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6話

ผู้เขียน: Amy
last update วันที่เผยแพร่: 2026-08-14 14:03:25

10月8日、見覚えのない証明書が届いた。

差出人は、継景と取引のある老舗ホテルの購買担当者だった。

私は古い町家の2階に借りた仮作業室で、応募用の作品記録を整理していた。

机が狭く、撮影板を置けばノートパソコンを端へ寄せなければならない。それでも、継景の社内を通らずに仕事ができるだけで、呼吸が楽だった。

メールの件名には、【修復証明書の記載内容について】とある。

宛先は、佐原修復室の業務用アドレスだった。

添付ファイルを開く。

ホテルの客室に飾る大皿の修復証明書だった。作業日は10月3日。修復責任者の欄には、佐原紗季。

問い合わせ先にも、佐原修復室のアドレスが記載されている。

ページの下に、私の署名が入っていた。

けれど、私はこの皿を見たことがない。

写真を拡大する。藍色の波模様。縁から中央へ伸びた割れに沿って、金色の線が走っている。

署名だけは、確かに私の字だった。

自分の右手を見る。

誰かが、私と同じ署名を書けるはずはない。

そう思ったあと、2年前の状態報告書を開いた。

署名の形が一致する。

「紗季」の「季」の最後に、インクが小さくにじんでいるところまで同じだった。

手書きした署名を画像として切り取り、新しい書類へ載せている。

ホテルからの本文を読み直した。

【納品された皿の接合部分に浮きが見られたため、作業内容をご確認いただけますでしょうか。証明書に記載された修復責任者様へ直接伺うよう、担当部署から案内を受けました】

喉が渇いた。

返信画面を開き、指を置く。

この書類は偽物です。

夫が私の署名を使いました。

そう書けば、すぐに直哉を追い詰められる。

けれど、書類を作った人間も、作業した人間も、私は知らない。直哉が直接指示したのかも分からない。

分からないことまで怒りで埋めれば、私も直哉と同じになる。

電話を取り、弁護士の森下絵里(もりした えり)へ連絡した。

離婚と契約終了の交渉を頼んでいる代理人だ。事情を話すと、森下はメールと添付ファイルを、受け取った状態のまま転送するよう言った。

30分後、オンラインで画面をつないだ。

森下は証明書と、2年前の状態報告書を見比べた。

「まず、届いたメールと添付ファイルは、そのまま保存してください。佐原さんが確実に言えることは、3つです」

「この皿を見ていない。作業していない。この証明書を発行していない」

「はい。それだけで十分です。先方へ、事実確認に協力することも伝えましょう」

「直哉には?」

「先に証拠を消すと決めつける必要はありません。ただ、今はホテルへの回答が先です」

森下は私の怒りを否定しなかった。

代わりに、今すべきことを一つずつ言葉にしてくれた。

短い回答文を作る。

【私は当該品の状態確認、修復作業、監修のいずれも行っておらず、添付の証明書も発行しておりません。事実確認に必要な範囲で、保有する過去の書類と照合いたします】

読み返し、回答文の末尾へ自分の意思で署名した。

今度は、誰かに切り取られた署名ではない。私が選んで書いた名前だった。

送信ボタンを押した直後、スマホが鳴った。

直哉だった。

ホテルから継景へも連絡が入ったのだろう。

出るか迷っているうちに、着信が切れた。

森下へ確認のメッセージを送る。

すぐに返信が届いた。

【応対しても構いません。日時と内容をメモしてください。感情的な応酬になりそうなら、通話を終えてください】

1分ほどして、直哉からもう一度着信があった。

ノートを開き、日時を書いてから応答ボタンを押した。

「ホテルへ何を送った」

挨拶もなかった。

「聞かれたことに答えました」

「社内で確認してから返すのが普通だろ」

「私の名前で出された書類について、私へ確認が来たの」

「証明書は形式上のものだ。継景が責任を持つ」

「どうして私の署名があるの?」

電話の向こうで、直哉が近くにいる誰かへ「少し外してくれ」と言った。

扉が閉まる音がした。

「過去のテンプレートを使ったんだろう。事務処理のミスだ」

「私が作業していない器に、私の名前を載せるのが?」

「実際の作業は外部の職人がやってる。技術的には問題ない」

「問題が出たから、ホテルは確認してる」

「やり直せば済む。お前が発行していないなんて書いたら、先方が余計に不安になるだろ」

「不安になる書類を作ったのは、私じゃない」

「紗季、会社を潰したいのか?」

その問いを聞き、怒りより先に疲れた。

茶碗を壊したときも、顧客品を返したときも、直哉は同じ場所へ話を戻す。

会社のために、私が何を我慢するか。

「私は、発行していない書類を発行したとは言えません」

「夫婦だろ」

「今、その言葉を使うの?」

直哉は黙った。

「妻として紹介した人に、署名してもらって」

通話を切った。

手が震えていた。スマホを机へ置き、通話の開始時刻と終了時刻、直哉が話した内容をノートへ書く。

言い返せた爽快感はなかった。

代わりに、10年間、何度も飲み込んだ言葉が、ようやく自分の外へ出た重さがあった。

5分後、直哉からメールが届いた。

添付されていたのは、ホテルへ送る予定の説明文だった。

【社内の書式更新が十分でなかったため、旧責任者の署名画像が残ったものです。なお、佐原紗季氏からは従前と同水準の技術助言を受けており、品質上の問題はございません】

文末には、私の確認欄がある。

直哉は、署名を間違って使ったことを認める代わりに、私が見えない場所から監修したことにするつもりだった。

続けてメッセージが届く。

【ここへ署名すれば、先方にはこちらから説明する】

私は説明文を読み直した。

技術助言はしていない。

品質上の問題があるかどうかも、現物を見ていない私には判断できない。

確認欄へ署名すれば、今度は間違って使われたのではない。自分で嘘を選んだことになる。

【署名できません。私はこの案件に関わっていません】

それだけを返した。

すぐに着信があったが、出なかった。

今の私が答えるべき相手は、直哉ではない。私の名前が記された証明書を受け取ったホテルだった。

夕方、千夏が仮作業室へ来た。

修復室の契約終了までは、返却と記録整理を手伝ってもらっている。階段を上がってきた彼女は、ノートパソコンを抱えていた。

「会社から、問い合わせが転送されました」

画面には、別の顧客から届いた写真が表示されている。

金の線が薄く浮き上がり、ひびの端には小さな隙間ができていた。表面だけを見れば華やかだが、接合部分は安定していない。

「これも、私の名前?」

「サイトの担当者欄は、【継景修復チーム】になっています。個別の証明書に誰の名前が使われているかは分かりません」

「作業者は?」

「外部委託先です。私は、完成品の写真しか見ていません」

千夏は、知らないことを知らないままにした。

それでいい。

「この問い合わせは会社へ戻して。私が写真を見たことと、作業には関わっていないことだけ記録して」

「分かりました」

千夏は返信を作り始めたが、途中で手を止めた。

「野口さんから、昨日メッセージが来ました」

「どんな?」

「工程写真が少ないから、私のアカウントで過去の作業フォルダを開いてほしいって。動画に使える手元の写真を探すそうです」

「開いた?」

「いいえ。佐原さんが作った記録なので、使っていいか分からないと返しました」

「それでいい。メッセージはそのまま残して」

「はい」

麻里奈が欲しいのは、私の名前ではない。

手元の写真、工程記録、修復前後の変化。自分が物語を作るための材料だ。

直哉が欲しいのも、私ではない。

証明書の署名と、顧客を安心させる修復責任者の名前。

消したはずの私を、必要なところだけ切り取って使っている。

千夏が帰ったあと、中断していた応募書類を開き直した。

継景の問題に答えることと、次の仕事を選ぶことは別だ。

持ち主から選考資料への利用許可が届いた記録だけを添え、その日のうちに東浜陶磁器資料館へ応募書類を送った。

翌朝、ホテルから返事が届いた。

【ご回答ありがとうございます。ほかの納品分も含め、継景へ作業記録の確認を依頼しました】

その日の午後、継景の管理部から正式な通知が届いた。

【修復証明書および品質管理に関する社内調査を開始します。関係資料の保存にご協力ください】

私は会社を壊すために仕掛けたわけではない。

自分の名前で出された書類に、違うと答えただけだ。

それでも、その一言で動き始めたものは、もう直哉の言葉だけでは止められなかった。

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