Short
結婚記念日に、夫の秘書のために毒味をしろと?

結婚記念日に、夫の秘書のために毒味をしろと?

By:  卵とトマトCompleted
Language: Japanese
goodnovel4goodnovel
12Chapters
3.4Kviews
Read
Add to library

Share:  

Report
Overview
Catalog
SCAN CODE TO READ ON APP

結婚記念日、今まで一度も台所に立ったことのない夫の宮崎浩(みやざき ひろし)が、テーブルいっぱいの料理を作ってくれた。 私が一口食べるごとに、浩は細かく味を尋ねて、真剣にメモをとる。 途中、浩は寝室へ行き電話に出た。杉本瞳(すぎもと ひとみ)からの着信だ。 浩が席を外した隙に、何気なくノートを手に取った。そこには、私とは全く無関係なことがびっしりと書かれていた。 【いんげんは少し硬い。瞳はきっと好みじゃないな】 【きのこは少し塩辛い。瞳のために作る時は気をつけないと】 【羊肉はクセが強すぎる。瞳のために作る時は牛肉に変えよう】 戻ってきた浩がノートを取ろうとした時、私の動きを見て激昂した。「美希(みき)、お前は本当に教養のかけらもないな。勝手に触るなと言っただろう?」 反論しようと口を開くより先に、激しい頭痛に襲われた。目の前の浩の姿が揺らぐ。 「浩、なんだか気持ち悪いの……インゲンが生だったのかも……」 「だったら急いで書き留めないとな。瞳のために作る時は長めに火を通そう」 浩は私を一瞥もせず、メモをとりながら足早に玄関へ向かう。 「出かけてくる。お前は丈夫なんだから、つらいなら薬でも飲んでろ」 意識が遠のく中、もう一度電話をかけると、苛立った声が聞こえた。「そんな大ごとなのか?死ぬのか?死んだらまた連絡してこい!」 浩、もう二度と連絡はしない。

View More

Chapter 1

第1話

結婚記念日、今まで一度も台所に立ったことのない夫の宮崎浩(みやざき ひろし)が、テーブルいっぱいの料理を作ってくれた。

私が一口食べるごとに、浩は細かく味を尋ねて、真剣にメモをとる。

途中、浩は寝室へ行き電話に出た。杉本瞳(すぎもと ひとみ)からの着信だ。

浩が席を外した隙に、何気なくノートを手に取った。そこには、私とは全く無関係なことがびっしりと書かれていた。

【いんげんは少し硬い。瞳はきっと好みじゃないな】

【きのこは少し塩辛い。瞳のために作る時は気をつけないと】

【羊肉はクセが強すぎる。瞳のために作る時は牛肉に変えよう】

戻ってきた浩がノートを取ろうとした時、私の動きを見て激昂した。「美希(みき)、お前は本当に教養のかけらもないな。勝手に触るなと言っただろう?」

反論しようと口を開くより先に、激しい頭痛に襲われた。目の前の浩の姿が揺らぐ。

「浩、なんだか気持ち悪いの……インゲンが生だったのかも……」

「だったら急いで書き留めないとな。瞳のために作る時は長めに火を通そう」

浩は私を一瞥もせず、メモをとりながら足早に玄関へ向かう。

「出かけてくる。お前は丈夫なんだから、つらいなら薬でも飲んでろ」

意識が遠のく中、もう一度電話をかけると、苛立った声が聞こえた。「そんな大ごとなのか?死ぬのか?死んだらまた連絡してこい!」

通話が切れたスマホを手に、今さっき浩に言われた言葉が頭から離れない。

あふれ出しそうな感情を押し殺し、身体を奮い立たせて、最後の力で救急に連絡した。

皮肉にも、救急隊の方が浩よりもずっと頼りになった。

診断の結果、インゲンとキノコの同時食中毒だった。処置が早かったため、数分遅れていたらと考えるだけでぞっとする。

病室のベッドで点滴を受けていると、傍らのスマホが鳴り始めた。

見ると、浩からの着信だった。

「美希、カレーにはりんごを入れたほうが美味いと思うか?」

あまりの問いかけに絶句しながらも、声を絞り出す。「今、病院なの」

向こう側は不機嫌そうだ。「あー、そうか。適当に薬でも貰って帰れ」

浩はすぐさま話を戻した。「さっさと言えよ、どっちがいいんだ?」

口を開きかけた時、電話から別の女性の声が響いた。「浩、あなたの手料理なら、なんでも大好き」

その瞬間、プツリと通話が切れた。

呆然とスマホを見つめていると、立て続けにメッセージが届く。

【会社で急なプロジェクトが入ったから、明日まで戻れない】

【病院に行って、薬を余分にもらっておけ。足りないなら金を送る】

画面の文字を読み、胸が強く締め付けられた。

急な仕事?薬でも飲んでおけって?

人は、ここまで適当にあしらえるものなのだろうか?

今回は返信をせず、スマホをそのまま置いた。

ベッドに横たわり、ぼんやりと天井を見上げる。

隣のベッドの小さな女の子が、黙りこくる私を見て屈託のない笑みを向けてきた。「お姉ちゃん、一人なの?

お母さんが入院した時は、ずっとお父さんが側にいたよ。お姉ちゃんの旦那さんはどこ?」

純粋な問いに、私は小さく呟く。「旦那さん……か。

私には、そんな人なんていないのよ」

私の答えに女の子はカッと目を剥き、両手を腰に当てて頬を膨らませた。「お姉ちゃん、嘘つき!さっきスマホのケースに結婚写真が入ってるの見たもん!」
Expand
Next Chapter
Download

Latest chapter

More Chapters

reviews

ノンスケ
ノンスケ
初めの結婚記念日の手作り料理が全て愛人のためだってわかった時点で、すぐに離婚してよかったのに。こんな二枚舌男、信じる価値ないわ。
2026-03-27 15:34:13
3
0
松坂 美枝
松坂 美枝
後半の流がスムーズだった(笑) 前半のアレひどかったわ あんな堂々と浮気してて何故離婚しないのかと せっかく離婚したのにクズ男は何が不満なんだ? 意味のわからん男だった
2026-03-27 09:21:42
5
0
12 Chapters
第1話
結婚記念日、今まで一度も台所に立ったことのない夫の宮崎浩(みやざき ひろし)が、テーブルいっぱいの料理を作ってくれた。私が一口食べるごとに、浩は細かく味を尋ねて、真剣にメモをとる。途中、浩は寝室へ行き電話に出た。杉本瞳(すぎもと ひとみ)からの着信だ。浩が席を外した隙に、何気なくノートを手に取った。そこには、私とは全く無関係なことがびっしりと書かれていた。【いんげんは少し硬い。瞳はきっと好みじゃないな】【きのこは少し塩辛い。瞳のために作る時は気をつけないと】【羊肉はクセが強すぎる。瞳のために作る時は牛肉に変えよう】戻ってきた浩がノートを取ろうとした時、私の動きを見て激昂した。「美希(みき)、お前は本当に教養のかけらもないな。勝手に触るなと言っただろう?」反論しようと口を開くより先に、激しい頭痛に襲われた。目の前の浩の姿が揺らぐ。「浩、なんだか気持ち悪いの……インゲンが生だったのかも……」「だったら急いで書き留めないとな。瞳のために作る時は長めに火を通そう」浩は私を一瞥もせず、メモをとりながら足早に玄関へ向かう。「出かけてくる。お前は丈夫なんだから、つらいなら薬でも飲んでろ」意識が遠のく中、もう一度電話をかけると、苛立った声が聞こえた。「そんな大ごとなのか?死ぬのか?死んだらまた連絡してこい!」通話が切れたスマホを手に、今さっき浩に言われた言葉が頭から離れない。あふれ出しそうな感情を押し殺し、身体を奮い立たせて、最後の力で救急に連絡した。皮肉にも、救急隊の方が浩よりもずっと頼りになった。診断の結果、インゲンとキノコの同時食中毒だった。処置が早かったため、数分遅れていたらと考えるだけでぞっとする。病室のベッドで点滴を受けていると、傍らのスマホが鳴り始めた。見ると、浩からの着信だった。「美希、カレーにはりんごを入れたほうが美味いと思うか?」あまりの問いかけに絶句しながらも、声を絞り出す。「今、病院なの」向こう側は不機嫌そうだ。「あー、そうか。適当に薬でも貰って帰れ」浩はすぐさま話を戻した。「さっさと言えよ、どっちがいいんだ?」口を開きかけた時、電話から別の女性の声が響いた。「浩、あなたの手料理なら、なんでも大好き」その瞬間、プツリと通話が切れた。呆然とスマホを見つめてい
Read more
第2話
「嘘をついちゃダメだよ!嘘つきは泥棒の始まりだからね!お姉ちゃん、旦那さんすごくカッコいいね!二人の写真見せてくれない?」その言葉に、私は言葉を詰まらせた。浩と連れ添って何年もなるけれど、二人の写真はスマホケースに挟んだこの一枚しかないのだから。浩は写真が苦手だと言っていた。だから、入籍した時の写真しか手元にはない。異変を感じ取ったのか、女の子の母親が慌てて娘を引っ張り寄せ、気まずそうに笑った。「すみません、子供の言うことですから、気にしないでくださいね」私は首を振って、何も答えなかった。スマホを手に取り、画面をぼんやりとスクロールした。インスタを開くと、ちょうど瞳が1分前に更新したばかりの投稿が目に飛び込んできた。投稿には、浩のインスタのスクリーンショットが一枚。そこにはこう書かれていた。【愛してる。一緒に過ごす今が一番の幸せ】その投稿を見た瞬間、全身から血の気が引いた。震える指先で、浩のアイコンをタップした。ストーリーには何もない。インスタは相変わらず鍵垢のまま。何かが胸に刺さり、いてもたってもいられなくなった私は、相互フォローしている、サブ垢でこっそり浩のアカウントを見た。そして、すべてを悟ってしまった。浩のアカウントには、10分前に投稿されたばかりの写真があった。瞳と頬を寄せ合う親密そうな写真と、豪華な食卓の光景だった。その写真の料理は、今日浩が私に作ってくれたものと全く同じだった。そこには、【誕生日おめでとう。お前のためなら何だってするよ】という言葉が添えられていた。浩のインスタの固定表示は、瞳との婚約フォトで、それは3年前から掲げられたままだった。私はその画面を見ながら、自分の財布から出した二人の写真と見比べた。その対比はあまりにも残酷だった。瞳との写真の中の浩は、優しさに満ちた穏やかな表情をしていた。私たちの写真で浩は不機嫌そうで、実はあの日、些細なことで口喧嘩をしたばかりだったことを思い出した。私は震える手で、浩のタイムラインを一つ一つ確認していった。浩は毎日のように更新を重ね、日に何度も投稿することさえあった。何気なく写真を開くと、きらびやかな夜景を背景に二人で熱く口づけを交わしている様子が映っていた。その日は大晦日だった。私が寒空の下、花束を持ってずっ
Read more
第3話
あの日、電話をしていた時、浩は病院向かいのペット病院にいたのだ。いつまでも終わらないインスタの投稿を見ながら、私の心も冷めていくようだった。これまで何度浩を信じて理解しようとしても、返ってくるのは裏切りだけだった。瞳からラインが届いた。【美希さん、浩と食事中なの。浩が病院へ行ったことを思い出して、薬代を送金しろって言うから】【浩は、送金しないとまた美希さんがわがままを言うだろうからって。さっさと受け取ってよ】画面の200円の通知を見て、私は呆れてそれを即座に返金した。【いらないよ。それ、あなたへの誕生日プレゼントにして】【あなたにはその程度の価値しかないでしょから】送信から1分もしないうちに、浩から電話がかかってきた。出るや否や、怒鳴り声が耳に響いた。「美希、お前正気か?瞳が親切で薬代を送ったのに、礼も言わずにそんな嫌味を言うのか?今から瞳に代わるから、ちゃんと謝れ!今日は瞳の誕生日なんだ、台無しにするな!」浩の一方的な言いがかりに、私は冷めた声で言った。「浩、私に謝る理由なんてあるの?」「美希、また逆ギレするのか?いつからこんな奴になったんだ。瞳の家の経済状況を知っていながら、お金で侮辱するなんて。今すぐ、瞳に謝罪しろ!」私が黙り込むと、浩はさらに逆上した。「分かった!お前がそこまで謝りたくないなら……今後、俺の金は一銭も使うな!少額だと見下すくらいなら自分のお金でやりくりしろ!瞳に謝る気になったら連絡してこい。頭を冷やして反省しろ!」そう言うと、浩は私の返事も待たずに電話を切った。10分後、私名義のカードがすべて利用停止になった通知が届いた。病院のベッドに横たわり、窓の外を眺めながら私は心の中で苦笑いした。隣のベッドの女の子が、じっと私を見つめていた。「お姉ちゃん、旦那さんと喧嘩しちゃったの?何をしたの?相手はなんであんなに怒ってたの?」私は弱々しく笑った。「誰にでも間違いはあるものよ。相手の機嫌次第で、白が黒にもなるの」女の子は不思議そうに小首を傾げた。「分からないや。でもママが言ってたよ。自分自身が自由でハッピーでいるのが一番大事なんだって!」その言葉に、私はハッとさせられた。そうだ、私自身が自由に幸せでいること、それが一番大切なはずだ。病室で
Read more
第4話
「これのこと?あるお兄ちゃんの奥さんが入院しててね、そのお兄ちゃんが、子どもたちが騒がないで、静かに遊べるようにって、みんなに一人一つずつくれたんだよ。お姉ちゃんもこれ好きなの?もしどうしても欲しいなら、あげてもいいよ!あれ、不思議だな。さっきのお兄ちゃん、お姉ちゃんのスマホケースの写真の人と似てる気がする……」女の子の言葉が進むにつれて、私の体温はどんどん冷めていった。彼女が最後の言葉を口にした瞬間、私の膝から力が抜けてしまった。私はよろよろと後ろへ下がり、病室のベッドにへたりこんだ。顔から血の気が引いていくのが分かった。目の前にあるこのロボット。見間違えるはずもない。浩と付き合い始めてから、私たちは二人で高敏感特種ロボットの研究に命を懸けていたのだ。この高敏感特種ロボットを完成させることが、二人の長年の夢だった。実は、私には遺伝性の希少疾患の恐れがあった。かつて浩は目を赤くして私に言ったのだ。「俺が会社を経営して、お前が技術を提供する。二人で精度の高い遺伝病検知ロボットを開発すれば、お前は絶対長寿できる」と。ここ数年、数え切れないほどの失敗を重ね、ようやく一年前、ついにこのロボットの完成に漕ぎ着けた。この高敏感特種ロボットは特殊な仕組みで、一度起動してしまえば、元の状態には戻せない仕様になっている。これまで、私はこのロボットを試用するための最適なタイミングを慎重に計っていた。試作機は数台しかない。それなのに、浩はあろうことか全部配ってしまったのだ。正気を取り戻し、私は震える手でスマホを掴み、浩に電話をかけた。しばらくしてようやく繋がった先から、浩のうんざりした声が聞こえた。「何だ?考え直したのか?謝りに来たんだろ?そうだ、美希。お前、わざとだろう?なぜ俺に、お前の食中毒がこれほどひどいって言わなかったんだ?お前のせいで、瞳がどれほど苦しんでいるか知っているのか!」電話越しに浴びせられる責めと非難。私の胸の中は悲しみでいっぱいだった。「あの時、私が食中毒にかかって病院に連れて行ってと頼んだとき、あなたは何て言ったの?」いつもは浩の言いなりになっていた私が、急に言い返したことに、彼は一瞬沈黙した。しばらくして、また浩の無神経な声が響いた。「お前と瞳を一緒にするなよ。瞳は生まれつき体が弱いんだぞ!食中
Read more
第5話
「そろそろ、いい加減にしろ。そんなにやきもちを焼いて、大人げないぞ。少しは若手の面倒も見ろ。もういい。話は終わりだ。こっちは忙しいんだ」私が何かを言うより早く、浩は電話を切った。病室のベッドサイドに座り、私は両手を固く握りしめた。込み上げてくる感情を必死に押し殺し、涙をこらえた。まさか、これほどまでに人が変わってしまうとは。浩は、一体どこへ行ってしまったのか。以前はあんなにも目を潤ませながら、命がけで私を守る、ロボット開発だって私のために……私に「長寿祈願」してくれていたあの男が、今は「それが、どうかしたか?」だなんて。首を振って雑念を振り払い、荷物をまとめて病室を後にした。病室を出ると、ちょうど浩の後ろ姿が見えた。彼は瞳を慎重に支えている。顔は見えなくても、今の浩が瞳にどれほど気を遣っているのかは十分に伝わってきた。視線に気づいたのか、突然振り返った浩と目が合った。私を見た瞬間、彼の目に焦りの色が走った。私は構わず、そのまま出口へと向かった。しかし、まさか追ってくるとは思わなかった。浩は後ろから強引に私の腕をつかむと、皮肉混じりに言い放った。「なんだ?わざわざ病院まで来て、何も言わずに帰るつもりか?どうせ、ロボットプロジェクトの話を聞きに来たんだろう?それなら何度でも言うぞ。計画は瞳に引き継ぐ。お前の方は、家の警備員が休んでいるから、代わりに出てくれ」黙り込む私を見て、浩は溜息をついた。「美希、最近ピリピリしすぎだぞ。更年期か?まさか瞳のことで怒ってるのか?そんな必要はない。俺たちはただの仕事上の関係だ。一人で心細そうにしていたから、ちょっと気を遣っただけだ。それの何が悪いんだ?」理屈っぽく言い訳をする浩を眺めながら、私は記憶をたどった。彼はいつからこんな人間になってしまったのか?すべては、瞳が会社にやってきた日を境に、静かに歪み始めたのだ。「そうね。あなたが正しいわ」適当に言葉を濁し、一刻も早くここを立ち去りたかった。私の態度を見て、手を離すと、浩は疑わしそうに私を睨んだ。「本気でそう思ってるのか?」私が頷くと、浩の表情が和らいだ。満足げな様子で私を見つめる。「それでいいんだ。いちいち勘ぐるなよ。じゃあな。俺は、瞳の様子を見てくる。先に戻って待っててくれ。あとで話
Read more
第6話
【でもその時、なぜか頭の中に瞳が浮かんだんだ】たったそれだけの短い言葉なのに、私は涙が止まらなかった。心変わりは人の本性だ。だから、誠実さこそが選ぶべき道。なのに、浩はその両者から前者を選んだのだ。浩の日記の続きをもう読まなかった。読む必要なんて、本当にどこにもなかったから。私は側にあったスマホを手に取り、親友の野村理恵(のむら りえ)に電話をかけた。「あら!あの大忙しのあなたが、どうしたの?」「理恵、お願い。離婚協議書を用意してくれる?」私の真剣な口調を感じ取り、理恵は声色を落とした。「一体、何があったの?」最近起きたことを全て話すと、理恵は長く沈黙した。しばらくして、彼女は大きな溜め息をつき、静かに言った。「10年の付き合いが、こんな結末になるなんてね。ねえ、結局『愛』って何なの?」私は唇を歪め、力なく笑った。「離婚、よ」「そうよ、それがいいわ。自分を責めないで。あなたは悪くない。手続きは私に任せて」電話を切り、ソファから立ち上がった。私は冷蔵庫からビールを何本か取り出した。床に無造作に座り込み、窓の外のネオンを眺める。私の心も、その瞬間に消えた光のように冷え切っていた。一本、また一本とビールを流し込み、頭をアルコールで麻痺させようとした。すると、意識がふらつき始めた。浩が帰ってきたのは、その時だった。部屋の明かりがついた瞬間、視線が交差する。赤く腫れた私の目を見ると、浩は少し戸惑った。ぐに私の手から酒を取り上げ、少し怒ったような口調で言った。「酒を飲むなと言っただろう?お前、最近俺の言葉なんて気にもしてないだろ?今回だけだぞ。二度とやるな!早く顔を洗ってこい。話があるんだ」そう言って浩は私を引っ張り起こし、洗面所の方へ追い立てた。私は必死に足を踏ん張り、自分の頬を叩き、頭をすっきりさせようとした。確かに目を覚ます必要があった。私も浩に、話さなければならないことがあったから。洗面所から出ると、浩はソファに座り、何かを期待するような顔でこちらを見ていた。手には書類が握られている。「美希、これを見てくれよ」浩から名前を呼ばれて、私はその場に立ち尽くした。驚きで動きが止まる。浩と付き合い始めてもうすぐ10年になるが、彼から嬉しそうに話しかけてきたのは、これが初めてだ
Read more
第7話
「美希、子供ができたぞ!この前の妊娠検査結果が出たんだ!父親になるなんて夢みたいだ!美希、ようやく俺たちも子供を授かったんだ。俺たち、ついに親になるんだね!どうして何も言わないんだ?あまりの嬉しさに言葉も出ないのか?」浩は満面の笑みで私の目の前で手を振った。瞳がキラキラと輝いている。突然の子供のニュースは私の人生計画を狂わせた。目の前の妊娠検査結果を見つめながら、頭の中はごちゃごちゃだ。「私が、妊娠してるの?」浩は微笑みながら頷いた。彼は駆け寄ってきて私の首に腕を回すと、優しい声で囁く。「そうだよ、お前が妊娠したんだ」私はその妊娠検査結果を適当に机の上へ置き、冷蔵庫へ向かった。そしてまた一本、ビールを取り出す。それを見て、浩の顔が不満げに歪んだ。彼は私の手から無理やりビールを奪い取ると、非難する口調で言った。「美希、どうしたんだ?酒は控えろって言ったろ!今はお腹に子供がいるんだから、ダメに決まってるだろ!いくら妊娠が嬉しいからって、酒まで飲んじゃダメだよ!ほら、俺はまだ何も食べてないんだ。お腹空いたから、早くあら汁を作ってよ」私が無反応でいると、浩はイライラした様子で私をキッチンへと追い立てた。私は頭を振り、必死に思考を整理しようとしたが、あまりの展開に戸惑いを隠せない。仕方なく考え込むのをやめ、とりあえずキッチンで料理に取りかかることにした。私が作業を始めると、浩は満足げにソファーへと戻った。彼は誰かと楽しそうに電話で話し続けている。料理が出来上がり、食卓に並べたその時、ポケットのスマホが鳴った。取り出して確認すると、瞳からのメッセージだった。瞳は一言も発さず、ただ一枚の画像を送りつけてきた。不審に思い開いてみると、そこには妊娠検査結果が表示されていた。それに記されていたのは、はっきりと瞳の名前だ。ようやく合点がいった。浩ときたら滑稽だな。自分に見せた妊娠検査結果が、私のものではないことにさえ気づいていないなんて。目の前であら汁をすすりながら、嬉しそうに返信をしている浩に向かって、私は静かに言った。「本当にその妊娠検査結果、私のなのかな?」スマホに夢中だったのか、浩はキョトンとした顔で私を見た。「え?今何て言った?ああ、味か?悪くないよ。次は少し塩を控えてくれ。塩分は子供に
Read more
第8話
私は手元のスマホを手に取り、瞳とのトーク画面を開いたまま、その画像を浩に見せた。「何か言い訳はないの?」その画像を見た瞬間、浩の顔は見る影もなく青ざめた。彼は私の手を掴むと、早口でまくし立てた。「美希、お願いだ、違うんだ。本当に違うんだよ。これは全部、瞳の合成だよ。俺たち夫婦の仲を引き裂こうとしているだけなんだ。今妊娠しているのは、間違いなくお前なんだから!」私は浩の手を振り払うと、淡々と言い放った。「そう言うなら、もう一度、二人で検査に行こう」それを聞いて、浩の表情が微妙に曇った。彼は目を逸らしながら小声で言った。「必要ないよ。お前が妊娠してるのは本当なんだ」「いつまで私を騙し続けるつもり?」まだ取り繕って嘘をつき続ける浩の姿を見て、胸に溜まっていた感情がとうとう爆発した。私の怒りを感じ取ったのか、あるいはもう隠しきれないと悟ったのか、浩は再び私の手を握りしめ、目を潤ませて言った。「美希、お前が思っているようなことじゃないんだ。あの日、瞳と俺は泥酔してしまって……まさか、こんなことになるなんて思いもしなかった。でも、誓うよ。それ以外は瞳と本当に何もない。白黒はっきりしてるんだ」そんなことを言っている間にも、スマホには瞳からのメッセージが絶え間なく届いていた。私は冷静な面持ちで浩を突き放すと、その目の前で写真を一枚ずつ開いていった。「何もない?じゃあ、これらの写真も全部、合成だって言うの?もういいから、離婚しよう」私はひどく疲れた様子で眉間を揉み、無表情で浩を見つめた。そう切り出すと、浩は突然取り乱して私に抱きついてきた。「美希、離婚したくない、別れたくないんだ。頼むよ、瞳の子は堕ろさせるから。もう一度、お前との間に子供を作ればいいだろ?美希、瞳のことは本当に部下としての気遣いだったんだ。ただ昔の瞳と、お前が重なって見えていただけなんだよ。どうか、今回だけは許してくれないか?今後はもう二度と、瞳とは連絡を取らないから」私が沈黙を貫いていると、浩の目に光が戻った。彼は再び私を力強く抱き寄せた。「今後二度と離婚なんて言わないでくれ、頼むよ。今すぐ瞳をクビにする。お前のプロジェクトだって、全部戻してやる!」そう言うと、浩はポケットからスマホを取り出し、迷うことなく瞳に電話をかけた。
Read more
第9話
私は唇をかみ、スマホのメッセージ欄にゆっくりとこう打ち込んだ。【分からない。ただ、あの時の私は頭が真っ白だったことしか覚えてないの】【美希、10年よ。宮崎さんはもう昔の純粋な男じゃない。まだあの頃のままで止まってるのは、あなただけよ】目の前の浩を見つめながら、走馬灯のように過去の記憶が脳裏をよぎった。浩と私は幼なじみだった。もっとも、顔を合わせればケンカばかりするような関係だったけれど。ある日、両親が離婚した。親権は母に渡ったが、母は仕事が忙しく、祖母のもとで暮らすことになった。あの頃の私は、本当につらかった。周りからは厄介者扱いされ、「親を離婚させた」と噂されることさえあった。そのストレスから、私は次第に重度の鬱を患うようになった。そんな私の異変に気づいたのが浩だった。あの日、全てに絶望し、消えてしまおうとした私の元へ。浩は電話に出ない私を心配して駆けつけ、倒れていた私を見つけてくれたのだ。あの冬の豪雪の中、浩は私を背負い、何度も転びながら病院へ運び込んで命を救ってくれた。それをきっかけに、二人の距離は激変した。私たちの間に、初めて二人だけの秘密ができたのだ。大学2年目の大晦日、大勢に囲まれて告白されていた浩を見た私は、思わず割り込んで彼の手を引き、その場を離れた。それは人生で一番勇気を出した瞬間だった。浩は笑みを浮かべ、目を輝かせながら私を見つめた。「美希、俺のこと好きなのか?」我に返る間もなく、理性を抑えられなくなった私はただ頷いた。こうして私たちは、自然と恋人同士になった。情熱的な恋人たちと同じように、ぶつかりながらも全力で互いを求めていた。大学卒業後、私たちは入籍し、夫婦になった。今日まで、あっという間の10年だった。けれど10年の月日は、必ずしも強固な絆を保証するものではない。私の沈黙を見て、浩はそっと私の手を握り、恐る恐る口を開いた。「美希、怒るなって。もう10年も一緒じゃないか?今回だけは許してくれないか?」目の前の浩を見つめ、私は自嘲気味に笑った。「いいよ」それを聞くと、浩は期待を込めた顔で言った。「本当か?本当に怒ってないのか?」私は曖昧にうなずき、小さくつぶやいた。「うん」愛がなければ、怒りすら湧かない。「お腹すいただろう?冷めないう
Read more
第10話
浩が身を寄せてきた瞬間、私は反射的に手を伸ばして彼を突き放した。それを見て、浩の瞳に悲しげな色が浮かんだ。「どうして拒絶するんだ?」私は何度も後ずさりして浩との接触を避け、淡々と口にした。「風邪をひいてるから、移したくないの」言い終えると浩を無視し、背を向けてまた眠りについた。夜が静かすぎて、隣で浩が何度もため息をつくのが聞こえた。昔の私なら、すぐに浩を抱きしめて、愛おしそうに慰めてあげただろう。けれど今は、ただ煩わしいとしか思えなかった。「すごく眠いの。自分の部屋に帰ってくれない?隣にいると安眠できないの」言葉が終わると、辺りは途端に静まり返った。しばらくして、浩がゆっくりと起き上がり、部屋を出て行くのがわかった。浩が去ると、私はすぐに再び意識が遠のいた。その夜は、信じられないほど深く眠ることができた。翌朝、スマホに目をやると、理恵からメッセージが届いていた。【離婚協議書は作成済みよ。都合のいい時に取りに来て】理恵に返信をしてから、私は適当な航空券を予約した。行き先なんてどこでもよかった。ただ、この街からも浩からも消えたかっただけだ。偶然にも、その便は祖母の故郷行きだった。寝室から出ると、キッチンで忙しく働く浩が目に入った。私に気づいた浩は慌ててエプロンを脱ぎ捨て、嬉しそうに駆け寄ってきた。「美希、起きたか?朝飯はもうできてるぞ。さっさと顔洗っておいで!」浩は、しつこく急かしてきた。昨日から何も食べていなかったこともあり、空腹がピークに達していた。ダイニングテーブルで夢中になって食べている私を見て、浩はしてやったりという顔をした。浩と10年も一緒にいれば、彼が何を考えているかなんて手に取るようにわかる。結局、浩にとって私は「扱いやすい女」だと思っているのだ。何をされても、ちょっと優しくすればすぐ元に戻ると思っている。だけど今は、いちいち反論するのも面倒だった。勝手にそう思わせておけばいい。「どうだ、味は?」期待に満ちた浩の顔を見ながら、私は微笑んで頷いた。「前回よりも、ずっとマシね」その言葉に浩は一瞬きょとんとした後、急に私の手を握りしめた。「前のことは本当に悪かったよ、大丈夫だったか?」心配そうな顔を見つめ、私は淡々と答える。「大丈夫よ。平気じ
Read more
Explore and read good novels for free
Free access to a vast number of good novels on GoodNovel app. Download the books you like and read anywhere & anytime.
Read books for free on the app
SCAN CODE TO READ ON APP
DMCA.com Protection Status