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第916話

Author: 藤原 白乃介
それを聞いた途端、知里はすぐに言った。

「じゃあ気をつけてよね。毒ヘビに噛まれたりしないでよ。まだ結婚もしてないのに、未亡人になるなんてごめんだわ」

誠健は笑いながら彼女を抱き寄せて、大きな手で優しく頭を撫でた。

「大丈夫、そんな日は絶対に来ない。ここでちゃんと待ってて、動いちゃダメだよ」

「うんうん、気をつけてね」

知里は大きな岩の上に乗って見守りながら、誠健があらかじめ用意していた小さな箱を取り出すのを見ていた。彼は蓋を開けると、ホタルを追いかけて走り出した。

すぐに、色とりどりの小箱の中にホタルの光が灯りはじめた。

まるで夜空に浮かぶカラフルな灯りのようだった。

知里はその小さな灯りを手に持ち、興奮気味に声を弾ませた。

「佑くんたち、これ見たら絶対に大喜びするよ。誠健、帰ろっか」

二人はカラフルな灯りを手に持ちながら、船に乗って帰路についた。

船を下りた途端、誠健は不意にしゃがみ込み、驚く知里を背中におぶった。

「ちょ、誠健!?降ろしてよ!」

「足、ケガしてるだろ。歩かない方がいい」

「別に歩けないわけじゃないの。ただの擦り傷よ」

「それでもダメ。擦り傷だって傷は傷。男として、自分の女は守るのが当然だろ」

「誰があなたの女よ。まだ返事してないんだけど」

二人は笑いながら、テントの方へと向かって歩いていった。

誠健のテントが一番手前にあり、彼はそっと知里を地面に下ろすと、声を潜めて言った。

「咲良と佑くんはもう寝てるから、今夜はここで一緒に寝ようか」

知里はじっと彼を見て、眉を上げた。

「誠健、変なこと考えてないでしょうね?まだ何もないのに一緒に寝るとか、調子乗んなよ」

「神様に誓って、やましい気持ちはゼロ。二人を起こしたくないだけ。じゃあ中で君が寝て、俺は外で見張ってようか?」

「いいってば。静かにすれば大丈夫。あなたは寝て、私戻るから」

「じゃ、送っていくよ」

誠健は知里をテントまで送り届け、彼女が横になるのを見届けてから、自分のテントに戻った。

中に入った瞬間、強烈な煙のにおいに思わず咳き込んだ。

中にいた人を見て、誠健は苛立ちを露わにした。

「夜中に寝ないで、何してんだよ」

誠治はにやりと笑って答えた。

「そりゃあ、お前がどうやって女の子を口説くのか見たかったんだよ」

誠健は笑いながらマットの
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