもう一回確認するが、本当におまえは、俺にキスされたいんだな?」「はい。そう

  • 空に墜ちる -if-   1-2

     滑走路の向こうで、夕陽が金色に機体を染めていた。 祭りの熱気はとうに去り、格納庫の片隅だけが時間から切り離されたように静まり返っている。 背後から聞こえた足音に、若桐は振り返った。「……教官、お久しぶりです」「おお、真壁か……。一年ぶりか……?」 制服の上着越しでも分かる背筋の線は、相変わらず真っ直ぐで、影が長く伸びていた。「休日出勤、御苦労様」「ありがとうございます」 礼の所作すら無駄がなく、本人の持つ生真面目さとは裏腹に、華のある柔らかい印象を纏っている。「帰るのか?」「このあと、お時間よろしいですか?」「なんだよ? 飲みに行くなら、響野たちと行ったほうがいいんじ

  • 空に墜ちる -if-   序章・浜松:1.馴れ初め

     教官室のノックの音は、少し控えめだった。「あいてるぞー」 室内に残っていた若桐守(わかぎりまもる)は、帰り支度の手を止めて答えた。「失礼します」「なんだ、真壁か。どうした?」 扉を開けて入ってきたのは、訓練生の真壁百合緒(まかべゆりお)だった。 スラリと背の高い頭頂部が、ドアの鴨居をかすめる。 バランスの取れた体は、もったりと見えがちな深緑のフライトスーツですら、どこかのモデルのように見えた。 姿勢良く立つと、きっちりと襟元まで上がっているジッパーも含めて布地に張りを与え、息苦しさを感じさせない。 だが、その視線はわずかに下がって床に落とされていて、かえって落ち着かない気

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