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5話

ผู้เขียน: Amy
last update วันที่เผยแพร่: 2026-08-14 14:03:18

月曜日、修復室は返却用の箱で埋まった。

机の上に6箱。壁際に4箱。乾燥棚には、作業を終えるまで動かせない器が7点残っている。

私は保管台帳を開き、千夏が読み上げる管理番号と照合した。

「K-2417。青磁の鉢。修復前の状態写真、12枚。修復作業は未着手です」

「返却理由は、業務委託契約の終了に伴う修復担当の変更。継景から持ち主へ連絡済み?」

「昨日、継景の受付担当が会社のアドレスから送りました。返信も案件管理システムに共有されています。修復せず返却を希望です」

「分かりました。箱を閉じてください」

器を包む薄紙の音だけが続く。

茶碗が壊れた翌日、私は直哉へ書面を送った。

10月31日で年間契約を終了し、更新しないこと。同日付で修復室の賃貸契約も終了し、部屋を明け渡すこと。

新しい依頼は受けないこと。

作業中の器は持ち主の希望を確認し、期限までに完成させるか、未修復のまま返却すること。

夫婦のことは、代理人を通して話したいとも書いた。

返事は1行だった。

【勝手な行動で顧客に迷惑をかけるな】

その言葉に従い、迷惑をかけないための作業をしている。

昼前、1階受付から内線が入った。

私は小さな花器の箱を持ち、エレベーターで1階へ下りた。

持ち主は、60代の男性だった。亡くなった姉が作った花器で、底にひびがある。まだ状態を調べただけで、修復には入っていない。

「会社から、担当者の都合で返すと連絡がありましてね」

男性はそう言い、私の顔を見た。

「あなたが担当の佐原さん?」

「はい。私個人の都合ではなく、継景との委託契約が終了するためです。それでも、途中でお返しすることになり、申し訳ありません」

花器を箱から出し、預かったときから状態が変わっていないことを一緒に確認した。修復前の写真と撮影日、いま撮った返却時の写真も見せた。

「ここまで調べてあるなら、このままお願いできませんか」

「契約終了までに仕上げられるとお約束できないため、未着手の器はお返ししています。別の修復先は、継景からご案内できます」

「会社じゃなくて、あなたに頼んだつもりだったんだけどなあ」

男性は困ったように笑った。

その一言が、痛かった。

うれしいと感じてしまったからだ。

仕事を失う怖さの中で、私の手を選んでくれる人がいる。それでも、その気持ちを利用して顧客を連れていくわけにはいかない。

「こちらから個別にお誘いすることはできません。ただ、継景との契約がすべて終わり、改めて依頼を受けられるようになったら、佐原修復室として公開の案内を出します」

「分かりました。じゃあ、そのとき見つけられるよう、名前を覚えておきます」

男性は受領書へ署名し、花器を抱えて帰った。

受領書を持って3階の修復室へ戻ると、千夏が小さく笑った。

「佐原さんの名前、ちゃんと残りましたね」

返事をしようとして、声が出なかった。

パンフレットから消され、サイトからも消された名前を、知らない人が覚えて帰った。

それだけで、昨夜から固くなっていた肩から、少しだけ力が抜けた。

午後3時、直哉が修復室へ入ってきた。

箱の数を見て、顔色を変える。

「何件返した」

「今日、発送が3件、直接の返却が1件。今週中に、残る未着手の6件を返す予定」

「顧客へ何を言った?」

「継景との契約が終わるので、今後の修復先は継景から案内すると」

「自分のところへ来いとは言ってないだろうな」

「言っていません」

直哉は箱に貼られた送付票を確認し、台帳へ手を伸ばした。

「台帳は持ち出さないで。見るならここで」

「会社の顧客だぞ」

「だから、継景の受付を通して、持ち主に一件ずつ希望を確認しています。私は保管責任を終えるために、その回答を記録してる」

「理屈はいい。こんなに一度に返したら、修復部門が止まる」

「佐原修復室は、継景の修復部門ではありません。別の事業者です。それに、継景が新しい担当者へ引き継ぐ選択も提示しています」

「顧客が不安になる書き方をしたんだろ」

「送った文面は共有フォルダにあります。読んでから言って」

直哉は唇を結び、私を見た。

以前なら、その顔をされただけで説明を足した。誤解させてごめんと謝り、直哉が納得する言葉を探した。

今は、台帳の開いているページへ指を置いた。

「確認するなら、ここです」

直哉は椅子に座らなかった。

「紗季。茶碗のことは悪かったと思ってる」

「悪かった?」

「わざと壊したわけじゃない。麻里奈も反省してる。弁償だってする」

「値段をつけてほしいとは言ってない」

「じゃあ、どうすれば満足するんだ」

満足。

謝罪を求める私が、会社を困らせて喜んでいるような言い方だった。

「私が何を言っても、あなたは会社への要求に変えるんだね」

「今、実際に会社が困ってるからだ」

「私も困ってる。契約が終われば、仕事も収入もなくなる」

「だったら戻せばいい。契約を更新して、今までどおり働けば済む」

直哉にとって、私の問題はいつも簡単だった。

我慢して戻ればいい。

壊れたら直せばいい。

名前がなくても、仕事があればいい。

「済まないから、やめるの」

千夏が箱を閉じる音がした。

直哉は彼女を見てから、声を落とした。

「千夏さんのことも考えろ。紗季の意地で職を失うんだぞ」

私の指が止まった。

そこだけは、何度考えても痛かった。

千夏は私より先に答えた。

「私のことは、私が考えます」

「そうはいっても、急に無職になるんだ」

「佐原さんは、契約終了まで給与を払うと言ってくれました。そのあとのことは、自分で探します」

「それなら継景で雇う。記録管理も修復の補助も経験があるだろ」

千夏は手元の箱を見た。

「状態記録を無視して私物を動かす会社では、働きません」

直哉は何も言わず、修復室を出ていった。

扉が閉まったあと、私は千夏へ頭を下げた。

「巻き込んで、ごめんなさい」

「今の言い方、直哉さんと少し似ています」

「え?」

「私が困っているって、先に決めてるところです」

千夏は箱の角へテープを貼り、こちらを見た。

「私は、佐原さんについていくとは言ってません。継景に残るとも言ってません。次にどこで働くかは、ちゃんと探して、自分で決めます」

叱られているのに、少しだけ笑った。

「分かりました」

「はい。じゃあ、次はK-2421です」

午後6時までに、この日返した4件に加え、翌日発送する3件の準備を終えた。

千夏が帰ったあと、奥の引き出しを整理した。封筒や古い見積書の間から、東浜陶磁器資料館の名前が入った書類が出てきた。

3年前、小山内聡(おさない さとし)から届いた共同修復室への誘いだった。

当時の私は、継景の大型案件を抱えていた。直哉に相談すると、「今抜けられたら会社が困る」と言われ、その日のうちに断った。

資料館の連絡先が今も同じか調べ、電話をかけた。

「東浜陶磁器資料館、小山内です」

「以前、共同修復室のお話をいただいた佐原紗季です」

数秒の間があった。

「覚えています。白磁の水差しを担当された佐原さんですね」

直哉の妻ではなく、仕事で覚えられていた。

「来月末で、現在の業務委託契約を終了します。そのあとも修復を続けるため、新しい仕事場を探しています。運営者の募集はありませんか」

「3年前とは別の枠ですが、ちょうど来春に向け、併設修復室の運営者を公募しています。ただ、私の判断だけで決めることはできません」

「はい。正式に応募させてください」

「要項を送ります。作品記録と、運営計画が必要です」

電話を切ったあと、メールが届いた。

応募期限は1か月後。

机には、返却を待つ箱が積まれている。応募書類へ載せられる作品はあっても、会社のサイトに私の名はない。

それでも、状態報告書は残っていた。写真も、持ち主と決めた修復方針も、すべて日付入りで保管してある。

ただし、記録が私の手元にあることと、選考資料へ使っていいことは別だ。

候補を6件に絞り、持ち主の名前と管理番号を伏せる。選考資料として写真と修復方針を使ってよいか、一件ずつ確認するための文面も作った。許可が得られなければ使わない。

継景の宣伝用フォルダには、見栄えのいい写真が並んでいた。

照明を整え、器の背景に季節の花を置き、金の線が最も美しく見える角度から撮った写真だ。

けれど、撮影したのは継景で、私の資料ではない。

そこには、持ち主が残したいと言った染みも、直さずにおいた小さな傷も写っていなかった。

私は宣伝用のフォルダを閉じた。

代わりに、自分が状態確認のために撮った写真を選ぶ。

修復前の欠け。作業途中の接合面。完成後も残した使用痕。

華やかではないが、なぜそう直したのかを順番に説明できる。

作品名の横には、会社が付けた【再生する美】という見出しではなく、持ち主の希望を書いた。

【毎朝使った茶渋を残す】

【祖父が落とした跡は埋めず、鋭い部分だけを整える】

【飾るためではなく、もう一度食卓で使う】

私がしてきた仕事は、きれいな完成写真の中だけにあるのではなかった。

私は新しい文書を開いた。

最初の欄へ、名前を入力する。

佐原紗季。

誰かの妻でも、会社の裏方でもない。

夫や会社に求められた書類ではない。

自分で選んだ応募書類に、自分の名前を記した。

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